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2021年10月16日00:37

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- 親同士の再婚による義理の兄妹の関係 -

森省二 『逸脱するエロス』 講談社現代新書、197頁。

−親同士の再婚による義理の兄妹の関係−

「K子は19歳の既婚女性。睡眠薬を多量に服用して自殺を企て、病院に担ぎ込まれてきた。彼女は妊娠7か月で、意識を取り戻すと、「子供を生みたくない!」と叫んで錯乱状態になり、精神科へ紹介されてきたのである。 K子は、小学校3年生(9歳)のとき、母親の再婚に伴い、連れ子として養家に入った。養家には、先先妻の男の子(中学2年生)と先妻の男の子(小学校6年生)がいたので、彼女には、いきなり二人の義兄ができた。養父は飲食店を営んでいて、母親もそれを手伝っていた。階下が店舗、二階が住居となっていたが、夜が遅くなる商売だったので、3人の子供には二階で、それぞれ自分自分のことをして過ごしてきた。

 K子が中学2年生になったとき、長兄は19才、高校を中退して、不良グループに加わり、家にはあまり寄りつかなかった。次兄は高校2年生だったが、長兄とは違って真面目で学業成績も良く、彼女にもやさしかった。彼女はひそかに次兄に思いを寄せていた。ある日、K子は街でたむろしている長兄に出会った。そのとき、彼女は彼の車に乗せられ、無理矢理ホテルに連れ込まれてしまったのである。彼女は悲しい思いをしたが、母親にそのことをいえば母親が困ると思い、結局、誰にも打ち明けずに、自分一人の心の中にしまい込んでいた。それから、彼女は長兄を避けるようにして暮らしていたが、ときどき家に戻ってきては、強引にセックスを迫ることを繰り返していたのである。

 高校1年のある日、K子は二階の部屋で長兄に押え込まれているところを、養父に見つかった。驚いた養父と母親は2人が3年前からすでに肉体関係があることを知ると、すぐに結婚することを勧めた。そうすれば、長兄が少しは真面目になって仕事をしてくれるだろうという一石二鳥の思いが、両親にはあったのである。K子はいやだったが、拒否すれば、母子共々この家にいられなくなると思い、高校を卒業してからという条件を出して、その提案を受け入れたのである。

 その後、長兄は平気でセックスを求めてきたが、彼女はただ体を横たえているだけだった。いつも思うのは次兄のことばかりだった。その頃、次兄は大学生でますますすばらしく見えた。K子は次兄に、思い切って自分の恋心を打ち明けた。実は彼も、以前からK子のことを好きだった。そのとき、2人は一度だけ関係をもったのである。高校卒業と同時に、長兄とK子は結婚した。結婚しても彼の生活態度は少しも改まらず、遊び回っていた。彼女は彼のもとから何度逃げ出そうとしたかもしれない。しかし、そのつど暴力で押えつけられた。そのとき、彼女はすでに妊娠していて、自分ではどうすることもできずに、自殺を企てたのである。

 ・・・本事例のK子と長兄は、戸籍上は兄妹として記載される。しかし血縁関係はなく、その結婚はなんら違法ではない。両親は知らぬ間に二人の恋が実ったと考え、結婚を勧めたのである。しかし、その背後には、母親の連れ子として養家に住んでいるという負い目があった。そのためにK子は、長兄に強姦同然に肉体関係を結ばれたことだけでなく、本当は次兄が好きだったことさえ、誰にも打ち明けられなかったのである。

 両親は、子供たちが成長する過程で起こり得る問題を考え、もう少し目を配るべきであろう。K子と兄たちとは血のつながりのない異性である。思春期を迎えたK子に対して、兄たちが性的な関心を抱き、それを行動に移したとしても不思議ではない。しかし両親は、昼夜の仕事と自分達の接穂的な関係を何とか維持するだけで精一杯であって、そういったことには無頓着だったのである。少なくとも母親はK子の心を察して、保護するべきだった。逆にK子の方が、母親思いである。彼女は事情ある環境の中で、自分の思いを抑制して生きてきた。そのいじらしさが事態をいっそう深刻な方向へと向かわせて、自殺を企てさせるまでになったのである。

 もちろん、K子を悲劇の坩堝へと引きずり込んだのは長兄である。彼が悪い。しかし、その長兄にも、父親の奔放なエロスの犠牲者という一面のあることを忘れてはならないであろう。彼は離婚した先先妻の子供であり、実母の顔さえ十分知らずに育った。そして、彼が中学2年生、第二反抗期の真っ只中のときに、父親が再再婚するのである。実母の愛情に恵まれなかったことや父親の横暴な態度、さらには異母弟や血縁関係のない妹と生活する家庭の居心地の悪さなどが、彼が不良グループに加わる一因であったことは確かであろう。

 彼が強引にK子と関係を結び、その後もいやがる彼女を相手に繰り返し、セックスを求めたのは、青春期の抗しがたい暴力的な性衝動によることと、ひとりよがりの思いにすぎなかったが、K子に愛情を寄せていたからである。しかし、それだけではないだろう。無意識的には、後から家庭に入り込んできた異分子K子に対して、少なからず敵意があり、その敵意を強姦するという形で向けたと考えられる面がある。それは、K子が自分を好いていないことを承知の上でも結婚したこと、さらには逃げ出そうとする彼女を暴力で押えつけてまでセックスを強要したこと、これらの点に、愛と憎しみが混在する、すさまじいエロスの両面性が認められるのである。

 心の治療は、何はさておき、K子の傷つき、未来に絶望した心の修復に援助することであった。しかし、この問題はたいへんむずかしく、誕生間近な胎児のこともあり、K子と長男が離婚すればすむというものではなかったのである。したがって私は、両親に対して、これまでの自分達の態度を反省して、環境を改善することを求めた。実際、両親が理解保護しない限り、K子は病院から戻る家もなかったのである。そして次に、父親の身勝手なエロスの犠牲者として生まれ育った長兄の心の治療にも、着手しなければならなかった。さもなければ、彼もまた父親と同様に離婚や再婚を繰り返す危険性もあり、幾世代にもわたってエロスの逸脱者や、その犠牲者たちを作ることになってしまうのである。」
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