mixiユーザー(id:1846031)

2021年08月11日15:23

84 view

文化の壁が理解を阻害する/映画『イン・ザ・ハイツ』

■『イン・ザ・ハイツ』の“次世代スター”メリッサ・バレラ、疾走する本編映像&メイキング映像入手
(cinemacafe.net - 2021年08月02日 14:22)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=25&from=diary&id=6614545

■ミュージカル映画の可能性を広げた『イン・ザ・ハイツ』の「新しさ」
(cinemacafe.net - 2021年07月31日 18:32)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=25&from=diary&id=6612707

■映画『イン・ザ・ハイツ』壁の上でダンス、どうやって撮ったの? トリックを明かす
(ORICON NEWS - 2021年07月29日 10:00)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=54&from=diary&id=6609250

■ミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』超過酷なダンス特訓を振り返る特別映像
(ORICON NEWS - 2021年07月27日 10:01)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=54&from=diary&id=6606325

 前宣伝は結構派手で、タレントの応援コメントも結構ワイドショーなどで流れてたんだが、蓋を開けてみたら、期待されていたほどの興行成績は上げられない様子。配給会社としては、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』のヒットに肖りたかったんだと思うが、アテが外れた格好だ。
 全米では大ヒット、批評家の評も絶賛一色なのに、日本ではどうしてイマイチアピールしなかったのか? 映画を観れば一目瞭然で、題材となっているアメリカの移民たち、特にヒスパニック系と言われるドミニカ、プエルトリコ、キューバといったカリブ海中心の国々からやってきた人々の街――それがワシントン・ハイツ――彼らがどんな境遇に置かれているのか、文化圏の全く違う日本人にはピンと来ないのである。

 たとえば、冒頭シーンで、『A列車で行こう』へのオマージュかなって台詞が出てくるが、これは元の歌詞が「ジャズをやるならA列車で」ってのを、本作では逆方向に行くことで、現代のワシントン・ハイツに導いてるってことなんだそうな。パンフレットによれば。でもそんなアメリカの地理事情まで、こっちのアタマには入ってないってば。
 小ネタで言えば、主人公のウスナビがカルメン・ミランダーのリスペクトを口にしてたのは意味が分かったが、多くの日本人には誰それ? となってしまうと思う(原作・作曲のリン=マニュエル・ミランダとは特に血縁はないようだ)。

 もちろん、設定の説明、登場人物たちの心情は、物語の展開に合わせて随時説明がされるから、全く分からないということはない。
 なぜ彼らはアメリカにやってきたのか、政治の腐敗、生活の困窮、ニューヨークは彼らにとっては「夢の街」だった。しかし、アメリカに来たからと言って、全てが好転するわけではない。相変わらず暮らしはままならない、差別はある、教育も医療も不十分、これでは故郷にいた頃とたいして変わりはない。同じ国同士、同胞民族との繋がりだけが彼らの今の生活を支えている。
 主人公の青年の名前は「ウスナビ」。父親が故郷のドミニカにいた頃、港にやってきたアメリカの戦艦に書かれていた「U.S.Navy」をそのまま付けた。アメリカへの憧れ、それはウスナビの子どもの頃から刷り込まれている。しかしそのウスナビは、今はもう、ドミニカに帰ることだけを考えている。陽気に歌いながら、彼の心はすっかり疲れてしまっている。
 もう一人の主人公、ニーナは、ハイツで初めて有名大学に入学した唯一の優等生、みんなの誇りのエリートだ。しかし彼女は今、本気で大学を辞めることを考えている。ハイツ出身者に対する差別と偏見を受けながら、それでも仲間たちが自分に注いでいる期待の眼差しに耐えられない。彼女の心もすっかり引き裂かれ、崩壊寸前なのだ。

 そうした彼らの思いは「歌」に乗せて縷々語られる。しかし、そんな説明だって、ある程度はアメリカの歴史や文化についての知識がなければ、本当に共感できるものではないだろう。分かった気になったとしたら、それは相当に「甘い」のではないか。
 パンフレットにはかなり細かく用語解説が載っているので、ある程度は参考になりはする。逆に言えば、それを先に読んでいなければ、映画に入り込むことがなかなかできない。これを日本でヒットさせるには相当苦労しそうだ――という心配が、しっかり興行成績に表れてしまっている。

 ニューヨーク大停電が、物語にどう影響を与えたのか、どうしてその実際の事件を背景にしなければならなかったのか、おそらくはその時「ワシントン・ハイツで何が起きたのか」が重要な意味を持ってくると思われるのだが、そこは詳細には描かれない。
 あえて描いていないのは見当が付く。描くに描けない事情があったのだろう。しかし描かれなければ、こちらの想像力だけで物語を補完するにも限界がある。
 『ノマドランド』を観たときにも思ったことだが、どんなに懇切丁寧に文化的な背景を説明されても、映画の中の描写だけでその国の文化に知悉することはできないのである。もちろん映画を見ただけで、その国のことを知った気になることはもっと危険なことだろう。『イン・ザ・ハイツ』に限った話ではないが、仮に映画を面白く感じたとしても、ここがこんなであそこがあんなでと得意顔で吹聴するのは控えた方がいい。たいていの場合、映画の上っ面を撫でただけの見方しかできてはいない可能性が大だからだ(俺だよ)。

 それでも「ダンスは国境を越える」から、日本人だって決して楽しめないことはない。大いに売りのシーンとして宣伝されている「壁のダンス」は確かに凄い。でもこのシーンが凄かったからといって、それだけで本作を映画として評価できるのかと言われたら、やはり「物足りない」という感想しか出ては来ないのである。
 今はもう、ミュージカル映画全盛の時代ではない。だから、数年おきに作られる本作のような映画が珍重されるのは理解できる。しかし、正直に言えば、この二、三十年のスパンの中で判断すれば、決してベスト作品だとは言いがたいのではないか。『ラ・ラ・ランド』も『グレイテスト・ショーマン』も、私の中ではさほど評価は高くは無い。しかしそれらと比べても、全体的にこれと言った名曲も見当たらない、平凡な作品に感じられて仕方がないのである。




1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2021年08月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031