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2016年12月13日22:03

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蠢く妖蟲の軌跡2

新作の第2話を公開します。


蠢く妖蟲の軌跡 第2話 「牛刻神社」


午前2時前、滋賀県と岐阜県の県境にある大きな山、伊吹山。神話の時代、恐るべき邪神を封じ込めたという伝説がある曰くつきの山だ。この山の麓にあるという牛刻神社。尾ノ崎に教えてもらった道を北嶌は車で走っていた。

「道の駅、あった。これだな。」

県道365号線から伊吹山の方へ続く細道を走っていくと伊吹の里と書かれた道の駅が現れた。時間も時間だけにもう店はやっていない。向かいにはかつてコンビニだった廃墟の建物がある。周りにはちらほらと民家が点在する寂しい場所だ。第一の目印にたどり着いた北嶌は車を止め、地図を確認する。

「奥伊吹に続く道、ああ、これだな。」

山の方へと続く細い道路。奥伊吹と呼ばれる場所に通じる道でその最終地点には奥伊吹スキー場が存在する。シーズン中であればスキー客がここをよく通るがシーズンオフの今では地域住民しか通らないような道だ。街灯も無い道を北嶌はひたすら走る。

「奥伊吹への道を走っていると不自然な場所に何も書かれていない標識があります。それが牛刻神社へ行く目印です。」

尾ノ崎がLineで言っていたことを頭に置きながら北嶌は不自然な場所にあるという標識を探した。こんな光も無いところでそんなどこにあるかもわからない標識なんか見つかるのかと思ったがそれは案外簡単に見つかった。

「何であんなところに標識が・・・あ、あれか!」

森に囲まれた道の中にぽっかり開けた空間がある。その空間の中にぽつんと標識が一つだけ立っていた。車を止め、その標識に近付いていくと確かにその標識には何も書かれていなかった。これに間違いないと思った北嶌は付近を調べることにした。すると開けた空間の奥には人が通れるくらいの道があることが分かった。不自然なくらい草木が刈り取られ石段のようなものが敷かれている。その小道を少し行くと少し大きな鳥居があった。あまりに重苦しい雰囲気に北嶌は生唾を飲んだ。その鳥居の神額には牛刻神社と書かれていた。

「牛刻神社・・・ここに間違いない。」

北嶌はその異様な雰囲気を醸し出す神社に足を踏み入れて行った。灯りすらない漆黒の闇に包まれた牛刻神社。古い石でできた鳥居は誰かが手入れをしているように綺麗で朽ち果てた様子は無くこんな山奥の忘れられた場所にあるような雰囲気はなかった。だが、重苦しい空気が神社の中には漂っていた。北嶌は恐怖に身が縮む思いだったが、あのババアを呪い殺してやると言う強い思いからその足を進めていく。鳥居をくぐり狭い参道の中央を歩き、そのまま真っすぐ本殿へと向かっていく。1分ほど歩くと小さな本殿が現れた。神社の作法など知らない北嶌は賽銭箱らしきものに取り敢えず小銭を入れ、鈴を鳴らして叫んだ。

「あのババアを呪い殺してほしい!!一族諸共全部殺してほしい!!」

何もない空間、北嶌の声だけが木霊していた。特に何か変わった様子があるはずもなく、北嶌はただ茫然と本殿を見つめていた。その間、あのババアへの憎しみを募らせ、奥歯を噛みしめる。だが、だんだんと気持ちが冷めていくのが分かった。

「バカバカしい・・・こんなんで呪いなんか叶うわけないか。・・・え?」

そう思い北嶌は踵を返した。ふっと風が吹くのを感じ北嶌は後ろを振り返ったがそこには何もない。気のせいかと思い北嶌は車に帰ろうとしてまた視線を前に戻す。

「うわ!?」

思わず北嶌は声を上げた。北嶌の目の前には巫女服を来た小さな女の子がいたのだ。赤い髪をしたショートヘア、血のように赤い瞳が北嶌を見据えていた。アニメの世界じゃあるまいし赤髪赤眼の女の子がそこにいた。驚かないはずがない。北嶌は恐怖のあまり声が出なかった。だが、その女の子は北嶌の顔を覗き込むと不機嫌そうな表情で言った。

「お兄さん?いい年して神社の作法も知らないの?」
「え?」
「手水舎がちゃんとあるのに手も清めないで中央を堂々と歩いて、お祈りの仕方だって全然なってないじゃない!」
「え?え?」
「そんなんで願い事を叶えてもらおうなんてふざけてるの?」
「何なんだよ!?」
「僕は未子(みこ)。この神社の巫女をやってるものだよ。いろんな人がここに来るけどお兄さんみたいに無作法な人は初めてだよ。」
「くっ・・・何なんだよ。そんなのどうでも良いだろう!?」
「どうでも良いわけないでしょう?お兄さん、おまじないに来たんでしょ?」
「呪いに来たんだ!」
「それをおまじないって言うんだよ。ちゃんとした手順を踏まないと効果なんて出るわけないじゃん。神社に来るならそれくらい常識だよ。」
「くそ・・・子供のくせに。」
「子供のくせに?言っとくけど、僕は君よりは長く生きてるからね。」
「はん!ばかばかしい!じゃあ、君はいくつだってんだ?僕は34歳だぞ!」
「何言ってるの?僕の半分も生きてないじゃない!僕は92歳だぞ!」

彼女はどう見ても10歳くらいの女の子だ。92歳の老婆にはとても見えない。

「92歳?ハッハッハ!!そんなわけないだろう!」
「ふん、信じないなら別に良いよ。それでお兄さん、願いを叶えに来たんじゃないの?」

未子に言われて北嶌は自分が何をしにここまで来たのかを思い出す。

「あ、ああ。そうだ!僕の大嫌いな糞ババアを呪い殺しに来たんだ。」

言ってから北嶌は「しまった」と思った。少女とは言え神様に仕える巫女に何とことを言ってしまったんだろう。だが、その心配とは裏腹に未子は特に怒る様子も無く言った。

「そう、それなら僕の言う通りにするんだね。」
「くっ・・・まあ、それで呪いが叶うなら・・・」

未子に言われるまま北嶌は神社に入るところからやり直した。ぶつぶつと文句を垂れながらも北嶌は未子に従う。鳥居の前でお辞儀をしてから鳥居をくぐり、手水舎と呼ばれる水の流れる小屋で手を清める。柄杓(ひしゃく)に水を汲み、左手を清め次に右手を清める。そして左手に水を受けて口を清め、もう一度左手を清めた後、柄杓を清めてお清めは終わりだ。その後は参道の端っこを通り本殿まで歩いていき、本殿の前でお辞儀をする。鈴を鳴らした後賽銭箱にお賽銭を入れ、2回礼をした後、2回拍手を行う。最後に1礼をして心の中で思うところを神様へと伝える。そして本殿の前まで下がり1礼をする。これが神社の作法だ。ここまでできたところで未子は北嶌の様子を伺いながら言った。

「まあ、良いんじゃない。本来は僕が参拝者の目の前に現れることはないんだけど、特別におまじないを一緒にかけてあげるよ。」

普通の神社ならこのまま鳥居を出て1礼をして終わりだ。だが、ここは恨みを晴らすと有名な牛刻神社。ここからこの神社独特のおまじないがあるらしい。何だかんだで正しい作法を教えてくれた未子を信じるようになっていた北嶌は素直に言った。

「ああ、頼むよ。」
「それで、どうしてほしいの?」
「あの糞ババアを殺してほしい!」
「どんな風に?」
「どんな風?そりゃもう精神的にも肉体的にも追い詰められて死ねば良いんだ!!」
「そう、それならこれはどう?」

未子は懐から小さな小瓶を取りだした。中には何らかの透明な液体が入っている。よく見ると小さな粒のようなものが浮かんでいるのが分かる。

「何それ?」
「芽殖妖蟲(がしょくようちゅう)の卵だよ。」
「芽殖妖蟲?」

聞き慣れない言葉に北嶌は首をかしげる。

「そうだね・・・何だったかな?ああ、そうだ。芽殖孤虫(がしょくこちゅう)って知ってる?」
「知らない。」
「君は知識に乏しいね。」
「いちいち突っかかるなあ!」

未子の小馬鹿にするような態度に北嶌は怒る。それがおかしいのか未子は笑っていた。

「アハハ、人の言うことなんかいちいち気にするもんじゃないよ。それに人間知らないことがあるのは当然だよ。」
「ああ、もう。僕は人の目が気になるんだよ。」
「そうだろうね。そうじゃなきゃわざわざこの神社までは来ないだろうから。」

未子の言う通りだった。北嶌は人目がどうしても気になってしまい、周りの人間が自分のことをどう見ているのかをいつも気にしてしまい、普段できるようなことでさえできなくなってしまうことがあるのだ。

「うう・・・そうだよ。それで芽殖孤虫ってのは何なの?」
「芽殖孤虫(parganum proliferum)は条虫網擬葉目裂頭条虫科に属する扁形動物でいわゆる寄生虫だね。人間たちの間ではこの虫の成虫は分かっていないから孤虫って名前がついてるよ。人に寄生した場合、確実に全身に転移して死ぬ一番危険な寄生虫と言っても良いね。致死率100%の寄生虫だよ。」
「致死率100%!?」

その言葉に北嶌は驚愕する。そんな危険な寄生虫がこの世に存在したなんて恐ろしかった。

「そうだよ。凄いでしょう?芽殖孤虫は人間の体内では成虫になれないから幼虫のまま体内を迷走するんだ。幼虫移行症って言うんだけど、この芽殖孤虫は幼虫のまま分裂して数を増やすことができるから気付かないまま体内で数が増え、気付く頃には手遅れ。全身が虫だらけになって脳や臓器にも虫が取りついて最終的には死に至るんだよ。治療法は現代の医学では存在しないから感染したら最後、絶対に死ぬ寄生虫だね。」
「す、凄すぎる・・・でも、君のそれはその芽殖孤虫とは違うね?」

芽殖孤虫が何なのかは分かった。だが、未子が持っているそれは芽殖妖蟲と言う異なる名前を持つ虫だった。

「うん。僕が持っているこれは主様(ぬしさま)が作った聖妖蟲と呼ばれる蟲の一種で芽殖妖蟲って言う蟲だよ。」
「どう違うの?」
「一般的に芽殖孤虫は感染してから死に至るまで大体数年から数十年くらいかかるんだけど、この芽殖妖蟲は主様の力でその繁殖力がおおよそ100倍に高めてあるんだ。だから、感染してから2週間から3週間で死に至るよ。もちろん寄生された宿主の苦しみも100倍以上のものになるかな。しかも術者であるマスターの思うように繁殖や移行を制御できるし、宿主の死後は溶解して証拠も無くなっちゃう優れものだよ。」
「ああ・・・」

詳細を聞くと想像以上に恐ろしい虫だった。芽殖孤虫自体が恐ろしいと感じた北嶌にとってこの芽殖妖蟲がどれほど恐ろしいのかなど見当もつかない。そんな北嶌に意地悪な笑みを浮かべながら未子は言う。

「うふふ・・・君の体で試してみる?」
「じょ、冗談じゃない!!けれど、そんなものをどうやって使うんだ?」
「これを使うと良いよ。」

未子が取りだしたのは小さな手鏡だった。厳かな文様が刻まれた青銅のような材質でできた鏡だ。北嶌は不思議そうに見つめていた。

「鏡?」
「ただの天魔鏡だよ。珍しいものじゃないでしょう?」
「十分珍しいけど。」
「あ、そっか人間には馴染みがなかったね。言うなれば神様が地上世界を観察するための道具だよ。そうだね、天上界では日本円にして1000円くらいで売ってるよ。」
「安いな。」
「さてさて、この天魔鏡を覗き込んでごらん。」
「うん・・・」

天魔鏡が砂嵐のようになりやがて映像が見え始める。

「どう?見えた?」
「あの糞ババアだ!!」

天魔鏡に映っていたのは北嶌が死ぬほど恨んでいる石田の姿だった。どうやらそこは石田の自宅のようで居間のテーブルで2人で食事をしている。何やら喋っているのか2人とも笑っていた。

「どうやら息子と朝食を食べる時間帯みたいだね。2人家族のようだね。幸せそうじゃん。」
「ああ、僕がこんな目に遭ってるのにこいつだけのうのうと許せない!」

自分がこれだけ苦しい目に遭ったのはこの石田のせいだ。それなのに当の石田が幸せそうにしているのが北嶌は許せなかった。

「じゃあ、ちょっと映像を拡大するよ。」
「ああ・・・」

拡大された映像には2人が飲もうとしているお茶のボトルが映し出されていた。

「さて、それじゃこのお茶の中に芽殖妖蟲の卵を入れるよ。そしたら2人とも感染するよ。最後に一度だけ聞くけど、本当に良いんだね?」
「ああ、こいつのすべてをめちゃくちゃにしてやる!」
「恨みを晴らしたら君にもそれなりの対価を払ってもらうけど良いかな?」
「ふん、これ以上の地獄なんかあるものか。いくらでも払ってやるよ!」
「分かった。お兄さんの恨みの強さ、相当なものだね。これは祓うしかないよ。お兄さんの邪気を祓うためこの家族には生贄になってもらうよ。」

そう言うと未子は小瓶の蓋を開け、天魔鏡の中に芽殖妖蟲の卵が入った液体を垂らした。2人が飲もうとしていたお茶にそれは入り、2人は何の疑いも無くお茶を飲んだ。

「これでおまじないはおしまい。君の願いは叶えられたよ。」
「そうなのか?」

案外呆気なく終わってしまった。もっと黒魔術的な儀式があると思っていた北嶌は拍子抜けしていた。

「うん、お兄さんスマホは持ってるよね?」
「ああ、持ってるよ。」

そう言いながら北嶌は未子にスマホを見せた。

「じゃあ、この家族が苦しみを味わう様をLineで送るよ。楽しみにね。」

そう言いながら、未子は自分のスマホを取り出しアドレス交換をした。

「そんなことできるのか?」
「うふふ・・・神様だってハイテク化が進んでるんだよ。ああ、それから恨みを晴らすのはこれっきりだよ。次は無いからね。もしそれに反して恨みを晴らそうとしたら大変なことになるから注意してね。」
「大丈夫だ。あの糞ババアさえ死ねばそれで良い。」
「それじゃ、良い夢を見なよ。特別に家まで送ってあげるから。」
「え・・・」

未子の目が赤く光る。そう思った瞬間、北嶌はとても強い眠気に襲われその場で眠ってしまった。どれくらい長く眠っていただろうか、ふと北嶌が目覚めるとぼんやりといつも見なれ他天井を見つめていた。

「ここは・・・?僕は一体・・・?」

起き上って周りを確かめてみる。ここは間違いなく自分の部屋だ。

「何だ、夢でも見てたのか・・・そうだろうな。」

変にリアルな夢だったなと北嶌は思った。小さな女の子の夢なんて自分らしくもない。自分の好みは40過ぎの熟女なんだぞ。と思っているとスマホのバイブが鳴っていることに気付いた

「うん?Lineか・・・誰からだろう?未子・・・?あの子だ!?」

昨日のあれはやっぱり夢じゃなかったんだ!そう思い、慌ててLineを確認する。

「じゃじゃん!(^^)!あのおばばの大事な息子が大変だよ(>_<)」

顔文字付きのLineに一瞬、北嶌の思考が止まった。

「顔文字・・・何か古臭いな。」

北嶌が思わずこう呟くと返事も出していないのに未子から返答があった。

「むっ!古臭くて悪かったね!!どうせ君の3倍近く生きてますよ!」
「わっ!聞こえてるのか!?」

慌てて辺りを見渡すが当然誰もいない。そう言っているうちに次のLineが送られてくる。

「僕を舐めないでね。あ、舐めるって言っても嫌らしい意味じゃないよ。」
「分かってるよ!ああ、動画がついてるのか、まあ、取り敢えず見てみるか。」

未子からのLineには動画が付属されていた。北嶌は怪しむこともなくその動画を開いた。すると北嶌の視界が暗くなったかと思ったら、何とも不思議な空間が目の前に現れた。どこかの家の台所のようだが、どこなのかは分からない。だが、北嶌は思いだした。これは天魔鏡で見たことがある。あの石田の家の間取りにそっくりな空間だ。

「な、何だ!?」
「プレイステーションVR的なものだよ。凄いでしょう?」

隣にいつの間にか未子がいた。どうやらこれはバーチャル映像と言うやつらしい。神様の国、進み過ぎだろう。

「それを知ってる君が凄いよ。」
「伊達に暇人やってないからね。仕事が無い時は初音ミク・プロジェクトDIVAを頑張ってるんだから!」
「ああ、そう。」
「これはすべてあのおばばの身に起こった出来事だよ。事の始まりから終焉までまとめたものを流すからゆっくり楽しみなよ。」

未子がそう言うとまるで映画でも見ているかのように映像が流れ始めた。「上映中はお静かに」と未子が言うので北嶌は静かに行く末を見守ることにした。

・・・・・

今日はここまで。次回、北嶌の復讐が始動します。
芽殖妖蟲、新型の聖妖蟲の登場です。この蟲は珠魔が趣味で作ったもので未子がテストをする役目にあります。
未子が扱える程度の蟲なのでカブトムシや蜘蛛のようなハイレベルな蟲ではなく低級の蟲ですが、
苦しみを与える目的で使えばそれらを上回るかもしれない蟲です。
ちなみに芽殖妖蟲は創造の産物ですが、芽殖孤虫は実在する寄生虫です。
感染経路不明、治療法無し、致死率100%の超危険な寄生虫でした。
ですが最初の発見(100年くらい前)から現在まで世界で17件しか例のない珍しい寄生虫なので
そうそう心配しなくても大丈夫だろうと思います。

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