mixiユーザー(id:15507090)

2015年12月24日02:14

152 view

ゴーストドクター?

いつも世話になっている医院のことは、
ずいぶん前にここでも紹介した。

Kクリニックというのだが、
それはそれは話の出来るファニーな町医者のひとりで、
気難しくはないが、ちょいとラフなところがある先生だった。

わたしなんぞの話し相手にはちょうどいい…
な〜んて書くと、先生には失礼かもしれないけれど、
そのK先生に久々に診ていただこうと、向かったのだった。
気分は、仲良しに会いに行くような気楽さだ。

6月に案内を受けていた無料健康診断の申し込みを、
半年も経過した12月に、どういうわけだか、
やっておこうかという気になって、重い腰を上げたのだった。

ところが、いつもの道をやってきたのに…
あれっ!? ない!

看板が掛け替わってる?
「S内科クリニック」って書いてあるぞ。

しかし、建物の外観も、駐車場も同じ。
しかも、奥の自宅玄関には、K医師の表札がそのまま掛かっているじゃないか。

ひとまず中に入って訊いてみよう。

待合室をざっと眺めたら、少しも変わっていなかった。
妙なことに、K医師の名前が入ったお祝い用の蘭の鉢が、
飾り物をつけたまま、カウンター脇にちょこんと置かれている。
5,000円クラスの鉢だ。ケチってるじゃないか。

看護師や医療事務の女性スタッフの顔ぶれは、
馴染みの人たちばかりだったから、いよいよ不思議だった。

「ねェ、どうしちゃったの? センセイ、2代目にお婿さんを迎えたの?」
「違いますよ。Kセンセイ、倒れちゃったんですよォ〜」
「いつ?」
「5月ごろなんです」
「あっちゃ〜、そのころから、オレ、ここ来てなかったんだ…。
 で、体調は大丈夫なの? ゴルフのやりすぎ?」

医療事務のスタッフは、ゴルフのやりすぎ…のところでは、
いつもは爆笑してくれるのだったが、今日は複雑な表情をした。
あ、いけねェ、余計な事を言っちゃったな、とわかる。

「階段から落ちて、腰骨と大腿骨を骨折されて、腰椎も傷めて。
 2回手術をされたんですけど、骨がうまくくっつかなくて、結局歩けなくなって…」
「いや〜ゴメンね、くだらんこと言って。それで診察できなくなっちゃった?」
「そうなの…。頑張ってやる、っておっしゃってたんですけどねェ…。
 しだいに痛みがひどくなってきたみたいで、無理だったようなんです。
 今でも、診察室の2階のご自宅で伏さっておいでですよ」
「いつから?」
「11月末から。切り替わったばかりで、告知も準備もぜんぜん整わないんです…」

なんとまぁ、お気の毒なことである。

毎週のゴルフを人生の中心に据えた、
楽しいお医者様ライフも、よもやの中断か…。

ゴルフ焼けに照り映える、あのガングロの還暦越えの痩身が、
そんな大変なことになっていたとはなぁ…。
まつざきしげる焼けの顔がニッと笑ったときの歯の異様な白さが忘れられない。

わたしは、看護師や医療事務の女性たちと共によく知っていたのだけれど、
K先生は、実はハゲであった。
それが知られるのが嫌だったと見えて、かつらを被っておられた。
それがまた妙な若作りのかつらだったので、似合わないことはなはだしかった。

おまけに、かつらとは言え、髪を梳こうとは思わなかったのか、
鉄腕アトムの頭部の突起よろしく、いつも同じ場所に寝癖状の毛がボヨヨンと立って、
誰の目にもかつらを被っているとバレていたのだと思うのだが、
身近にいる看護師や医療事務の女性たちは、どうして教えてあげなかったんだろう?

もう、要らんことを言うのが好きで好きで仕方のないわたしは、
喉から声が出かかっていたのだったが、それをからかう前に、
K先生は、かつらを被って人前で見栄を張る必要もなくなってしまったようだ。

癌治療のせいで頭髪が抜け落ちていたのだったら笑えない話なのだが、
看護師のひとりからそうではないという内部情報を仕入れていたので、
「センセイ、オレみたいに潔く5厘カットで坊主になっちまいなよ。気持ちいいぜ」
そんな軽口をたたいて、わたしの「爽快ハゲ陣営」に引き込みたかったのだが、
かつらをめぐる攻防ができなくて、とても寂しい。

次にこの医院を受け継いだのが、S医師だった。
もちろん、この日が初対面であった。

初めて言葉を交わした印象は、
交響曲「HIROSHIMA」を、佐村河内守名義で作曲したゴーストライター新垣隆に、
雰囲気がそっくり、というものだった。

おまけに、その話っぷりが、気のいい農協の職員っぽくて、医者らしくなく、
「ああ、この人は大学医局やら病院組織なんぞでは浮く存在だったろうなぁ」
と思わせるに十分な、まことにわたし好みの変なキャラクターだったハート達(複数ハート)
年齢は、おそらく50歳前後だろう。

今までどこで何をしていたのか履歴は聞かなかったけれど、
なんだか、降ってわいたように自分の看板を街なかに出すことができて、
それが嬉しくて仕方がないというふうにも見えた。とても無邪気な人のようだ。

実は、診察カードを急遽「Kクリニック」から「S内科クリニック」に変更するので、
旧カードと交換しますと、手渡された「S内科クリニック」診察券が、
財布のカード入れに収まらない大きさだった。

ラミネート加工してあるのは構わないのだけれど、
大きさが名刺サイズというのはいかがなものか?
とくに、年配のご老人方は、他のカードのサイズとレギュレーションを合わせて、
使い勝手をよくしてあるために、自分の標準から外れる大きさのカードは、
使いにくくて仕方がなくなるものだ。

窓口の女性スタッフにそれを言ったら…
「そうなんですよ。でも、今度のセンセイ、なかなか言うこと聞いて下さらなくって…」
「おや? 困ってるの?」
「ええ…とっても…。おっしゃっていただけないかしら、患者さんの生の声の方が、
 説得力があると思いますし…。なんとかお願いできませんでしょうか?」

そんなことを事前に頼まれていたわたしは、
嫌とは言えない、どうにもお節介な性格を見抜かれたものか、
いよいよ診療…というときになって、矢面に立つことになった。

「センセイ、肺のレントゲンやバリウムの胃の具合はどうですか?」
そう言いながら、今さっき撮影したばかりのX線写真がずらりと並ぶ、
蛍光表示板を見ながら、S医師に訊いてみた。

「まぁ、肺気腫だわねェ…。タバコの吸い過ぎでしょうなぁ。
 もう、もとには戻らんから、これ以上悪化させないために禁煙あるのみでしょう。
 わたしもね、数年前まで1日2箱吸ってたからねェ…。今からするとなんて馬鹿なことを…
 と思うんだけど、あれ、止められないよねェ、いや〜お気持ち、よくわかります。うん。」
「へ〜、センセイ、吸ってらしたの? お医者さんでタバコ吸ってる人、
 めちゃくちゃ多いですもんね。いろいろストレス、多いんでしょうなぁ。」

なんだか、お互いへの不思議な慰め合いから診療が始まった。
わたしはタバコを止めてまだ数か月なのだが、
肺気腫をレントゲン撮影で指摘されたのは今年が初めてだった。
訊けば、S医師の専門は呼吸器・循環器系なのだった。
やはり専門家はきちんと見てるな。でも、自分でもバンバン吸ってたなんて馬鹿だよなぁ。
そんなところを隠さず言うあけすけさに好感をもち、逆に信用できると思った。

つづいてバリウムによる胃袋のX線写真を見ながら、
S医師は、胃袋はまったく問題なし、あなたは高血圧だけが課題だね、と。

このあと、S医師の禁煙のきっかけになったのは、友人に誘われた低山登山で、
肺への負担が大きくて登れなかったから、という話になり、挙げ句は、
お互いに鈴鹿山脈なんぞの近場で日帰り登山をやってる話に発展し、
わたしの高血圧治療のことなど、どうでもよくなってしまったのだった。

盛り上がってきた話の途中で、わたしはあのことを思い出したので、言ってみた。

「ところで、センセイ。ラミネート加工された診察券、大きすぎて使えませんよ。
 年寄りは、こういうイレギュラーなものを本当に嫌がるから、客を逃さないためにも、
 センセイ、ここはひとつ、キャッシュカード・サイズに統一してくださいよ」

「う〜ん、そうかなぁ…。名刺サイズ、あかんのかなぁ…。
 活字を大きくできるから、裏面の次回診察日の記入がしやすいしさぁ…。」
「でね、センセイ、ついでに言うておくと、カードの淵のカラーやデザインは、
 少し目立つ感じの方がいいですよ。取り出しやすいし、間違えられなくって済むんです」

せっかく自分のアイディアで大きくしたのが、思いがけない批判にさらされて、
少し面食らっているというか、がっかりしているふうでおかしかった。
まるで少年のような人なんだろうなぁと改めて思った。

わたしは、サイフからキャッシュカードと自分の名刺を取り出して、
S内科クリニックの大きなラミネート加工診察券をサイフのカード挿しにあてがい、
入れられない様子を実演してみせた。

「そうか、じゃあ、ラミネート加工の周囲の接着部をカットしてみるか…」
「いや、センセイ、そういう問題じゃなくって、根本的に治療せにゃあかんのですよ」
どちらが医者なのか、わからなくなってきた。

それにしても、初対面でこれだけ話ができる人も珍しかろう。

22日に健診結果の詳細が出てくるから、そのときまでの降圧剤を処方すると言われ、
昨日、その結果を伺いにS内科クリニックを再訪したのだが、
ガラガラの待合室の向こうの窓口のなかにいた数人のスタッフがニコニコして迎えてくれた。

「先日はありがとうございました。おかげさまでカードサイズの診察券に変更されました。
 これからも、いろいろとご指導をお願いしますね」

なんじゃそりゃ、と思ったけれども、そのうち、S先生をたきつけ、
立派なホームページを作ってさしあげて、
人気医院に仕立てあげようという計画を思いついた。

基本的に素直そうな先生だし、患者さんへの人当たりもよさそうだ。
医師としての腕前は未知数ながら、話好きで患者の心のガス抜きができるタイプなら、
これからは評判になるのではないのか?

Kクリニックの看板は降りてしまい、K先生との交流は途絶えてしまったが、
S内科クッリニックも、なかなか面白そうなお医者さんのようで、
健康管理は、深刻じゃなくって楽しくやらにゃいかん、と思っているから、
これからも末永くおつきあいできそうな感じがした。

看護師さんや医療事務スタッフのみなさんとも顔なじみなので、
S内科クリニックのIT改革へのご協力をいただきたいものだ。
S医師の背後で、このクリニックの経営戦略をつかさどるドクターとして、
楽しい商売にならんものかなぁ(笑)
15 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する