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2006年08月31日20:36

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【独話】 死にゆく人と何を話すか 番外

ターミナルケアの病院で日常清掃のアルバイトをしていた頃の話。

いつものように廊下の掃除をしていたら、かわいらしい女性が、花束を持ってエレベータから出てきた。見舞い客だろう。
このフロアには末期がんの患者さんばかりが、10人ほどいらっしゃる。どの部屋に見舞いに行くのかな?

と、こちらに寄ってきて、話しかけられた。

「A さんの病室はどちらですか?」


・・・・・・・・・・・・

A さんは三日ほど前に亡くなっていた。

さああなたならなんと答えますか? 時間はありません。相手は返事を待っています。さあ、なんと?


・・・ 時間切れです。
僕も時間切れしてしまいました。とっさに何も言えなかったのです。

僕の表情を見て、察したのでしょう、彼女はわっと泣き出しました。

後はご想像にお任せします。僕はどうすればよかったのでしょう。知らん顔をしてすぐに看護婦さんの控え室でも示してあげればよかったのでしょうか?

いつまでも彼女の泣き声は耳に残りました。彼女は今でも泣いています。



残された者はいつまでも泣いています。心のどこかには涙と後悔があるのです。もっと何かしてあげられたのではないか?

それはどんなに些細な関わりを持った人でもそうです。僕なんて、最期の数日、部屋の掃除をしただけの関係です。

でも、今でも残っている。一人一人の顔まで覚えているわけではないが、彼らの最後は僕の中に深く深く残っている。


その悲しみを分からずに、「死にたい」 などという事が許されるのか? 外に出す前に自分の中で答えを出すべき事柄だと思う。答えが出て、それでも死ぬのなら誰も文句は言わない、言えない。

自殺するものを責めることは出来ない。ただ悲しみ、後悔するだけ。一生。
彼が逃げてしまった長い年月を、悲しみ続けなくてはならない。
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