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2011年02月11日05:44

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Have you ever seen...

 信じるか信じないかは、あなたの自由です(これって秀逸なクリシェだね)。

 ぼくは三度、それを見たことがある。一度目は19歳のころ、熊本の実家の裏方にある岩倉山の山頂で。二度目は29歳のころ、出張先の大阪は枚方市の香里ヶ丘付近で。
 一度目の目撃はぼくひとりだったが、二度目はもうひとりいた。
 運転中の若い営業マンに助手席のぼくは、上空を見ろ! と乱暴なことをいった。ちょうど信号が赤に変わったから、かれはハンドルに身を寄せて、ぼくの指す方向を見あげた。
「あーなんか浮いてますねー」
「だろ? たしかに浮かんでるよな。あれいったい何だ? 人工衛星にしちゃ近すぎだろ。翼もなにも見あたらないし、飛行機でもないとすると――」
「未確認飛行物体、ってところですかねー」
 興奮するぼくに、いたって冷静にそう告げた彼は、信号が青になったので、クルマを発進させた。
 鈍色に光る球体は、ゆらゆらと身を揺らしながら、夕刻の淀川上空へと漂っていった。やがて建物の陰になって見えなくなると、ぼくもかれも、その話題については触れなかった。まるで何事もなかったかのように。


 そして三度目は三年前の夏、家族で北軽井沢に行ったときのことだ。
 ペンションの裏庭で、こどもたちと花火に興じたあと、ぼくは部屋に戻って、ベッドに横たわっていた。するとドアをノックする音がし、扉を開けたらMさんだった。
「流星群、もうじき始まるようですよ。どうです一緒に、見に行きませんか?」
 うーんどうしよう、とためらったぼくの目の前に、Mさんはクルマのキーをかざしながらほほ笑んだ。
「ぼくはまだワインの酔いが残ってるんで。イワシさんに運転をお願いするしかないんです」
 行こういこうと家の女性陣は唱和したし、Mさんのお誘いをむげに断るなんて、とても出来なかった。
 行きましょうとぼくは答えた。かれのワーゲンを傷つけないようにしなくちゃと思い煩いながら。

 ぼこぼこと小石の当たる音が伝わる未舗装のでこぼこ道を、ぼくは慎重に進めていった。途中でシカかタヌキに出くわすんじゃないか、いやクマだって出没するかもよと、他のみんなはおおいに盛り上がっていたが。
 10分ほどして広い場所に出た。
 目の前に浅間山のシルエットが黒々と横たわっている。
 鬼押し出しの駐車場。ここに停車して夜空を見あげることになった。視界を遮る木々はなく、星空を観察するには絶好のポジションである。同じことを考える人間はいるもので、ぼくたち一行以外にも、けっこうな台数が駐車場に停まっていた。
 流星を観に集まった人たちはおしなべて静かで、エンジンを止めて、ラジオや音楽を聴くこともなく、期待に胸をときめかしつつ神妙な面持ちで、星空を見あげている。こどもたちもそれに倣って、お喋りを慎んだ。
 するとMさんがトランクを開け、ビニールシートを広げだした。
「首が痛くなるから、みんな横たわって観ようよ」
 勧められるまま横になってみると、昼の熱気がこもったアスファルトから温もりが伝わってきた。
 そこでぼくらは横たわりながら、天を仰ぐことにした。
 満天の星が、こぼれ落ちそうなくらい、無数に煌めいていた。

 やがて駐車場のあちこちから、「あっ、いまホラ」「見えたみえた!」と歓声があがりはじめた。Mさんちのお子さんも流星を見つけたと喜び、うちの子もあっ発見、と嬉しそうだったが、いまだに流星を目撃できないぼくは、内心やきもきしていた。 二、三十分ほど経ち、ようやく一筋の光が天頂から浅間山麓に落ちてゆくのを認めて、ぼくはホッと息をついた。おいオレもようやく流れ星を見つけたよ、そういおうと思った矢先だった――

 浅間山の麓、北の方角だと思うが、そこに“オレンジ色の発光体”が、明滅しながら、上空に留まっていた。

 仰向けだったぼくは、慌てて身を起こして、思わず目をこすった。冗談だろと口の中で唱えつつ、唾を何度も飲みこんだ。むかし二度遭遇したそれとは存在感が違った。どう見なおしてもその明々とした発光体は、ぼくの目には圧倒的にリアルに映った。
「オトーサン、あれ……」
 うちの子がかすれた声をあげた。
「やっぱり、そうだよな」
 そう答えるのが精いっぱいだった。
 やがて、駐車場のあちこちから「UFO?」「UFOだろ……」という声があがりはじめた。半信半疑、だから傍にいる人に本当かどうか確認したい、そんな思いを口々に唱えているように思えた。
 しかし、ぼくを含めるそこにいたみんなは、次第に声を潜め、沈黙を選んだ。
 そこに流れた意識の交流というか、共感のような感情は、うまく説明できない。ことばにするのが、なんとなく憚られたというのが正解か。鬼押し出しの駐車場、そこに居合わせた人たちは、いずれにせよ軽々しく口にするよりも、謎の光をビデオに収めたりすることよりも、黙って、じっと見守ることにしたのである。
 およそ五分間ほど、そんな状態が続いた。ぼくのこころに湧きあがった驚きや不安、あるいは怖れは、その間に解消され、自分でも不思議なほど穏やかな気持ちで、その時間を過ごしていた。
 発光体はしばらくその場に留まり、わずかに上に下に動いていた。たまにオレンジは黄色に近くなり、また青白く輝いたようにも見えた。上下動の理由はヘリコプターだったからかもしれないし、色の変化は目の錯覚だったかもしれない。でもぼくは、流星群の降ったあの晩、たしかに未確認飛行物体を目撃したと断言できるし、Mさん一家をはじめ、証言者だってたくさんいる、たとえ翌日の新聞に報じられなくともね。

 いつ光が失せたのかは、よく覚えていない。
 ただ、浅間山の黒々とした山影が膨らみ、のしかかってくるように感じられた。





【今日の一曲】
 マリア・マルダーの「真夜中のオアシス」。
 他にも佳い作品がたくさんあるのに、日本ではこの曲のみ語られている状況が、すごく残念。
 でも、この曲を知らないでいるのは、もっともったいないと思う。まずはスタジオバージョンを聴いてみて。
 エイモス・ギャレットのイマジネーションあふれるリードギター(01:20)だけでも一聴の価値ありです。



「ミッドナイト・スペシャル」出演時のスタジオ・ライブも併せてどうぞ。コケティッシュないい女。








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