『原発雑考』第３２４号の転載です。
2015・7・5
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台２丁目12-8 E-Mail tanaka49@me.com
坂田静子さんと『わたしの、終わらない旅』
坂田静子さんは、長野県の須坂に住まわれ、1977年から「聞いてください」というタイトルの反原発を訴える手作りのビラを出されていた。スリーマイル島原発事故より前のことである。以後、北信濃の反原発運動の中心として活動され、98年に74歳で亡くなられた。私個人としても、同じ中部電力管内在住だったこともあり、なにかとお世話になった方である。
その坂田さんの次女で、『花はどこへいった』や『沈黙の春を生きて』で知られるドキュメンタリー映画監督の坂田雅子さんが、福島原発事故を経験して改めて読んだ「聞いてください」に触発されて、『わたしの、終わらない旅』という映画を製作した。今年３月に劇場公開が始まり、名古屋でも上映されたらしいのだが、気づかずに見逃してしまった。どうしようかと思っていたら、ＤＶＤ版が発売されていることが分かり、早速入手した。
映画の内容は、フランスのラ・アーグ（再処理工場があり、その沖合に浮かぶガンジー島に坂田静子さんが反原発運動に取り組むきっかけを作った長女の悠子さんが住む）、マーシャル諸島のキリ島（アメリカの核実験場にされて故郷を追われた旧ビキニ島民が住む）、カザフスタンのセミパラチンスク（旧ソ連の核実験場）への訪問記である。
いずれの地においても、核がつけた傷はいまだに癒やされていないことが示される。傷が癒えないのは、放射線による健康被害と環境破壊が持続しているからだが、加害者が責任を認めず、謝罪せず、まともな補償をしていないからでもある。そして福島もまったく同じ道を歩みつつある。
軍事目的であれ商業目的であれ、核利用がもたらす災禍とそれを凝視し続けることの必要性とを静かに訴える映画である。
このＤＶＤをお貸しします。ただし個人視聴用ですので、多人数向けの上映はしないで下さい。 希望される方は連絡して下さい。
緊急時被曝限度について
日本では原発過酷事故のような緊急時に事故現場で作業する労働者の被曝限度は100��ｼｰﾍﾞﾙﾄである。これは国際的にはかなり低い、いいかえれば厳しい基準である。過酷事故への対応を真剣に考えて来なかったためであろう。
じつは2011年1月29日に、放射線審議会で緊急時の被曝限度を国際的に容認された推奨値（500〜1000��ｼｰﾍﾞﾙﾄ）に引き上げるべきだという同委員会基本部会の提言が承認されていた。そこに福島原発事故が発生し、厚労省は事故直後に臨時措置として被曝限度を250��ｼｰﾍﾞﾙﾄに引き上げた。この措置は同年12月に撤回されて、被曝限度は元の100��ｼｰﾍﾞﾙﾄに戻されている。
そして昨年7月末に原子力規制委員会の田中委員長が緊急時の被曝限度を引き上げるべきことを提案し、それにもとづいた検討がなされた結果、「緊急作業時の放射線の生体に与える影響及び放射線防護措置について教育を受け、かつ緊急作業についての訓練を受けた者で、緊急作業に従事する意思がある旨を書面で申し出た者」については、被曝限度を250��ｼｰﾍﾞﾙﾄへ引き上げるという内容の法令改正案が作成された。福島原発事故時の臨時措置と同じ基準で、国際的な推奨値よりはかなり低いものである。
この改正案にたいし、従来から原発労働者の被曝問題に取り組んできた団体を中心に
�� 被曝限度引き上げは作業員の健康をいっそう危険に晒すことになる
�� そういうことを必要とする原発（の再稼働）はやめよ
という声が上がっている。
過酷事故が発生した際には、それが破局的な事態へ拡大深化することをなにがなんでも阻止する必要がある。そのためには死を覚悟してでも高線量の場所で作業せざるをえなくなることがありうる。いわゆる決死隊の問題である。福島原発事故の際の作業員の一時避難に関連してこの問題が議論され、私も論じたことがある（本誌２９７号）。
過酷事故時の作業については、労働者保護の必要と決死隊の必要という二つの問題を視野に収めて論じなければならない。上に紹介した被曝限度引き上げ反対論には後者についての言及が欠けており、やや一面的で、反対論としてのインパクトを弱める結果になっているという印象を免れない。
今回の改正案への対応として、求められているのは、
�� 緊急時の被曝限度250��ｼｰﾍﾞﾙﾄは､労働者保護の観点から妥当か。
�� 緊急時に作業する労働者の本人同意はどうするのか
�� 250��ｼｰﾍﾞﾙﾄ以上の被曝が予想される場合はどうするのか
といった問題をセットで論じることである。
�，砲弔い討蓮�各所で論じられているので、ここでは省略する（さしあたり〈ヒバク反対キャンペーン〉のホームページを見られたい）。
�△砲弔い討蓮∧‥膰業�事故の際にあったような明確な本人同意なしでの緊急時被曝限度適用は論外であり、本人同意は絶対に欠かせない。ただしここには難しい問題がある。
改正案では本人同意がいつ求められるのかが明確でない。おそらく平時に同意する者を募り、応募者に改正案が求めているような教育と訓練を施しておくということになるのであろう。そうだとしたら、実際上は同意することがその職務を続けるための条件なってしまう恐れが強い。これでは事実上の強制である。きわめて稀にしか起きない過酷事故の際に危険な作業に従事することについてあらかじめ同意することを就業の条件とすることは、倫理的に正当化されないのではないか。フランスでは、事前に緊急時作業の同意を取っておくが、その場になって同意を撤回する権利も保障するシステムになっているらしい。これは上記の倫理的批判に配慮したシステムだが、このシステムでは同意を撤回する者が多数現れれば、作業に必要な員数を確保できないということが起きかねない（同意を前提にする限り、必要な員数を確保できるのかという問題は常につきまとう）。
作業員の大多数は下請け労働者であることを考えると、同意はもちろん教育・訓練がきちんと行われるのかという懸念もある。
��が決死隊の問題である。緊急時の被曝限度を250��ｼｰﾍﾞﾙﾄにするということは、それ以上の被曝が見込まれる場合には事故の拡大防止・収束作業は行わないということになるのか。そうだとすれば、その結果もたらされる外部への大量の放射能の放散にたいして誰がどう責任を取るのか（責任など取りようがないだろう）。逆に、被曝限度以上の被曝を覚悟してでも決死の作業をやるほかないというのであれば、そもそも被曝限度を設けることになんの意味があるのか。
原発を稼働すれば過酷事故発生の可能性は排除しえない。そして過酷事故が発生した場合には作業員のぎりぎりの安全確保と外部への放射能大量放散防止のいずれを優先するのかという究極の選択が迫られることになる。原発を稼働するには、この究極の選択にどう対応するのか、広範な議論（内容は優れて倫理に係わるものになろう）にもとづいた社会的合意がまず存在していなければならない。緊急時被曝限度の設定などはその後の話である。
雑 記 帳
ツバメのヒナは１羽だった。巣には孵化しなかった卵が3個残っていた。5個産んでいるから、残りの１個は、孵化したが、生育しなかったようだ。
昨年までは最低でも３羽は孵化したし、孵化しなかった卵が巣に残されていたこと（＝不孵化）はなかったから、今回はきわめて異例である。
ヒナは、１羽だけなのでエサをたっぷり貰えたせいか肥満気味で、なかなか巣立とうとせず、６月９日朝にやっと巣立った。巣立ってから二、三日は巣に戻ってエサを貰い、それ以後も二週間ほど夜は巣に戻っていた。
巣立ってから巣に戻ることはよくあるが、これだけ長期間続くことはなかった。兄弟がいないので親と行動を共にしがちであることや、その親が二度目の産卵に備えて見張り（スズメに乗っ取られないよう）や手入れのためにしょっちゅう巣に飛来していたことが理由だろう。
6月16日から二度目の産卵が始まり、18日まで一日一個ずつ産み、19日から抱卵をはじめた。順調にいけば７月上旬に孵化する。
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