18940730 NO851 その八 在天津・日本帝国領事館の撤回始末書 （中）
http://db.history.go.kr/item/level.do?levelId=jh_003_0040_0090
駐韓日本公使館記錄 3巻 四. 東学乱と 清日関係 参 (9)日清両国おのおのがその公使館・領事館を撤去し公館並び在留臣民の保護を米国公使に委託のこと その八 在天津・日本帝国領事館の撤回始末書 （中）
この日午前、米国領事リ−ド氏は、在清国帝国公使館および在天津帝国領事館員の便乗のため、本日出航して南下する予定の「重慶号」をしばらく引き留めるのがよかろうと、別紙写乙号によって勧告した。
当時天津・上海その他諸港間を航通する船が至って少なく、次回の来船がいつになるかがわからず、私は「小村臨時代理公使はすでに北京を出発しているのでその天津到着までには、私も引き揚げに関する本省訓電に接することになるだろう。そうならなくても公使館員一行の用に供することはできるだろう。少しも躊躇すべき時ではない」と伝えた。
そして英国汽船バタフヰ―ルド•エンド•スウハイヤ― (漢名太古洋行)号 へ以上の申込みの件を委託し、ならびに大沽引船会社より小汽船借入を約束した。
数日前より館員は居留人数名と夜を徹して領事館警護に当っていたが、八月一日午後李鴻章は士官二名、営兵五十名を護衛のため領事館に送ってきたので、私はこの士官に面会して厚意を感謝し、館外の護衛を希望した。
また天津税関長のドイツ人デトリング氏は来たって李鴻章の意を伝へ、さらに「事態不穏の兆しがあったならばいつでも通知次第私が自ら清兵を指揮し防御に盡力したい」と言った。
同夜無事、前晩に同じ。
八月二日午前、別紙写丙号の御電訓に接した。
ここで小村臨時代理公使一行とともに上海経由で帰朝することに決定し、その意志を米国領事に通じ、また公用書類・館内物品を片付け引き揚げの準備に大わらわであった時、天津税関雇いの港長ヒーバー氏が急に来館しあの重慶号への清兵闖入（チンニュウ ＊突然、無断で入り込むこと）事件の概要を報告したので、本邦人・宮崎駿兒と言う者を米国領事館に遣わし港長ヒーバー氏から聞いた事柄を逐―知らせまた面談を申込んだのだが、領事リード氏が既に来館しているので、細かな報告を待ち受ける暇がなく、まず李鴻章の不行き届きを責め、また「小村臨時代理公使の一行が現に天津に下る途中にありその安危が心もとない。国際上相当の保護をそなえるためにしかるべく取計らうよう」要請して置いたのだが、氏は李鴻章へ照会文を発したとのことで私が参考のため別紙写丁号を持参した。
午後になって税関長デトリング氏は港長ヒーバー氏を領事館に派遣し、私どもが重慶号へ乗込むため、李鴻章の命を受け特に税関付属の小汽船一艘を指し回すと報告してきた。
しかし、北京公使館員一行の到着はひょっとすると予定の時刻より遅れるかも知れず、念のため重慶号所有の汽船会社へ更に一潮時（＊潮の満ちる時刻）延長して本船滞在させる件を申し込んだのだが、別紙写戊号の回信がある。
ここでこの汽船会社の汽船「通州号」は今月三日中に到着することを知ったので、北京一行の天津到着の有無にかかわらず、館員及び居留人の中で帰国を望むものを伴い同夜九時半居留地を出発することに決めその旨一同へ通示した。
この際、米国領事と日本帝国領事館の官有財産・物品類の引き渡しの方法を協議したのだが、尋常の場合と異り定まった手続を執行しにくいので、両陛下御写真、国旗官印、及び機密書類は携帯して帰国することに決め、その他の官・私の物品は混同しないよう館内各室に分置し、内外諸室とも米国領事は私と大河平書記生立会の上一々封印をし、また物品に対しては参考のため大河平書記生より臨時の物品調書控書一冊を交付したのであるが、米国領事より別紙乙号の領收証を差し出した。
以上引き渡し手続を終え出発の用意がなんとか整ったのは午後九時頃で、それから領事館員、天津郵便局員、並びに米国領事等と共に領事館を出て前記の小汽船碇の波止場に行ったのだが、本邦人中私と同行するもの、及び外国人の見送りのため来会するものが十数名いた。
行李・積込みなどをあわせ非常に雑踏を極めたが、英国工部局の注意であらかじめ居留地の巡査数名を配置してあったので何ら支障もなく船出し、暗夜のなか白河（北京から渤海に出る水路として北運河は重要であり、途中で北京東部の重要な水路である潮白河〈潮河と白河の合流で形成される〉とも合流していたため、近代初期の西洋人には海河全体が白河〈はくが、パイフー Bái Hé〉と呼ばれていた。）を下った (同乗するものは在清国公使館付・神尾陸軍步兵少佐を始め合計十六名。また天津に居残っていた本邦人は山田要・ 堤虎吉・石川伍一・鐘崎参��・青木喬・佐伯重太��の六名である。そのうち佐伯は写真業者であるがこれより前に支那人に雇われ、領事館へは無届けであちらこちらを巡りあるきまだ天津へ帰還していないと報知したものがある。)
時に明治二十七年八月二日午後十一時、在天津帝国領事館閉鎖引き揚げの状況は以上の通りである。
この小汽船は清国旗を掲揚し港長ヒーバー氏がこれを指揮した。
また船中には私たちのため特に茶菓の用意があってすこぶる丁重に思われ、また翌日即ち八月三日未明、古沽砲台の下に近づいたところ本船の旗を識別しにくいからであろうか、清兵が砲台上に整列し電光を放って我が船体を注視している様子だったが、別段異状なく砲台を通過し、所謂大沽口を出る頃は天もまたようやく白み始めた。
これより海上七哩（七マイル 約11ｋｍ）ばかりを進み、午前六時頃前日塘沽より沖合に移泊していた重慶号に到着し、前に乗り込んでいた本邦人らと会った。 (此時「天橋丸」二等運転手・石川春吉というものが「天橋丸」が清国に捕まった件について面談した。それは「天橋丸」船員保護始末書に詳しいのでここでは略する)。
前後同船人は「天橋丸」乗組員十六名の外次の四十八名であった。
一等領事 荒川巳次（みのじ） 不詳 川上茂一
同人妻 同 秀子 長崎縣平民 伊勢屋善作
同人女 同 清子 同 島田豊吉
同人女 同 直子 同 片岡米造
陸軍步兵少佐 神尾光臣 大坂府士族 草野英次
領事館書記生 大河平隆則 愛媛縣平民 荒川下婢 渡邊サダ
郵便書記 高木銑次�� 長崎縣平民 同 加藤シマ
靜岡縣士族 宮崎駿兒 茨木縣平民 高安ミワ
長崎縣平民 吳永壽 長崎縣平民 島田ツル
京都府平民 井上治兵衛 福岡縣平民 幸田マツ
長崎縣平民 若杉彌平太 長崎縣平民 大津屋サダ
同 筒井力参�� 熊本縣平民 西島サダノ
東京府平民 吉川桂二�� 神奈川縣平民 内田ハル
大坂府平民 土川虎四�� 熊本縣平民 猪野佐一��
不詳 林 恒吉 長縣縣平民 原口サカ
不詳 木下賢良 同 大津屋モト
熊本縣士族 荒川書生 井原直澄 同 川本シメ
宮城縣士族 樋口忠一 同 田中ヤエ
不詳 藤本賢次�� 同 山田キト
同 �憔�テイ 熊本縣平民 平塚ケイ
熊本縣平民 林田ツネ 同 池田シモ
長崎縣平民 石田セイ 長崎縣平民 大神カネ
佐賀縣士族 小川ヨミ 神奈川縣平民 薩田ハツ
不詳 佐藤ワセ 長崎縣平民 野田サダノ
このほか上等船客に天津在勤フランス公使館付陸軍大尉フララク氏夫妻、ドイツ国クルツプ社代理人で駐天津オランダ国名譽領事タルマンドル氏、および二三の外商がいた。
また三百余名の清国人下等船客がいるとのことで、船長英国人ヒユ―ス氏に頼んで本邦人と同じ場所にならないようにしてもらった。また密かに清国人の挙動に注目させ、間もなく船は芝罘（チーフ―）・上海へ向け大沽（タークー）沖を出帆した。
明治二十七年九月十二日
ログインしてコメントを確認・投稿する