原発雑考第４１５号の転載です。
2023・2・5
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台二丁目12-8 E-Mail tnk24@tees.jp
東電刑事裁判 二審判決
1月19日に東京高裁で福島原発事故についての東電経営陣の刑事責任を問う強制起訴裁判の二審判決があり、一審同様に無罪とされた。 判決の骨子は、
�餤霏臙録未硫椎柔�を指摘した国の「長期評価」には巨大津波の現実的な
可能性を認識させるだけの信頼性はなく、電力供給義務を負う電力会社
に原発の運転停止を強いるほどの明確な予見可能性はなかった
�鯔苗�堤・防潮壁設置、非常用タービン室の水密化、非常用発電施設の高
台移転などの浸水対策は後知恵であり、かつ仮に実施されていても有効
であったとは考えられない
というものである。
�颪砲弔い討蓮�巨大地震・津波は破壊力が巨大である一方、正確な発生予測には大きな限界がある。したがってそれぞれの時代・地域における科学的に最高レベルの予測（「長期評価」はそれに該当する）についてはそれを受け入れて対応に当たるべきである。とりわけ原発については、過酷事故が発生した際の被害と影響の大きさは計り知れず、過酷事故発生防止のために万全の対策が求められるから、過酷事故発生を招きかねない巨大地震・津波にたいしては上述のような対応をとることは当然である。判決は巨大地震・津波と原発事故の有するこのような特殊性を無視したものである。
�鬚砲弔い討蓮�提案されている浸水対策はどれも常識的なものであり、これらの実施が検討されなかったことが異常である。これらの対策の有効性も否定されているが、例えば、非常用発電施設を高台に移転しておけば、あの津波によって冠水して使用不能になることは避けられ、原子炉冷却用の電源として使えたはずである。これは子どもにも分かることではないか。
なお、この判決では原発停止の影響の大きさは強調されているが、原発事故の影響の大きさは実質的に考慮されていない。こういう明白な二重基準を採用した裁判官の公正さには決定的な疑問を抱かざるをえない。
生物多様性危機という問題
昨年11月のCOP27（国連気候変動枠組条約第27回締約国会議）に続いて、12月にCOP15（生物多様性条約第15回締約国会議）があった。
現在までに確認されている生物の種の数は約140〜180万で、未知のものを含めれば1000万以上になるとされている。生物多様性とはそのことを指し、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性の三つのレベルに分かれる。その多様性が脅かされているのが生物多様性危機である。危機をもたらしているのは、自然環境の破壊と汚染、資源の過剰な利用、地球温暖化、外来生物である。前三者は人間の活動の結果であり、最後の外来生物もほとんどが人間が持ち込んだものであるから、生物多様性危機の原因と責任はもっぱら人間にあるということになる。
生物多様性危機は、地球は人間のためにあるのではないという点からは人間倫理の根本が問われる問題であるし、種の多様性の喪失がもたらす生態系の変異は人間が生態系から享けている恩恵（生態系サービスという）を減少させることになるという点からは人間にとっての損失の問題である。
COP15では2030年までの目標として〈陸、海、内水域の少なくとも30 ％の保全〉、〈プラスチック汚染の削減〉、〈過剰な肥料と農薬のリスクの半減〉、
〈外来種の侵入・定着の半減〉、〈生物多様性を守るために投じられる資金を年間2千万ドルまで増大〉などについて合意された。
これらの合意については評価する見方が多いが、問題はその実行である。合意に強制力はないし、これまでの合意も達成率が非常に低かったからである。アメリカが条約を批准していないという問題もある（理由は遺伝子資源利用の権利の問題）。
ところで生物多様性危機については地球温暖化などに較べて一般の関心が低い。そのことが対応が遅々として進まないことの根本的な原因である。そこで以下では生物多様性危機が深刻で切迫した問題であることを示す二つの衝撃的な事実を紹介する。
一つは種の大絶滅が進行中であるという事実である。種全体の0.01％〜0.1％が毎年絶滅していると推計されている。もちろん過去にも種の大絶滅は起きており、現在は六回目の大絶滅期である。今回の大絶滅が問題視されるのは、絶滅のスピードが過去のそれに較べて100倍ないしそれ以上速いことと、この超ハイスピードの絶滅をもたらしているのが人間であるということである。人間が地球を殺しつつあるといっても過言ではない状態になっているのである。
もう一つの衝撃的な事実は、いまでは哺乳類のバイオマス（生物重量）の60％を家畜が、36％を人間が占め、野生の哺乳類のバイオマスは4％にすぎないという事実である。人間ともっぱら人間のために存在する家畜が重量で計れば哺乳類全体の96％を占めるという、哺乳類における種の多様性の極端な喪失状態が生じているのである。生物多様性危機の大きな原因は森林の減少であるが、森林減少の大きな原因は、森林が食糧生産、家畜放牧および飼料生産のために農地に転用されたことである。この転用によってそれまでその森林に依存していた生物（微生物から哺乳類まで）の生存が種の存続が危ぶまれるレベルで脅かされているのである。つまり人間と家畜の数の極端な膨張を支える仕組みが哺乳類の種の多様性を（それのみならず生物全体の種の多様性も）脅かす最大の原因になっているのである。しかもそれだけ家畜を増やしても地球上のすべての人が畜産品を十分に食しているわけではない。畜産品どころか健康に必要な穀物すらまともに摂れていない人が地球全体で10億人のオーダーで存在している。
現在の世界人口（約80億）が必要とする穀物と畜産品を提供することと、種の大絶滅の進行にストップをかけることとを両立させるのはおよそ不可能だということ、いいかえれば人間の数が地球の持続可能性にたいする重圧になっているということを、これらの事実は示している。人間の数を減らすことが求められているのである。もちろん戦乱、圧政、社会的混乱、疫病、災害、飢饉、さらには人為的な人口調整などによる人口減少は避けられねばならない。その意味で出生数減少による人口減少はありがたいことである。
ところが日本では〈少子化は国の存亡にかかわる一大事〉という妄論がはびこっている。しかし実際はその逆で、この列島に1億以上の人間がいることが地球の持続可能性を殺ぐことに繋がり、ひいては国の存亡に係わる状況を生み出すことになりかねないのである。現在の日本の半分以下、それどころか10分の1以下の人口で立派に成り立っている国はいくつもある。子どもが欲しい人が子どもを持てることは大切だが、それは人口問題とは別次元の話であり、いま日本にとって必要なのは人口減少という現実を受け入れ、それを前提にした社会への転換を進めることである。
かつて〈不都合な真実〉というタイトルで地球温暖化を告発した映画╱書物があったが、生物多様性危機とその根底にある地球人口過剰は、成長至上主義を信奉する人たちにとっては不都合な真実であろう。しかしだからといってそれから眼を背けつづけることは最悪の結果を招くだけである。
雑 記 帳
1月6日の小寒の日に家の近くの道路で全身が褐色のバッタを見かけた。道路沿いの家の駐車場から道路に飛び出し、季節的にバッタは珍しいので捕まえようとした私の手をかいくぐって、向かいの家の庭に勢いよく飛び込んだ。後でネットで調べたら、成虫で冬を越すツチバッタという種類らしい。こんなバッタがいることはそれまでまったく知らなかった。
私が生まれた和歌山県の旧下津町と隣の有田市が世界農業遺産の国内候補地に選ばれたという報道があった。下津は江戸時代から温州ミカンの大産地で、 紀伊国屋文左衛門が江戸に送ったミカンの積み出し港といわれる。
40年ほど前の冬、いかにも農家のおばあさんふうの人が乳母車に温州ミカンを積んで行商に来た。ミカンはどれも小粒で、おばあさんは「（植えてから）40年余経ってやっと甘いミカンが採れるようになっただ」と言って勧めてくれた。和歌山で生まれやはりミカン産地の愛媛で育った私は、おばあさんが言ったことに同感して、一袋買って食べたら、やはりおいしかった。すでに小粒のミカンは出荷されなくなっていた頃である。そのおばあさんはきっと、「ほんとはこっちがうまいだに」とつぶやきながら、小粒のミカンを行商していたのだろう。翌年も心待ちにしていたが、もう来ることはなかった。
月末に寒波来襲。いちばん冷えた25日の朝には庭の水がめに厚く氷が張り、かなづちで叩いてもなかなか割れなかった。この日の豊橋観測所の最高気温は2.4度で、24時間中18時間が0度以下だった。寒波が去った27日には昼前から3時間ほど湿った雪が降って、庭木がうっすら雪化粧した。当地は温暖なので、かめに厚い氷が張ることも、昼間に雪が積もることも珍しい。
万場緑地のネコ 第３８話 ちょうど2年前に保護し、そのときすでに片目が潰れていたミコというメスの三毛猫。その後は元気にしていて、人懐っこい性格で人気があった。そのミコを「片目で野良暮らしは辛かろう」と、引き取って家飼いして下さる方が現れた。嬉しかった。
1月10日過ぎの夕方、ミイという万場緑地最年長の雄ネコの避難小屋に1歳前後と思われるタヌキが入っていた。私が小枝を使って追い出そうとしても逃げず、連れ合いが避難小屋の後ろ側を思い切り蹴飛ばしたらやっと逃げ出した。ミイは避難小屋から5ﾒｰﾄﾙも離れていない餌場で普通に餌を食べ、タヌキの追い出しも平然と見ていて、タヌキを怖がっていないようだった。タヌキに遭遇する機会が増え、慣れたのだろうか。タヌキが成ネコを攻撃することはないから、そうなっても不思議ではない。
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