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2021年02月07日18:26

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104 詩・短編を書いてみた(第1939回)

104話 78-2話目「逃げてから」

前作
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【前回の続き】
「あ、そうそう。逃げようとしても無駄だから。その首についているのはGPSだから逃げても追えるし、無理矢理外そうとしたら死ぬからね」

……そうか。
私はもう助からないんだ…。

「まぁ、そう落ち込まないの。運が良いことにまだ時間はあるから。今を楽しみましょ」
「はい…」

こうして私は彼女と一緒に行動することになった……。

――――

『落ち込んでいる所悪いけど。もう夜だし、近くの町に向かうわよ』
『はい、分かりました…』

彼女は私を背負いながら
近くの街へ向かうことになった。

その道中。
彼女が暇潰しにと質問してきた。

『そういえば…。アナタ、名前は?』
『えっ…?。私は「マユ」と言います』
『マユちゃんね。私はマコトって言うの。短い間だけど宜しくね』

マコトさん…。

『あの…マコトさん。聞いても良いですか?』
『答えられる範囲なら良いわよ』
『ここは何処…なんですか?』
『此処は、アメリカの過疎地域よ』
『あ、アメリカ!?』

思いもしなかった国名に驚く私。
あの研究所に連れてこられる際には
長く眠らされていた感覚があったけど…。
まさかアメリカだなんて…。

『驚いてということは、知らなかったの?』
『はい…。周りが日本語を話していたので、気づきませんでした…』
『そう…。本当に災難ね。恐らく、あの実験には日本も絡んでいるのでしょう。だから日本語を話せる人がいたのかもしれないわね』
『そんな…』

私はショックだった。
家族だけでなく
国も荷担していと思うと…。

『もうすぐ着いたわよ』

視線を前へ移すと
小さな田舎町が見えてきた。

『マコトさん。あそこに泊まるんですか?』
『そうよ。あそこには私の仲間がいるの』

仲間が…。

私は緊張感に襲われた。
それを察したマコトさんは――。

『大丈夫よ。一応、みんな味方だし、アナタに危害を与えるような人はいないわ』
『そうですか…』


宿に到着した私達は
すぐにチェックインの手続きを行い
案内された部屋へと向かう。
すると
その部屋のベッドに女性が腰かけて待っていた。

女性は私を見るなり
『あら、可愛い子ねぇ』と言って抱きついてきた。

私はその抱きしめる強さに痛みを感じたが
まるでお母さんのようで嬉しかった。

少し長めに抱きしめられていると
それを見ていたマコトさんが『ちょっと!』と言って
女性と私を引き離す。

『ユウミ!。いつもそうやって、子供を抱きしめるんじゃないわよ!』

この女性はユウミと言うみたい。

『良いじゃない。減るもんじゃないしぃ〜』
『減るとかの問題じゃないの。アンタ、そうやって抱きついて、いつも情が移るじゃない』
『だって可愛いんだもん…』
『それに付き合わされる私の身にもなりなさいよ!』

二人のやり取りに思わず
私は笑みをこぼす。

それを見たユウミさんが
『ほら、この子も笑ってくれたし』と言って
私の頭を撫でてくれた。

優しい手…。
お母さん…みたい…。

そこで緊張の糸が切れたのか
私は眠るように気を失った……。

朝を迎え
私が目を覚ますと
ユウミさんはいなくなっていた。
マコトさんが言うには
別の仕事に向かったみたいという。

何しに来たのだろう…。

私がそう思っていると
マコトさんは『さて…』と言って
私に近づきて
立たせようと手を私の腰に回し。
私の上半身を持ち上げた。
すると――

立てた…。

『あ、あれ…?。昨日は全く立てなかったのに』
『気持ちがリミッターを掛けていたのよ』
『気持ちが…』

私の『もう逃げられない』という気持ちが
私自身に制約をかけていたと
マコトさんは言う。

『見支度は終えた?。じゃあ、行きましょうか』

マコトさんの呼び掛けに
私は『はい』と答えた…。

宿を出ると
昨日にはなかった大型のバイクが
宿前に置かれていた。
マコトさんが言うには仲間が置いてくれたという。

これが
ここにユウミさんが来た理由だったようだ。

マコトさんがバイクに股がり
私はマコトさんの後ろに乗り
腕を腰に回す。

『しっかり捕まっていてね』

エンジンがかけられ
骨に染みるような振動が
私の身体に伝わる。

アクセルを回し
バイクは動き始めた。

荒野を走るバイク。
向かう先は知らない
でも
マコトさんに着いて行くしかない。
今の私にはそれしか生きる道ないのだから…。

しばらく荒野を走ると
バス停のような場所を見つけた。

『少し休む?』とマコトが尋ねてくれたので
私はそれに甘えることにした。

日除け程度の役割しかなさそうな屋根の下に置かれた椅子に座る。

沈黙する十数分間。

私は勇気を出して
ずっと思っていたことを聞いた。

『マコトさん』
『ん?。何かしら』
『私はこの後どうなるのでしょうか…?』
『依頼主に渡すわ』

依頼主に渡される。
恐らく
それは私の死を意味しているのだろう。
だから一か八かで言った。

『マコトさんは依頼主に雇われているんですよね?』
『そうよ』
『いくらなんですか?』
『それは仕事上、言えないわ。でも、それがどうしたの?』
『もし、その金額を上回る依頼料を払ったら助けてくれますか?』

マコトさんは黙った。
でも
けして驚いた訳じゃない。

『マユちゃん。アナタ、私を買うって言うの?』
『はい…』
『じゃあ、聞くけど。どうやって払うの?。言っとくけど。私は高いし、ビタ1文も安くするつもりはないわよ』
『私の血で儲けたお金が、私の家族に渡されているはずですよね?。それを全額アナタに渡します』
『……確かにね。でも、そんなこと出来る根拠は何?』
『根拠は…ないです…。でも必ず、お渡します!』
『根拠がないのに渡すって…』

マコトさんは呆れる。
それはそうだろう。
大人相手に根拠もなく
交渉しているのだから…

私はマコトなさんから視線をはずす。

すると
マコトさんは軽く溜め息を吐いて
こう言った。

『まぁ、色々と理由を付ければ、依頼人に渡す時間は作れるでしょう』
『それじゃあ…!』
『でも、あくまで一時的にです。この世界で生きるには「約束」は大切なの』
『そう、ですか…』
私は交渉が上手くいかず落ち込んだ。
しかし
見方を変えれば
依頼主に渡されるまでの時間が延びたのだから
今はポジティブに考えていよう…。

その後
マコトさんは依頼主の組織に
「時間が掛かる」ことを伝え
了承を得たようだ。

マコトさんは電話を切ると
『さて、どこに行こうか?』と私に聞いてきた。

マコトさんは
どこか嬉しそうに聞いてくる。

私は『楽しいところ…』と
曖昧な返事をした。
それを聞いたマコトさんは
少し考え『なら、あそこね』と口にして
また走り始めた…。

数十分後。
着いた場所は豪華絢爛な建物か並ぶ街。

マコトが言うには
ここは「ラスベガス」というらしい。

ラスベガス…。

聞いたことのある。
確か…。
お金を賭けて遊ぶ
「カジノ」という娯楽があるはずだけど…。
今の私には手元にお金はない。

すると
マコトさんが――

『はい、これ』
『これは…?』
『チップ。特別に私があげるわよ』
『あ、ありがとう、ございます…』
『で、何して遊ぶの?』

私はマコトさんから一通りのゲームを教えてもらい
聞いたことのあったブラックジャックの台を指差す。

『…遊び方、知ってるの?』
『はい…。お母さん…だった人の練習相手をやっていたので…』
『そうなんだ。じゃあ、どのぐらいの腕前か見ていてあげる』

私はマコトさんに見守られながら
席に座り
他の人と一緒になってゲームを始めた。

バニーガールの女性がカードを配り
互いに牽制しながら21に近づけていく。

私は三枚のカードを貰い
ストップをかけた。

そして全員がストップを行い
カードを表にする。

ブラックジャックは私だけだった。

そして
ビギナーズラックなのか
その後も勝ち続け
周りがざわめき始める。
当然だ。
子供が勝ち続けて
チップが山のようになってきたのだから。
それらを見て
私は優越感に浸る。

よし…。
もっと稼いでマコトさんへのお金を…。

そう思いながらマコトさんを見る。
しかし
マコトさんは
周辺を見渡して警戒している様子。

どうしたのだろう?

すると
マコトさんが私の耳元で囁く。

『そろそろカジノを出ようか』
『えっ…?。でも…』
『いいから』

私は
少し怖い顔をしているマコトさんを見て
言いたい言葉を飲み込み
持てるだけのチップを持ち
チップを換金する。

皆が見ている。
視線が痛い…。

そして
換金したお金を持ち
私達がカジノの出口を通ろうとした。
その時
SPらしき人がマコトさんに話しかけてきた。

『お客様。お待ちください――』
『待てないわ。こっちとら子供のお守りをしなくちゃいけないの』

…………。

嫌な緊張感が漂う。
次の瞬間
SPらしき人が攻撃してきた。
それをマコトさんは予期していたかのように身体を動かし
カウンターを仕掛ける。
そのカウンターは男の顎にヒット。
その男は崩れるように倒れた。

バタリと音が響き
人々の驚きと困惑で
止まったような静けさがカジノを支配する。

そして――

『逃げるよ!!』

そのマコトさんの一言で
我に返った私は
カジノの外へ向けて走った。

他のSPも逃がすまいと
当然のように追ってくる。

どうにかカジノを出た私達は
バイクに乗り走り出した。

助かった…。

そう私は思ったのだけど。
奴等は車に乗り
私達を追いかけてきた上に
拳銃で撃ってきた。
さながら西部劇のよう。

マコトさんは銃弾を避けようと
バイクを右に左へと傾けて走る。
しかし
避けながら走行しているからか
車との差は縮まっていく。

『私にしがみついて!』

私は言われた通り
マコトさんの身体にしがみつく。
すると
バイクの速度が上がり
風圧がさらに増す。
まるで
安全バーのないジェットコースターのようだ。

お、落ちちゃう…!

私はさらにしがみつき
死なないことを願った…。


それから数十分後…。

私達はどうにか
奴等から逃げ切ることができた。

マコトさんは周りを確認し
バイクを停めて一息をつく。

私はマコトさんの表情を見ると
マコトさんは少し怖い顔をしていた。

『マコトさん。大丈夫ですか…?』
『大丈夫ではないかな。多分、依頼主を敵に回したのだと思う』

その言葉の意味は
何も知らない私でも良く分かる。

私の手は震えていた。
その震えがバイクの振動であると思いたかった…。


バイクは再び走り出し
次の街へ向かう。

ただ
マコトさんはずっと黙ったままで
とても今の状況を聞ける雰囲気ではないた。

それから私達は
しばらく荒野を走り
満天の星空が見える頃
また小さな町の宿に泊まった。

翌朝
私が目を覚ますと
マコトさんな姿はなかった。

『マコト…さん?』
私は周りを見渡す。
小さなテーブルの上に
手書きの地図と
それなりのお金が置いてあった。

私は悟った。

見捨てられたのだと…………。


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