さて、一言に「ものつくり」と言っても、作るモノによっていろんな技術者がかかわってきます。それも歴史の進化とともに参加する技術者が変化します。そうして進化した結果、船を作る技術が高速道路や明石海峡大橋を作ることになります。家電や自動車など皆さんにおなじみの日本の高度成長を支えた商品のお話ならば、皆さんのご理解をいただきやすいかと思いますので、そのあたりを中心にお話していきたいと思いますが、まず商品開発の出発点は「設計」になるのですが、その中には「外観設計」「機構設計」「回路設計」「梱包設計」「工程設計」などに分かれます。
「外観設計」では自動車は早くから金属製の外観でしたから、大型のプレス機で長尺の鉄板コイルを抜き取り、金型によって絞り丸味を出して穴をあけ、クレイモデルと呼ばれる外観モデル通りに組付けていきますが、家電のラジオやテレビでは当初家具屋さんの技術が使われました。戦前のラジオの写真をご覧になったことがあると思いますが、木箱に入っています。ところが木は生き物と言われ、湿度の変化でひび割れしたり、隙間が開いたりする上、木目が全部異なり、それをお求めになるお客様の好みもあって苦情が多いものです。ご記憶にあるかも知れませんが、4本足のテレビの右足と左足の木目や色味が違うだけで、お客様からの苦情が絶えませんでした。
ですから、当初は箪笥と同じように、ベニヤ板の上に薄いツキイタ（板を1ミリぐらいにスライスしたもの)を張り合わせて周囲を細い角材で組み立てていましたが、塗装して張り合わせると重くなります。ケガをしないように角を丸めたりすると、職人さんの生産では間に合わないことになります。そこで木材屋さんの方から「化粧合板」と言うのが出てきて「デコラ貼り」と言いましたが、薄いプラスチックやシート状のものに木目印刷をしたものを張り合わせて作った板を使った机などが出てきたころ、テレビでも折箱式の外観に変わりました。
一方、戦後民間放送（NHK以外の放送)が始まって「三つの歌」や「私は誰でしょう」などが人気番組になると、ラジオが一気に人気が出て木製キャビネットの生産が間に合わなくなりました。そこでプラスチックのキャビネットが浮かび上がりましたが、これが大変でした。例の積水化学さんがそんな大きな金型のものを創ったことが無かったからです。金型屋さんもそんな複雑な構造のインジェクション金型（雄型と雌型を作ってその隙間にプラスチックの溶液を流し込む方式）を作ったことが無く、従来の金属の金型は「うち抜き」「絞り」「曲げ」などの単純な金型でしたから、みんな初めての試行錯誤から始まりました。冷蔵庫の内箱やお風呂場の浴槽などは雌型の金型にプラスチック板を載せてヒーターで温めて、金型の穴から空気を吸い込んで作る「真空成型」です。。
真空管のテレビやラジジオは熱がこもりますから、どうしても「放熱口」の穴が必要です。しかし外から中が見えたりヘアピンなどが落ちたりすると感電しましから、細かな穴を開けなくてはなりません。しかも外観デザインはかっこよくなくてはなりません。しかも大型のテレビなどになると、上に重いものを乗せたり人が乗ったりします。その為に見えない裏側にリブを建てたりして補強もします。14型ぐらいのテレビまではポータブルの要求もあってカラフルなデザインでしたが、20インチクラスになるとプラスチック成型にも問題点が出てきました。
「ウエルドライン」「ヒケ」「バリ」などの外観上の欠陥です。大型の金型ではドロドロに溶けたプラスチックを複雑な構造の金型の中に圧力をかけて流し込むとき、1ヶ所からではなかなか奥の隅まで充填できませんから、複数の「湯口」を設けて流し込みますと、双方からの到達点に線が現れて、そこから割れやすい「ウエルドライン」として「外観」上も欠陥品に見えます。また、プラスチック筐体の強度を支えるために内部に設けた「リブ（支柱）」がある外側に「えくぼ」が出来る「ヒケ」が発生します。また、金型と金型の重ね合わせた接点部分には薄い尖ったひれ状の「バリ」が残ります。これを削って塗装して分からなくすると言う涙ぐましい作業をして居りました。
その内に夥しい量の家電製品が回収されてきました。「廃棄プラスチック」をどう処理するかが問題になりました、ぞの殆どが「アクリル」「スチロール」「ブタジエン」の単独か混合です。「アクリル」透明性が高く表示などに使われます。スチロールは少し濁っていて発泡スチロールなどでおなじみです。ブタジエンはゴムのことで、プラスチックの表面の艶が出る他、柔軟性や強度を増します。こうしたいろんな廃棄プラスチックを再生利用できないかと言う問題にぶつかりました。光の3原色は赤、青、緑で混ぜ合わせると白くなります。絵の具の3原色は赤、青、黄色で混ぜ合わせると黒くなります。こうして世界中のテレビの外観はみんな黒一色になりました。
昔の電化製品のデザインはメーカーの特色がありました。今はテレビも冷蔵庫も洗濯機もブランド名を見なければ区別はつきません。このほか、石油ストーブのデザインなどは暖色系の赤、家具調の木目、薪ストーブ系の黒が主流だったものが、家の新築物件の壁がみんな白になって以降、エアコンともどもみんな白に変わったことも特筆すべきことではないかと思います。明日はいよいよ機構設計、回路設計などの本体設計に進みます。
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