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2016年02月22日12:55

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夢の小料理屋のはなし 92

梅は咲いたか 桜はまだかいな
柳ャなよなよ風次第
山吹や浮気で 色ばっかり

そんな感じで、東京も梅が咲いた。
小唄を口ずさみながら神楽坂を登ってみる。
すれ違った芸者さんの香りに、心をしばし奪われそうになる。
ダメだダメだ。
しょんがいな、じゃ無いよね、全く。

そうして辿りついた先は、ご存知例の小料理屋。

薄紅色の着物が可愛いらしい今日の女将さん。
春だねえ。
「今日の着物、春っぽくていいね。」
「でも、商売ものとは言えちょっと若向きな柄な気もするわよね。」
少し照れる女将さん。
「でも、よく似合ってるよ。」
「ありがとう、嘘でも嬉しいわ。」
いいや、よく似合ってるさ。
綺麗な女房を見て心踊らない亭主なんか居るもんか。
酒を舐めながら、まじまじと我が女房の腰の辺りのなだらかな稜線を見てみる。
「でもあなた、ちょっとお尻見過ぎだわ。」
「いいじゃない、別に減るもんじゃなし。」
「じゃあ、増えるの?」
うん、会話が、訳が分からなくなってきた。
でもきっと、こんな他愛の無い会話が楽しいって言う状態を「幸せ」と言うのかも知れないと最近思ったりする。
もちろん、何処かへ遊びに行くとか、それも幸せだろう。
夜更けに二人で肌を合わせて果てるその時だって、幸せそのものだ。
でも、こう言う何気無い日常の一コマに、最近はとても幸せを感じる。

歳、なのかね。

「遥子さん達がね、後で来るんだって。バンドの子達と。」
そうか、遥子さん達も覚えてたのか。
「じゃあ、遥子さん達が来る前に、これ。」
ジャケットの内ポケットから、包み紙を出してみる。
「はい、お誕生日おめとう。」
「あら、覚えてたの?フフフ。開けていい?」
「勿論。似合うと良いんだけどね。」
「あ。…ウフフ、ありがとう。大事にするわね。ねえ、付けてみても良いかしら?」
「気に入った?」
「ええ、こんな感じのが欲しかったのよね。よくこれを選んだわね。」
「旦那ですもん、貴女の。」

それは、小さな飾りのついた簪。

鏡の前で振り返りながら、何やらニヤニヤする女将さんを見ながら、僕は良いものを贈ったのだと一安心した。
「可愛らしくて素敵だわ、ウフフ。」
「良かった。」
「じゃあ私も、遥子さん達が来る前に。」
そう言って女将さんも何やら出してくる。
「はい、蛤の酒蒸し。浅蜊とれたか 蛤ャまだかいな、なんてね。」
「ほう、春だねえ。蛤の季節なんだねぇ。」
蛤には、夫婦円満って意味があったりするんだよね。
知ってか知らずか、女将さん。
でも、ちょっと照れ臭そうに笑ってるところを見ると、多分知ってるんだろうね。
「美味しいわよね、蛤の酒蒸し。」
「でも、よく僕が今食べたいものが分かったね。」
すると女将さんが、ちょっとだけ真顔で言った。
「女房ですもん、貴方の。」

しょんがいな。
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