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2021年01月09日06:47

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セルバンテス(著)牛島信明(訳)『ドン・キホーテ/前篇二』より



セルバンテス(1547〜1616)の「ドン・キホーテ」の一節をお贈りします。


或る所に、旅籠(はたご)の亭主が居ます。この人は、騎士道物語が、本当の話だと思って居ます。


そこで、或る司祭が、この旅籠(はたご)の亭主に、騎士道物語は、本当に有った事ではないのだと言って聞かせるのですが、旅籠(はたご)の亭主は、騎士道物語を実際に有った物語だと固く信じて居て、司祭の言葉に耳を貸しません。


そのやり取りをお読みください。



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 「いいですか、御亭主」と、ふたたび司祭が言った。「フェリスマルテ・デ・イルカニアもドン・シロンヒリオ・デ・トラシアも、はたまた、騎士道物語に描かれているその他の騎士たちもこの世には存在しなかったんですよ。なにしろ、あれらはどれもこれも閑(ひま)な才知がでっちあげた作り話であって、無聊(ぶりょう)を慰めるのを目的として、そう、例えばあなたが言うように、収穫期ともなるとこの宿にやってくる刈り取り人夫たちが閑な折に、それを読んだり聞いたりして楽しむようにというので書かれたんですからね。本当に、わたしは誓ってもいいが、あのような騎士などこの世にはいなかったのだし、彼らの手柄や途方もない冒険なども、何ひとつ現実に起こったことではないんですよ。」
 「相手を見てものを言ってくださいよ。司祭様。」と、旅籠(はたご)の亭主が答えた。「まるでわしが、手の指が何本あるかも知らなきゃ、靴ずれしているところがどこかも分からない男のようじゃありませんか。司祭様、わしは決して間抜けじゃないんですから、子供だましみたいなことをおっしゃても無駄ですよ。こういう素晴らしい本が、ありもしないような嘘八百を並べ立てているんだとわしに思いこませようなんてのは、とてもできない相談ですよ。なにしろ、王室会議のお偉方の許可を得て出版されているんですぜ。それじゃ何ですか、あの方々が嘘のかたまりを、そして人を惑わすような合戦やら魔術やらの印刷を平気で見過しているとでもおっしゃるんですか?」


(セルバンテス(著)牛島信明(訳)『ドン・キホーテ/前篇二』(岩波文庫・2013年・第15刷)300〜302ページより)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%86%E3%80%88%E5%89%8D%E7%AF%872%E3%80%89-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%B9/dp/4003272129/ref=sr_1_8?ie=UTF8&qid=1425612665&sr=8-8&keywords=%E3%83%89%E3%83%B3%E3%80%80%E3%82%AD%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%86


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