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開催終了3/24木pm7半 第九回文芸部勉強会 (小説の)フィルターをはずす遊び

詳細

2016年02月29日 19:57 更新

第九回文芸部 (小説の)フィルターをはずす遊び

 1. みなさま、作者が人気だとか有名作品だとかという理由だけで小説を読んでいませんか?自分では気がついてなくても、知らず知らずの内にフィルターというのはかかってしまっているところ。我々は意識しない間にも、その作者が人気だとか作品が有名だとかを念頭に置いて小説を読まされてしまっています。

 2. そこで、今回の勉強会では、そういった意識のフィルターをはずす遊びをしてみようと思います。フィルターを通さないことを目指すために、作者の名前と作品名を伏せて、目隠しの状態で読んでみましょう。それによって、その小説がどんな景色を見せてくれるのかを体験します。さらには、その匿名性により深く小説世界の中へ入っていけることを会の最終目的として望んでいます。

 3. しかしながら、特別な課題はないのでお気軽にご参加ください。参加表明された際には、ご自分の気になっている小説の冒頭部分を最低三つ書き込みください。(自分が好きなものとは限りません。嫌いなものであっても、気になるものであれば何でも)続きの遊びを考えていますので、今回は小説の冒頭の部分だけを引用ください。長さはお任せしますが、短くても結構です。


時間:19:30〜(21:00終了予定)定刻にお出で願います。恐れ入りますが、開始10分前以前のご到着はご遠慮ください。

司会:無味無臭改めエディーさん

�儕�れたテーマとしては、優れた小説には何かの共通点があるかということです。探してみましょう��

今回は課題本や決まった課題はありません。

A. 以前の勉強会でやった内容をぶり返したり、ムリヤリ関連付けるのは大歓迎です。B. その際に過去の回の参加者は時を経て得られました着想を発表できます。

それではご参加のみなさま、当日よろしくお願いいたします。今回もまた小説について深くお話できることを楽しみにしています。

日時 3月24日(木)pm7:30開始 pm9:00 終了予定

※ 開催場所、形式は「半蔵門でゆるい読書会」と同じで 下記の通りです 。
参加費
 1000円(紅茶またはワイン1杯付き)
 お食事をご希望の方はコメント欄でお申し込みください(別途500円。内容はお任せ願います)。
 また、確認の意味で、お食事不要の方は、お手数ですが、「食事不要」とご記入ください。
お土産について:読書会中に皆でつまめる菓子、果物などのお土産は歓迎です。なお飲み物のお土産はご遠慮ください。(CafeBarKIYONOは飲食店です。お食事の持ち込みはできません。飲物の持込は1000mlまで/ごと500円の持込料を申し受けます)

定員:8名 ( JONYさん、司会を合わせて8名とさせていただきます)

会場: 千代田区平河町2-2-5カフェバーKIYONO 電話5212-4146
地図:googleマップで「カフェバーきよの」で検索
http://bit.ly/p15SIR

参加申込 : 下記のコメント欄にお食事の要否を記載して、このイベントの参加クリックボタンを押してください。

コメント(31)

  • [2] mixiユーザー

    2016年03月03日 19:46



     謎のサンプル 1


     ある朝、一隻の宇宙船がペンギン村に不時着して、その中にはニコチャン大王が部下を一人連れて降りてきた時、はるばあさんはこれでペンギン村もあの忌まわしい夢から覚め昔のような賑やかさを取り戻すにちがいないと思い、その光景を目撃した村人からその時の様子を訊きだそうとした。「その連中は空から降りてきたんですね?」はるばあさんがそう訊ねると、村人はそうだとうなずき、真っ青な空から轟音とともに一隻の宇宙船が沼のほとりに着陸し、やがてその中から宇宙船に身をかためたニコチャン大王は大地に降り立つと、あたりを見回し、近くの沼まで歩いて行って釣り糸を垂らした。

  • [5] mixiユーザー

    2016年03月05日 15:21

     
     
     謎のサンプル 2


     もはやお忘れであろう。或いは、ごくありきたりの常識としてしかご存じない方も多かろう。が、試みに東京の舗装道路を、どこといわず掘ってみれば、確実に、ドス黒い焼土がすぐさま現れてくる筈である。
     つい二十年あまり前、東京が見渡す限りの焼野原と化したことがあった。当時、上野の山に立って東を見ると、国際劇場がありありと見えたし、南を見れば都心のビル街の外殻が手にとるように望めた。つまり、その間にほとんど建物がなかったのだ。
     人々は、地面と同じように丸裸だった。食う物も着る物も、住む所もない。にもかかわらず、ぎらぎらと照りつける太陽の下を、誰彼なしに実によく出歩いた。
  • [12] mixiユーザー

    2016年03月12日 13:18

    >>[10] みけねこさん、

    よろしくお願いします!

    しっかり読めるようになることを目指そうと思います。
  • [14] mixiユーザー

    2016年03月12日 13:20

    申し遅れましたが食事はいらないです。
    よろしくお願いします。
  • [16] mixiユーザー

    2016年03月12日 16:36



     謎のサンプル 


     あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。
     夫は、隣の部屋に電気をつけ、はあっはあっ、とすさまじく荒い呼吸をしながら、机の引出しや本箱の引出しをあけて搔きまわし、何やら捜している様子でしたが、やがて、どたりと畳に腰をおろして坐ったような物音が聞えまして、あとはただ、はあっはあっという荒い呼吸ばかりで、何をしている事やら、私が寝たまま、
    「おかえりなさいまし。ごはんは、おすみですか? お戸棚に、おむすびがございますけど」
     と申しますと、
    「や、ありがとう」といつになく優しい返事をいたしまして、「坊やはどうです。熱は、まだありますか?」とたずねます。
     これも珍らしい事でございました…………
  • [17] mixiユーザー

    2016年03月15日 22:37

    第14回の活動に参加させていただきましたやぐうです!
    また参加させていただきます〜
  • [18] mixiユーザー

    2016年03月15日 22:44

    食事は不要です
  • [20] mixiユーザー

    2016年03月18日 12:36


    謎のサンプル

    今度ばかりはさすがにお終いまで読み通してほしいと強く願っています。本当にもう、これが最後になるかもしれないので、是非とも終わりまで読み通していただきたいのです!
    昨日はとても不幸な日だったと言わざるを得ません。まったく最低でした。本当にもう、じつに不愉快な一日でしたよ! 彼女がちっともわたしの言うことを聞いてくれないのです。何度呼びかけても振り向いてさえくれませんでした。理由はわかりません。説明してはくれないのです。勉強が大変なのはお互いさまなのですから、休みの日は有効に活用すべきなのに、話し合う余地すら与えてくれないなんて、ちょっと我儘すぎるのではないでしょうか。きっと彼女は、自分がそうしていても私が怒りださないことをすっかり承知しているので、余計に強情を張り続けるのです。おかげで貴重な休日がまるで台無しというわけです。それに、もうすぐ冬なんです。真冬の道端で一時間以上も立ち止まってなどいられません。私はどちらかというと寒さが苦手なほうですし、比較的風邪をひきやすい質でもあるのです。彼女はその種のことをあまり考慮にいれてくれそうではありません。困ったものです。やっぱりどこか間違えているのでしょうか。こうしたことに関しては、わたしはまだまだ自信をもてません。経験が足りないからです。実際どうなんでしょう。出来ればあなたの意見も参考にさせてほしいのですが、いかがでしょうか。
  • [21] mixiユーザー

    2016年03月18日 12:37


    謎のサンプル

    昨日、私は幸せでした。それはそれは幸せで、天にも昇る心地でしたよ! 意地っ張りのあなたが、後にも先にもこれっきりかもしれませんが、とにかく私の言うとおりにしてくださったのですから。夜、八時頃に目を覚ますと(ご存知でしょう、勤めの後は、一時間か二時間、ちょっとひと寝入りするのが好きなんです)、ロウソクを取り出し、書類を揃え、ペン先を削り、不意にひょいと目を上げたら--いやまったくもう、胸がドキドキしましたよ。ああ、やはりあなたはわかってくださったのだ、わたしのちっぽけな心が何を望んでいたかを! 見れば、あなたの窓のカーテンの端っこが折り曲げられ、ホウセンカの植木鉢に留めてあるではありませんか。あのとき私がさりげなくお願いしたちょうどそのまんまにね。たちまちあなたのお顔が窓辺にちらりと見えた気がして、あなたもお部屋の中から私のほうを見つめて、私のことを考えているのだ、とそんな気になりました。それでも、あなたの可愛いらしいお顔がよく見えなくて、どんなに悔しかったことか。我々だって、昔は何でもくっきり見えたんです。ああ、年は取りたくないものですよ。現に今だって、なんだかしょっちゅう目がちかちかするんですから。前の晩、ちょっとでも仕事をして何か書いたりしようものなら、翌朝は目が真っ赤になって、人前じゃきまりが悪いぐらいなみだが出てしまう。
  • [22] mixiユーザー

    2016年03月18日 12:50


    謎のサンプル

     仲間がいない。この部屋に仲間はいない。言葉が聞こえてくるだけだ。言葉であり声でないものなのかもしれない。(今ここで)声であるのかを認識しようとしている。言葉の内容からそれが声なのかを。とりあえずこの部屋に仲間がいるのかを確認したい。
     しっかり話し合わなければいけない。ここに仲間がいるのなら。すぐにそのテーマから遠ざかってしまうから。目の前の現実には直面していないから。
    身体はここにある。身体としてここにいるだろう。フッと忘れてしまうことがあるのだけれども、なんだかこの辺りに戻ってきているらしい。
    いかめしさを演ずる男のダンサーたち。互いに列になってつながりあう、きらびやかな無名の演技者たち。その輪のちゅうしんに私がいる。
  • [23] mixiユーザー

    2016年03月18日 12:52


    謎のサンプル

     僕はこの小説を雰囲気のロマンスにしたかったのである。はじめての数ページでぐるぐる渦を巻いた雰囲気をつくっておいて、それを少しづつのどかに解きほぐしていきたいと祈っていたのであった。不手際をかこちつつ、どうやらここまでは筆をすすめてきた。しかし、土崩瓦解である。
     許してくれ! 嘘だ。とぼけたのだ。みんな僕のわざとしたことなのだ。書いているうちに、その雰囲気のロマンスなどということが気はずかしくなってきて、僕がわざとぶちこわしたまでのことなのである。もしほんとうに土崩瓦解に成功しているのなら、それはかえって僕の思うつぼだ。悪趣味。いまになって僕の心をくるしめているのはこの一言である。ひとをわけもなく威圧しようとするしつこい好みをそう呼ぶのなら、或いは僕のこんな態度も悪趣味であろう。僕は負けたくないのだ。腹のなかを見すかされたくなかったのだ。しかし、それは、はかない努力であろう。あ! 作家はみんなこういうものであろうか。告発するのにも言葉を飾る。僕はひとでなしでなかろうか。ほんとうの人間らしい生活が、僕にできるのかしら。こう書くつつも僕は僕の文章を気にしている。
  • [24] mixiユーザー

    2016年03月18日 12:58


     謎のサンプル

     私めの切な願いは、今さらかなうことながら、私の父か母かどちらかが、と申すよりもこの場合は両方とも等しくそういう義務があったはずですから、なろうことなら父と母の双方が、この私というものをしこむときに、もっと自分たちのしていることに気を配ってくれたらなあ、ということなのです。あの時の自分たちの営みがどれだけ大きな影響をもつことだったかを、二人が正当に考慮していたとしたら――それが単に、理性をそなえた生き物一匹を生産するという仕事であっただけでなく、ことによるとその生き物の肉体のめでたい体質や体温も、あるいはまたその生き物の天分とか、いやその気だてなどさえも――いやいや、ご本人たちが知ろうと知るまいとにかかわりなく、その生き物の一家全体の将来の運命までもが、その二人の営みの時に一番支配的だった体液なり気分なりによって方向をきめられるかもしれないのだということまでをふくめて――こういうすべてを二人が正当に考慮し計算して、それに基づいて事を進めていてさえくれたならば、この私という人間が、これから読者諸賢がだんだんとご覧になるであろう姿とは、まるでちがった姿をこの世にお示しすることになったろうと、私は信じて疑わないものです。
  • [25] mixiユーザー

    2016年03月18日 12:58


     謎のサンプル

     「あ、俺。起きてた?」「うん、どうしたの?」「今平気?」「大丈夫、何?」「いやさ、さっきさ、また母ちゃんと喧嘩しちゃってさ」「もー、またかよ。つーか兄貴、また母ちゃん殴ったんじゃねえだろうな」「え?はは。やっちゃいました。でも軽くだよ」「軽くじゃねーよバカ。やめろっつったじゃん」「だってつまんねーことでうるせーんだもん」「我慢しろって、なんだかしらねーけど、ちょっとくらい」「でさ、」「つーか怪我させたんじゃねーだろうな」「いや、怪我とかしてないよ。ホントちょっと頭小突いただけだもん」「で、何よ」「あ、そんでさ、母ちゃん出てっちゃってさ、また、家。今祐子が探しにいってっけど、おめーんとこタクシーとかで向かったかもしんねーから、来たら保護しといてよ」「はあ?また?ちょっとさー、だからせめて、家から出すなって言ってんじゃん、これもー」「でも出てったもんは仕方ねーじゃん」「仕方ねーじゃねーよ。ちゃんとやれよ」「うるせーなてめーも。そんじゃ頼んだぞ」
    電話が切れる。
  • [27] mixiユーザー

    2016年03月24日 07:06

    直前のご連絡ですみません、できれば、今日の参加はごはんアリでお願いします。
    できなければ結構ですので。


    やぐうサンプル

     四月、路肩の緑が芽吹き始めた。一か月先は枯れ葦のベージュに半分追いつくだろう。霧に湿った銀ねず色の街に、遅い桜も咲き始める。
     加賀谷美幸はフロントガラスの向こうに広がる空を見ていた。青いようだが、上空はうっすらとかすんでおり、湿原の向こうにあるはずの阿寒岳は輪郭も見えない。
     とうに空腹感はなくなっている。炭水化物を摂らなくなって一週間週あ間が経っていた。ゼリーやダイエット食で満たしている腹はぺったりとして膨らみがなくなっている。食べ物の歯ごたえを、そろそろ忘れそうだ。
     ハンドルを握る貴史は、アパートをでてから十分以上ひとりでしゃべり続けていた。
     ――晴れてよかったな。撮影日和だ。
     ──これが終わったら、好きなものなんでも食っていいから。
     朝から同じ言葉を三度ずつ聞いた。集中力も薄くなっていて全身が怠く、いちいち応える気になれない。適当に相づちをうっていると、食べ物の代わりに何か重たいものが胃に満ちていった。


    やぐうサンプル2

     はじめてあなたと関係を持った日、帰り際になって父は「君とは結婚できない」と言った。あなたは驚いて「はあ」と返した。父は心底すまなそうに、自分には妻子がいることを明かした。あなたはまた「はあ」と言った。そんなことはあなたにはどうでもいいことだった。ちょうど、睫毛から落ちたマスカラの粉が目に入り込み、コンタクトレンズに接触したところだった。あなたはぐっと瞼に力を入れて目を見開いてから、うつむいて何度もまばたきをした。それでも痛みが取れないので、しかたなく右目のコンタクトレンズを外した。あなたは中学生のころからハードレンズを愛用していた。慣れた動作で透明にレンズを透かし、舌の先で一舐めして装着し直すあいだ、父は謝り続けていた。子どもがいるんだ、まだ小さい子どもなんだ、と父は繰り返した。

    やぐうサンプル3

     上司のお供で外回りだったその日は、アスファルトに濃い影の落ちる真夏日だった。
     街路樹街お路樹の影を自然と足が選ぶ。
     と、目の端に見覚えのある白い色彩のかたまりが引っかかった。ビルの隙間に挟まっている月極駐車場のフェンスにつる草がびっしりと絡みついており、白い色彩はそのつる草が咲き誇らせている小花だった。
     百合にフリルのカッティングつけたようなベル形と中心を飾るえんじの色が愛らしい。その花がまるでブーケのように茎のあちこちを飾っている。
    「──ほう!」
     上司も気づいたらしく足を止めた。
    「なかなか見事なものだな。地主が植えてあるのかな?」
    「やだ部長」
     河野さやかは気心知れた上司の感想に吹き出した。
    「あれは雑草ですよ」
    「雑草?」
     部長は驚いたように目を丸くした。
    「だってあんなに見事じゃないか」
    「『雑草という名の草はない。すべての草には名前がある』と昭和天皇はおっしゃったそうですけどね。少なくとも園芸品種じゃありません」
     その先を続けたのはほとんど無意識だった。
    「和名はヘクソカズラといいます」
    「屁糞……exclamation & question」
  • [31] mixiユーザー

    2016年03月24日 20:43

    私ども夫婦は、中野駅の近くに小さい料理屋を経営していまして、私もこれも上州の生れで、私はこれでも堅気のあきんどだったのでございますが、道楽気が強い、というのでございましょうか、田舎のお百姓を相手のケチな商売にもいや気がさして、かれこれ二十年前、この女房を連れて東京へ出て来まして、浅草の、或る料理屋に夫婦ともに住込みの奉公をはじめまして、まあ人並に浮き沈みの苦労をして、すこし蓄えも出来ましたので、いまのあの中野の駅ちかくに、昭和十一年でしたか、六畳一間に狭い土間附きのまことにむさくるしい小さい家を借りまして、一度の遊興費が、せいぜい一円か二円の客を相手の、心細い飲食店を開業いたしまして、それでもまあ夫婦がぜいたくもせず、地道に働いて来たつもりで、そのおかげか焼酎しょうちゅうやらジンやらを、割にどっさり仕入れて置く事が出来まして、その後の酒不足の時代になりましてからも、よその飲食店のように転業などせずに、どうやら頑張って商売をつづけてまいりまして、また、そうなると、ひいきのお客もむきになって応援をして下さって、所謂いわゆるあの軍官の酒さかなが、こちらへも少しずつ流れて来るような道を、ひらいて下さるお方もあり、対米英戦がはじまって、だんだん空襲がはげしくなって来てからも、私どもには足手まといの子供は無し、故郷へ疎開などする気も起らず、まあこの家が焼ける迄までは、と思って、この商売一つにかじりついて来て、どうやら罹災りさいもせず終戦になりましたのでほっとして、こんどは大ぴらに闇酒を仕入れて売っているという、手短かに語ると、そんな身の上の人間なのでございます。けれども、こうして手短かに語ると、さして大きな難儀も無く、割に運がよく暮して来た人間のようにお思いになるかも知れませんが、人間の一生は地獄でございまして、寸善尺魔、とは、まったく本当の事でございますね。一寸いっすんの仕合せには一尺の魔物が必ずくっついてまいります。人間三百六十五日、何の心配も無い日が、一日、いや半日あったら、それは仕合せな人間です。あなたの旦那の大谷さんが、はじめて私どもの店に来ましたのは、昭和十九年の、春でしたか、とにかくその頃はまだ、対米英戦もそんなに負けいくさでは無く、いや、そろそろもう負けいくさになっていたのでしょうが、私たちにはそんな、実体、ですか、真相、ですか、そんなものはわからず、ここ二、三年頑張れば、どうにかこうにか対等の資格で、和睦わぼくが出来るくらいに考えていまして、大谷さんがはじめて私どもの店にあらわれた時にも、たしか、久留米絣くるめがすりの着流しに二重廻しを引っかけていた筈で、けれども、それは大谷さんだけでなく、まだその頃は東京でも防空服装で身をかためて歩いている人は少く、たいてい普通の服装でのんきに外出できた頃でしたので、私どもも、その時の大谷さんの身なりを、別段だらし無いとも何とも感じませんでした。大谷さんは、その時、おひとりではございませんでした。奥さんの前ですけれども、いや、もう何も包みかくし無く洗いざらい申し上げましょう、旦那は、或る年増女に連れられて店の勝手口からこっそりはいってまいりましたのです。
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