『天寿国の末裔』７２４「陸奥国蝦夷反乱−長屋王」
○『是年 四月一日 七道諸国をして、兵器等を造らしむ。』
＜夏四月一日 七道諸国に対し、数量を決めて、軍器・幕・釜などを造らせた。＞
＜続日本記 宇治谷孟 上ｐ．２６１＞
この日に軍備増強を命じられた。武器や防具や物資などの増産を命じられた。
武力鎮圧を目論まれるようである。このことは長屋王の大夫人呼称問題などの些細な問題を無視して、強権発動できる。そして一度でも強権発動すれば、指令・指揮系統が明確になり、正規軍・遊撃軍の掌握も出来る。それは「目前の敵」にも「眼下の敵」にも使用できる。統帥権の獲得である。
＜四月三日 陸奥国大掾・従六位上の佐伯宿禰児屋麻呂に従五位下を追贈し、絁十疋・麻布二十端・田四町を贈って弔った。職務に殉じた為である。＞
＜続日本記 宇治谷孟 上ｐ．２６１＞
○『是年 四月七日 藤原宇合を持節大将軍、高橋安磨呂を副将軍とし、蝦夷を鎮厭せんとす。』
＜四月七日 式部卿・正四位上の藤原朝臣宇合を持節大将軍に任じ、宮内大輔・従五位上の高橋朝臣安磨呂を副将軍に任じた。この他判官八人・主典八人を任じた。海道の蝦夷を征討するためである。
＜続日本記 宇治谷孟 上ｐ．２６１＞
蝦夷を鎮厭するとは？果たして鎮厭するのは…。
○『是年 四月十四日 坂東九カ国の軍兵三萬人に騎射等を訓練せしめ綵帛・絁・綿・布を陸奥の鎮所に送る。』
＜四月十四日 坂東の九カ国の兵士三万人に、乗馬・射術を教習させ、布陣の仕方を訓練させた。また綵帛（あやぎぬ）二百疋・絁千疋・真綿六千屯・麻布一万端を陸奥の鎮所に運んだ。＞
＜続日本記 宇治谷孟 上ｐ．２６１＞
騎射等を訓練せしめるのは武力鎮圧が方法の一つであり、訓練はある種の軍事技術の向上をも意味している。
これほどの人数の動員はただ事ならぬことであり、それは蝦夷が佐伯宿禰児屋麻呂を惨殺しただけではなかったからだろう。
これは軍卒達の妻子を呼び寄せる中でおきた事件であり、妻子が蝦夷に拉致されたがため、拒んだものを殺したため、妻子の救出が急務であるための動員だろう。
朝廷の権威はこれを放置しては面目丸つぶれである。
しかし蝦夷たちが軍卒達の妻子を「皆殺し」にすることがあるだろうか。
それは損である。混乱の最中に戦闘があり死亡した者もいただろう。
しかし「女・子供」まで皆殺しにするとは考えられない。
何故なら「人質」と「何らかの条件」と交換することが得策であるから。
しかし、綵帛・絁・綿・布を陸奥の鎮所に送るのは何故だろうか。制服が必要なのだろうか。「綵帛（あやぎぬ）二百疋・絁千疋・真綿六千屯・麻布一万端」は繊維製品であろう。
この頃「繊維製品」は「換金」製品であり、これらは貨幣として、もっぱら「化外」僻地にて使用するのに都合が良い。これは妻子を取り戻すための坂東軍兵への褒美と、蝦夷たちとの取引の「身代金」としての意味をもつのではないだろうか。
或いは？戦術転換があるのだろうか。
≪「四月十八日 造営卿・従四位下の県犬養宿禰筑紫が卒した。」≫
＜続日本記 宇治谷孟 上ｐ．２６１＞
交代要員が必要となる。
○『是年 五月五日 天皇、朱雀門に御し、獵騎を観給ふ。』(端午の節句)
＜五月五日 天皇は、重閣(重層の建物)の中門(朝堂院の南門か)に出御し、獵騎(馬に乗って弓を射る)をご覧になった。上は一品より無位の者に至るまで、富豪の家および左右京・五畿内・近江などの国司・郡司やその子弟・兵士、また庶民の中で勇敢健康で、猟騎のための装束のできる者は、すべてこの行事に奉仕させた。兵士以上の全員にそれぞれの地位に応じて禄を賜った。＞
＜続日本記 宇治谷孟 上ｐ．２６１〜ｐ．２６２＞
これは兵士の「軍事パレード・演習」を意味するのか。この場合は騎兵隊の閲兵であり軍事演習であろう。
朱雀門は平城宮の内裏の正門である。この前を南北に走るのは朱雀大路であり、羅城門は平城京の正門として南に位置する。公式に京内に入るには、必ず羅城門を通らなければならない。
その距離は約３．８ｋｍであり道幅は約７０ｍもある。左右両側に大きな堀が１０ｍづつもあるので左右に建つ建物の塀と塀との間は９０ｍとなる。
この大路で軍事パレードと演習が行われた。デモンストレーションを都の大路でして見せた。
「蝦夷の武力鎮圧」はここに来て明確である。しかし武力鎮圧は人質の命を落とす可能性がある。お互いの消耗戦でもある。
これを機会に蝦夷たちと「和睦」するほうがお互いの為になる。
しかし、日本にての統一王朝を目論む朝廷化権力であれば諸豪族をつけ上がらせてもならない判断もあるだろう。まだネーション・ナショナリズムの発想もそこにはない。海外の強大な唐中国や不安定な朝鮮情勢も、津軽海峡以北の「蝦夷ヵ嶋」の話も聞き及ぶだろう。「朝廷の面子」とは日本の隅々まで律令を貫徹させ統治することである。そう考えたのだろうか。
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