18961024 NO4685 朝鮮宮内府の探偵吏の件上申 写本送付
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010_0030_0190 駐韓日本公使館記録 10巻 参. 機密各館往復 (19) [朝鮮宮内府の探偵吏の件上申 写本送付]
文書題目 (19) [朝鮮宮内府の探偵吏の件上申 写本送付]
文書番号 機密第二○号
発信日 明治二十九年十月二十四日 ( 1896年 10月 24日 )
発信者 在仁川 一等領事 石井菊次��
受信者 臨時代理公使 加藤増雄
(19) [朝鮮宮内府の探偵吏の件上申 写本送付]
機密第二○号
当国宮内府探偵吏・李明翔（イミョンサン）、韓哲夏(ハンチョルハ)の件は別紙写の通り外務大臣へ上申致して置きましたので御参考までに差し置きます。 敬具
明治二十九年十月二十四日
在仁川 一等領事 石井菊次��
臨時代理公使 加藤増雄 殿
[別紙]
文書題目 [王妃弑害復讐企図に対する探偵吏の行動]
[王妃弑害復讐企図に対する探偵吏の行動]
機密信写
本年九月十九日付「機密号外」をもって韓哲夏 (ハンチョルハ)・尹相弼 (ユンサンピル)の二名が当国宮廷の密旨を帯びて、当時本邦にいた朝鮮亡命者の挙動並びに我が政府の動静を偵察する目的をもって渡航することを上申致しましたが、この両名は予ねて宮内府特別探偵吏・李明翔（イミョンサン）とともに本月十五日汽船「隆盛丸」で帰国致しました。
これらの人物の内韓哲夏は、本邦人である当館付巡査・渡辺鷹次��と知面・縁故があったので、今回も渡辺巡査を訪問し普通の談話の末機密事件を語ったと申しておりますが、充分探偵の方針を示し万事抜け目なく機密を探り出す事に注意致し、別紙「問答始末」を差し出しますので詳細はこれで御承知頂きたく存じます。
そもそも熊本県士族・中村哲雄、福島県士族・藤勝顕は、昨年十月王妃事件（＊10月8日王妃殺害事件）の際在留禁止を命ぜられたものであるのに、今回この二名を連れ来ることを依頼したのは（＊この二人が）王妃殺害の下手者である事を探知し王妃の仇を報いようとするものであろうか。
彼らが下手者である事はどこから聞き出し、また何者が洩したものか。同事件の際同様に宮中に入っていた本邦人すら下手者が誰であるかを知る者がいないと言うのに、今回日本に渡航してこれを探知することができたのは、あるいは昨年七月「朴泳孝（パクヨンヒョ ＊1894年―1895年の甲午改革のとき内務大臣）王妃殺害云々」の件を朝鮮人・韓在益（ハンジェイク）というものに密告し、当政府より賞金一千円を取って一大騷擾を引き起こし遂に在留停止を命じられた巖手県平民・佐々木日出雄から聞き出したのであろうか。
韓哲夏は韓在益の甥に当り、また多少佐々木とは縁故のあるものであるので、今回日本において佐々木と面会し壮士雇入を謀ったのだが、同人が大事を為す技量がないのでそれを見合せ、もっとも非常に困難の体であったので多分の食費を与えて置いたという経過であり、そしてこの壮士雇用の必要は、朴泳孝、兪吉濬（ユギルチュン ＊元・内閣書記官長）、権榮鎮（クォンヨンジン）の三名を殺害するためであったが、日本の警戒が厳重で到底行われないこと見込み、むしろ壮士を当国へ呼び寄せた上で徐々に策略を示して朴氏外二名を害しようとするもののように思われますが、秘密室に面会の折り義契を結び、かつ心中を量るためか、病人薬用の援助として金三十円を乞いましたところ、また数日を経て中村、藤の旅費として金四百円を調達した事などを見ても朝鮮当路一派の人が本件に重きを置くものと想像されます。
また全く渡辺（＊巡査）が彼等の意に応じて中村と藤を同伴し、また壮士を雇い入れてくれると信じているもののようだ。
以上今日まで探り得た所によるが、李明翔、韓哲夏等の日本行は朴氏外二名を殺害すること外に王妃復仇の一事もまたその重大なる目的としているもので、既に王妃弑害の下手者を探知し得た今日となっては、第一着の目的はかえってこの下手者にあるものと思われます。
この渡辺巡査（＊当館付巡査・渡辺鷹次��）に贈った二口合計四百三十円は暫く当館に預かって置き、今後ともこれを縁質として出来るだけ秘かに探偵致したい。以上内申に及びます。 敬具
明治二十九年十月二十三日
在仁川 一等領事 石井菊次��
外務大臣 伯爵 大隈重信 殿
追而 渡辺巡査は賜暇帰朝の許可を得て今般出発致しましたのでこの件も御参考までに申し添えます。
[別紙] [付属書 一]
文書題目 朝鮮国人李明翔・韓哲夏の二人と巡査・渡辺鷹次��との問答の経過
朝鮮国人李明翔・韓哲夏の二人と巡査・渡辺鷹次��との問答の経過
明治二十九年十月十五日、先に日本へ密旨を帯びて渡航した李明翔（イミョンサン）・韓哲夏（ハンチョルハ）の二名は汽船「隆盛丸」で仁川に帰り、同日午後四時頃世話をして知っている韓哲夏一名が渡辺宅を訪問し普通の談話をした後、韓が言った。
韓 李明翔と言う者が貴下も面会の必要があると申している。我らの住まいに来てもらえないか。あるいは貴下宅に同道してもよいか。
渡辺巡査答 自家ででも別に差支えない。
以上で韓は帰った。同日午後七時頃、李明翔と韓哲夏の二名が再び来て挨拶が終わり、
李明翔 貴下に大いなる秘密の事件を依頼したいのだが、聞き入れて頂けるならば意を決して大事を語りたい。
渡辺 力に及ぶだけの事であれば御依頼に応じよう。
李 ごく内密のことであり、両国間の大事である。実は貴下は今家親の病気看護のため帰朝されることを承知した。もしそうならば我々の旅費の余っている所、僅少ではあるが病人薬用の助けにされたい。
と袂（たもと）より三十円の御金を出した。
渡辺 再三話をしたのだが、かえって李姓（＊あなた）の願望に好意を見て、そういう事ならばともかくも頂いておこう。(李はこの時大いに安心した様子であった)
李 （この時中村哲雄、藤勝顕の二人を指し□□に記し、日本語でいずれも□□□□李の名刺の裏に日本貨で□□□方（＊日本語での読み方、か）を頼んだので朝鮮諺文（＊ハングル）で「ナカムラテツオ」「トウカツアキ」と書いてやった。）
李 （暫くして言葉を改めて言った）秘密の大事とは中村、 藤の二名を当国に連れてくることである。出来るであろうか。
渡辺 中村、藤の二名を当国に連れてくることはさほど難しくはないと考える。御承知の通りこの両人はこの年の初めに共に広島の獄に繋がれたことがあって苦労を共にしたものであるからである。
李 これは至極秘密のことである。この二名を連れ来る事の時には、我々の意見であるとはいえ、国王の勅令をもって□□ヲモミヘラレタル貴(以下半行欠文)ハ（＊□□以下不明）、貴下に一万円の報酬を与え、さらに貴下は今巡査という卑職にあるが、格別の事も無いと思うので、我が警務庁の顧問官として聘用する事は国王の特命でもっとも容易なことである。
渡辺 この二名を必要があるならば連れて来るようにしよう。
李 日本・朝鮮両国間の和親についてもう一つの願い事がある。
さきに王妃を殺害した主謀者は朴泳孝（パクヨンヒョ）、兪吉濬（ユギルチュン）、権榮鎮（クォンヨンジン）の三名である。この三名を除かなければ到底両国の和親に見込はない。今回我に日本に渡航してこの朴外二名を殺そうと企図したのだが、日本の警戒が厳重で到底行う見込みがないので、かねて知っている佐々木日出雄に謀って壮士五名を雇い入れて事をなそうとしたのだが、当人にはこの大事をなす技量が無かった。もっとも彼が目下窮貧の体であるので当分の食費は与えた。
ところが一方では権榮鎮などは我々が密旨を帯びて渡航したことを知って、この密旨の委任を奪おうと謀っていることを秘かに知ったので、事は成らずはかりごとは行われず万一露見しては一大事と考え、速やかに帰国する事にしたのであった。
我々は日本にいる時ある貴国人に相談し、壮士五名は既に当国に来る事に約束していたのだが、仁川から入京する事は大いに憚られるところであるので、元山より陸路で入京する手筈をして置いた。ところが今聞く所によれば、江原道（カンウオンド）の暴徒はまだ鎮定しておらずすこぶる危険な道筋であるので無事来着するか甚だ心配である。目的の朴泳孝などは三ヶ所に居住しているので、少なくも壮士が十名いなくては成し遂げることは出来ないと考える。そこで残り五名は貴下のほうで御周旋頂きたい。一人について一万円の報酬を与えたい。そして貴下が雇い入れる五名の壮士は、やはり仁川に上陸させるほうが上策だと考える。私たちのほうへ送付の上は万事為すべき場所へ行かせよう。
渡辺 承諾
李 帰仁の際中村、藤の二名が同道するだろうが、旅費などはどれほどの考えか。
渡辺 自分のほうで一時旅費を立て替える資力はない。
李 貴下は何日に出帆するのか。
渡辺 来る十七日の便船で出発の事と決めている。
李 今日は十五日だ。明日十六日に入京し、十七日この件を上疏し、旅費金五百円とまた貴下に委任の密旨を与えたい考えだが、日限が切迫しすぎているようだ。甚だ遣憾の次第である。願わくは来る十九日出帆の「肥後丸」まで延期をしてはもらえまいか。そうしてもらえれば、十八日には必ず韓哲夏(ハンチョルハ)に金五百円と密旨を携帯させよう。しかし密旨は国王の御意にある事なので今より断言しがたい。密旨が与えられない時は金員のみを持たすだろう。たとえ委任の密旨がなくても疑うことではない。
またこのように両国機密の大事を約束した以上、もし万一露見する場合は御互いが非常な困難に陥るわけであるから、ここでともに酒を酌み盟誓を固くするため義兄弟の縁を結ぼう。
渡辺 一旦誓った上は決して漏れる心配はない。
葡萄酒と菓子を出しともに兄弟の縁を結んだ。また年齢は李は四十三歲なので「兄だ」と言った。
李 中村、藤の二名を連れて来たならばしばらく仁川に滞留させ、貴下はただ帰仁の件を左記のところへ通知せよ。
と宿所を次の通り示した。
京城府 南部会賢坊 南松峴 儲処宮前 吳先達 景文処
李 それで、貴下の通報を見たなら先ず韓哲夏を昼夜兼行にして下仁させて入京の日限を定めるので、（＊それまでは）決して中村、藤を入京させないでくれ。この事は食い違いがないようにする必要がある。
これで談話が終わり、
同十六日李明翔と韓哲夏の二名が入京した。
同十八日韓哲夏下仁の約束の日であったが来なかった。
同十九日午前七時、韓哲夏は昨夜十時京城を出発、ただいま到着した、と。李の手紙を携へさらに伝言して言った。
韓 この手紙を書き終る際、大闕（＊宮中）より金員を準備したとの報知に接したが、今直ぐ持参する方法がない。そこで明早朝、朴善祚（パクソンジョ）に金員を運ばせるので、もし渡辺の出帆の後となったならば渡辺妻の名儀で銀行為替に取組み東京に送ろう。もし「肥後丸」本日午後五、六時の出帆であれば貴下に手渡しする事になろう、云々。
手紙の大意
[別紙] [付属書 二]
文書題目 [李明翔の書信要旨]
[李明翔の書信要旨]
御機嫌能く大慶に存じます。義兄（＊私）は船酔いのためまだ疲困止まず約束の五百円は日限が切迫しており上奏前期限内の支出が難しく船便に間に合わないようだ。韓参奉 (哲夏の事) だけ遣わすが速やかに支出できるはずなので妻君の名義で銀行為替にて請け取りの上、御約束のところに御使用なさるよう千万希望致す。韓哲夏への伝言を御聞き下されたく九十子（＊三字不明）申し上げただ御願い致す、云々。
十月十八日
義兄 李明翔
渡辺 大人 様
本日 (十九日) 午後二時頃迄には朴善祚が金員携帯して来着の筈であるが下仁していないので、韓哲夏は大いに心配し翌二十日午前陸路入京した。
二十日正午十二時、朴善祚は小蒸船で来仁。金四百円(銀貨百八十円紙幣二百二十円)を携帯し李明翔の言を伝えてこう言った。
朴 密旨は国王に上奏したが不用（＊密旨は用いない）との命令があって与えられなかった。しかし、このように金員を持参した以上は決して貴下においても疑われる筈もない。よってこの件は充分信用して成功の義をひとえに祈る、云々。
また宮内府において即時五百円の金を払ったのだが、明けて四百円を持参したので、この金額で受取証を与えられたい。また壮士五人の旅費は四百円では不足であるので、この金は中村、藤の旅費に充てられ、壮士五名は日本で雇い入れて置き、貴下が（＊日本から）帰仁の上、更に渡来の手続きならびに旅費送金について相談する予定であるので、必ず雇いれ入の約束を実施し帰仁されたい、と李より申された。
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