歌会始のお題、今年は《本》でした。
例年、皇后陛下の御歌は、鈍い私が拝見しても格調の高さを感じます。新聞に依っては
《御製》などそっちのけで皇后様の御歌を先に解説してますけど、昔ならXでしょう。♪
国民の入選歌は、口語調が多く、何か奥行きが浅くなる気がします。その点、召人や
選者の方々の文語調は、如何にも短歌、と思わせられます。でも、仕方が有りません。
先方はプロですから。皇后さまが応募なされば、確実に最多入選者でしょうね。
でも、私は、一見 陽の当たらない感じの佳作が、健気に思えて好きです。詠進歌は
予選に決まった時点で電話が有り、後日 封書で入選か佳作か知らされます。佳作の歌は
作者に激動の喜びを与え乍ら、虚しく格落ちする。慰め励まさずにはいられません。
私のお気に入りは「離れ住む父」を詠んだ一首。選歌にならなかったのが不思議。
他にも心打たれ読み返してしまう佳作が何首もあります。作者名まで味わいます。♪
先ずは、今年（平成27年）の佳作（17首）をどうぞ。
佳 作 (詠進者生年月日順)
初買ひは「フランダースの犬」ときめ 孫に道みち粗筋きかす 東京都 原澤��司
子ら去りし本箱に差す月あかり ミヤマクワガタ図鑑に眠る 愛知県 林多惠子
図書館の三十万分の一の本「梁塵秘抄」を選りて読みだす 青森県 八木田順峰
コンバイン 後もどりさせ一本のたふれし稲をすくひ刈り取る 鹿児島県 有馬徹夫
手締めする一本締めの皆揃ひ 小さな村の役員決まる 長野県 藤沢庄吉
良しの説出づれば悪しの説もでて健康本は花ざかりなり  東京都 齋藤洋子
かたまりて静かに絵本を見る園児 どんぶらこつこで身体を揺らす 福岡県 大橋拾子
本籍は島根の埼の十六島（うつぷるい）心離さず東京住まひ 埼玉県 青木 功
水糸の二本を夫と持ち合ひて 声を掛けつつ畝作りする 埼玉県 中川八枝子
離れ住む父は本音をふと洩らす 用件だけの文（ふみ）の終はりに 京都府 中村悦子
本州を内地と呼びし若き日の 津軽海峡は荒れて横たふ 岐阜県 江尻惠子
それぞれに本一冊を入れ終へて夫婦の旅の支度整ふ 兵庫県 箱根知子
古本のしをり代りの切符には夏の日付と学割の印 北海道 矢本郁郎
木もれ日は西條八十にとどきをり糺の森の古本市に 京都府 高橋武司
また今日も私は本に負けるのか君の視線を奪つてやりたい 奈良県 丸森珠実
本の虫 私がすすめて読んでゐる君が上巻私が下巻 滋賀県 花谷風薫
周囲から頑張れといふプレッシャーだから本心隠してしまふ 奈良県 安部風花
次は、10人の入選歌です。
選 歌 (詠進者生年月日順)
若き日に和本漁りぬ京の町目方で買ひし春の店先 奈良県 伊藤嘉啓
おさがりの本を持つ子はもたぬ子に見せて戦後の授業はじまる 新潟県 吉樂正雄
竹垣の露地に仕立てた数本の太藺（ふとゐ）ゆらして風わたりけり 愛知県 森 明美
大雪を片寄せ片寄せ一本の道を開けたり世と繋がりぬ 長野県 木下瑜美子
「あったよねこの本うちに」流された家の子が言ふ移動図書館 千葉県 平井敬子
本棚に百科事典の揃ひし日に父の戦後は不意に終はりぬ 埼玉県 森中香織
二人して荷解き終へた新居には同じ二冊が並ぶ本棚 茨城県 五十嵐裕治
雉さんのあたりで遠のく母の声いつも渡れぬ鬼のすむ島 神奈川県 古川文良
暑い夏坂を下ればあの本のあの子みたいに君はゐるのか 岡山県 中川真望子
この本に全てがつまつてるわけぢやないだから私が続きを生きる 神奈川県 小林理央
今年の皇族方や召人・選者のお歌は、宮内庁HP↓でどうぞ。
http://www.kunaicho.go.jp/culture/utakai/pdf/utakai-h27.pdf
過去のお題や歌の数々は、こちら↓に出ています。
http://www.kunaicho.go.jp/culture/utakai/odai.html
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★ 余談ですが、平成六年の規則改正で実現した《入選欠席者の披講》
《披講されなかった最後の欠席者》は、平成五年お題「空」での谷川さん
なえし手に手を添へもらひわがならす鐘はあしたの空にひびかふ 岡山県 谷川秋夫
《欠席で初めて披講された入線者》は、平成八年 お題「苗」での福士さん
青紫蘇の匂へる苗を盲ひわが指にて尺を取りながら植う 青森県 福士重治 
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