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2019年06月28日20:37

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うちには、天使がいます。 19.「折れない心」

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<前回までのお話>
2018年(執筆している時点で去年)4月初め、
やまねこのパートナー・ゆかさんは卵巣に腫瘍が見つかり、悪性の疑いを指摘され、
4月24日火曜日には自宅で脳梗塞を起こして救急車で病院に搬送されました。
腫瘍の引き起こす脳梗塞、いわゆるトルソー症候群でした。
翌日から入院、卵巣腫瘍の手術まで抗凝固剤の治療を受けていたのですが、
29日、2度めの脳梗塞。激しい発作を起こしてしまいます。
ゆかさんは個室に移動し、その夜からやまねこも泊まりこむことになりました。
そして5月2日、ゆかさんは無事手術を終え、翌3日には病室に戻ってきました。
(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)



5月3日の夕方、
やまねこはいつのもように、いったんゆかさんとお別れして、うちに帰りました。

「ねこさん、あしたのLIVEの準備たいへんでしょう?
今夜はうち泊まってもいいのよ」
ゆかさんは言ってくれましたが、
「大丈夫!ゆかさんICU出られなかったらそうするつもりだったけど、
いちおうどっちになってもいいように心の準備してたから。
今夜も戻ってくるね」

とはいえ、あわただしいのは間違いありません。
母を実家に送っていき、
帰ってメイさん(ねこ)にごはんと薬。
そろそろ抜け毛の季節でもあるので、少しブラッシングして、
じぶんもお風呂に入って、G.W.に入ってから伸び放題だったひげも剃って。
ピアノと歌の練習して、荷物も準備して。
あしたは11時からリハーサルだから、逆算すると―
あ、このまま荷物持って病院行って、あしたは病院から直接行っちゃえば楽かも
―だめだめ、朝もメイさんにお薬あげないと。いっぺん帰ってこないと。


こんなかんじにばたばたしていて、
病院に戻ったのはかなり遅くなってしまいました。

「ねこさんおかえりなさい
あしたの準備できた?」
ゆかさんはあいかわらず落ち着いているようで、ほっとします。
「ごめんねあたしのせいで、
時間なくて、たいへんだたでしょう」
「そんなことないよ。大丈夫」
ゆかさんはきのう大きな手術を終えたばかりなのだし、
少しの間でも、いられるときはそばにいたいと思うのです。
あっという間に21時の消灯になってしまいました。
「おやすみ、ゆかさん」
「おやすみ、ねこさん」


寝つきのいいやまねこは、仮設ベッドですぐに寝入ってしまったのですが、
夜中になにかが聞こえて、目を覚ましました。
ゆかさんが小さな声で、
「痛い 痛い」と言っているのでした。
「大丈夫?」
「大丈夫」
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫」
と言いながら、
「痛い 痛い」という声はだんだん大きくなり、
「痛ぁぁぁぁぁーい!!!!」という悲鳴に変わってしまいました。
時計を見ると、午前1時近くになっていました。

「やばいよ、看護師さん呼ぼう」
スタッフコールで、夜勤担当の看護師さんが来てくれました。
4月29日の夜、やまねこに「泊まっていただけますか?」と訊いてくれた、
柳沼さんという看護師さんでした。

「痛み止めが効いてないんでしょうか」
「ちょっと待ってくださいね―9時に痛み止め入れてますが、
6時間たたないと次入れられないので、次はまだですね。
別の痛み止めが入れられるかどうか、訊いてきますね」

しばらくしてOKが出たとのことで、新しい点滴がつながれました。
「この薬は3時間おきに入れられるので、
また痛みが激しいようなら言ってください」

もちろんすぐには効きません。
「そうだよね、単純に怪我だと思えば、『内臓に達する切り傷』なんだものね。
痛くないわけないよね」
妙に納得してしまいます。
心のどこかに「なにか合併症でなければいいけど」という怖れもなくはありませんでしたが、
徐々に「痛い」という声は小さく、間隔も長くなっていきました。
2時半ころ、寝息に変わりました。
よかった。
やまねこももういちど、深い眠りに落ちました。


容赦なく、6時前後には朝が来ます。
5月4日。
看護師さんたちが来て、血圧や体温を測ったり採血したり点滴を取り換えたり。
ゆかさんは目を覚まして、にっこり笑いました。
「よかった、痛み止め効いてる」
柳沼さんがこちらを向いて、「おとうさん今日コンサートなんですね」と言いました。
「え?」
「きのうゆかさんから聞きましたよ」
た、たしかに、「コンサート」って言ったことないけど、コンサートだよね(^^;
「おとうさん」って言われるのは、まだ慣れないけど。
(ちなみにやまねこを「おとうさん」と呼ぶのは柳沼さんだけです)
「がんばって歌ってきてくださいね」
「は、はい、ありがとうございますがんばります(^^ゞ」

脳神経内科の橋口先生も来てくださいました。
朝の診察、再開です。まず自分の名前を言うところから。
「た…た…た…」
まだうまく言えません。
ほかの言葉以上に、出てきづらいようです。
たぶんこれからたくさんリハビリが必要なのでしょう。


あっという間に8時になりました。そろそろ行かなくちゃ。
「ゆかさん、行ってくるね。夕方には戻ってくるね」
「うん、録画頼んでね。あとで見たいな」
「うん。退院したらいっしょに見ましょう」


看護師さんたちに「今日いちにちよろしくお願いします」と伝えて、
病院を出ると、あとはジェットコースターのようです。
車でうちに戻ってメイさんにごはんと薬をあげて、
身なりを整えて、荷物を確認して、
その他雑用をだだだだっとこなして、電車で四谷天窓.comfortに向かいます。

四谷天窓.comfortは高田馬場のビルの5階、
めずらしく大きな窓と、そしてグランドピアノのある、
やまねこの大好きなライブハウスです。
到着して、リハーサルして、
ひと息ついて、お客さんが入って、
あっという間に、13時にはLIVEが始まります。
この日の出演は4組。やまねこの出演は3組めでした。


<うたった歌>

  Dear Love
  見えるかい/わかるかい
  しずめのさくら
  病めるときも 健やかなるときも
  折れない心
  旅猫


今のきもちに沿って選んだ6曲、
「見えるかい/わかるかい」も、
「病めるときも 健やかなるときも」もだけど、
どうしてもうたいたかった「折れない心」

4月29日、ゆかさんが2度目の脳梗塞を起こして、どんどん体調が悪化していく中、
必死で脳内リピートしてくれた歌です。


  「折れない心」


  折れない心を私に下さい
  どんな悪意も貫けぬ鎧を下さい

   裏切りを責める気持ちが 雨雲のように湧きあがるとき
   見慣れた街の片隅を漂いながら 笑ってみるよ

  折れない心を私に下さい
  どんな憂いも突き通す刃を下さい


   打ち棄てられ忘れられて 道の彼方に踏み迷っても
   たぶん誰も知らぬ街の風に向かって 歌っているよ

  折れない心を私に下さい
  どんな悪意も貫けぬ鎧を下さい
  どんな憂いも突き通す刃を下さい
  砕け散っても揺るがない心を下さい


聴いてくださったみなさん、
もう1年以上たってしまいましたが、あらためて、ありがとうございました。


LIVEがはねて、少しお客さんやスタッフのかたたちとお話して、
またジェットコースターのようにうちへ帰って、
メイさんにごはんと薬&お風呂&
あー、お昼食べるの忘れてたな、まいっか、


すっかり夜になりました。
「ただいまゆかさん」
「おかえりねこさん、たのしくうたえた?」
「うん」
ゆかさんは今朝の血液検査の結果、
貧血ぎみではあるけれど、出血は大丈夫だろうということで、
抗凝固剤の点滴が再開されていました。
あとは生理的食塩水と痛み止め、
てんかんの発作はだいぶ少なくなっていますが、抗てんかん薬の点滴もまだ続いています。
せきもだいぶおさまったみたいでした。

順調に回復しているのかな。してるといいな。
連休は6日まで。ということは病室に泊まれるのも今日と、あした。
きっと、いっしょにいられてよかったのでしょう。
「おやすみゆかさん」
「おやすみねこさん」
この日はおだやかに、眠りにつきました。

(続きます)





<うたうやまねこ今後のLIVE予定>

  6/29(Sat.)四谷天窓.comfort → http://otonami.com/com_top
  Open12:30/Start13:00/Charge \2,000+1D

  あしたになりました。
  今日のお話に登場した四谷天窓.confort、久しぶりの出演です。
  季節の花の歌もうたう予定なので、ぜひ聴きに来てくださいね。
  お会いできますように。
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