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開催終了Tea for Two (2人でお茶を)

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2009年04月23日 21:07 更新

2年近く前に携帯で書いた断章(物語のワンシーン)です。







◆
リオネスが二階のバルコニーで石の手摺りに寄り掛かって物思いに耽っていると、不意に背中から声がかかった。
振り返ると、エレナが木の盆にティーポットと二人分のティーカップを乗せて立っていた。
「ハーブティーを入れたのよ。リオネス、あなたもいかが?」
「ああ……もらうよ。ありがとう」
室内に戻って簡素な作りの木のテーブルにつくと、エレナがカップを自分とリオネスの前に置いて、二人分のハーブティーを注いだ。
ティーカップを口元に近付けると、ほのかに甘い香りが鼻孔をくすぐる。
ハーブティーを飲みながらもいまだ心ここにあらずといった様子のリオネスに、エレナが尋ねた。
「ヴェサールの町が心配なの?」
リオネスの生まれ故郷であるヴェサールと、ここワルトハイムをつなぐ橋が落とされてから、もう二ヶ月になろうとしていた。二つの土地の間に陸路以外の交通手段はなく、故郷にいる父親のことを思うとリオネスは気が気ではなかった。
「大丈夫よ。きっとお父様もご無事で、あなたが戻るのをお待ちでいらっしゃるわ」
エレナが上品な微笑を浮かべた。
「そうだといいけど……」
リオネスはティーカップの中に視線を落として、黙り込んだ。
ややあって、リオネスが重い口を開いた。
「エレナ……僕は時々、自分がなんて無力なんだろうと思うよ」
エレナは向かいに座ったリオネスを見つめて、次の言葉を待った。
「この街の高等学院で学んだ幾何も弁証法も、こんな時には何の役にも立ちやしない……自分はいったい何をしてきたんだろうって思うんだ」
言いながらリオネスは両手でカップを握り締め、うつむいてきつく目を閉じた。
ワルトハイムの周辺一帯に凶暴な魔物が現れるようになってから、かなりの月日が過ぎていた。ヴェサールの町とワルトハイムをつなぐ橋も、魔物たちによって破壊されたのだ。今では人々は武具や魔術で武装し、魔物たちの脅威から街を守らなくてはならなくなっていた。
強大な魔物たちを相手にするには、こちらも集団で協力し合った方が安全に戦える。リオネスとエレナも、街で知り合った仲間たちとグループを作って行動を共にしていた。
リオネスとそう年は違わないものの、子供の時から傭兵としていくつもの戦場を駆け抜けてきたバジル。魔法学校で身に付けた高度な魔法を操り、一撃で敵を蹴散らすミーシャ。そんな仲間たちと比べて、魔物たちとの戦いで見劣りする自分が、リオネスは堪らなく歯がゆかった。
少しの沈黙があって、エレナがティーカップをテーブルに置いた。
「リオネス。あなた、自分が一人で生きてるとでも思っているんじゃなくて?」
思いがけない問いかけに、リオネスは言葉を失った。
「え……?」
エレナが言葉を継いだ。
「学院であなたが奨学金を受けられたのはあなたの努力によるものかもしれないけれど、学院に入るための入学金と、このグリンデルの街までの旅費……あなたから聞いた限りでは、決して安くはない額のはずよ。それをお出しになったのは、あなたのお父様でしょう?」
「そ、それは……」
返答に困るリオネスに、エレナはさらに続けた。
「あなたがグリンデルの街に出て来て、学院で高度な学問を身に付けること。それがお父様の望みでもあったからこそ、お父様はそこまでのことをなさったのではないかしら?」
「う……」
リオネスは激しく戸惑っていた。
父親がどんな気持ちで自分をグリンデルの高等学院に送り出したのか――そんなこと、今まで考えもしなかった。
ただ、もっとこの世界のことを知りたい。もっと新たな知識が欲しい。それだけで……自分を守り、陰から支えてくれた、自分が学問の道に進むための足場を築いてくれたひとの気持ちなど、これまで顧ようともしなかった。
黙り込んでしまったリオネスに、エレナは言った。
「お父様の気持ちを、無駄だなんて考えてはだめよ。今は精一杯できる限りのことをしましょう。いつか必ず、あなたが学院で学んだことが役に立つときが来るわ」
エレナの言葉は、リオネスの心に強く響いた。
短い沈黙の後で、リオネスが再び口を開いた。
「うん……そうだね」
リオネスは両の拳を握り締めた。
「魔物との戦闘では、バジルやミーシャにはかなわないけど……護身法の授業で習った杖術は今でも役に立ってるし、昔の文献を調べるために石碑や古文書を解読する時には、古代語の知識が生かせる。――僕は、僕にできることをするよ」
「ええ、それがいいと思うわ」
迷いの色が消えたリオネスの瞳を見つめて、エレナは微笑んだ。
空になったティーカップを手に立ち上がると、リオネスはエレナに感謝の眼差しを向けた。
「エレナ……ありがとう」
「よろしくてよ」
エレナはにこりと笑って応じた。
それから半時ほどの後。庭でバジルを相手に杖術の稽古をするリオネスを、二階のバルコニーから見守るエレナの姿があった。
◆







◎補足
ワルトハイムは、県あるいは国といった、広い土地の名前。グリンデルは、その中のそれなりに大きな街で、リオネスは地方の小さな町ヴェサールから、ここにある高等学院に通うために出て来たという設定です。

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