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2019年02月01日22:42

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Will I change the Fate? ~Requiem~ 重ねる事すら不可能な2人の儚き追憶



例え完成された喜劇であったとしても、そこに終わりはない。

終わりとはあくまで喜劇を書き記した筆者が筆を止めただけで、実際それはまだ続くのかもしれないし、現に読み手が納得いかずにまた続きを書くのならば終わりではない――そういった単純な理屈である。

だからこそ時間もまた有限でありながらも無限で、永遠とは夢想であっても夢想ではない。否定ならば簡単だが、喉に詰まる所はあるだろう。

そう、そう思うだけならば良かった。
きっとこの恋愛劇は永遠に続く、自分らの想いはいつまで経っても変わらない。
ただ思うだけならば、己の内側に留める程度ならば、それだけで済んだ。

彼女はいつまで経っても現実を理解せず、物語に終わりはないからこそと思う事で生きてきた。


“今回”も、そう。
忘れられぬ何巡もしたあの12月25日があったからこそ、結城キサキは壊れたのだ。




土方幹行にとっては何もかもが自分を創るものではなく、自身の傍に侍らす事で己という存在を保つ、所詮は誰しも傍に誰かがいなければ生きていけないのだと思っていた。

だからこそ土方幹行という男で定義してしまえば、共に闘う『新撰組』の幹部や隊員達、嘗ては戦友であった高杉だけでなく、女もそうであったと言える。
だが、土方幹行というドライかつ自身の事に関してはのらりくらりとした男に、色恋に対しての執着はそうない。

ただ好きだと言われたから――一見聞けば適当かつ優柔不断ともいえるだろう。しかしそうではない。

どんな関係であろうと人は侍らせるモノ。自分が尽くす事で救われるのならば、逆も然り。土方の場合は女に尽くしたり世話する事はないが、それでも自分がいればいつも唱えた主義になる。

要は都合の良い存在。故にそんなモノ――果たして女にそう情を持ち合わせる程、懐が広い訳じゃない。
彼女――結城キサキの場合もそうだった。
彼女の行動は常軌を逸していたが、それでも土方の傍におり、ただただ勝手に尽くしてきた。
何を求める訳でもなく、単純に愛しているからと伝えたいと言わんばかりに言葉を選び、彼に重い愛の言葉を腐るほど彼に伝えてきた、しかし土方はまたここで動く事をしやしなかったのだ。

所詮呆れば、誰かに情が移ればそこまで。そう言ってはまた彼は自身から逃げる。
情の絡む事に自身の意思を挟んでしまえば、きっと面倒だ、面倒をみて損など真っ平御免。そう言って彼は嘘を吐いていたのだ。

しかしあの時は“それ”が、自分自身がただ誰かと向き合う事から逃げている事に気付きなどしなかった。

嗚呼、冗談ではない。
こうなってからそんな事に気付かされるなど、如何に自分が勝手で、自分がどれだけ保身に走っていたかなど知りたくもない――だが、この時だけはそれさえ自嘲出来ず、ただ自分の犯した罪に向き合う事、それの覚悟を自身に問いかけていた。

「……なぁ」

俺に、何を、求めていた? たったその一言さえ彼女には届かない。
第9級の罪に堕ちた結城キサキという女には




土方と過ごす3回目のクリスマス。
とは言っても、自分らは間違っても恋仲などと言えないし、そもそも2人で過ごすと言ってもただ一言二言言葉を交わすだけ。

きっと今年もそう。だがいつかはきっとと夢見て3回――否、思うだけならばもう幾千と願ってきた。

今年こそ、そんな期待を抱いて明日を迎えようとしていたのに、何故今こんな事を知らなければならないのか?

例え彼に他に女がいようとも関係などない、寧ろそんな存在がいるならば情を掛ける事すらなく、そんな女達を女として使い物にならないようにする。結城キサキとはそういった女だ。

愛する人の為ならば手段を問わず、しかし自身が幸せになるのならばまたそれも手段を選ばない俗物である。ならそんな倫理や理屈すら通用しない俗物をここまで奈落の底に叩き落す事態とは何か?

それは、たった1つの勘違い。

(ああ……)

別段彼女はそれを知って、何も思う事はなかった。寧ろこれを聞かされて自身がすべき事はただ1つと指を動かす。
愛していたのに、愛していたはずだったのに――だが、所詮「はず」だった。
「ウソ、吐き」
この日、いつもならば『新撰組』の本拠地であるマンションにいたはずの彼女は、この日を境にこの日本から消息を消す。

泣きながら、神のなり損ないの小さな手をとって。
彼――土方幹行が自分の元恋人の人生を狂わせた張本人だったなど。




「おい」

彼は彼女へと声を掛けるも、返事などない。無論そうだろう。
何せもう彼女は人ではなく、何もかもを捨ててしまった畜生であり、感情だけがそこに残った――謂わばあの高杉影踏と同じ何か。

しかしそれでも尚彼女が今すべき事は、万物全てをあらかた壊す事。それだけしか出来ず、それをする事でしか生きられない憐れで純粋なる破壊の化身。

もうこれは彼女ではないのだと、そういつもの様に割り切ってしまえばいいのに何故彼は、土方は迷うのか?

「キサマがカレをコワシタカラ」

壊した――そう言われた瞬間、彼にはこの言葉の意味が分からなかった。だが今は違う。
微かにこれが結城キサキなのだと、これが見せた片鱗に確信を持てた以上、自身が犯した罪は勿論今でも覚えている。

ならば彼女が自分を責めてしまえばいい。それこそ正しい道で、彼女にはそうする権利がある。しかし彼が、土方幹行という男が結城キサキという女に犯してしまった罪はそれだけではない。故に弁駁ならば許される「はず」だった。

「――……」

いざと覚悟をしても声など出ない。
出て欲しいと、出て来いといくら強く命令をしても、身体は言う事すら聞かず、ただただ壊れていくだけの彼女を見ている事しか出来ないのが如何に歯痒いのか。否、何故歯痒いと思うのか?

結局思う所は積年の後悔と、あの時気付けなかった僅かな恋慕の情。

「情けねぇ」

強大な破壊の化身を前にして、一言だけ呟けば、それは響く事なく消える。

だが、もう分かっただろう。

自身は何から逃げていたのか?何故彼女があの時自分をああしたのか
そして自身から離れても尚、誰かの傍で永遠を望む理由や自身の想いさえ。

「ほんっとうに、情けねぇな。俺は」

普段ならば湧きあがる自嘲交じりの笑みさえも出てこない。否、今この場で出てこなくてよかったのかもしれない。

罪を贖うなら、本当にあるべき想いはすべき事があるのならば、もう道化になる事は許されない。

「……で?何だったか?テメェが遥か昔に言ってた、物語に終わりはないって最高に笑えない洒落は」

そう呟いて、彼は1歩1歩と破壊の化身へと歩み寄る。
今でさえ見動きさえ取れないはずなのに、これ以上近づけばこの身は今度こそ朽ちると知っている。それでも尚、止まれないのならば、全てを2人の間で終止符を打つのだと決めたなら、それで構わない。

1歩、足を進める。

「だがその矛盾を指摘するなら1つだけ」

もう1歩足を進めれば、脚に、腕に無数の斬撃を喰らう。

「要は納得すりゃいいんだろ?こいつとなら一生離れねぇ、こいつとなら明けない夜がくるだなんて馬鹿馬鹿しい非現実理論に」

最後に、手を伸ばした瞬間に片腕が飛んだ。しかしそれでも土方幹行は不敵に笑う。

「だったら解決させろ馬鹿野郎。俺が知ってる結城キサキって女はな、図太い癖して繊細すぎるが臆病じゃねぇ。俺が今この場にいるんなら、即座に飛び付くはずだ。例え今まで俺らに何があったとしても」

今、こうして2人がまた2度目の再会をするまでに様々な出来事があった。
それらはあまりにも悲惨なものではあったが、決してこれは彼女が望んだはずの結末なのだろうか?否、そうではない、そうであってはならない。

だからこそ、例えもうこの一瞬でこの身が砕け散るとしても、思う事はただ1つ。

「……もう俺はどこにも逃げやしねぇよ。お前が俺に責め立てたとしても、面倒だが全部聞いてやる。今度こそは、絶対に」

届かない――そう土方は確信するも、彼女がそこにいる事などすぐに分かる。何故ならば、この身が、自身の身近にあったそれが全てを現している。

何故かお互いに愛煙していたラッキーストライクの香り。これが思い出せるならば、この匂いを辿ればこの先に結城キサキはいる。ましてや今の状況であれば尚更。

「ほら」

無い腕を、見えない彼女へ差し出して溜息交じりにこう呟いた。

「お互いにこんなになっても、所詮俺の気の短さは変わらねぇ。早くしろ」
「――……」

一瞬だけ聞こえた呼吸音と、ラッキーストライクの匂いの示した先に見えた戸惑い。それは微かに姿を現す。

「――き、さ……」

それははっきりとは見えないが、今ならば見えるだろう。次こそは彼女の深い意識の中だけではなく、確かに現実にあるものとして。

「幹行さん」

そう“彼女”が名前を呼んだ時、破壊の化身から、カランと銀色の煙草ケースが落ちた。


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Will I change the Fate? 番外編
土方幹行・結城キサキ短編SS 『Felines』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887394427/episodes/1177354054887950397


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