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2019年03月28日14:04

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【創作】竜喰いのリド  episode2:竜殺しの英雄【その20-2】

【創作まとめ】 
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【前回】
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seen33の続き

 リューネ達が挫けそうになっていた間も、竜の猛攻は続いていた。
 一人、また一人と冒険者を標的に空気弾を撃ち出す。そこには桃色の髪をツインテールに分け、さらに内巻きにロールさせた小柄なハンマー使いが居た。
 仲間と力を合わせて戦ってきたが、その仲間も次々に倒れていき、今では一人きりになってしまった。
 レヴェネラは迫る空気弾が歪ませる視界を見上げ、死を悟ったかのように目を瞑る。
「なあぁに諦めてんのよぉぉぉぉッ!」
「えっ……ちょっ」
 レヴェネラと空気弾の間にリューネは滑り込み、大盾を構える。
 着弾と同時に盾が弾かれそうになる。
「ぐぁっ」
 折れた骨を軋らせ、痛みに顔を歪めながらも、リューネは後方へ飛んで衝撃を和らげ…………ようとしたら、レヴェネラと豪快にぶつかりもつれ合う。
「ちょっと、守るならしっかり守ってよ」
「レヴェネラこそ何諦めたように目を瞑ってんのよ」
 倒れ込む二人を目掛けて、竜は急降下しつつ鉤爪を閃かせる。
「恥ずかしいとこ見てんじゃないわよ」
「ならもっとシャキッとしなさい」
 二人は戦鎚と盾をそれぞれ掲げ、迫る竜の凶爪を弾くと、またも後方へと吹き飛ばされる。だけどその慣性を利用するように後転して立ち上がり、姿勢を整えた。
「竜を村の外に誘導するわよ」 
「どうやって?」
 リューネの決意が籠められた言葉に、素直な疑問をぶつけてくるレヴェネラの表情は真剣そのもの。リューネが見せた必死の行動の前に、気がつけば諦めかけていた心が復活していた。その瞳には今の状況を良しとせず、何とかして村を守りたいと願うレヴェネラの願いが宿っていた。
「………………………………気合いと根性?」
「ノープランかよ!」
 竜は体内に風を取り込むように空中で旋回して、再び二人に向けて喉を膨らませる。
「グルァ」
 二人は顔を見合わせ頷くと、リューネは大盾を斜め上に向け、膝を折って低く構える。そこに巨大戦鎚を振りかぶったレヴェネラが飛び乗り、同じように身を屈める。
「行くわよ?」
「ええ、決めるわ!」
 今にも空気弾を発射しようとする竜に向けて、二人は全身のバネを最大限に活かすべく同時に膝を伸ばしレヴェネラを射出する。
「ガルルァッ!」
 それと同時に竜も二人を粉砕するべく、その凶口から空気弾を吐き出した。
 空を舞う竜よりも角度をつけて射出されたレヴェネラは、途中で空気弾とすれ違い計算通りに頭上を取ることに成功した。
「くらいなさいっ、スカイラブ・インパクトッ!」
 空気弾を発射した体勢でわずかに硬直する竜に、即興で考えた技名を叫びながら戦鎚を頭部めがけて振り下ろす。大地を揺るがす威力を持つ一撃は、首が伸びきった頭上へと吸い込まれていく。
「ガルァ」
 短い咆哮を合図に竜の眼が鈍く光ると、身体を這うように風が流れ、目に見えない鎧を作り上げる。
「させるかああああッ!」
 風の鎧をに流されそうになる戦鎚を強く握り締め、そのまま全体重を乗せて一気に振り下ろす。
 一瞬、風と衝撃がせめぎ合うが、ついに戦鎚は風の鎧を貫きその下にある竜の頭部に炸裂した。
「グガッ」
 まずは空気弾を吐き出し開いたままになっていた口が、戦鎚の衝撃で打ち付けるように閉じられ、その勢いで舌が噛みきられ宙を舞う。
 さらに衝撃は竜の頭部を駆け巡り、そして頭蓋を粉砕すると眼球を飛び散らせ、そのまま頭部が四散した。
「やったよ、リューネ!」
 凶暴で、凶悪で、強靭だった竜を討ち倒した光景に歓喜し、レヴェネラは自身を撃ち出した総隊長に笑顔を向ける。
「……………………」
 しかしそこには仲間の活躍を喜ぶ笑顔ではなく、力無く倒れたリューネの姿があった。
 全身のバネを使ってレヴェネラを射出したために身体が伸びきり、彼女と入れ替わって迫る空気弾の直撃を受けてしまったのだ。
「そんな………………うぁッ!」
 空中を落下しながら眼下の惨状に放心状態となったレヴェネラだったが、次の瞬間には全身を粉々にせんばかりの衝撃に襲われた。
 ドワーフ族の小さな身体に竜の前足による一撃が炸裂したのだ。レヴェネラは弾丸のように一直線に地面へ叩きつけられ、地面に放射状の亀裂を刻み込んだ。
 意識も絶え絶えに見上げると、竜は翼と一体となった右前足を振り抜いた姿勢のまま、四散した頭部が黒い霧となって首元へと吸い込まれていく。
 そして信じられないことに、何事もなかったかのように竜の頭部が再生された。
「そん……な…………」
 頭部を破壊してもお構い無しに動き、さらには一瞬で元通りに再生する。その恐るべき生命力と圧倒的な破壊力。
 暴君に蹂躙され、僅かな希望さえも嘲笑うかのように打ち砕かれ、何故軍隊をもってしても倒せないと言われていたか理解する。
「レヴェ……ネラ…………」
「リュー……ネ…………」
 二人は互いを求めるように、地面に這いつくばりながらも手を伸ばす。歩けば一歩に満たない距離も、全身に傷を負い、何ヵ所も骨折して立ち上がれなくなった二人には、断崖を挟むかのように遠く感じられた。
「二人とも、まだ生きてますか?」
 そこへ駆け寄るカノン。今まで聖音術にて倒れた仲間の治療に回っていたが、二人の絶体絶命の状況に駆けつけたのだ。
「グルルァガァッ!」
 新たな標的に竜は猛々しく叫ぶ。
 カノンが操る聖音術は、全ての生命に宿るアニマに共鳴して様々な現象を引き起こす。本来なら生命さえあれば植物であっても効果を及ぼす力を持っているのだが、竜には音を阻害する何かが秘められているのか通用しなかった。
 彼女は一緒に戦う仲間を増やすべく、倒れた者を回復させようと奔走したが、短い時間の聖音を聴いただけでは、動けるほど回復した者は居なかった。それほどまでに竜の攻撃は激しく、倒れた仲間は多い。
 聖音術も通用せず、一緒に戦う仲間も居ない今のカノンは、竜と戦う有効な手段を持っていないことになる。
 それでも一緒に戦った仲間を見捨てることは出来ず、カノンは二人の肩を担いで逃げようとする。
「二人とも、しっかりしてください」
「無茶よ…………私達を置いて……いきなさい」
「このままじゃ…………あんたも……殺されるわ」
 一人でも多く助けたい。その想いは揺るがないが、現実的に二人を引き摺って竜の脅威から逃げ切ることなど不可能だった。
 頭では理解していても、心は二人を見捨てられないと叫んでいる。
「ここまで来て、一人だけ助かろうなんて思っていません。誰かを助けて死ねるなら、それはそれで本望です」
 竜は悠々と旋回して、逃げる三人を回り込む。
「グガァ」
 空気を吸い込み胸部が三倍に膨らむ。そして膨らみは喉を通過して、空気圧縮弾として口から三人目掛けて撃ち出される。
(誰かを助けて死ぬのなら、母さんの元に行けるかな?)
 幼き頃に死に別れた母へ語りかけ、自分の死を覚悟する。
 抱える二人が何か叫んでいるが、この状況を覆す手段は何も残されていない。
 やるべきことは全てやった。
 その結果の死なら、受け入れるしかない。
 カノンは抱えていた二人を左右に突き放し、両手を広げた姿勢で迫る空気弾に身を晒した。
「ここまでやって途中で諦めるなら、最初から何もしないのと同じだわ」
 全てに身を委ねて死を覚悟していたカノンの前に、人影がゆったりとした足取りで躍り出ると、腰の回転だけで剣を引き抜き下から上へ一閃させた。すると空気弾は真っ二つに斬り裂かれ、軌道を狂わせ遥か後方の地面を二ヶ所穿った。
「諦めた者など邪魔よ。ここから先は私がやるわ。だからとっとと逃げなさい」
 目の前に立つ銀髪の女は、冷ややかな視線と声でそう告げた。
 

その21へ続く↓
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