アフガン撤退で豹変した米国の世論
2021.9.9
アフガニスタンからの米軍撤退を完了したバイデン米大統領の支持率が急落した。現地の混乱を目にした多くの米国民は、撤退を支持していたにもかかわらず批判に転じた。しかし、これが来年の中間選挙まで影響を残すかは不明だ。民主党は景気対策に焦点を切り替える。
9月の始まりは、米国の20年にわたるアフガニスタンでの作戦の終了を意味した。同時に、ジョー・バイデン大統領にとり就任後最悪だった1カ月も終わった。米国の有権者の気持ちはかなり前から、アフガニスタンから離れていた。バイデン大統領も、前任のドナルド・トランプ大統領(当時)も、この「終わりなき戦争」を終わらせることを選挙公約に掲げた。
であるにもかかわらず、多くの米国民は米軍撤退の直接的な結果を目の当たりにしてがくぜんとした。直接的な結果とは、アフガン政権の瞬く間の崩壊、撤退に伴いカブール空港で起きた悲惨な光景、その直後に起きたイスラム国(IS)系勢力 「ISホラサン州」による自爆テロなどだ。このテロで、米兵13人を含む180人以上が死亡した。
アフガン撤退が完了した今、バイデン大統領は政権を次の段階に進めようとしている。しかし、事はそう単純には運ばないだろう。
バイデン大統領は撤退完了を宣言する演説の中で、怒りと不敵さと自信とを代わる代わるのぞかせた。まず撤退作戦が「この上ない成功」を収めたと褒めたたえ、「歴史上、これほどのことをなし遂げた国はない」と誇った。
もっとうまく撤退できたのではとの批判に対しては、「申し訳ないが、同意できない」と反論。「小規模の米軍部隊を残しておくことはできた」と主張する人々は、軽度の戦争など存在しないことを理解していない、と批判した。
バイデン大統領は「私はこの戦争を終わらせると国民に約束したのだ」と力強く語った。この演説はリチャード・ニクソン大統領(当時)のような現実主義で満ちていた。
安全保障上の明白な利益が存在しなくなって久しい国に、実質的に2兆ドル(約220兆円)を米国はむなしく費やしてきた、とバイデン大統領は指摘。その間に、中国やロシアが今まさにもたらしている圧力に対処する力を損なってきたと続けた。
たかが支持率、されど支持率
ベトナム戦争の終結が当時のジェラルド・フォード大統領に及ぼした影響は芳しいものではなかった。バイデン大統領にとって事態は、フォード大統領が直面したものほど悪くはないが、打撃を被ったことは確かだ。
データジャーナリズム・サイト「ファイブサーティーエイト」の計算によると、8月1日時点の純支持率(「支持」から「支持しない」を引いた値)の平均は8.1ポイントだった。しかし8月末にはマイナス0.6ポイントとなり、不支持がやや上回った。
この数字には、政治学者が「ディファレンシャル・パーティザン・ノンレスポンス」と呼ぶ現象が影響しているかもしれない。党派心の強い支持者は、支持する政治家が苦境にある時には、世論調査への回答を避けがちになる現象である。
米大統領の支持率は、就任後100日の「ハネムーン」期間を過ぎると徐々に下がるのが普通だ。バイデン大統領も例外ではなかった。
とはいえ、8.7ポイントの急落は無視できるものではない。比較のために言うと、2021年1月6日にトランプ大統領の支持者が米連邦議会に乱入する事件が起きた直後、同大統領の支持率は9ポイント低下した。もっとも、元の支持率が低かったのだが。
本誌(英エコノミスト)の調査による純支持率の低下は、ファイブサーティーエイトの数字より小さい。タリバンがカブールを制圧した8月16日から31日まで2週間のバイデン大統領に対する米国成人の純支持率の低下は5ポイントだった。
1969年のニクソン大統領の就任以降に集計した2週間の純支持率の変化のうち、低下率が5ポイントを超えるケースは全体の8%しかない。
ただし、5ポイントは急落ではあるけれども、記録的というほどではない。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)の純支持率は92年の1月、21ポイント低下した。経済問題が背景にあった。前年の湾岸戦争によって支持率が実力以上に上昇していたことも作用した。
ニクソン大統領も15ポイントの純支持率下落を経験した。73年の春、ウォーターゲート事件に深く関与していたことが明るみに出た時のことだ。
だからといって、バイデン大統領の慰めになるはずもない。これらは決してうらやむべき記録ではない。
バイデン大統領がいくら反論しようと、米国民はアフガニスタンでの対応が間違っていたと非難している。英調査会社ユーガブが(ISホラサン州によるカブール空港への攻撃の前に)実施した世論調査によると、バイデン大統領のアフガン対応を支持する米国民は33%にすぎない。撤退が適切に行われたと評価する人はわずか16%だ(民主党員でも28%にとどまるのは要注目)。
世論は介入反対で固まっていたはずだが、アフガニスタンでの混乱を受け、揺らいでいるようにみえる。7月初めには米国民の70%が、9月11日までに米軍を完全撤退するとの計画を支持していた。それが今、撤退が誤りだったかを巡り世論は二分している。
世論は影響力を持つ人々により形成されるものだ。バイデン大統領は、すべての陣営から批判を受け続けてきた。
共和党からの批判は予想されていたものだ。共和党はトランプ政権とタリバンとが結んだ撤退合意を一貫して支持していた。本来なら、バイデン政権による撤退実行を批判する立場にはないのだが。
功名心に燃える共和党のジョシュ・ホーリー上院議員はこれまで、「5月1日までに撤退を完了する」というトランプ政権が決めた期限をバイデン大統領が守らなかったと非難してきた。その同議員が今、バイデン大統領の辞任を求めている。
一方、議会民主党も、バイデン政権の撤退計画が「複数の失敗」により崩れ去ったと非難してきた。民主党が主導する議会の委員会はこの失敗の調査に乗り出す予定だ。民主党が今なお信頼する主流の報道機関も、バイデン大統領に矛先を向けた。トランプ大統領に対して保守系メディアが反旗を翻すことはなかった。
次は経済復興に焦点
バイデン大統領がアフガン問題でどん底にあっても、政権にはまだ救いがある。一度下がった支持率が上昇に転じることもあるのだ。米国民は外交問題に比較的無関心だ。アフガンの状況が注目を集める今日でさえ、米国にとって何が最重要問題かを問う調査で、国家安全保障問題は7番目にとどまる。
有権者がバイデン大統領に審判を下す次の機会は2022年11月の中間選挙だ。これは、米国政治の時間感覚で言えば果てしなく先の話である。また、仮に今、バイデン政権の外交判断にこれまで以上の疑問符が付いているとしても、米国の有権者は04年以降、外交問題を投票の判断材料にしてこなかった。
とはいえ、アフガンの失敗が尾を引く可能性も残る。バイデン大統領は同盟国を置き去りにし、また多くのアフガン人の難民を米国に受け入れた(米国に入国するすべての難民と同じく、精査を受けることになる)。これらについて大統領を批判すべきか、共和党内で意見が割れている。
アフガニスタンで女性が迫害されたり、ブルカの着用を強制されたりする様子が明らかになれば、政治的に米国が追い込まれる可能性もある。米国に協力しながら出国できなかったアフガン人が殺害されたとのニュースが流れれば、やはり米国にとってマイナスだ。
バイデン政権は、出国を望みつつもアフガニスタンに取り残された米国民は200人未満と推定する(撤退に対する批判はともかく、米国および同盟国はアフガニスタンの政権崩壊後、12万人を出国させた)。もし残された米国民が1人でも傷つけられたなら、特にそれがISホラサン州による攻撃によるものだとしたら、非難の嵐が改めて吹き荒れることだろう。
バイデン政権にとって、9月は別の問題に取り組む月になるはずだ。同政権は、新型コロナ禍からの「より良い復興(build back better)」を実現するため、インフラと安全網の拡充に4兆ドル(約440兆円)を費やす計画を練った。議会でこれを徹底的に議論する。
民主党は、今、財政出動を拡大するのが得策であると計算している。バイデン大統領の支持率が下がったからといってこの計算が変わることはないだろう。現職の大統領が中間選挙で与党の議席を増やしたことは、1935年以降2回しかない。また、大統領の与党が議会の上下両院で多数を握る状況は米国政治ではまれなことだ。民主党がこの機会を無駄にするとは思えない。
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/world/00416/
>同政権は、新型コロナ禍からの「より良い復興(build back better)」を実現するため、インフラと安全網の拡充に4兆ドル(約440兆円)を費やす計画を練った。
間も無く資金が尽き、米国行政機関の多くが閉鎖されます。
米財務長官、資金枯渇は「10月中」 債務上限問題で
2021年9月8日 23:50 (2021年9月9日 5:24更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08DI80Y1A900C2000000/
10月中にばらまきが止まるので、11月の中間選挙は民主党の惨敗となり、上下院の議席を失うので、確実にレイムダックとなるでしょう。
次の大統領選は、トランプが復活する奇跡の場面に遭遇出来るかもw
ログインしてコメントを確認・投稿する