引退試合

2018年10月14日(日)
最高の秋晴れになった。
今日は大事な空手の大会の日。この日のために何ヵ月も前から、稽古と自主トレ、筋トレに励み
頭の中ではイメトレに占拠され仕事も上の空だった。
そう、この大会を最後に選手としての現役を引退し後進の育成を……と考えている。

自分の出番を待ちながら他の選手の戦いを観戦、応援しつつ、徐々に緊張感が増していく。

中略

順調に勝ち進み、いよいよ残すは決勝戦のみ。
最後の闘いの相手は、同門の選手

過去に１度対戦したが、惜しくも判定負けをした相手だ。最後に勝ちたい。

勝って勝利の美酒を……
酒と共に歌うカラオケ曲も決まっている
あと１回
あと2分間(試合時間)

嗚呼、相手が大きく見える

同門対決のため、どっちにもセコンドが付かない……
一対一のタイマンだ

勝つ！絶対に勝ってやる


心に強く決意し、いざ試合開始

お互い全力で突きや蹴りを繰り出し、フェイントや駆け引きも考える余裕もなく技の応酬。

胸や腹、脚や腕を殴り合い蹴り合い
痛みや呼吸の苦しみにも負けず、必死。

あっと言う間に2分間の本戦が終了。
審判団の判定だ

ドロー引き分け延長戦

深呼吸を繰り返し再戦

パンチでは倒せない
レバーに膝蹴りを入れても倒せない
ローキックでも心が折れない
必殺で考えてた踵落としも効かなかった。
後ろ廻し蹴りもかわされ
残りの引き出しには、気合いと根性しかない

それでも延長戦も終わり判定
もう、疲労困憊で腕も上がらないし、呼吸も荒く苦しい……

判定は？


ドロー再延長戦

(マジか？何歳だと思ってると？)
(心臓麻痺を狙ってんのか？)

深呼吸を繰り返し、伊息で呼吸を整えようと思うも上手くいかず
俺も苦しいが相手も苦しいはずだ

最後の力を振り絞りパンチと蹴りの応酬

苦しい

力が出ない

腕が重い

脚が動かない

回りから声援が聞こえる

「いしださん、がんばれー」
(頑張ってるだろ)

「いしださん、自分からいけー」
(身体が動かないだよ！)

「いしださん、連打連打」
(他人事だと思って)

諸々
…………
……
…

再延長戦も終わり、判定…………

2対0

判定負け

結果が出た瞬間から、力が抜け
痛みも思い出す
身体中が痛い
左足の筋を痛めてるのか、脚を伸ばすと痛い

相手選手に挨拶をし、互いに強く握手をし抱擁もした。
全力を出しきった
120%出しきった。
悔いはないし、悔しくもない。
最後の試合が終わった。


夜、地元に戻り
同級生のスナックに行き、日本酒を飲む
客は居ない
美酒とまではいかないけど、美味い……
勝利の歌はやめ、
「栄光の懸け橋」
を歌う。
誰にも言えない涙か

嗚呼、思えば今までにこんな感じの涙をどんだけ流したことか……

嗚呼、酒が美味い……

嗚呼、左足が痛い……

嗚呼、歳は取りたくない

嗚呼、もっとやれたんじゃ……

嗚呼、俺はこんなもんじゃないはず……

まだまだやれるはず……

まだまだいけるだろ

まだまだ

まだまだ
まだまだ

もうちょっとだけ