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2018年06月20日02:16

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ディズニーランドで演奏する掛け持ちバイトくん

ディズニーランドで演奏する掛け持ちバイトくん

話をする機会が僅かしかなかったものの、印象深い人物が俺の記憶内部に数名存在する。
すき屋の深夜作業開始当初、『ディズニーランドで演奏をする掛け持ちバイトくん』という相手との出逢いもそんな一人だ。
彼との会話の回数は僅か一回。姐さんとの会話に『トンデモなヤツ』という意味合いで何回か耳にしていたが、話してみれば、俺なりに彼の行動は理解出来た。…業務的にはアウトだが、俺個人としてはどこまでも頑張れとエールを送りたい相手だ。

先にも述べたが彼との会話は一度きりで、顔を合わせたのもその日が最初で最後である。当然、姿顔も声もかなりおぼろげで、男性だった事と中肉中背というよりは、やや小柄だったという記憶だけが彼の情報の全てとなる。

話を持ち掛けたのは俺の方で、まだ姐さんの事を『姐さん』とも呼べない頃の俺が、彼女より注意を促すように頼まれていたからだ。
注意の簡単な内容は『交代が来たと同時に無言で帰るのはイケナイ』というようなもの。確かに、交代が来たからといって引き継ぎも無しに姿を消されてしまったら、残される身としては堪ったものではない。という話だ。
もちろん、被害者側の姐さんからの印象は散々なもの。加えておっとり調ママさんの加勢もあり、俺の中の『ディズニー〜』は悪の根源そのものだった。

そんな印象を引っ下げていざ接触してみると、対応が柔らかく、声も穏やか。ただ、常時時間を気にしているところが気になると言えば気になる仕草だったが。
彼と挨拶を交わした時に思ったのが、『あれ?』…である。
実際に悪い意味での癖を持つ人物というのは、返事一つで違和感を覚えるものだが、彼にはそれは無かった。どういえば良いのか解らないが、とにかく穏やかだった。

話の切り出しは度々目を向ける時計に対して。
『このあと何か用があるの?』
みたいな事を聞くと、
『別のバイトがあるんですよ』
と彼。
なるほど、掛け持ちバイトで時間がいっぱいいっぱいだったのか。
全て理解。…で、話を簡単な『やんわり注意』に持ち込もうとすると、間を置いた彼の言葉。
『電車に乗り遅れると大変なんですよ』
なんて、照れくさそうに言う。
学生という身分でもなさそうなのに、電車を利用したバイト先なんて…、どんな好条件の仕事先なんだろう? とか思って内容を聞けば、東京ディズニーランドに複数存在する生バンド部隊の一人だった。
そっかー…。東京ディズニーランド…。隣の町内とかには無いもんなぁ。電車が必要な訳だ。

彼が言うには『〜ランド』での仕事時間もすき屋のようなシフト制らしく、今日はいわゆる早番みたいな日だったとか。
すき屋の仕事を終え、満員電車の中をギッチギッチと揺られながら延々と『〜ランド』に想いを馳せて向かうのだとか。
でも、あんな華やかな、しかも生演奏専門スタッフで雇用形態が『バイト』なもんかねぇ?
なんて疑問が生じ、本人に聞いてみると、驚くほど安い時給だったのが印象的だ。
さすがに4ケタを割り込むような金額ではなかったが、交通費や移動時間、向こうでの食費を考慮すると、ワリに合う金額とは到底思えなかった。実際、生活に困難が生じているため、こうしてすき屋で仕事をしているとの事だったし。

毎回が一発勝負の生演奏なんか出来るんだから、そういったプロの道とかは向かってないの?
という俺の質問に、彼は朗らかに言う。
『特定のファンとは言わない不特定多数の方々に、背景の一環として聞いてもらう事が楽しみなんですよ。明らかにどこかへ向けて移動中の親子がこっちに気付いて足を止める瞬間なんて最高じゃないですか!』
あ〜…ナルホド。なんかわかる。俺で言やぁ、誰が目を通すかも分からんシナリオやらポエムやらを延々ダラダラと描くようなもんか。ミクシィの足跡で同じ名前の人が毎日来てくれるのって変にソワソワするもんなぁ(俺の中の通称:お得意さん)。

毎回の電車通勤は苦じゃないの? 電車賃も自腹じゃキツくない?
という俺に質問にも、
『あの移動時間の、外の風景が流れるのをぼんやり眺めながら演奏光景を思い浮かべるのが好きなんですよ。仕事以外の電車は興味無いんですけどね』
あ〜…ナルホド。これもわかる。俺で言やぁ、誰かとドライブしてバカ話する裏側でシナリオのパーツを集めるようなもんだな。どれだけガソリンを消費しても気にならないし、むしろ時間が足りないくらいだもんなぁ。それ以前に純粋に楽しいし。

せっかくの能力なんだから、それ一本で食べていけるとイイね。
という俺の励ましには、
『今が一番楽しいんですよ。それで食べていきたい気持ちもありますが、それを仕事としては考えられないんですよ。…例えば演奏中に急死したら、それはそれで本望なんですよ』
あ〜…ナルホド。なんか逆立ちしたいくらい解るわソレ。俺で言やぁ、全国出版出来れば、後の売上なんかどうでもいいや。もう死んでもいいやって思ってるし…。他人の目に見えない自分だけの『瞬間』ってヤツだね。

…とまぁ、そんなお人柄だった。
たった一回だけの会話で共感できる部分は多く、ほんのりとした笑顔のイメージがぼんやりと思い浮かぶ程度の彼の名前は既に忘れてしまっているが、そんな彼は今も同じ彼でいられているのかどうかが気になる瞬間がたまにあったりする。
今も元気かな?


てぃーのの視野

夢を持ち、それにひた走る人物というのはそれだけで尊敬に値する。…とは、以前から思い続けている俺の本音の一つ。
それは自分も夢持ちだからとかそんな話ではなく、何かに打ち込んでいる人というのは何かしらの輝きを放つものだ。…というか、そうらしい。

二十歳代、俺が恥ずかしげも無く夢を語れば、それが人を通じて勝手に話が盛り上がり、結果的に応援者がやたらと増えた時期があった。それこそ、時には全く見ず知らずな人を紹介させられたり、俺に会いたいという理由で吞み会を企画されたり…、なんか、本当に作り話のような出来過ぎた内容が次々と押し寄せていた時期があった。

当然ながら当時の俺には『???』な出来事だったわけだが、なるほど、『ディズニーランドで演奏する掛け持ちバイトくん』を見ると、客観的にその『輝き』とやらの意味が僅かに理解出来た。

何と言うか、物怖じしない態度で大好きな内容を語る仕草はどこか照れくさそうであり、でも退かない想いが滲み出ていて、反論の隙を沢山見せつつも、それを許さない雰囲気がやんわりと本人を囲み、結局聞き入ってしまう。
夢のジャンルは全く異なっていても、夢そのものに対する想いに一貫性があり、その他の全てを失う覚悟が内心に潜んでいる。
本気の夢とはある種の危険な恋に似た狂気にも思えるが、それを人は『熱意・情熱』と呼ぶ。
どれだけ穏やかに物語っても熱意や情熱は形を変える事無く伝わってしまうようで、聞き手の反論や意見を許さないようだ。
結果的に全てを耳にした聞き手が『夢への理解』はともかく、『夢持ち人への理解』を深め、仮に皆無だった興味であっても共感を覚え、周囲に伝えていく。
言霊や以心伝心…と表現すれば大袈裟かもしれないが、夢持ち人の『輝き』の正体は、きっとそんなところだろう。
…とか、コレ書いていて思った。

そっかぁー。俺にもあったんだなぁ。『輝き』が(過去形)。

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