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2018年07月26日03:26

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船に乗れ!第一巻〜高校生活、懐かしいな

表紙に魅かれて購入したのは電子書籍版。

わたしにはとても読みやすい文章だった。結局、三冊読み終わるのに四日もかからなかった。一巻目は、高校受験失敗でいきなり沈没しかけたけど、高校生活は競い合い、学び合える新しい仲間に出会って順風満帆な滑り出しだ。ヴァイオリンの南枝里子に一目ぼれし、お付き合いを始める。音楽という共通の話題を介しての可愛い恋人たちだ。二巻目は、作品紹介にあるように、予想しなかった展開に目が離せず、引き続き三巻目も一気に読んでしまった。読了してやっとぐっすり眠れた。

音楽専門課程だから、音楽について専門的な描写も多々あるが、一般の読者にも分かるように書かれている。それは、音楽を専門的に勉強した作者にとって随分骨の折れることだったろうと想像するとともに感謝する。専門家同士の会話がどんなに楽かは、第三巻の22でサトル自身が語っている。「副科を気にせず、チェリストにだけ判る言葉で話をするのは、なんて気楽だろう」。これは高校1年や2年のとき、副科の生徒を混ぜたオーケストラの練習で苦労したからこそ出た言葉だ。おまけに、オーケストラで複数の楽器が合わせることがどんなに大変かも、この本を読んで初めて知った。ひとりひとりがソリストとしてどんなに実力があっても、合奏で合わせるというのはまた違う難しさがあるのだなぁと想像した。

主人公サトルが随分哲学書を読んでいるし、哲学の先生もその授業も好きだったので、ソクラテスとかニーチェがやたらと出てくる。哲学とか倫理とか、学生の頃、私には全然分からなかった。授業で、神父様(哲学・倫理)が延々と同じ質問を繰り返していたのだけは、覚えている。だけど、サトルが描く金窪先生の授業はすご〜く分かりやすかった。こんな授業だったら高校生の私にも理解できて、もうちょっと真面目に聞いていたかもしれないなんて思ってしまう。たぶんそれでも難しすぎて寝ていただろうけど。今になってやっと私の頭も高校生に追いついたのかも。

ニーチェって、何かで見たな…と思った。たぶん、リヒャルト・ワーグナーの伝記テレビシリーズ(リチャード・バートン主演)だろう。ハンナ・アーレントは何年か前に伝記映画の話を聞いた。観てないが、百科事典などで調べた記憶がある。河惣益巳著『ツーリング・エクスプレス』には、ハイデルベルクを舞台にした話があった。先月読んだ小野弥夢著『DIVA』はオペラ歌手の話で、続編がまるまる一冊『ラ・ボエーム』の話だったし、同漫画本編では、エリック・サティの曲がとても重要な役割をしていた。イタリアのクレモアが楽器の製造地であることもこの漫画で知った。考えてみれば、直前には近衛秀麿氏(指揮者)の伝記ドキュメンタリーも読んだし、この本にたどり着いたのも何かの縁だと思うのは私のこじつけだろうか。

一巻目6に恋愛感情について「容赦のないエゴイズム」「最初から半社会的な、非民主的な、レヴェルの低い身勝手な感情」だとある。言葉は違うけれど、漫画『菜の花の彼』第4巻20話の終わりで中学生の男子が同じことを言っている。そういうことは若い頃、実際に、その渦中には冷静に考えられないだろう。

音楽の専門課程に進んだ高校生ということで、クラシック音楽の作曲家や曲名がたくさん登場する。第三巻でサトルと鮎川がレコード店で視聴を頼む場面があるけれど、そうそうあの頃はインターネットもなくて、レコード屋で封を切ってもらって頼んだのだと懐かしく思った。今は便利な時代で、曲名を検索すれば動画サイトでほとんどの楽曲を聴くことができる。百科事典サイトでは、作曲家のことや楽曲が作られた時代背景なども調べることができる。本から派生した読書のもうひとつ楽しみ方だなと思った。

船に乗れ! 1 合奏と協奏 (小学館文庫)
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