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2018年09月01日11:15

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坂井さんとキスの話

「指どうしたの」の問いに、「若いころ機械に挟んじゃってな」と坂井さん。
その頃私は旋盤工だった。同じ職場の坂井さんは、ちょっと強面だが人情深い先輩。
会社と言っても町工場だが、毎年秋に社員全員で慰安旅行に行った。
しかし毎年、坂井さんは不参加。その坂井さんが、やっと重い腰を上げた。
風呂へ行こうと言っても、のらりくらりと気のない返事。
深夜「じゃぁ行くか」の声。裸になった坂井さんの顔以外は、全身入れ墨だった。
そういえば幼稚園児の娘、ちーちゃんが言ってたっけ。
「パパの背中は金魚が泳いてるんだよ!」って。入れ墨は鯉の滝登りの絵柄だった。
指も機械に挟んだのではなく、堅気になるときに詰めさせられたのだった。

「キス釣りに行くぞ。朝早いから前の晩に俺んち来て泊まれ」
湘南二宮へ何度となく出かけた。大きなリールから、百メーター飛んだとか飛ばないとか竿を振るが、一向に釣れない。キスの顔はとうとう見ず仕舞いだった。

その後、坂井さんは離婚し、退社して葛飾に引っ越し、美人の水商売の方と再婚した。
そこへも呼ばれ、何度となく泊まりで飲んだ。やんちゃ娘だったちーちゃんは、新しいママと馴染めず、すっかり変ってしまった。
あれから半世紀が過ぎた。私も退社したこともあり、坂井さんともすっかり疎遠になってしまった。

昨日、海釣り好きの友だちが、キスを釣ったと持って来てくれた。
さっそく天ぷらに揚げた。
入れ墨の人って短命と聞くが坂井さん、生きていれば八十かぁ、、、

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