近年、完全にイケメン枠を飛び出して、円熟の域に足を踏み入れたブラピ主演の最新作。
ブラピ演ずるは、実在の大リーグ球団の敏腕ゼネラルマネージャー。
老練スカウトたちの経験や勘といった、あいまいで表意的な評価基準に対して、彼は、統計データという、『誰の目にも明らかな』指標を駆使して、貧乏チームの活性化に挑みます。
しかし、彼が対峙するのは、表向き、既存の硬直した価値観のように見えて、実は、彼の内なる過去そのものでした。
彼は、若い時分にスカウトされて大リーグ入りし、活躍を期待されながらも、望まれる結果を出せないまま引退していたのです。
実際、スカウトというのは、酷な職業だと思います。
なにせ、目の前に居る若者が示す商品価値は、あくまでも『現在の環境下のもの』であるにもかかわらず、彼等は、そこに『新たな環境に置かれた場合の変異』を加味して、『未来の商品価値』を見積もらねばならないのです。
そして、その、実際の見積り失敗例が、この物語の主人公であるビリー・ビーンという、意地の悪い構図。
一流であろうと、三流であろうと、大好きな野球を追いかけて一生を捧げた面々が、その世界に執着することは当然の流れだと思います。
ただし、引退後も相応の名声と金銭を手にできるのは、ごく一部の『超一流』のみ。
たとえ、そこそこ一流であったとしても、相応のプライドもあり、むしろ、超一流ではないと自覚するが故に、その世界に強く執着せざるを得ない面々も居るでしょう。
そういう現状を理解しつつも、失敗例の当事者のビリーにしてみれば、彼等の存在価値自体、当たるも八卦当たらぬも八卦の山師のそれとかわりがないように思えたでしょうし、意地の悪い言い方をすれば、出来の悪いスカウトというのは、野球業界の抱える天下り構造の弊害とさえ思えてきます。
ビリーの持ち込んだ評価手法は、斬新で判りやすい反面、そんな甘えた体質を問答無用で切って捨てる厳しさを持ちます。
厳しいプロスポーツの最前線から足を洗いかけの面々に、足を洗ってなおプロであれというのは、非常に冷たく聞こえますが、『前途ある若者の未来を決め付けてしまう立場がプロ的でないほうがおかしい』のです。
さておき、この作品の素晴らしいところは、計画的に運んできた物事の結末が、偶発的な事象で、いとも簡単にひっくり返される様子や、『冷静にマネジメントを行う主人公の人生のコントロールが、極めて表意的』な側面を的確に描いている事だと思います。
人は、他者を冷静に観察する一方で、その論理を自身に向けられる程、冷徹ではいられません。
彼が、心底冷徹なら、拘りを捨てて新しいオファーを受けているはずですし、そうしたほうが、彼の商品価値は上がるでしょう。
それをせず、自身の内なるけじめと拘りに執着し続ける様は、統計的には実に愚かしい戦術に違いありません。
しかし、そういった見果てぬ夢を追う姿が、我々の眼に『美しく輝いて見える』のも、まぎれも無い事実なのです。
<余談>
ところで、この作品のエンドロールには、おなじみのアメリカビールの協賛が出てくるのですが、本作のブラピを見る限り、最もふさわしいビールとキャッチコピーは…
男は黙ってサッポロビール
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