久しぶりに山田君と会った。夜、僕の家の門前で話していると、知らない男女が「こんばんは」と言ってきた。僕はへらへら会釈してすごすごとその場をあとにした。振り返ってみるとその二人は家のチャイムを鳴らしていた。山田君に「知り合いかい?」と聞かれたが全く知らなかった。ひとしきり徘徊した後、メカに強い山田君に最近買ったスマホをWIFIに繋げてもらうために家に戻った。
親に「さっき来てたの誰?」と聞くと「山出君のお父さんとお母さんだよ」と言われた。山出君は幼小中高の同級生で当時から男気溢れるイケメンで僕もリスペクトしていた。どうやらその山出君が結婚したらしい。山出君とは幼稚園入園初日に殴り合いの喧嘩をし、小5の修学旅行では夜中3時まで世紀末リーダー伝たけしの話をした仲だった。あと中2の運動会のリレーでトップを独走していた山出君に僕とテニス部の皆川で「山出くーん!」と声援を送ったら、走りながら指2本をシュッと額に当てて余裕でレスポンスをくれて、僕と皆川は「かっけぇ!!」と腰から崩れ落ちたものだった。
しかし先ほどの二人が山出君のご両親とわかっていたならちゃんと挨拶して、気の利いたことの一つも言えただろうに、悔やまれる。山出君のお母さんは20年ほど前に会ったきりだったがその頃からあまり年をとっていなくて綺麗だったので脱帽した。
山田君に山出君が結婚した旨伝えると「へー」と薄いリアクションをとった。
スマホはWiFiに繋がった。そのお礼にお菓子をあげることにした。ちょうど家に動物などの絵が描かれたクッキーが5個あった。一つ一つ箱に入っていて凝ったものだったのでその中から一つ選んでもらうことにした。
山「この中からセレクトできるのかい?」 僕「そうだよ」
山「他は全部動物なのに一つだけ一貫性がないからこれにするよ」とロケットを選んだ。
山「これ何個もらえるんだい?」 僕は一つのつもりだったが「もう一ついいよ」と言った。
山「じゃあこれにするよ」とペンギンを選んだ。 僕「お母さんにでもあげてくれよ」
山「これ全部もらえないかい?」 僕「全部はだめだよ」
山「さすがにそれは欲張りだね」 僕「じゃああと一ついいよ」
キツネとコアラとシマウマが残っていた。私はこの中だとキツネが気に入っていた。
山「これにするよ」 キツネを選んだので「キツネはやめてくれるかい」と言った。
山「じゃあコアラにするよ」 僕「コアラならいいよ」
「山出君は結婚して、かたやこれだからね」と山田くんが言った。その通りだった。
後で聞いた話では結婚したのは山出君ではなく山出君の弟だった。でも山出君もすぐ結婚するに違いない。
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