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2019年06月08日18:55

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うちには、天使がいます。 15.手術に向かって

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<前回までのお話>
2018年(執筆している時点で去年)4月初め、
やまねこのパートナー・ゆかさんは卵巣に腫瘍が見つかり、悪性の疑いを指摘され、
4月24日火曜日には自宅で脳梗塞を起こし、救急車で病院に搬送されました。
腫瘍の引き起こす脳梗塞、いわゆるトルソー症候群でした。
翌日から入院、卵巣腫瘍の手術まで抗凝固剤の治療を受けることになりましたが、
29日、2度めの脳梗塞。激しい発作を起こしてしまいます。
ゆかさんは個室に移動し、その夜からやまねこも泊まりこむことになり、
腫瘍の手術予定は大幅に早まって、5月2日に決まりました。
(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)



5月1日、メイさん(ねこ)の17歳のお誕生日をお祝いして、お昼ころ病院に戻りました。
ゆかさんは変わらない笑顔で「ねこさん おかえり」と迎えてくれました。
「メイさん よろこんでくれた?」
「うん、ごちそうたくさん食べてくれたよ。
ゆかさんがプレゼントしてくれたかりかりも。」
ゆかさんもうれしそうに笑ってくれました。

「きょう平日だから、派遣会社の人に電話しておく?傷病手当のこととか」
「うん ごめんねねこさんおねがい」
傷病手当の話は、入院前からしていたのですが、
やまねこが代わりに進めなくてはならなくなりました。
よくわからないなりに電話して、2度めの脳梗塞を報告し、
書類を郵送してくれるようにお願いしました。

婦人科の主治医の葛西先生が来てくれて、
「だんなさんちょっといいですか?」と言いました。
そのまま別室(カンファレンスルーム)に案内され、
明日5月2日に迫った手術について説明してくれました。
「手術説明同意書」の上に文章と、ときにはイラストも交えて書き込みながら。

「明日の手術ですが、13時からを予定しています。
診断名は卵巣腫瘍と、脳梗塞(腫瘍によると考えられる)
なので原病と考えられる腫瘍の摘出を行います。

まず、当然のことですが手術には出血を伴いますので、
今脳梗塞予防のために継続的に投与されている、血液さらさらの薬(ヘパリン)の点滴を、
朝からいったん止めます(そうしないと血が止まらなくなっちゃいますから)
それから手術を行います。
具体的には、両側の卵巣と付属器(卵管など)そして子宮を全摘出します。
場合によっては組織を採取して短時間のうちに悪性か良性か、
またどんな顔つきの癌なのか(今後この表現をよく聞くことになります)判断して、
片方の卵巣の切除にとどめたりするケースもあるのですが、
奥さんの場合は、時間がかかればかかるほど脳梗塞再発のリスクが高まりますので、
それは行いません。
それから、おなかの中に垂れ下がっている網のような大網という組織があるのですが、
転移を防ぐためにこれも取ってしまいます。取ってもあまり影響ないので。
あと、リンパ節郭清(リンパ節の切除)を行うこともあるのですが、
今回これは行いません(前述と同じ理由で)

あと、腸管に癒着が見られるようなであれば、
腸管の切除、吻合、場合によっては人工肛門(ストーマ)の造設を行います。
時間的には、癒着がなければ2時間くらい、
癒着がみられた場合は4時間から5時間に及ぶことも考えられます。

次に手術中のリスクとしては、出血多量。その場合は輸血することになります。
もちろんいつでもできるように準備しておきます。
そしてもうひとつ、
もちろん細心の注意を払って手術を行いますが、
手術中に脳梗塞を再発してしまう可能性、
それから人工呼吸からの離脱が遅れてしまう可能性、
離脱できない可能性、
最悪死亡してしまう可能性も0ではありません(術中死はないと思いますが)

では手術を行わない場合のリスクですが、
癌が悪化していく可能性、それから脳梗塞再発のリスクも、高まっていく一方になります。
以上から、手術するのが最善であると思います」


よどみなく、一気に。

ある意味時間との戦いであることはよくわかりました。
賭け、と言ってしまってもいいのかもしれません。
抗凝固剤を止めることが、どれだけ脳梗塞再発の危険性を高めるのかは、わかっていました。
絶え間なく点滴で抗凝固剤の投与を続けていたにも関わらず、
2回めの大きな発作が起きてしまったくらいなのですから。

でも、その原因になっている腫瘍を除去しなくては、脳梗塞再発の危険性は去らない→
腫瘍を除去するためには、手術しなくてはならない→
手術するためには、抗凝固剤を止めなくてはならない、
という無限のループに迷い込んでしまっていることは、理解できました。
その上で、それが最善の方法であるのでしょう。
先生ももちろんベストを尽くしてくださるのでしょう。

やまねこは同意書にサインしました。


病室に戻って、ゆかさんにだいたいのところを説明しました。
ゆかさんは「むずかしね あんまりよくわからないよ」と言いながら聞いていましたが、

「うん だいじょうぶよ。高校のころ心臓の手術してるし」と言いました。
「あのときのほうが準備とかたいへんだったよ。
一週間くらい前から入院して、手術のあいだに肺がぺったんこになるから、
手術のあとの最初の呼吸の練習したりするのね。
コップにストロー入れてぶくぶく、って吹いたりして。
それに比べたら、今回とくになんの準備もないから、楽ね」
なんだかずいぶんのんびりしたものです。
つい2日前、2回目の脳梗塞の発作のあとは、
手術までとても耐えられない、死にたい、って言っていたのに。
でも、これはぜったいいいことです。

「ただね、ひとつ心配なの。
心臓の手術のとき、輸血してるのね。
いちど輸血すると、もう二度とできないって聞いたような気がするんだけど、どうなのかな」
「えぇ?そうなの?」
ありそうもないことですが、言われてみればそんなこと聞いたことあるような気がしてきます。
「ほんとかな、でもあとで先生に確認してみるね」


午後が進むにつれて、
ゆかさんはきのうと同じように「おなかが痛い」と訴えはじめました。
今日も痛み止めの点滴をお願いしましたが、
ゆかさんはずっと「いたい」「いたい」とうめき続けていました。
やまねこの中でも、次第に不安が大きくなっていきました。

葛西先生がもういちど様子を見にきてくれました。
「先生、これだけの痛みがある、ということは、
やはり腫瘍がかなり進行していたり、癒着があったりする、ということなのでしょうか」
「いえ、基本的に相関関係はないです。
それほど進行していなくてもすごく痛い場合もありますし、逆のケースもあります」
少しほっとしました。
希望を持とう。持たなくては。
「あと、過去にいちど輸血してると、もう二度と輸血できないってほんとですか?」
葛西先生は目をまん丸くして「まさか」と言いました。
「何度も輸血する人、たくさんいますよ。
それがほんとだったら、手術できなくなっちゃいますよ」
「そうですよね。うん、そうだと思ってたんですが、安心しました」

(あとからわかったことですが、「一度でも輸血を受けると、献血できなくなる」
ということが、記憶のなかで少し変形してしまっていたようです(^^ゞ


夕方、もういちどうちに帰ってメイさんとごはんを食べて、
病室に戻りました。

卵巣がんは「開けてみるまでわからない」
それがあしたです。
脳梗塞が起きたことは、もちろんうれしいことではないけれど、
入院前の予定ではは5月29日まで待たなくてはならなかった手術が、
明日5月2には終わるのです。
どんな5月3日が来るのだろう。
3日前に思い描いていたものと、まったく違うものになるのは間違いないです。
それがどんなものなのか全くわかりませんが、
覚悟は決めなくてはなりません。
あとは祈ることしかできないのかもしれないけど、祈りましょう。祈れるかぎり。

明日の朝、あと数時間後には、抗凝固剤の点滴が止まります。
この数日、まるでジェットコースターのようでしたが、
あしたはさらに加速して、目の回るような一日になるのでしょう。
まだどこか実感が伴わないなりに、そう感じていました。

痛み止めが効いているらしく、
ゆかさんは再びおだやかな笑みを浮かべていました。
今夜も隣の仮設ベッドに横になって、手をにぎりました。
「おやすみゆかさん」
「おやすみねこさん」
「あしたがいい日でありますように」

(続きます)





<うたうやまねこ今後のLIVE予定>

  6/16(Sun.)駒沢大学ファンラン
  Open11:00/Start14:00(予定)/Charge お食事代のみ

  6/29(Sat.)四谷天窓.comfort → http://otonami.com/com_top
  Open12:30/Start13:00/Charge \2,000+1D

駒沢大学ファンランは、すてきなお惣菜やさん兼カフェ。
公式サイトはないのですが、食べログなんかでチェックしてみてください。
お会いできるとうれしいです。
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