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2021年04月14日17:50

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書類の海で罪を問い続ける刑法RPG「リーガルダンジョン」レビュー

 久々にゾクりと来た怪作。

●タイトル「リーガルダンジョン」
●メーカー:PLAYISM
●ハード:switchダウンロード専用
●価格:980円
●配信日:2021年2月25日
(上記はswitchのもの、steam配信もあり)

 本作は韓国のクリエイター「SOMI」氏が手掛けたゲームだ。switchでのローカライズにあたっては「グノーシア」のヒットが記憶に新しいプチデポットが監修、また同作のキャラクターデザインを手がけたことり氏による描き下ろしイラストがイメージビジュアルに採用された。グノーシアを楽しんだファンの一人としては、ことり氏のイラストとトレイラーに惹かれてゲームを購入、プレイに至った次第である。

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ゲーム開始前の一文。「このゲームはフィクションであり…」とありふれた注意書きから、読みやすくかつ分かりやすく背筋を正される文面が続く。堅苦しくも緊迫感を煽る、本作の並々ならぬ気迫を感じさせる。

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 プレイヤーは新人の警察官・清崎蒼。先輩にあたる原田より上の階級に当たる警部補であり、エリートコースを歩むであろうと目されている。その役職は事件現場の捜査ではなく、捜査を終えた報告書に目を通し、被疑者の起訴・不起訴への進言する意見書を提出する立場である。ちなみに彼女の台詞は(論戦中を除いて)一切なく、相手とのやり取りで微かに言動を想像するのみ。

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 刑事ドラマでおなじみの捜査活動は全て終わっている。その事件経緯や当事者たちの証言といった捜査記録だけを見て、それでいて自分たち(警察署)の意見とは別に裁判所は判決を下す。プレイヤーが行うのは書類作成と、警察を代表として被疑者を訴えるか擁護するかの二点だけ。分からないことは「あおい」がサポートしてくれる。

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 さながらデスク作業のごとく、該当する文章をドラッグ&ドロップしていく淡々としたゲーム画面。青字のものはより詳細事項が検索可能で、さながらネットサーフィンのごとく専門用語の解説や、過去の判例や事件概要といったものが調べられる。

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 書類が全て整ったらいざ「ダンジョン」へ。被疑者との取り調べで、無罪を主張する相手とのいわば論戦である。向こうの主張に対して書類を隅から隅まで目を通し、反論や弁護を交える。相手のHPを0にすれば戦闘終了、最終的な起訴・不起訴が決定される。

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 最終結果。事件を起訴する事でその本質は問わずに検挙率・警察内の評価は上下し、裁判所の最終判決が一致したか否かで法機関からの評価は上下する。どちらも一定ランクを下回ると業務に支障をきたす事となり、進行不能あるいはゲームオーバーとなってしまう。

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 各シナリオの間に挟まれる格言。プレイヤーが繰り返すのは書類作成と意見書の提出。最後は司法が決める事とはいえ、被疑者の人生を左右しかねない書類をプレイヤーは黙々と作り続ける。それがより良い治安を築くと信じて。

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 本作を象徴するであろう1章。駅のフリーペーパーを大量に持ち去ろうとした老人は、通報を受けた事で「窃盗」の疑いをかけられてしまう。対象となる被疑者と罪状も法の解釈次第。この一件でプレイヤーと蒼は重大な決断を迫られる。

 ここで思い出すのが組織的評価だ。警察は発生した事件を解決に導くことで成果を挙げ、法機関は判決を下したのちに意見書を提出した蒼の能力を問う。警察の意見に法の効力がないとはいえ、蒼の意見書は警察署の総意でもある。そして警察署にとって自身の生活…いわば社会的地位や報酬の礎となるものは「犯人の検挙」に他ならないのである。

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「善行の美談は0.5点、窃盗犯は2点、殺人犯は15点」どんなエンディングやゲームオーバーを迎えても最後に待っている一文。プレイを重ねていくうちに、この数字の意味と自然と向き合わされていく。

 意思をもって人を裁く異質のゲームだが、その難易度は想像以上に高い。単にゲームを進行させるための「指摘」が難しい(総当たりにしても選択肢が多く、きちんと試行錯誤で選ばないといけない)というのもあるが、勧善懲悪で決められたゴールがある『逆転裁判』などとは違い、本作でやる事は「悪人を裁き、無実の人を救う」事ではないからだ。蒼は何も語らない。彼女の信じる正義も思惑も見えてこない。ただ、ゲームを進行させるためには蒼の地位や思考を読み取り、先に進むための手段を考えなければならない。

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 同僚たちは語る。彼らも何が正義で何が悪なのか、己の信条と立場を秤にかけて判断する。同じ組織の仲間ではあるが、はたして彼らとの間にあるは絆か利害関係か。


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 プレイ時間はおおよそ5〜8時間程度。元がPCゲームとあってswitchでの操作性のもどかしさ(最適化されてはいるがマウス操作が恋しい)や、謎解きの困難さ(あおいをドラッグ&ドロップでヒント再確認と、対峙中での剣と盾のカーソルの有無に注目してみよう)もあるが、一度軌道にのってしまえばあとはジェットコースターのように流れるドラマが堪能できる一作。一度通ったルートもレールの如くワンボタンで切り替えられるので、ルート潰しやエンディング巡りも苦ではない。

「罪とは何か」をひたすら問い続けるシナリオと、自分が蒼と同化する事で辿るドラマは本作ならでは。映画やアニメなど受動的なコンテンツでは味わえない、自分の目で追い決断する感覚。ダンジョンに潜む敵とは一体何なのか、最後のエンディングから逆算して蒼の辿ってきた道は何だったのか、その背徳感と罪悪感を、怖いもの見たさでぜひ感じてほしい。
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