民主主義を求めて ３６． 政治学者 丸山眞男 （レジュメ仕様・≪ ≫私による注・書き込み「 」私による付記あり）
「現代政治の思想と行動」 丸山眞雄 未来社（新装第八刷より）
ｐ．２２４
「現代政治の思想と行動」 第二部 イデオロギーの政治学
�供ァ．薀好�のロシア革命観とその推移 （１／３）
まえがき
ハロルド・ラスキの名前は……。<略>
ラスキが１９９４年の著「信仰・理性および文明」（Ｆａｉｔｈ，Ｒｅａｓｏｎ ａｎｄ Ｃｉｖｉｌｉｚａｔｉｏｎ，１９４４）のなかで、いわゆる ｉｎｔｅｒ−ｗａｒ ｙｅａｒｓ に於いて、学問の専門的分化が過度に進み、学者が大衆と絶縁して、大多数の人間にとって理解できず、また現代の切実な課題に全く関わるところない研究に耽っていたことが、結局において大衆を暗黒の力に引き渡す役割を営んだ由縁を痛烈に指摘しているところを見れば、彼の最近の著作活動がこうした基本認識の上に意識的に方向づけられていることは明白である。
ｐ．２２５
……、「信仰・理性および文明」については一昨年「思想の科学」……、最近これと並ぶ戦時中の労作たる「現代の革命に関する考察」（Ｒｅｆｌｅｃｔｉｏｎｓ ｏｎ ｔｈｅ Ｒｅｖｏｌｕｔｉｏｎｓ ｏｆ ｏｕｒ Ｔｉｍｅ．１９４３） を閲読する機会を得た。
刊行の順序からいうとこの書（以下便宜上「現代革命論」）の方が、前者（以下便宜上「文明論」）よりも一年早く、序文によると欧州戦勃発後二か月目に寄稿したとある。
この書の題名は……、エドモンド・パーク「フランス革命に関する考察」（Ｒｅｆｌｅｃｔｉｏｎｓ ｏｎ ｔｈｅ Ｒｅｖｏｌｕｔｉｏｎｓ ｉｎ Ｆｒａｎｃｅ．１７９０） にちなんでつけられたものである。
現代は丁度フランス革命の時代と同じく、世界的な動乱と変革の時代であり、まさにフランス革命によって確立された社会体制とその価値体系が全く新たな文明と理念に取って代わられようとしている。
ラスキは丁度パークが１５０年前にドーバー海峡の彼方から大陸に吹きすさぶ嵐を観察した同じ地点に於いて、しかしパークと全く異なる立場から、現代世界における自由民主政とファシズムとボルシェビズムの三つ巴の相剋に立ち向かおうとするのである。
私は最初、この書に付いて先の「文明論」の紹介に倣って……（略）。
そこで私は、本書の第二章「ロシア革命」が彼の最近のボルシェビズム観を最も集約的に表現しているのを幸い、これを中心として紹介し、それとの関連に於いてラスキの今日までの思想的発展の跡を辿ってみることとした。
ｐ．２２６
けだし、ロシア革命の内包する問題こそは現代世界の最高の課題であると同時に、ラスキにとっても、１９２１年 Ｋａｒｌ Ｍａｒｘ Ａｎ Ｅｓｓａｙ． を書いて以来、彼の思想と学問が不断に対決してきた問題だからである。
（ラスキの叙述は、……。……、本論文の読者はどうか「文明論」……。……ここで省略した論点の比重が原文と異なって来る……。）
１．
ラスキのこの書に於けるロシア革命へのアプローチの仕方は……「どう見てもそれ（ロシア革命）は重要な収穫を齎（もたら）した。しかし同時にそれは、莫大な収穫を得るに、莫大な代償を払ったことを否定しても無益である。」
この莫大な収穫（ｉｍｍｅｎｓ ｇａｉｎｓ）と、莫大な代償（ｉｍｍｅｎｓ ｐｒｉｃｅ）とを正確なバランスにおいて測定することは極めて困難であり、そのために現代ロシア革命の捉われない認識と位置づけの試みが殆ど行われない。
或る人々にとってはロシア革命の達成した業績があまりに巨大であるために、その犠牲（コスト）ということを考えて見ることすらできない。
これに反し、他の人々にとってはその犠牲の醜さに圧倒されてしまって、革命のもたらした利益とか業績とかの観念自体が凡そありうべからざるものとして斥けられてしまう。
しかもこうした両極端の見方は歴史的過去の認識の違いから発生するのではなく、ロシア革命の誘発した生々しい心理感情と結びついている。
ｐ．２２７
すなわち、ロシア革命が現存秩序に対するあまりに唐突な、また鋭い挑戦であったために、それは到る処に過度の希望と、過度の恐怖の心理≪と実態≫を撒き散らしてしまった。
過度の希望とは何か。
★ ボルシェビキが比較的容易に権力獲得に成功したために、世界中の極端派（ｅｘｔｒｅｍｉｓｔｓ）は、彼らがボルシェビキと同様の手法を取った場合遭遇する抵抗の力と、更に権力獲得後、権力を固める問題の複雑さとを過小評価しがちになる。
一般に革命的オプティミズムは、人々の間に深く根を下ろした生活習慣（ｈａｂｉｔｓ）を変えることの容易さをつねに誇張する結果、人々の心理を無視した強引な戦術に走りやすい。
他方、過度の恐怖とは何か。
★ ロシア革命の感染によって既存の利益を脅かされる人々は、ロシア革命からして、いよいよ切羽詰まらない間に適当な改革をする方がいいとという教訓を引き出すよりも、むしろ、なによりまず感染の危険性から自己を防衛する切実な必要に駆り立てられる。
こうして過度の希望と過度の恐怖が激突する処、そこには寛容と説得は姿を潜める。かかる状況の下にあっては、ロシア革命の問題は嘗てフランス革命がそうであったように、冷静な思索と観察の対象となるよりも、まず帰依と憎悪の対象となる。
一から十までベタ賛美する者と反対に一から十までベタ臭しする者と二通りしかない。
★「ロシア革命の最も緊急な問題は、それを誉めたりけなしたりする前に、それを理解する必要がある。しかも世にこれほど稀なものは無い。」
だからラスキがここでもっぱら力を注いだのは、ロシア革命の過程が、なぜああした巨大な犠牲を伴わねばならなかったかの認識である。
彼によれば、ロシア革命の過誤、いな罪悪さえもが巨大であったという事は、まさにその★最高の建築士であったレーニンが何人よりも自由に承認した処であった。
★ しかもそうした過誤、乃至は、そこにまつわる醜悪さと残忍さにも拘わらず、ロシア革命が宗教改革以来史上最大の事件であり、西欧文明の社会原理が根本的に変革される第一段階をなすという事実から目を蔽うことは出来ない。この基本的認識無くしては、ロシア革命の性質は到底把握されないのである。≪反革命の根絶やし、成長年齢≫
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