mixiユーザー(id:57559642)

2019年05月31日19:27

70 view

小説 サングラス (姉妹)30

小説 サングラス (姉妹)30
「ほら、やっぱりわたしをからかってる〜」
 池谷美穂は軽くこぶしを握って、酒匂をぶつ真似をし、時計を見た、そろそろ開店準備をせねばならない。大急ぎでテーブルを拭き,外回りを点検して、入り口に「商い中」の札を掲げた。変なところにこだわるのがマスターで、ヒノキの1枚板に古風な書体で彫り込んだ看板だ。大きくて重いので、プラスチックに印刷したドアにぶら下げるタイプで良いのではないかと言っても聞かない。
 口開けの客はいつものように薬の営業マンの7人だった。彼らはほぼ毎日顔を出し、新聞を読んだりしてゆっくりしてからセールスへ出る。そうこうしているうちに、仕事の割り振りを済ませた川崎社長や三島さんなどが顔を出して、店はいつものように賑わって行く。
 客足が引いた昼過ぎ、園田写真の奥様がプリントの配達に来た。昨日撮影した尚美の写真だ。
「尚美の写真?見てもいい?」
 わたしはプリントの入った袋を受けとり、コーヒーを点てているマスターに声をかけた。店内に飾る花の写真の他に、尚美の写真が数枚あった。麦わら帽子が風に飛ばされないようにつばを押さえて、カメラ目線の尚美を右隅に小さく配し、青い空と白波を立てている海原を爽やかに撮っている。ウインドサーフィンのボードが彩りとアクセントになって、おしゃれだ。映画のポスターか絵葉書の1枚として部屋に飾りたい。他の写真も雑誌に載っていそうな雰囲気の写真だ。
「良く撮れていますね。尚美も喜ぶと思う」
 マスターが話していたイメージどうりの写真を撮っていることに、わたしは少しほっとした。尚美とカメラマンの間に距離があることを感じたのだ。主役は尚美で、海や菅沼さんのお店の装飾などが添景であるのだが、必要以上に尚美への思い入れが無い。美しい女性が浜辺にいる・・数人の若い男女と談笑している。この美しい女性は誰の彼女だろうか?そんな物語を想い浮かべる写真だ。
 マスターがわたしを撮った時、尚美には見せなかったが顔のアップが多かった。引いて撮った写真も、鼻筋のラインを活かした顔のアップも、どれにもカメラマンの憧れが感じられ、愛情が感じられた。マスターの心の内を覗いたようで、恥ずかしくもあり嬉しくも感じたのだ。
「どう?それなりには観れる?」
 点て終わったコーヒーをトレイに乗せ、ホールへ運ぼうとしているマスター。慌ててわたしはマスターと代わろうとしたが軽く手で制し、そのままホール席へ行くマスター。マスターの背を見送りながら、わたしはなぜだか顔が赤らむのを感じる(続く)

獅子座クウネルのつぶやき獅子座
 雨のような曇りのような微妙な天気です。で、今日は意欲無しの引きこもり。テレビを見ても面白くないのでねるのが一番(笑)5月も終わりですね。6月は頑張ろう・・

1 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する