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2006年06月01日 23:07 更新

 夜半から降り出した雨は朝方にはやんでいた。だが、空を見上げるとどんよりと厚い雲がたれ込めていて、いつまた降り出すか分からないような空模様であった。
 梅雨入りにはまだ早い。例年だと真夏を思わせるような日があるのだが、今年は雨が多くて肌寒い日が続いていた。
 N県F市の市域は広い。市の中心部から山の方へおよそ十キロ程入ったところが、政夫の住むT地区だった。大字をTといい市内でも広い方に入るだろう。
 政夫は四月に中学二年生に上がったばかりだった。急に身長が伸びてきた。声変わりも始まって、
「あそこに毛は生えたかや」
 などと近所のおばさんにからかわれて、顔を赤らめることがあった。
(大人になっていくんだ)
 と思うと、政夫は嬉しくもあり、気恥ずかしくもあった。
 政夫の家はT地区の大通りからはずれた高台にあった。そのため、自分の部屋の窓から往来を見下ろすことが出来る。
 政夫が顔を空から通りに移したとき、登校する美代子が見えた。
「おーい。こんな早うに行くんか?」
 政夫は中学校に向かう美代子を眼下に見て声をかけた。
 幼友達である。最近急に女らしくなって、紺色のセーラー服がまぶしく見えるときがある。
「何言うとんの。今日は模擬試験の日やろ」
「いけね!」
 美代子の応えに、政夫は慌てて顔を引っ込めた。
 今日は高校進学のための第一回目の模擬試験の日だったのである。
「朝ご飯はどうすっと」
「抜き、抜き」
 母親の問いにぶっきらぼうに答えると、制服に着替えて慌てて家を出た。
 政夫の家から中学校まではおよそ二キロである。山間の小さな中学校だが、進学率は良い方で、県下有数の進学高校に必ず何人かは入っていた。
 政夫も美代子もクラスでは上位の成績で、当然その進学高校への期待がかかっている。
 政夫の家と中学校のちょうど真ん中に橋がある。橋を渡るとT地区の商店や農協などが建ち並んでいて、その先に小学校と並んで中学校があるのだった。
 橋を渡りながら下を流れる川を覗くと、水流が激しさを増していた。いつもは澄んだ水だが、今日は土色に濁っていた。昨日の雨のせいだ、と思いながら橋を渡ると、ぽっ、と雨が落ちてきた。
「いかん」
 慌てて家を出て来たために傘を持ってこなかったのだ。
 目を正面に向けると、濃い緑を湛えた山に急速に白い霧が降りてくるのが分かった。これから雨は強くなる、という合図だった。
 案の定、すぐにざーっつと雨が降り出して、政夫は慌ててカバンを頭にのせた。そのまま、農協の入り口の庇のところに身を寄せた。
(ちっきしょう)
 後悔したが遅い。中学校まではあと二、三分だが、雨脚は強くなっていく一方で、これでは確実に全身が濡れると思われた。
(どうしよう)
 下を向いて、遅刻かな、という思いが頭をかすめたとき、政夫の傍にセーラー服が寄ってくるのが目に入った。
「お入り。一緒に行こう」
「え・・・・」
 声がして傘が政夫の頭の上にすっと寄った。
 政夫が顔を上げると、そこに上品なセーラー服姿の女性が立っていた。三年生で生徒会長をしている山野恵子だった。瓜実顔で整った目鼻立ち、色の白い美人で全校生徒憧れの女性である。政夫には先輩にあたるが、同級生の山野達夫の姉でもあった。
 達夫の家に遊びに行ったとき、
(綺麗な人やなあ)
 といつも思いながらも言葉を交わしたことは一度もなかったのだった。
 政夫は電気ショックを浴びたようにその場から動けなくなった。
「・・・・」
 そんな政夫を見て、恵子は心持ち首を斜めに傾げて微笑んだ。
「あ、いえ、大丈夫です」
 恵子の微笑みをそのまま受け止めた政夫は心臓が早鐘をつくようにドキドキしてきた。このままその場にいるのが気恥ずかしくなって、だっと雨の中を中学校に走って行った。雨に濡れるのも構わずに。
 学校に着いたとき政夫は濡れネズミのようにびっしょりだった。雨のために制服が肌に張り付き、髪の毛からは水滴がしたたり落ちている。だが、不思議と不快な感じはなかった。それよりも傘を寄せてきた山野恵子の顔が思い出されて、このままじっとこうしていたい気持ちだった。
 雨はまだ降り続いている。政夫は今日の雨に親しいものを感じて校門の方を見た。煙る雨の向こうに傘を差した山野恵子が入ってくるところだった。

コメント(3)

  • [2] mixiユーザー

    2006年06月13日 10:41

    「雨」


    僕は、しろ。
    朝から雨が降っている日に、美紀ちゃんに拾われたから
    僕は美紀ちゃんのネコだ。

    雨という言葉は、美紀ちゃんに教えてもらった。
    雨というその言葉を教えて貰った日は、台風とかいうヤツが来ていたらしい。
    朝から外では何かが唸っているようなびゅーびゅーという音がして、窓を叩くヤツが居るから、僕がおもわず外を眺めたら、美紀ちゃんが僕を抱きかかえて言った。
    「雨は嫌い? こっちにおいで、しろ」

    雨は嫌い。でも、嫌いなのと同じくらい好きでもあるんだ。
    美紀ちゃん。

    そう、美紀ちゃんの話をしよう。
    美紀ちゃんは、毎日朝起きて、僕に御飯をくれながら自分も御飯を食べて、それからテレビを少し見ながらお化粧をして、いつも決まった時間に出ていく。
    コトコトいうヤカン。
    お化粧のかすかな匂いと鼻歌を振りまきながら、家中を歩き回る、美紀ちゃん。
    「行ってくるね」と僕をなでてくれる美紀ちゃんの手は、暖かくて……
    テレビの天気予報を見終わると、僕の頭を軽くなでてから元気に走って出掛けて行く。
    僕の、大切なひと。

    その日の前の日も、いつもと変わらない朝だった。
    日が昇って、美紀ちゃんは起きると僕に御飯をくれてお化粧をして鼻歌と共に外に出掛けて行った。
    いつもと少し違ったのは、着ていた服を2回も着替えて、何度も鏡を見ていた事だけだったけれど。
    でも、お昼過ぎに、美紀ちゃんは「ただいま」も言わず帰ってきた。
    似合っていた可愛い服を脱いで、顔を洗って電話のある机に頬づえをついた。
    僕を撫でてもくれない。

    そして、電話が掛かってきた。
    「ちょっと。今、何時だと……」
    美紀ちゃんが、いきなり黙った。
    え? と何度も聞き返していた。本当ですか? と何度も聞き返していた。
    僕は、美紀ちゃんの膝に乗って美紀ちゃんを見上げたのだけれど、美紀ちゃんはそれにすら気がつかないようだった。
    その僕の頭に、雨が降ってきた。
    雨は僕の鼻面をぬらし、ヒゲを伝って僕の前足に落ちた。
    いく粒もいく粒も、落ちた。
    僕の頭の上から降ってくる雨は、止むことは無かった。

    そして、美紀ちゃんは二日近く帰って来なかった。
    大量に御飯を置いて行ってはくれたんだけど。
    帰ってきた時も、美紀ちゃんの目からは雨が降っていた。
    あれからずっとずっと降っていたんだろうか。

    玄関で靴を脱いだ美紀ちゃんは、よろよろと机まで歩こうとして、途中の床に座り込んでしまった。
    膝を抱えたまま宙を見続けている美紀ちゃんの傍で、僕も座った。
    僕の背中に雨があたった。
    背中がじんわり湿ってきた。雨が降ると、毛がじんわり湿るから
    僕は雨が嫌いだった。
    でも、雨は好きでもあるんだ。
    虹は雨のあとにしか出ないんだよね? 美紀ちゃん。
    あの綺麗な虹が見られるんだったら、雨も、悪くないよね。


    雨が晴れたら、また二人で虹を探しに行こうよ。
    ……ねえ? 美紀ちゃん。 
  • [3] mixiユーザー

    2006年06月13日 10:57

    「破滅の書」序章

    “アレクランサス”と呼ばれる大陸があるという。
     地の果てのそのまた果てにあるのか、もしくは“あった”のか……それすら、誰も知らない大陸だと言う。
     そんな大陸に、今だ闇が濃く残っていた時代。
     中央海より東南に位置するアクバルシア地域の街道を、ただ黙々と歩く一行の姿があった。

     別名を『荒ぶる鷲(ヴォルデルーカン)』とも呼ばれるその大陸の空を嵐雲が覆ったのは、もう日も落ちた夕方のことだ。
      始めは大地に黒く染みをつけていた雨が、急に土砂降りの大粒となって降り始め、吹き荒れる風は、収穫前の小麦畑をめちゃくちゃにしただけでは飽きたらずに木々をすら根元から揺さぶり、畑にいた農民に家路を急がせていた。 
     魔物が徘徊する大陸特有の重い夜が、あたりを包み込む。
     そして本来、街道からでも見えるはずの街明かりも、暗闇と滝のように降りつける雨にかき消され、急ぎ足の一行の目には届かないようだった。

    「……大丈夫か」
      先頭を行く、はしの擦り切れた赤茶の外套を、長衣のように頭から体までしっかり巻き付けていた背の高い男が、すぐ右隣の痩せぎすに向かってつぶやいた。
    赤茶の外套から赤髪から、大粒の水滴が地面に流れ落ちる。
    「どしゃ降りの中を二刻(ザン)以上歩いて、もう長衣どころか中の肩衣まで体に張り付いてきてる……おまけに泊まるあてさえ無い」
      氷粒のような雨がひたいから目に流れ込み、目をしばたかせながら、痩せた男はそう毒づいた。
      一行の中で一番いい黒絹服を二枚着込んでいてさえ、かれは半刻に十回は寒さをこぼしていた。
    「骨まで凍りそうだ、まったく」
     頭巾つき長衣の首元から入りこむ雨に眉をひそめると、細く神経質そうな凍えた右手で首元をおさえる。
    前をゆく筋力バカの男には分からないだろうが……と、目深にかぶった頭巾からのぞく血のような赤眼で陰気にわらい、彼は、青白い指で真新しい黒長衣のふちの銀刺しゅうをなでた。
    “我、光のつえを掲げ御下へ進まん”と古代公用語で綴られている、神聖な、聖職者のための長衣だった。
    だが黒衣ということは、赤眼の二十代初めのこの男は、世ではあまり歓迎されない神に仕えているという証しだった。
      ゴホンとせきをすると、一行の中では一番背の低い黒長衣の男はまたも辛辣な顔で口を開いていた。
    「どなたかの素晴らしい御提案で先をいそぐ羽目になり、大変けっこうな旅をしていると思いますよ。腹はすいたしこの大雨に馬は無し。それが大丈夫なら大丈夫ですとも、なあヴァン?」
      振り向きもせず、痩せぎすはとなりをゆく中肉中背の男に話題を放った。
     話し掛けられた男は、ため息をつきかけ、そんなことですらもうしたくないとばかりに足元のぬかるみを見つめる。
    「アレクセイだけの責任じゃあるまい? それに、そもそも馬を売ろうと提案したのはおまえだろうが。……な、レイモンド」
     ヴァンの緑眼が、ぬれそぼり額にはりついた黒髪ごしに左斜め前を一瞥した。
     
     三人の男の中では一番見目の良いかれは、黒の短衣と乗馬用ズボンの上に、足首までを覆う薄茶の外套を着こなしていた。
     すべて高価な雌レイヨウのなめし皮で、衣ずれの音を全く立てないその柔らかさと軽さが、彼の自慢だった。だが、その御自慢の品も雨で足に絡みつき、ヴァンは、左手で外套をたぐるとバサバサと振って水滴を払う。
    「皮が駄目になっちまうぜ。……ったく」
    「そうよ、ひとり“被害者”って顔しないで欲しいもんだわ。そこの痩せぎすっ」
     その痩せぎすとあまり背格好の変わらない人影が、頭から被っていた若萌色の外套から琥珀のような瞳を覗かせた。
     溶かした金色、だろうか……人外の美を感じさせる形良い瞳に、細く通った鼻筋、雪のように白い額には、燃えるような光を放つ金の髪が一筋、雨で張り付いていた。
     共通語を話してはいたが、子音を鋭く切る独特の抑揚がみなの耳につく。
    「ああ、もおまったく、あんたたちについて来るんじゃなかったわ。誰が被害者って云ったら……ファーロン、あなたよね」
    「ムンディ。ぼくって被害者だったの?」
     緑外套のムンディのすぐ右を歩いていた四つ足の生き物が、口を開いた。
     あたまが軽く腰の高さを越え、鼻先から尾の先などは先頭を行くアルフレッドの身長程もある狼だった。
     牙でさえ大人の親指ほどの太さがあったが、さらに一行が驚いたことには、犬などと比べられないほどに大きなかれに
    “これでもみんなの半分だけどね。僕、まだ育ち盛りなんだって……ねえ、育ち盛りって何だかわかる?”と呑気に云われたことだった。
    「ねえ、被害者ってなあに?」
     ムンディとは逆に、子音を伸ばす抑揚の共通語を話すファーロンにムンディは答えた。
    「馬鹿者ってことよ」
     その答えに、ファ−ロンは嬉しそうに太い尾を振る。
    「そうなんだぁ。ムンディって頭良いね」
    「あんたが馬鹿すぎるだけのことでしょ」
    「そう、かなあ。でも分かんないことあったらムンディに聞けばいいから、ぼく馬鹿でもいいんだ」 
     ぴったりと擦り寄ってきたファーロンの脇腹に、ムンディはすかさず蹴りを入れた。
    「馬鹿! くっつかないでよその体で。ああ、汚れちゃったじゃないの」
     地面に一番近く、皆よりも倍多い脚でぬかるみを歩いていたファーロンは、見るも無残な茶褐色の生き物になってしまっていた。雨で、濡れた毛は張り付き、いつもでさえ痩せぎみの体がいっそう惨めに見える。
     あばらさえ浮き出ていた。
     もとが白く美しい毛並みだと、いまのファーロンからだれが想像出来るだろう。
    「ねえ、ごめんね。ムンディ、怒ってる?」
    「怒ってない。でも次にあたしにくっついたら怒るわ」
    「うん」
     ファーロンの広い背に一段と大粒の雨が跳ね、あたりは水の結界でも張られたかのような土砂降り状態を見せていた。
    もう二馬身(アルタッド)ほど先をゆくアルフレッドとレイモンドすら見えない。
     滝の近くにいるようなひどい雨音のなか、ヴァンは、またムンディに蹴飛ばされるファーロンを眺めていた。
    “マ−ヤよ呪われてあれ”だぜまったく。

     大雨にヴァンが悪態をついた時だった。
     黒衣のレイモンドが立ち止まり、ヴァンはレイモンドに危うくぶつかる直前で足を止める。
    「マーヤと言えば、気になりますね……」
     自ら、黒狼神(マーヤ)の耳と嘲っているほど鋭い聴覚を持ったレイモンドが、血のような双眸をヴァンに向けた。
     視界の効かない沼の中のような暗闇に、赤眼は、遠くの篝火のようにきらめいている。
     頭巾からはみ出た黒髪が顔に張りついていた。
    「カーナ大陸の黒大森林……別名マーヤの呪われし森で冒険者が多数行方不明になっているという話。その多数が、半端じゃないらしい」
    「へえ……知らなかったな、初耳だぜ」
     ヴァンには口にした通り初めて聞く話だった。だが、雨の中で立ち話をするほど重要な話でもないだろうがと心の中で呟く。
     するとレイモンドが低い声で告げた。
    「その通りだ、先を急ぎますか。ただ黒衣の魔術師風の集団があちこちで目撃されているというのが気に掛かって、ね。
    余計なことに巻き込まれたくありません」 
     黒衣というだけで。と付け加え、レイモンドはきびすを返して歩き出した。
     長靴が、くるぶしまでぬかるみにはまり、足をあげるたび着くたびにヌチャヌチャとあまり聞きたくもない音を立てる。
     足もとの泥溜りの感触と、黒長衣の頭巾から入り込み黒髪をも濡らす氷粒のような水滴は、正直言ってあまり気持ちいいものではなかった。その悪寒に身震いしながら、レイモンドは、こんなことになってしまった事の発端を思い出していた。

     それは三月前の、夜半過ぎの事。
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