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2023年08月19日08:25

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【オーディオドラマ感想】青春アドベンチャー:夜に星を放つ

7月31日〜8月4日、8月7日〜8月11日にNHK-FMでオンエアした全5回のオーディオドラマの『夜に星を放つ』の感想。

温もりが心に残り、小さな明かりが灯るような優しい5篇の短編集を、5人の脚本家がそれぞれ脚色。1篇を前後編とし全10回で構成したオーディオドラマが描く、多様な家族や人間関係の在り方。
物語の主人公達は、若い女性、少年、少女、離婚した男性と様々だが、皆、悲しみや悩み、わだかまりを抱いている。
双子の妹を亡くした若い女性(「真夜中のアボカド」)。夏休み、海で出会った年上の女性に惹かれる高校生(「銀紙色のアンタレス」)。保健室登校の中学生(「真珠星スピカ」)。妻が娘を連れて家を出て行った父親(「湿りの海」)。両親が離婚後、父の再婚相手と赤ん坊の異母弟と暮らす小学生(「星の随に」)。
彼、彼女らが、一歩踏み出すまでの物語。
(公式HPより)
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青春アドベンチャーで2023年に本放送した作品としては11回目に該当する本作は窪美澄の短編集が原作で、5編の小説をそれぞれ前後編に分けてオーディオドラマにアレンジしている。
原作小説は2022年に直木賞を受賞しており、青春アドベンチャーで直木賞受賞の小説を原作にした作品は多くなく、2012年放送の『蜩ノ記』以来である。

・「真夜中のアボガド」
アボガドを育てる独身女性の「綾」。マッチングアプリで出会った「麻生さん」と付き合っているが、数年前に双子の妹を亡くしていた。

妹の死を引きずる女性が主役で、作中でもコロナ禍真っ只中になっていて、時代を反映させている。
綾は麻生さんと良い仲になり旅行に行くまで親しくなるも、彼は既婚者だったオチで結局は恋破れるが、綾は自分の人生を生きていく結末で、悲壮感は感じない。
アボガドは生命力の強い植物なので綾の人生のメタファーになってるのかもしれない。

綾役の石川瑠華は青春アドベンチャー初出演で、今年の秋公開の映画『クオリア』でも不倫相手を演じているのでシンクロニシティが生じている。
綾の母親役は高橋理恵子、麻生さんの奥さん役は野上絵理と、『エージェント・オブ・シールド』のデイジー母のジャーインとデイジー姉のコーラのキャストだった。

「真夜中のアボカド」の脚色を担当した足立聡は去年の青春アドベンチャーでは『かおる、ストーリーボックス』「幸せの匂い」、今年のFMシアター『ホットサンド』の脚本を担当。

・ 「銀紙色のアンタレス」
祖母のいる田舎に行った少年の「真」は祖母のお隣さんの娘「たえさん」に惹かれていく。

夏休みに男子高校生が年上の女性と出会い、片思いする話。
真はたえさんと一緒に星空を見る機会を得て、思い切って告白するもたえさんは既婚者かつ子持ちで真の想いが成就することはなかった。
ひと夏の淡い初恋を描き、それが失恋に終わるのも含めて青春だなと感じた。

たえさん役は平田裕香で、青春アドベンチャーでは去年放送の『浮遊霊ブラジル』以来の出演。『レジェンド・オブ・トゥモロー』のザリのようなハスキーボイスでなく、人妻の艶のある声でこれまでに聴いたことのない声色だったので新鮮に感じた。

脚色は『かおる、ストーリーボックス』「父の漢方茶」を担当した石原理恵子。

・「真珠星スピカ」
母を2週間前に亡くした女子中学生の「みちる」。彼女には死んだ母親の幽霊が見えていた。

母と死別した少女と現世に留まり続ける母親の幽霊の交流を描いた話で、5編の中で唯一ファンタジックな展開。
母は会話することができないため、身振り手振りでみちると意思疎通を交わしているのが独特な設定か。
学校では同級生にいじめられて保健室登校を続けているが、みちるがいじめの主犯格「瀧澤さん」にコックリさんを強制された際は母が「いじめたら のろう」といじめっ子を脅した結果、みちるへのいじめは無くなった。
みちると父が母の形見の真珠を見て母への想いに浸るラストで、少し不思議な話の余韻に浸った。

みちるの声は田畑志真が担当しており、田畑志真は去年のFMシアター『面影』で娘を失った女性の前に現れる亜人役が印象的であったが、今回は母を亡くした娘と真逆の役柄で、等身大の女子学生の演技に聴き入った。
Netflix配信のアニメ映画『ジェイコブと海の怪物』でヒロイン役だった境葵乃は瀧澤さんを演じてた。

「真珠星スピカ」の脚色担当した中澤香織は青春アドベンチャーでは『日本のヤバい女の子』、FMシアター『木になった亜沙』と原作付きオーディオドラマの脚色を担当している。

・「湿りの海」
会社員の沢渡。妻が浮気して娘を連れて逃げられてしまった。
アパートの隣室に越してきた子連れの女性「船場」と出会う。
船場と彼の娘「沙帆」と交流を深め、一緒に海に遊びに行くまでに親しくなるが

バツイチの男性が同じ境遇の女性と出会い、喪失感を埋めていく物語。
沢渡は船場と良い雰囲気になるも、ある日船場が娘に虐待していると疑いをかけられ、沢渡はその疑いを晴らそうとするも、船場親子は引っ越してしまう、モヤっとする結末。
原作小説だと沙帆に痣があったり、船場が娘を産まなければよかったと本音を漏らす辺り、虐待は限りなくクロな演出だったが、オーディオドラマ化にするにあたってボカしていたイメージ。

沢渡役は大東駿介で、NHK的には朝ドラの『ウェルかめ』、特撮では『BRAVE STORM ブレイブストーム』、『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』の出演が思い浮かぶが、青春アドベンチャーには初出演。
樋井明日香はアイドルグループ、HINOIチームの元メンバーで青春アドベンチャーの出演は2017年放送の『UFOはもう来ない』以来で、ティーンアイドルだった彼女が母親役を演じることになって時間の流れを感じてしまった。

「湿りの海」の脚色担当はFMシアターで2021年放送の『i²−アイノジジョウ』の脚本も担当。

・「星の随(まにま)に」
両親が離婚し、父親に引き取られた少年の「想」。
父と再婚相手の「渚さん」の間には弟の「海」が生まれていたが、渚さんは育児ノイローゼで神経を尖らせていて、想は渚さんと距離が生じていた。
想は同じマンションに暮らす老女「佐喜子さん」と出会い、彼女は油絵を描いていたが、それは戦争中の体験を元にしていた。

シリーズ最後の話は両親の離婚を経験した少年が主役。
家に居場所がない想は佐喜子さんとの交流で、半世紀以上前に起きた戦争の出来事を知る。
原作はコロナ禍を反映した内容で、パンデミックを生きる少年と戦争を生き延びたお婆さんの対比があったが、オーディオドラマ版ではコロナの背景は割愛されてた。
佐喜子さんの計らいもあって、想の父親は渚さんと話し合う。渚さんは心を休める為に実家に戻ることになるも、想は渚さんを母さんと呼べるようになった。

想役の豊田温大は映画『シン・ウルトラマン』で神永に保護される子供役を演じている。青春アドベンチャーでは初出演だった。
渚さんのキャストは『仮面ライダーフォーゼ』乙川美奈役の村上穂乃佳だった。

「星の随(まにま)に」 の脚本は黒瀬ゆかで、青春アドベンチャーでオムニバス形式の『ストーリーボックス ザ・トーキョー』、FMシアター『朝が生まれる』の脚本を担当している。

全体の感想としていうならば、各話の主人公が成功するような胸がすくような話ではなく、むしろ報われることが少ないような、人生のほろ苦さを体現している物語である。
そんな気分を夜を見上げるような軽やかな音楽で払拭しているのは音楽のマジックと言った具合か。

青春アドベンチャーのオムニバス系作品はキャストが固定で各回で役柄が変わるケースが多いが、今回の作品に関しては各回毎に違うキャスティングで、豪華だなと思った。
脚本は青春アドベンチャーのオムニバスを担当した面々を起用している印象だった。

各タイトルと本編中では夜や星が取り上げられている。恋人に裏切られた女性、想いに破れた高校生、学校でいじめられて母も亡くした少女、妻に逃げられた男性、両親が離婚した少年と取り巻く環境に恵まれてなく、良い経験をしていない人々にも平等に夜が訪れ、皆を照らすように星空は輝き続ける。そんな物語だった。

直木賞を受賞するだけあって珠玉の短編集をオーディオドラマに仕上げてたが、劇的な展開は少ないので青春アドベンチャーでのアドベンチャー要素は少なかったが。

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