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開催終了第二回リレー小説「青春ラブコメディー」

詳細

2009年07月17日 11:51 更新

リレー小説掲載専用トピックですわーい(嬉しい顔)
リレー参加者以外の書込み禁止グッド(上向き矢印)

「プチプロット」
?青春ラブコメディー
?主人公は高校生
?登場人物は4〜5名まで
?脇役は好きなときに好きなだけ登場OK
?個人の自由な発想の尊重

上記を守って頂き流れを壊さなければ、
基本的に創作者の自由で進めたいと思いますわーい(嬉しい顔)

「リレーの順番」
? ゆり
? グラスハート
? ヤスさん
? 彩音さん
? 庄さん
? フォル・スマ王子さん
? チーフちゃん
でバトンを回します。

○更新期間は特に定めていません。1週間以上かかる場合、「ちょっと待って」
と会議室に書き込みましょう。(安否確認の為w)
○途中参加は、参加者全員の承認を得られればOKとします。
 (リレー小説・作戦会議室にて、参加表明して下さいわーい(嬉しい顔))
○UP後、リレー小説・作戦会議室にてバトンを回して下さいm(_ _)m

リレー小説・作戦会議室
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=32959733&comm_id=3310240&page=all


「登場人物」(流れにより変更します)
晴霞 (ハルカ)
隆(タカ) ギターボーカル 一年生
五十嵐幹雄(ミッキー) ベース 一年生
サトウさん ドラム 二年生

帝塚山軽音と合コン

コメント(56)

  • [17] mixiユーザー

    2009年01月18日 08:56

    「お待たせー!」
    「遅いっすよ〜サトウさん!」
    「待ちくたびれましたよ…。」

     なんか前にもあったこの展開。デジャヴュだろうかと隆とミッキーは思った。
    「すまんすまん、軽音のサポート俺じゃないとだめでさー」
    「ところでサトウさん、昨日のCDなんなんすか?!」
    「そ、そうですよ!」
     サトウさんに突っ込むミッキーを隆は援護した。
    「あ、あれ?いい曲だろ?」
    「確かにいい曲でした。でもボーカル女の子じゃないっすか!」
    「そ、そうですよ!」
    「別にあの子に歌わせようって訳じゃないんだし、いいだろ?」
    「確かにそうですけど、あの女の子誰なんですか?!」
    「そ、そうですよ!」
     サトウさんが来てから同じ単語しか言ってない隆。
    「それは内緒。」
    「えー、どうしてですか!?」
    「そ、そうですよ!」
    「お前たちだって、人に聞かれたくない事の一つや二つあるだろ?」
    「確かにありますけど・・・。」
    「そ、そうですけど・・・。」
    「つまりそういう事だ。あの女の子に関しては、お前たちに話したくなったら俺から話す。それまでは何を聞かれても答えない。以上。」
     普段どこか抜けてる感じのするサトウさんが、いつになく目がマジだったので隆とミッキーはそれ以上ボーカルの女の子に対しては聞かない事にした。
  • [18] mixiユーザー

    2009年01月18日 22:00

    「ミッキー、昨日サトウさんコーヒー代払った?」
    「いや、貰ってない」
    「まじかよ、あの人本当に払わないね」
    隆は、呟くように云った。
    「ミッキー、今日弦買いに行くのついて行ってくれねー」
    「良いよ、どうせ、暇だし」
    放課後、二人は駅前の楽器屋に向かった。
    二人の50メートルぐらい前方をサトウが女の子と二人で歩いていた。
    「おい、サトウさんがカップルで歩いてるよ」
    「て言うか、あれ晴霞じゃねぇ?」
    「うそ!違うよ、似ているけど」
    「やっぱり、好きな人の事はすぐ分かるね」
    「何言ってるんだよ」
    耳を赤くしながら、隆は云った。
    「でも、似てるね。後ろ姿はそっくりだよ、隆じゃ無けりゃ分からないよ」
    「微妙に髪の長さが違うだろ」
    「本当だ」
    「あの人がCDの人かな」
    「追いかけようぜ」
    「良いのかなぁ」
    「良いよ、隆お知りたいだろ」
    「知りたい」
    隆は大きく首を振った。

  • [19] mixiユーザー

    2009年01月29日 01:26

    「ん?二人で何やってんだ?」
    「え……いや……なんていうか」
     こっそり尾行するつもりがいきなりばれて焦る。なんとか取り繕おうとしたが、隆の頭には何も浮かんでこなかった。
    「そこでばったり隆と会っちゃって。ついでに弦買いに楽器屋でも行こうってなったんスよ」
     ミッキーがすかさず答える。詐欺師顔負けの、真実と嘘がハーフ&ハーフ含まれる彼の特技には隙がない。
    「サトウさんの彼女っスか?」
     横目で晴霞を見て、さらっと尋ねるその技術はプロだ。その答を聞きたいような聞きたくないような複雑な心境で、隆の緊張は一気に高まる。
    「誰がよ」
     晴霞が即答した。ただでさえ幼い顔立ちなのに、口を尖らせたら小学生でも通りそうだ。
     フリルの付いたミニスカートにキャミソール、こういうのをロリータ系とか呼ぶんだろうか。茶色掛かったショートヘアの隙間から、サトウさんの胸くらいに位置するSサイズのパーツの中で唯一大きな瞳がミッキーを睨み付けていた。
    「あたしはさとっちなんかと付き合うほど趣味悪くないわ!だいたいドラマーのくせに、筋肉ないしなよなよしてるし会話ヘンだし一方的だし……もっと聞きたい?」
     一気にまくし立てる晴霞に、二人は苦笑いするしかなかった。自覚がないのか、サトウさんだけ不思議そうな顔をしている。
    「オレ、そんなキャラだっけ?」
    「そうじゃん」
    「そうっスね」
    「疑いようないですね」
     全員に冷めた口調で言い放たれ、サトウさんは肩を落とした。やっぱり自覚はなかったみたいだ。


    「ミッキーはベースやってんでしょ?で、隆ってあんた?」
    「あぁ……うん、そう」
     BPM二百を軽く越えるスピードで話が振られ、隆はそれだけ答えるのが精一杯だった。きっと今まで、こんなハイスピードの曲はコピーしたことなんてない。
     やたら顔の広いミッキーのことを晴霞が知っているのは不思議ではないが、一度も話したことのない隆の名前が出てきたことに違和感を覚える。逆に、廊下の端っこの五組で、主席番号十二番の川瀬晴霞が自分のこと知っているのが少しだけ嬉しくもあった。
    「ふーん。あんたがギタリストか〜。へぇ〜」
     何やらにやにやした気味の悪い笑顔を浮かべ、晴霞はサトウさんを振り返る。サトウさんは首を何度も縦に振った。
     なんだか自分の知らない情報のやり取りが出来ているみたいで、ちょっと面白くない。また疑問が増えた。
    「立ち話もなんだから、ファミレスでも行かね?」
     周囲と隆の顔色を伺いつつ、ミッキーが提案する。さっきまで居たファミレスに戻るのも気が引けるが、色んな他人の視線はさすがに気まずい。
    「あ。あたし帰るわ。さとっちは今度また付き合ってもらうから。みんな、ヒマないだろうしね」
     晴霞はサトウさんにウィンクして、さっさと店を離れる。隆とミッキーが知らない二人の秘密があるらしい。
    「あ。そうだ。忘れてた!」
     晴霞が大きな声で立ち止まり、隆とミッキーを交互に見る。隆がミッキーに視線を送ると、さぁ?とジェスチャーが返ってきた。
    「あんたたち、はっきりいってヘボいから」
    「はぁ?」
     間の抜けたハモリが茜空に吸い込まれる。
     隆の脳内は真っ白な霧がかかり、ミッキーは宙を見詰めて今の言葉を翻訳しようと頑張っているみたいだ。
    「仲間内で馴れ合いやってるだけじゃ上手くなんないから、早くライヴで恥かきなさいね〜」
     晴霞は両手でRock onのサインであるコルナを作る。そのままスカートのフリルを揺らし、交差点へと消えていった。
     

     ばちんと音が鳴り、ミッキーが目覚めた。頬が夕焼け色に滲み、涙目になっている。
    「なんなんだ、あのおんな!」
    「さぁ……?」
     隆はまだ夢の中から帰って来れないようで放心が続いている。魂の抜けた隆を余所に、ミッキーはサトウさんに詰め寄った。
    「サトウさん。話があるんで付き合ってくださいね」
    「いやぁ……これから部活戻んないとさ……」
     気まずそうにしどろもどろになりながら、サトウさんはミッキーの誘いを辞退したがっている。
    「さぁ!」
    「うぁ!?」
     ベルトを捕まれ、呆気なく捕獲された。
     前のめりになりながら年下の男子に引きずられるサトウさんの姿はみっともなかった。すれ違う人の注目も気に止めず、ミッキーはそのまま交差点を渡る。
    「隆も早くしろ!」
    「あぁ……うん」
     怒声で正気を取り戻し、隆は二人の後を追う。へばり付くシャツを扇ぎながら、隆は晴霞のころころ変わる黒い瞳を思い返していた。
  • [20] mixiユーザー

    2009年02月11日 01:40

    いつもと変わらないポップスが流れるファミレスにサトウさんを拉致した。
    窓際にサトウさんを押し込み隣にミッキーが座り、隆は向かいに腰を下ろす。
    「ヘボいってどういうことっスか」
    「うんうん」
    二人の圧力に怯えるかのようにサトウさんは目が泳いでいる。
    「オレ達の歌聞いたこともないっしょ」
    「うんうん」
    さっきの一件から立ち直れていない隆は同じことしか言っていない。
    「いや… それが聞いているんだ」
    「なんで?」隆とミッキーは声を揃えた。
    「話す前にとりあえず、トイレ行かせてくれ」
    「こんな大事な話の時にトイレっスか?」
    「うんうん」
    「まぁまぁそう言うな。生理現象は止められん」
    それ以上の言葉を無視し、トイレに立った。
    二人言葉が見つからず、コーラを黙々と飲み続ける。
    ようやくミッキーが口を開く。
    「遅くね〜?」
    「うんうん」
    「逃げたりしてね〜よな…」
    隆の言葉を聞かずにミッキーは走り出す。
    「やられた〜」
    ミッキーの声が店内に響き渡り、一斉に隆とミッキーに視線が集まる。
    「隆、追いかけるぞ!」
    隆が追いかけようとした時には、ミッキーは既に外に走り出していた。
  • [21] mixiユーザー

    2009年02月23日 04:58

    「追ってきてないよな?…はぁ…。」

    隆とミッキーと一緒に居たファミレスからこっそりと抜け出してきたサトウさん。
    ある程度、ファミレスからは離れたとは言え、安心は出来ないが、一呼吸おいた。

    「まだ言うわけにはいかないんだよな…。」

    サトウさんは呟いた。

    「ライヴが終わって…あいつらの……あっ!出てきた!!」

    ファミレスからミッキーが出てくるのが見え、サトウさんは慌てて、隠れる場所を探した。


    「早くしろよ!」
    「…っ!早くしろって…金払ってたんだから、仕方ないだろ〜?」
    「あ〜もうっ!サトウさんの姿が見当たんねぇよ〜。」
    「逃げ足、早っ!!」
    「…で、どうするよ?」
    「どうするって…追いかけるつもりか!?」
    「えっ…ダメか?」
    「無理だろー。もう見つけられないし、仕方ないから…とりあえず今日は帰ろう…。」
    「…そうだな。」


    ファミレスの真ん前で話し合う二人を物影から、こっそりサトウさんは見ていた。もちろん何を話していたかは、聞こえていない。


    「サトウさんのバカヤロウ!!」


    大声で叫んだミッキー。
    これだけが、サトウさんの耳に届いていた。
  • [23] mixiユーザー

    2009年02月28日 00:20

    そこにはあのフリフリロリータとは全く別人の晴霞がいた。黒のロンティにスカル。じゃらじゃらと胸元を覆う大きめのアクセサリーもセンスが良く、こちらに向けた手には太めの指輪が見えた。
    「あ・・・・」
    ミッキーも隆もそれ以上の声が出なかった。
    晴霞の上半身よりも、デニムのミニスカートからすらりと伸びた足に目が釘付けだった。
    「おーう」
    サトウさんは軽く手を振る。その二人の様子がとても自然過ぎて、いつもならすぐに噛みつくミッキーも、しばらく何も言えずにいた。隆に至っては足しか見ていない。
    「ちょっと、あんたたちさぁ、ヘボい上にエロいのー。うけるんですけど」
    晴霞はもうちょっとで下着が見えそうなポーズをして声を掛ける。
    きっと態とだ。隆は自分がからかわれていると分かりながらも、もうちょっと右足前に出してくんねぇかなぁ、なんて考えていた。
    「降りてくれば」
    サトウさんがそんな隆の心情を無視して声を掛ける。
    軽い足取りで晴霞が降りてきた。

    「歌えるって、どういうことだよ」
    ミッキーがいつもの調子を取り戻し、食ってかかる。でも時折目線は晴霞の太ももに行く。
    「そのまんま、だけどぉ」
    晴霞は答える。
    「てかさぁ、人の足見て話すんのやめてくんない?そんなめずらしい?」
    「めずらしい・・・」
    思わず隆は答えていた。
    「あ、いや、めずらし・・・い。ごめん」
    慌てて言い繕うとしたが、結局弁解は失敗に終わった。
  • [24] mixiユーザー

    2009年02月28日 12:05

    「正直でよろしい!私の美しい足を見つめられずにいる男なんて、男じゃないわ♪」
    「えっ!」
     てっきり怒られるかと思った隆は意表をつかれた。機嫌が良いのか晴霞はスラリとした足を見せびらかしている。
    「で、本当に歌うのか?」
    「当たり前じゃない?!ここまで来たのよ?」
     サトウさんの問いに即答で答える晴霞。
    「っていうか俺たち、まだアンタが歌うのを許可した覚えないんだけど?!」
     すかさずミッキーが突っ込む。
    「何言ってんのよ。貴方達の許可なんていらないわ!私が許す!」
    「なっ!」
     隆に引き続きミッキーも意表をつかれた。正直「なんだこいつ」と初めて会話した時から思っていた隆とミッキーだが、この時ほどこの女を変な女だと思った事はなかった。
    「ねえ、会場の皆ー?私の歌聴きたいでしょ?」
     晴霞がステージから客席を向いて問いかける。すると会場からは歓声と拍手が響き渡った。皮肉にも、晴霞の容姿とそのキャラクターが会場のお客の心を掴んでしまったようだ。
    「これでもまだ拒否する?」
    「くっ・・・。」
     晴霞の問いに悔しそうな表情をするミッキー。先ほどまで静まりかえっていた会場を一気に湧き上がらせた晴霞のカリスマ性を認めたくは無かった。
    「なぁ会場も盛り上がってる事だし、一曲だけでいいからやってみねぇ?」
    「・・・俺はやってみてもいいと思うけど」
     隆は変な女だとは思いつつも、晴霞の持つ魅力に気づき始めていた。
    「隆までそんな事言うのかよ・・・。」
     唯一の仲間だと思っていた隆までも晴霞に加担してしまい、肩を落とすミッキー。
    「これで反対してるのは、貴方一人だけみたいだけど?」
    「いいだろう!実際にライブをしてみれば、アンタの実力も知れるってもんだ!」
    「言うじゃない?!まぁ見てなさいって!曲はあのCDの曲で行くわよ。」
     隆とミッキーが、ふと以前の事を思い出す。

    『俺が作った訳じゃ無いんだ…ちょっとした知り合いが作ってくれて。』

     そしてサトウさんのドラムの音が鳴り始める。1、2、3。
  • [25] mixiユーザー

    2009年03月08日 21:11

    大盛り上がりで僕たちの演奏は終わった。いや、晴霞の一人舞台は終わった。
    「ミッキー、良かったな」
    と隆が云った。
    「うーん、演奏それとも歌?」
    「細かい所にこだわるんじゃねえよ」
    「そう、言われてもな」
    「でも、やっぱりあれは、晴霞じゃない」
    「前も隆はそう言ってたよな。でも、歌を聞いて俺もそう思った」
    演奏が終わった余韻の残る楽屋の隅で二人は、小さな声で話合った。
  • [26] mixiユーザー

    2009年04月10日 18:28

    「おい。おまえら〜」
     三人が振り向くと、血走った目を泳がせながら晴霞が両手を振っていた。顔中真っ赤にして、どうやら酔っているらしい。
     楽屋の隅っこでヤンキー座りをしていた三人は晴霞の変貌ぶりを、ただ呆然と見つめるしかなかった。
    「おいおい……誰だこいつに飲ませたのは……」
     サトウさんが肩を落とし、大袈裟に溜め息を吐く。歌い終わった晴霞は客席へダイブし、ステージには戻って来なかった。きっとその辺で乾杯リレーを繰り返していたのだろう。
    「ちょっとはあたしの実力ってのを認めた?」
     髪をかき上げるがシャンプーの薫りなんかする訳もなく、酒と煙草の混じった異臭が放たれただけだった。客席で相当乾杯の嵐を浴びた事は隆にも分かった。
     自分たちの演奏だけではブーイングの嵐だった客席。それを鎮めた晴霞の功績は大きかった。
    「あぁ。お陰で助かった」
     隆が素直に答える。そして、苦々しく呟いた。
    「俺らが実力不足ってのは事実だったわけだ……って……痛って!!」
     膝を抱えていた隆の肩に、晴霞の蹴りが決まる。空気の歪曲が見えるんじゃないかと疑う衝撃を受けて、地面に崩れるしかなかった。
    「おい!お前いきなり何すんだ!?」
     ミッキーの声を無視し、晴霞はブランデーの小瓶を一気に空ける。
    「バンドなめんなよ」
     血走った目で見下され、二人は絶句するしかなかった。
    「楽器に集中させてやってんのにミスるってどういうコトなのよ!即興でアレンジするとかできないワケ?そもそもその程度の技術でライブするとか信じらんないわ!」
     一気にまくしたてる晴霞にサトウさんが割って入る。
    「はいはい、晴霞ちゃん。そろそろ門限の時間ですよ」
     晴霞は必死に抵抗を試みるが、サトウさんに片手で抱えられ敢え無く持っていかれる。
    「うるっさい!あたしはまだぜんっぜん喋り足りないんだから!!あんたどこ触ってんのよ!!!」
    「あ〜。こいつ家に持って帰ってやるから、お前らも今日は帰れ」
     ぎゃーぎゃー騒ぐ晴霞を小脇に抱え、他のバンドマンの間をすり抜けて行く。その度に頭を下げるサトウさんは、バンドマンというより営業マンだった。
    「反省会は改めてやるからな〜」
     振り返ってそれだけ話し、控え室のドアを閉じた。
     薄い部屋の防音設備を笑うかのように、晴霞の悲鳴だけがこだましていた。
  • [27] mixiユーザー

    2009年05月06日 23:30


    隆とミッキーは自分たちの実力の無さに落胆したまま歩いていた。
    「サトウさんと晴霞ってどういう関係なんだ?」隆はミッキーの返事も聞かずに一気に話し出す。
    「一気に観客を沸かせたカリスマ性は凄いし…」
    「サトウさんは始めから晴霞をボーカルにするつもりだったのかな」
    「ゴチャゴチャ言ってんじゃね〜よ!!」ミッキーは大声で叫んだ。
    「改めて反省会もするって言ってるんだしサトウさん捕まえて聞きだしゃいいだろ」
    と言い残しミッキーは隆を置いて夜の街に消えた。
  • [28] mixiユーザー

    2009年05月16日 07:53


    「酔いは覚めたか?」
    「………ちょっとだけ。」
    「あいつらだって、バンドとか音楽をなめてる訳じゃないんだ…まだ分かってないだけで。」
    「でもぉ〜。」
    「まあ、お前の気持ちも分からない訳じゃないけどな…」
    「じゃあなんで?」
    「ん?あの曲の事か?」
    「うん、そう…。あの曲は…」
    「あいつらなら良いと思ったんだよ…」
    「へぼいのに?」
    「今はまだね。これからだ!あいつらは。」
    「うーん…」
    「それに、早く知って欲しかったんだ…あの曲の事。」
    「でも…やっぱり、まだ早いわ!もっと上手くなってからだって…」
    「バンド組んで1番最初のオリジナル曲にしたかった…そういうのって、ずっと大事にするだろ?」
    「そうだけどぉ…」
    「あとはお前が歌ってくれたら最高なんだけどな。」
    「まだまだよ!あんな演奏じゃあ…」
    「そっか!いつかはあいつの思いが報われるように頑張るか〜!」


    ライブハウスを後にした二人は、あの曲に思いを馳せながら帰り道を辿っていた。
  • [30] mixiユーザー

    2009年05月23日 23:43

    その夜、隆はなかなか寝付けなかった。当然ライブでの興奮もあったが、それより何種類もの晴霞が頭の中でコロコロ、その表情を変えていた。
    「俺、何でバンドやってんだろ…」
    口に出して見ても答えは見つからない。ミッキーと軽い気持ちで始めた、女の子にもてたいから始めた、ただ、かっこいいから始めた…。
    到底、晴霞には言えないような理由だった。『バンド、なめてたのかな』晴霞の言葉にこたえてみる。今の自分じゃ、二度と晴霞の前になんて出られない。

    バンド、ミッキー、サトウさん…晴霞。

    「あーーっ!」
    声を出して髪をぐしゃぐしゃにする。
    今夜は眠れないな。そう思ったが、いつの間にか睡魔にやられていた。
  • [31] mixiユーザー

    2009年05月24日 03:26

     次の日の朝、隆はいつもより早く目が覚めてしまったので早めに朝食を済ませていた。母親から珍しいわねなんて事も言われた。隆は学校へ行く準備をし、ギターを抱えていつもより30分早く家を出た。せっかく早く起きたのだし学校で朝練をしようと思ったのだ。
     学校への道はいつもと同じようで、どこか違うように見えた。なんだか空も高い。とりあえず保留になっていたバンド名の案をあれこれ考えながら歩いて踏み切りの近くまで来た。
     ふと、線路を渡った先に自分の高校と同じ制服を着た女の子の人影を見つける。遠目では一瞬誰だか分からなかったが、踏み切りの手前まで来て、それが晴霞である事に気づく。いや、正確には昨日まで隆達の前に姿を見せていた晴霞ではなく、髪の長さも茶色掛かったショートヘアじゃなく、真っ黒なミディアムヘアだった。隆は一瞬戸惑ったが、顔は間違いなく晴霞なのである。自分が見間違える筈がないと妙な自信を隆は持っていた。

    『でも、似てるね。後ろ姿はそっくりだよ、隆じゃ無けりゃ分からないよ』
    『微妙に髪の長さが違うだろ』
    『本当だ』

    『でも、やっぱりあれは、晴霞じゃない』
    『前も隆はそう言ってたよな。でも、歌を聞いて俺もそう思った』

     以前の出来事がフラッシュバックする。声を掛けて確かめようと、一歩近づいた時、遮断機が既に降りてきている事に気づく隆。くぐり抜けようとするが後ろから服を掴まれる。
    「危ないよお兄さん。」
     腕に交通安全の腕章を付けた、地域のボランティアであろう小母さんが立っていた。後ろには黄色い帽子を被ってランドセルを背負った小学生達が10人くらい隆を覗いている。急いで線路の方を振り返ると、目の前を電車が通過して行く。
     電車が通り過ぎた頃には、晴霞の姿は消えていた。
    「あれは一体・・・。」
  • [32] mixiユーザー

    2009年06月28日 21:37

    「隆、ライブから一月が過ぎたね」
    「そうだね。早い物だね」
    隆は、少し笑いを含んだ顔でミッキーに言った。
    「何、笑ってるんだよ?」
    「いや、別に!」
    「実は俺、昨日見たぜ」
    「何を見たんだよ」
    「お前が、あの晴霞に似た子とデートをしている所を」
    「・・・・・・」
    「それで、彼女の秘密は分かったのかよ」
    「ほぼ、分かったよ」
    「何だったんだよ、教えろよ」
    「秘密・・・」
    「何だそれ」
    「俺も、お前のデート現場を見た事あるよ」
    「隆、お前俺が身長が低くて彼女がいない事知ってんだろ」
    「確か、お前よりも背が高くて、肩幅の広い年下の女の子」
    「それは、妹のヒロミだろううが」
    「あっ、そうか。でも40ぐらいの小柄な綺麗な女の人ともデートしてただろ」
    「それは、母親だろうが。て言うより、お前顔知ってるだろうが」
    「しかし、お前のおふくろさん、綺麗だよな。どうしてお前は体格だけ似て、顔は似なかったんだろうな」
    「知るか、そんな事」
    「あっ、それから美形な少し年上の男の人とも歩いてたよな」
    かぶせるように、
    「それは、兄貴だろ、母親似の。そして、男だし」
    「彼女を諦めて、そっちに行っちゃたのかと思って」
    「死んでも行かない。それより、良い話無いのかよ」
    「じゃーん、今度帝塚山女子の軽音楽部と合コンする事になりました」
    「ウソ?」
    「ホント。彼女帝塚山の軽音だったんだよ」
    「そうか、俺にも春が巡って来たか」
    「それでも、冬だったらどうするよ」
    「バ、バカヤロー」
    満面の笑みをたたえて、ミッキーはこう言った。
  • [33] mixiユーザー

    2009年07月01日 01:13

     蒸し暑さに耐え切れなくて起きた。
     ベッドサイドの目覚まし時計を掴むと、まだ午前五時過ぎ。日曜だってのに太陽も毎日ご苦労様だなと、何処かいらついた気分で起き上がる。
     最近、無性に早く目が覚める。夏の所為もあったが、もっと別に隆には早起きする理由があった。

     抱きしめたまま眠ったギターを抱え、ゆっくりとアルペジオを奏でる。エアコンがぶっ壊れて散らかった部屋に、少し切なくそいつは流れる。
     先週のライブはボロボロだった。晴霞の登場がなければ一夜でバンド解散の危機だったに違いない。
     サトウさんのドラムに乱れは無く、動くとずれるミッキーの重低音と、ベースに釣られ、歌うと鳴らない隆が足を引っ張っていたのは確かだ。ボーカルをしたがったのは自分なのに、いざステージへ立つと身が竦んだ。
     そもそも誰かがフォローしてくれるとか、甘い考えだったんだ。

     譜面を見て、大きく息を吸う。
     サトウさんのリズムを思い出す。足でテンポを取る。1・2・3……
     ミッキーのベースが入る。重機のような低音を腹で感じ、隆はギターをかき鳴らす。

    ―――おれの所為で崩れた。だから、今度はおれが引っ張ってやる!―――

     それくらいしか、隆に出来る事は無かった。だったらせめてメンバーが焦るくらいに技術を上げてやろうと思った。
     ベッドの上で腕を何度も振り下ろす。アンプに繋いでいない分、エレキギターは蚊の鳴くような弱々しい音しか出していないが、隆の頭の中ではライブで演奏している自分がいた。
     観客の熱気に陶酔し、身体中に快感が駆け巡る。
     サトウさんを振り返る。最高と何度も叫びながらドラムを叩き付ける。
     ミッキーと肩を並べる。ホールを歪ます重低音を放出する。
     晴霞がちらっと「やっちまいな」と合図する。
     隆は大きく頷き、ステージぎりぎりまで駆け寄り、脳が溶けるギターソロをお見舞いする。
     観客はステージに群がり、腕を上げる。何千何万本のエールを受け、隆は吠えた。
     上等だ!!

     プツンと音が止み、スポットライトが消える。弦の感触が消え、一気に夢から覚めた。

    ―――またか……―――

     早朝、学校、夜中と、暇があればギターをかき鳴らしていた。高音で高速のギターソロ。五弦の寿命は短い宿命らしい。
     そろそろ逝くかと思ってはいたが、命日が日曜の朝でよかった。年の為、部屋中散らかしてみたが案の定、予備の弦は無かった。
    「しょうがねーなぁ」
     シャワーだけ浴びて、適当に着替える。誰かと会う予定もないし、その辺に転がってるTシャツとGパンで十分だ。
     ケータイを見ると七時。楽器屋が開くまでかなり時間があったが、ここで躊躇うと余計面倒臭くなる。
    「はぁ……」
     家のドアを開けると、日差しが一気に降り注いだ。まだ夏は終わっていない。



  • [34] mixiユーザー

    2009年07月01日 01:16

    「うっそ。なんでこんな時間にいるかなぁ……」
     楽器屋のシャッターの前に見慣れない女が立っていた。
     ほとんどスッピンの顔に、ラメ入りのルージュだけが目立っている。水色のキャミにデニムのミニスカ。何故か髪はショートで黒かった。
    「春霞……だよな……?」
     女は不機嫌そうに真っ白なハンドバックを振り回す。
    「そうよ!今日はナチュラルな清純派で決めてみました!これでいい!?」
    「なんで怒ってんだよ」
    「自分のカッコ見れば?馴れ馴れしく話しかけないでくださる!?」
     楽器屋のショーケースに映った自分の姿を見詰める。首元が伸びきったバンドTシャツに剥げたGパンのみすぼらしいガキがそこにいた。
    「いや……ちょっと弦買いに来ただけで……他人のフリするから気にしないで」
    「ちょっと。手、見せて」
     そう言うと晴霞は隆の左手首を掴む。ハンドバックを投げ捨てて、強引に隆の指をこじ開けた。
    「ふーん」
     隆の指先はマメが潰れて皮が張りつつある。痛くてバンドエイドを貼った所、異常に弦が押さえ難いので剥がした。
     気が付けばマメは潰れたが、敢えて気にしない事にした。弾けなかったフレーズが、よそ見しながら軽く弾ける方がいいに決まっている。
     晴霞は黙って、隆の手と顔を見比べている。なんだかテストされているみたいで居心地が悪かった。そもそも他人のフリをしろと言ったのは晴霞なのに。

    「あのー……店開けますんで……」
     楽器屋の店長が気まずそうに立っている。隆は思いっきりシャッターの前にいた。
    「あ……すいません……」
     ごめんなさいねと言って、店長はシャッターを思いっ切り上げた。真夏の朝に豪快な音を立て、店が開いた。
     店先に置かれたアコースティックが日の光を浴び、幻想的な色を醸し出す。水の綺麗な欧州の森をイメージし、隆は涼しさを感じる。
     途端にぽいっと片手が捨てられ、宙を彷徨う。晴霞の手の温度が無くなり、今度はちょっと冷たく感じた。
     晴霞は隆を置いて、さっさと店に入っていく。楽譜のコーナーで立ち止まり、真剣に物色していた。
     慌てて晴霞の後を追いかける。辿り着いたそこは、隆が生涯入らないであろう場所だった。
    「……晴霞ってクラシックやってるんだ……」
    「そ。育ちのいいお嬢様なの。まぁ、暇つぶしに、どっかの不良とつるんでるってわけ。誰かに言ったら……夜道歩くのに気を付けなきゃなんないわよ」
     楽譜に目を落としたまま、冷たく言う。どうして彼女のセリフは妙に説得力があるのだろう。隆は無意識で固唾を飲んだ。
    「そ……そう言やさぁ……晴霞って合コンとか行くわけ……?」
    「はぁ?なにそれ?なんであたしがそんなのに行かなきゃなんないのよ?マジ興味ないんですけどー」
     晴霞は心底気だるそうに吐き出した。残念だったが、何故か隆はほっとしたような気がしていた。
  • [35] mixiユーザー

    2009年07月17日 13:24


    弦を買い自宅でチューニングしているとチャイムが鳴った。
    動物的な勘だろうか…何か嫌な予感がする。
    家には隆しかいない。このまま無視してやろう。
    しかし、チャイムは何度も鳴り続ける。ドアまで叩きだす。
    仕方なしに階段を下り、ドアを開けた。
  • [36] mixiユーザー

    2009年07月21日 15:05

    玄関のドアを開けると、そこには晴霞がいた。

    「こんにちは!」
    「えっ…あっ…こんにちは…?」

    いきなり元気よく挨拶され、隆は戸惑った。

    「今、ギターを弾いてたのって…あなたですよね?」
    「??…はい。」

    目の前にいるのは、確かに晴霞なはずなのに、何故こんな質問をするんだ?と不思議そうにしている隆とは裏腹に、女の子は目を輝かせていた。

    「お家の前で聞いてたんです!とってもカッコイイなって!!」
    「えっ…どうも。」

    普段の晴霞なら、褒めるなんて有り得ない…。この子は晴霞じゃないのか?
    そんな疑問を持ち始めていた。

    「さっき練習してた曲、すごく良かったです!」

    女の子が褒めているのは、サトウさんが持ってきた、意味ありげな曲だった。
    ライヴ以来、完璧に出来るよう必死になって隆は練習していた。

    「私もバンドやってるんです!…って言っても、部活でなんですけど…」
    「へぇ〜、そーなんだ。」
    「で…あの…」
    「ん?」
    「その…」

    女の子は恥ずかしそうして、何かを言いたそうだった。
    隆はどうしていいのか分からず、しばしの沈黙…。
    そして、女の子は勇気を出して…

    「…えっと…おっ…お友達になってくれませんか?」
  • [38] mixiユーザー

    2009年07月26日 01:19

    二人が並ぶと、成程、一卵性双生児とはこうまで見分けのつかないものかと、つまらない納得をしてしまった。
    「あ、私たち、一卵性双生児で…」
    悠香がなぜか申し訳なさそうに説明する。
    「あ、いや、ええ、すごく似てるんで…」
    隆の言葉をさえぎるように晴霞が再度
    「だから、あんたが何でここにいるわけ?」
    と悠香に詰め寄った。
    「ギターの音がして…」
    先ほどの「見分けがつかない」という気持ちは一気に撤退。こうまで正反対の双子がいるのかと改めて晴霞と悠香を隆は見比べた。
  • [40] mixiユーザー

    2009年07月26日 03:24

    「っていうかさ、晴霞は何でここに居るの?」
     人生で初めて一卵性双生児を見た衝撃ですっかり忘れていたが、隆は少し前のことをようやく思い出した。 
     先ほどまで隆は楽器屋に居て、晴霞もそこにいたのだ。そこで合コンがどうのという話をした後、晴霞はクラシックコーナにまだ用事があるみたいなので、隆は先に楽器屋を後にしたのだった。
    「何でって、どういう意味よ?」
    「だって楽器屋からだと俺ん家と逆方向だろ?」
    「なによ、私がここに居ちゃいけないっての?」
    「いや、そういう訳じゃないけど。」
    「・・・あ、あの。」
     晴霞と隆の問答に悠香が恐る恐る割って入る。
    「なによ悠香、あんたは黙ってなさい。」
    「悠香ちゃんに悪いだろ。俺たちばっかり喋ってるじゃないか。悠香ちゃんどうぞ。」
    「うるさいわね!私達姉妹の間の問題にあんたが口出さないで頂戴。」
     そんな問答が暫く続いて、あーだこーだ言ってるうちに晴霞が何かに気づいた様に時計を見る。
    「あ、こんな事してる場合じゃなかったわ!急がなくっちゃ。じゃあね。」
     そう言い放つと晴霞は嵐の様に去っていった。
    「なんだったんだろうね・・・。」
    「我が姉ながら、お恥ずかしい限りです。」
     二人ともポカーンとしたいた。
    「あ、そうだ。お友達になって下さいますか?」
    「・・・よ、よろしく。」
     どう答えて良いのか分からなかったのでとりあえずそう答えておく事にした。
    「私、帝塚山女子高校の軽音楽部なんです。宜しくお願いしますね。」
    「え帝塚山の?」
     帝塚山の軽音といえば、今度隆が合コンをする事になっている相手だ。
    「はい。だから音楽好きで・・・さっき弾いてた曲凄く良かったです。あんな曲作れる人とお友達になれるなんて嬉しいです。」
    「あ、でもあの曲は・・・。」
     隆はその先を言うのを躊躇った。サトウさんは明言しなかったが、おそらく晴霞が作った曲をサトウさんが持ってきたのだろうという事は何となく想像がついていた。それを妹である悠香に言うのは気が引けた。
    「なんですか?」
    「いや、なんでもないよ。」
    「そういえば、まだお名前聞いてなかったですよね?教えてくれますか?」
    「あ。俺、今堀隆。」
    「タカさん・・・ですね。私、川瀬悠香です。」
     悠香は二回自己紹介をした。
    「じゃあ、私も用事があるので失礼しますね。」
    「うん、じゃあね。」
  • [41] mixiユーザー

    2009年08月02日 21:29

    「ミッキー、聞いた?悠香ちゃんの事」
    「聞いたよ、双子だって、吃驚したね」
    「明日、俺彼女とデート」
    ミッキーは、小さな目をせい一杯大きくして、
    「どうして、そう言う話に成るんだよ」
    「この間、少し話した時に、三軒茶屋のWAREHOUSEに中古ギターを見に行くんだよ」
    「中古ギターっていっても、あそこの品物は100万円とかのばかりだろ」
    「だから見に行くんだよ」
    「あそこの秦野って言うオーナーは、昔、新宿のKEYで店長してた人だろ」
    「らしいな、その世界では伝説の人らしいよ」
    「ミッキー、良く知ってるな」
    「俺の大阪の伯父さんが、昔阿佐ヶ谷の異火座っていう西洋風居酒屋で、
    チーフをしていた時の知り合いらしいよ」
    「へーえ」
    「そう言う訳で、明日行って来ます」
    「どうゆう訳だよ。俺は今度のコンパに掛けるよ」
    「頑張れよ」
  • [42] mixiユーザー

    2009年08月07日 05:05

    「いい買い物をしました」
    「そ……そう……」
     普通、これだけ高い買い物をする時は躊躇したりするものだが、彼女は特に迷いもなく、店員にこれくださいって言った。
     悠香はWAREHOUSEで八十万を越すレスポールを買った。キャッシュで。さらに一括で。ヴィヴィアンの財布から札束を無造作にレジへ置くのを見て、隆は口が塞がらなかった。
    「悠香ちゃんってお金持ちなんだね……」
    「はい」
    「……え?」
    「これ、タカさんの」
     隆の言葉が聞こえていないのか、悠香は買ったばかりのレスポールを押し付ける。
     隆は悠香にされるがまま、背中に担いだ三万に満たない額の愛用の中古ギターを取り上げられ、代わりにレスポールを背負わされる。八十万の重みに自分の身体が耐えられるか不安だったが、意外にさっきまでの重量と変わらない事に驚く。
    「あの……意味がよく分からないんだけど……」
    「タカさん上手いんだから、いい武器持たないと損」
    「あの……おれ、そんな金持ちじゃないよ……」
    「んー。ファンからのプレゼントだから気にしないで」
     そう言って、悠香は隆の手を引いて駅前通の横断歩道を渡る。もう七時頃だろうか。
    駅は、一日の労働と熱気で疲れ果てたサラリーマンや、これから夜の仕事に繰り出す年齢不詳の女、ナンパ待ちの厚化粧でミニスカを履いた女子高生の集団や塾通いの小学生など、幾多の人間を止め処なく吐き出している。
    「すごい人ごみだね」
     横断歩道を渡りきって、悠香は立ち止まる。振り向いて、今度は隆の両手を握った。
    「きっとみんな、普通に生きてたら繋がる事のない人生を歩んでいくんだ。
     でも、音楽って、そんな人たちを一時的に繋がらせてくれる力を持ってる。
     今夜のライブで一緒に盛り上がったっていうのは、多分みんなの中で一生消えない」
     信号機に照らされて、悠香の顔が赤く映る。隆は思わず息を飲む。
    「だから、タカさん。歌お!」
    「は?」
     いそいそとギターを肩に担いで、悠香は腰のアンプに電源を入れる。音を変えながら即席でチューニングしていく。
     駅前通りの横断歩道の前で鳴り出すギターの音に、興味を沸かせた人たちがわらわらと押し寄せてくる。信号待ちのタクシーの運ちゃんが、車内からこちらを覗いているのが分かる。
    「タカさん。歌お!」
     再度悠香に背中を押され、隆もアンプを腰にぶら下げる。残暑の熱気で歪んだ都会の夜に、ツインギターの音色が駆け抜けた。
  • [44] mixiユーザー

    2009年08月12日 17:25

    「昨日はありがとうございました。すごく楽しかったです!」

    隆は街をぶらついていると悠香に遭遇した。

    「俺も楽しかったよ!それにこの楽器、相性が良いみたい。ありがとう!ホントにもらっていいの?こんな高価な物を…」
    「えっ…あっ…良いんですよ。」
    「?」

    悠香の言動か少し変だなと隆は思った。
    もしかして、プレゼントと言いつつ、無理をして買ってくれたのだろうか?と隆は心配になった…。

    「あの、タカ…さん。」
    「何?」
    「…晴霞の事、どう思ってますか?」
    「えっ…どうって…」
    「正直に言って下さい!」
    「えっと…」

    どう返事をしていいのか、隆は返答に困った。

    「私と晴霞、どっちが良いですか?」

    そして、さらに困る質問をされた。

    「えっと…その…」

    隆は返答出来ずに、ただ時間だけが過ぎていく。
    晴霞と悠香は一卵性双生児。見た目で二人を区別するにはとても難しい。
    今まで、隆は見た目でしか好きかどうか判断してこなかった。返答に困ったのは、二人の顔が好みの顔だったからだ。

    「…はっきりしない男ねっ!」

    突然、悠香が晴霞のような口調になった。

    「えぇ!?」

    隆は目を丸くした。驚く隆を尻目に、悠香は態度は一変した。

    「騙したのは悪かったわ。私は晴霞よ!」
    「晴霞!?ホントに??…なんで昨日の事知ってるんだ?」
    「たまたま、ストリートライヴしてるの見かけたのよ!」
    「声かけてくれればよかったのに…」
    「……。こっちも色々とあるのよ!」

    晴霞はそう言い切ると、人込みに消えてしまった。

    「なんだったんだ…?」

    ぽつりと隆は言った。
  • [46] mixiユーザー

    2009年08月19日 20:21

     いつものファミレスでは誰かの目に付く可能性がある為、駅の反対側にあるちょっと雰囲気のいい喫茶店『ベロニカ』に隆は来ていた。汗をかいたグラスに入ったアイスコーヒを飲みながら待っていると、入り口を開くカランという鈴の音が聞こえた。サトウさんだった。
    「お待たせ。で、相談ってのは何だ?」
    「はい・・・実は・・・。」
     隆は自分の気持ちを素直にサトウさんに伝えた。晴霞と悠香の事、デートの事、『空を泳ぐ魚(仮)』の事。途中でサトウさんの注文したカフェ・オレを持ってきた店員の目を気にしながら、隆は話を続けた。
    「なるほどな。で、お前はどっちの事が本当に好きなのか分からなくなった、と。」
    「・・・そうです。」
    「お前なりに真剣なのは分かるが、それを俺に相談してどうする?結局お前の気持ちはお前自身でしか分からないだろう?」
    「それはそうなんですけど、晴霞と悠香の事を良く知ってるサトウさんにアドバイスして欲しくて・・・。」
    「アドバイスねぇ・・・。」
     サトウさんは両手を頭の後ろで組み、椅子の背もたれに寄掛かって少し上を見た。隆はグラスを滴る汗を見つめていた。
    「そういえばさ、バンド名なんだけど俺と晴霞で考えて、今のところコレにしようと思う。」
    「え?」
     隆は急に話題が変わったので驚いた。サトウさんはそう言って折りたたまれた一枚の紙をテーブルの上に置く。
    「じゃ俺は用事があるから、バンド名に異論がある場合は後日言ってくれ。」
    「あのー。」
     隆の呼ぶ声も虚しく、サトウさんはカフェ・オレの代金をテーブルに置いてさっさと店を出て行った。今日は珍しくお金を払ったな、なんて感心しながら隆はサトウさんの残した紙を開いてみた。
    「Crepuscule(クレプスキュール)?どういう意味だ・・・?」
     隆は暫く紙に書かれた英単語の意味を考えていたが、英語の成績が良くない隆には分かる筈がなかった。
    「あ、サトウさん結局俺の相談に応えてくれてねぇし・・・・。」
     答えに困ると逃げるのがサトウさんのいつもの手口だった。仕方なく隆もベロニカを後にする。
  • [47] mixiユーザー

    2009年08月26日 22:46

    ミッキーが、家にやって来たみたいだ。下から、騒々しい声が聞こえる。
    「おばさん、隆いる?」
    「五十嵐君、久しぶりね。お母さん元気?」
    「有り余っています」
    母が笑いながら、「自分の部屋でギターの練習しているよ」
    「隆、入るよ」言うよりも、早くミッキーが入って来た。
    「おう、どうした」
    「ギブソンのギター貰ったんだって」
    「情報、早いね」
    「晴霞に聞いたんだよ」
    「悠香ちゃんが俺のと交換して呉れたんだよ」
    「して呉れたんだよって、ギブソンのレスポールタイプのビンテージだろ、これ」
    「うん、あそこの家は金持ちなんだな」
    「普通のサラリーマンだよ」
    「えっ」
    「晴霞に聞いたら、色んな人に援助して貰ってるみたいだよ、悠香ちゃん」
    「援助?」
    「でも、悠香ちゃんにそれを言うと、あれは援助じゃないよ、授業料だよって言うらしいよ」
    「人生の楽しみかたを教える授業料らしいよ」
    「うーん、そうなんだ」
    「俺には、どうでもいいけどね。それより、明日の合コンだね、晴霞も来るらしいし」
    「えっ」
    気持が定まらない俺は、体の浮遊感が止まらなかった。
  • [48] mixiユーザー

    2009年09月08日 07:07

    「超気がすすまねー」
     ミッキーが片手を上げるのを見て、隆はつい溜め息を漏らした。口から自分の魂が、朱色の空へ舞い上がっていく気がする。
    「待った?ってか、なに肩落としてんだよ。これから戦だってのに」
    「超気がすすまねー」
    「なんで合コンにギターなんか担いできてんだよ」
     二度目の溜め息をあっさり無視してミッキーが突っ込む。断ったら後々厄介だし、適当な所でばっくれて貸しスタジオにでも篭ろうかと考えてた。
    「まぁいいや。隆からそれ取ったらなんも残んねーもんな。そろそろ行こーぜ」
    「お前はどうなんだよ?ってか、まだ一時間もあるじゃん」
    「お前なぁ……」
     ミッキーは両手で頭を抱えてオーマイガーと苦々しく呟く。
    「オトコが遅れていったら冷めるだろーが。それだけで今日の戦は負けなんだよ!」
     なんで合コンが戦なのか隆には知る由もなかったが、駅前で言い合っていても仕方ない。肩のマシンガンを担ぎ直す。
    「軍曹。行きましょう」
    「お前には負けん!」
     隆の冗談にミッキーは気味悪くニヤリとし、先に歩き出した。なんだかあっちは冗談ではない気がする。


     辿り着いたそこは、おしゃれな居酒屋だった。店名が書いたプレートがぶら下がっているが、隆には解読できない文字列。きっと、フランス語とかイタリア語なんだと思う。
     ちょっと行けばホテル街で、パッキンの兄ちゃんとか深々とスリットの入ったドレスのレディースとか、隆の日常生活ではお目にかかれない人種がうろついていた。
     誰がセッティングしたんだろう。治安は果てしなく悪い気がする。
     こんな場所にあの晴霞が来ようものなら三時間はぐちぐち言うに違いない。そもそもここは酒を飲む場所じゃないのか。初ライブの時みたいに晴霞が暴れ出したらどうするんだろう。
     清純な悠香が来るような所でもない気がするが、ミッキーが言っていた援助とか授業という言葉が頭の中でぐるぐる回転する。隆が持つ悠香のイメージは、ちょっとズレた子でしかなかったが、実際は全く違うのかも知れない。
    「二階だってよ」
     なかなか店内に足を踏み込めない隆を呼びに戻ってきたミッキーはそれだけ呟き、さっさと扉の入った側にある階段を上り始める。隆は黙ってそれに続く。
     上がった先はパーテーションで区切られた、だだっ広い空間だった。ベージュとかブラウン系の色彩で統一されていて、この色は食欲をそそるとどこかで聞いた事を思い出す。
     ウェイターにその一区画のテーブルに案内され、隆とミッキーは腰を下ろした。天井から注がれる光は控え目で落ち着いた雰囲気を出したいのだろうが、あいにく隆には不安感を増す要素にしかなり得なかった。
     椅子の数は十五〜六程度。隆とミッキー以外、まだ誰も来ていない。
    「お前もうちょっとリラックスしろよ……」
     ミッキーにぼやかれ、隆は椅子にもたれた。
    「ミッキーさぁ。晴霞がマジで来ると思うか?」
    「はぁ?アイツが来るって言い出したんだぞ。始めは行くかって引っ掛いてきたのによ……ワケ分かんねー」
     楽器屋で会った時には晴霞は絶対に来ないみたいだったのに。なんで急に気が変わったんだろう。

    ――晴霞の事、どう思ってますか?

     ふと、悠香になり切った晴霞が呟いた言葉が思い浮かぶ。
     隆が悠香と会ってしまったから、晴霞は今日来る気になったんじゃないだろうか。なんだかややこしい事になりそうな気がして、隆はますます気が重くなった。
  • [50] mixiユーザー

    2009年09月16日 07:52

    「なあなあ、ミッキー…。俺ら、時間とか場所を間違えてないよな?」
    「…多分。予約の名前はあってたから、大丈夫じゃないか?」

    隆とミッキーがお店に着いてから、20分が過ぎようとしていた。

    「もしかして…すっぽかされたとか?」
    「考え過ぎだよ…隆。」
    「でもさ…突然、場所が替わっただろ?晴霞が来るって事と同時に。」
    「えっ…あっ…そうだった。」
    「それにさ、合コンって…ファミレスとかカラオケとかでやるんだと思ってた…。」
    「確かに…そうだよな。俺もそう思ってた。」
    「だろー。それにやたらとセッティングしてある椅子の数、多くね?」

    二人は回りを見渡した。確かに数が多い。最初は5人の予定で、プラス晴霞の6人で合コンになるはずだ。
    二人は顔を見合わせ、うーん…というような表情をしていた。

    「遅くなってごめんね!」

    勢いよく入って来た女性の一声が、沈黙していた二人の間に割って入った。
    二人は、声のした入口の方に目をやると、キョトンとしてしまった…。
    次から次へと、人が入ってくる…だが、明らかに高校生ではない人が混じっていたのだ。
  • [52] mixiユーザー

    2009年09月18日 13:24

    「つーか、ここ居酒屋じゃなかったっけ?」
     とミッキーが呟く。
    「そうだよね・・・。」
     隆も唖然としている。
    「おー、もう始まってんのか。」
     そう言いながらサトウさんがやって来た。
    「サトウさん?!」
     ミッキーと隆が声を揃える。サトウさんは合コンのメンバーには呼んでいなかった筈。
    「あ、晴霞から聞いたんだよ。」
    「晴霞から?」
    「てかこの店何なんですか?居酒屋だと思ったら演奏始まっちゃうし・・・。」
    「ん、ここ居酒屋じゃねーよ?演奏聴きながらこうやって呑める店。」
     そんなやりとりをしてる間に、晴霞達のチューニングも終わった様だ。見た限り、晴霞がボーカル、悠香がギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッション&コーラスのパートの娘もいる。
    「今度の対バンの前に、私達の演奏を聴いて貰わなきゃね。」
     いつの間にか席に立花先生が来ていた。
    「え、対バン?!」
     隆とミッキーが声を揃えた。
  • [53] mixiユーザー

    2009年09月29日 01:36

    「あれ?あんたらが申し込んできたんじゃないの?」
     口元に白い髭を生やして立花先生は驚いたように言った。隆がふとテーブルを見やると、中ジョッキが汗をかいたまま空っぽになっている。
    「いや……俺、今始めて聞いたんですけど……なぁ、隆?」
     立て続けに起こる予想外な事件の連続で、出来の悪い頭は消化不良を起こしている。壊れたデッキに無理矢理突っ込まれたCDを聞いてるような、でたらめな情報しか入ってこない。ミッキーの声に隆は「あぁ」とだけ頷いた。
    「えー?私らあのノッポの兄ちゃんから言われて来たんだけど?」
     立花先生の視線を追うと、部屋の真ん中のステージにへばり付いてスティック回しを披露しているサトウさんがいた。彼は何がしたいのか?二人ともつい視線が険しくなる。
     隆とミッキーの睨みが効いたのか、サトウさんはこっちをちらっと盗み見て軽く「よぉ」と手を上げた。残念ながら、黒いオーラは全く届いていないらしい。
    「ちッ!ワケわかんねーぜ!」
     椅子を蹴って、ミッキーが立ち上がった。止めた方がいいのか隆は迷ったが、止めても無駄だと思う。
    「あれ?なんか彼、ヤバくない?」
     立花先生が心配そうに呟いたが、テーブルにあったおしぼりを畳んでは開きを繰り返している。隆には、サトウさんに続きこの人もよく分からない人間の一人になった。
     内向的な隆とは正反対で、ミッキーは思った事がすぐ態度に出る性格。横暴に振舞っていようが友人を減らさない才能がちょっと羨ましくもあったが、彼の作ったトラブルに毎回巻き込まれるのはしんどい。
     しかも、腐ってもここは酒を飲む場所だ。隆は頭を覆った。停学はいやだ……

     隆の心配を余所に、ミッキーはステージに難なく辿り着き、いきなりサトウさんの胸を掴んだ。当のサトウさんは別に驚いた風でもなく、ミッキーを見下ろす。
    「なんだ?料理マズかったか?」
    「あんた、ワケわかんねー」
     噛み合わない会話を無視し、ミッキーは静かに右手を握り締めた。殴ろう。そう思った。

     突然、ミッキーのすぐ後ろで聞きなれた音がした。散々頭に叩き込んだ音だ。こいつに背けば、全てがおジャンになる。

    ――カツ カツ カツ カツ……

     頭上高く掲げられたスティックが鳴る。バラードっぽいユル目のテンポだ。
     ベースが重い音をはめ込み、ギターがなぞる。パーカッションが加わりハモリに合わせ、いきなり高音域のボーカルが響く。店内は、いつの間にか増えた客でざわついていたが、空間が静まり返った。
    「ほら、始まんぞ。こんなトコまで来たんだから、おとなしく聞かなきゃ失礼だろ」
     ゆっくり丁寧にTシャツを掴むミッキーの指を解き、サトウさんはステージを見上げる。喧嘩を売られた後というのには程遠い表情で、サトウさんは音楽を味わっている。
     行き先を失ったミッキーの拳は、居心地が悪そうに力なく落ちた。
  • [54] mixiユーザー

    2009年10月09日 23:29

    「説明して下さい。」

    部屋の片隅に隆はサトウさんを引っ張り出した。

    「なっなんだよ〜。折角なんだから、演奏を聴けよ!」
    「演奏よりも、何でこうなったかが大事です。」
    「……。」
    「ミッキーだって知りたいはずだし…対バンの事だって初耳だったし…。」

    隆に肩を掴まれたまま、サトウさんは困った顔をしていた。隆はそのまま俯いて、サトウさんの言葉を待った。

    会場内はどんどん盛り上がっていった。しかし、隆とサトウさんは沈黙状態が続いた。
    その間に、ミッキーの姿が見えなくなった事に二人とも気がついていなかった。


    「あのな…。」

    ようやく、サトウさんは重い口を開いた。

    「お前たちの合コンをこんな風にしたのは、謝る。俺が立花先生にお願いしたし、悠香たちにもお願いした…。」
    「合コンとは別にやれば良かったじゃないですか…ミッキーはすごく楽しみにしてたんですよ!?」
    「ミッキーは…。隆は楽しみにしてたのか?」
    「え?…俺は別に。」
    「そっか…ならいいや。」
    「??…だから、なんでこうなったんですか!」
    「あっ…えっと…合コンの事を聞いて…そんで…対バンしようと考えてたから…あっ…いや、俺らまだぺーぺーだから、対バン相手の演奏は聴いておいた方がいいかなって…合コンメンバーって悠香のバンドのだったし…。今日のボーカルは晴霞だけど。」

    サトウさんの説明に疑問を持たない訳ではなかったが、とりあえずは、掴んでいた手を放した。

    「今日にする事はなかったよな…。」

    ぼそっと呟いて、隆はサトウさんから離れた。
  • [55] mixiユーザー

    2009年12月31日 03:09

    「はぁ……」
     店を出た途端、ミッキーは大袈裟に溜め息を吐いた。真夏の再来のような熱気から解き放たれ、ほんの少し肌寒さを感じる。
    「やっぱ俺、あいつ好きになれねぇ」
    「あぁ」
     ギャルバンのライブは適当に抜け出した。
     演奏力、アレンジ、パフォーマンス。どれを取っても昨日今日やりだした自分達が張り合えるはずもなく、途中で聞いていられなくなった。同世代の女の子たちが自分の上を軽く飛び越えて、ステージ上から見下されている気がしたのだ。
     ここ半年以上、隆は勉強そっちのけでギターに噛り付いていたが、越せない年季の違いというのはあるらしい。対バンの日付までのたかだか知れた期間で彼女達の上へ躍り出る事は、どう足掻いても不可能に思える。
     薄暗い路地を横切り、隆とミッキーはあてもなく歩いていた。足取りが重いのは、真っ直ぐ家に帰ったとしても眠れる自信がないからだろう。
     今まで培ったプライドは切り裂かれ、心は不安感に支配されていた。単純に一人でいたくなかった。
    「なんでも勝手に決めてよー。いつでも相談なしで事後承諾だろ」
    「あぁ」
     いつもは少しうざったいミッキーの独り言に今夜はなんだか救われている気がした。こんな時のミッキーのぼやきには、サウンドトラックみたいな効果があるのかも知れない。
    「おい隆。聞いてんのかよ?」
    「あぁ」
    「……はぁ」
     再度溜め息を漏らすミッキーを余所に、隆は考える。

    ――サトウさんは何を考えてるんだろ……?

     サトウさんには謎が多過ぎる。
     晴霞との関係。悠香との関係。自分達と組んだ理由。突然提供してくれた曲。
    「そう言えばさ……」
    「あぁ……え?なに?」
     険悪な眼差しを向けるミッキーに気付く。ミッキーはまた溜め息を漏らした。
    「晴霞も悠香ちゃんも、なんで俺らんトコに来たんだろ?これもやっぱアイツの差し金?」
    「さぁ?」
    「隆はどう思う?対バンの話」
    「うーん……実力から言って……絶対、勝てないよな」
    「だろ?」
    「でも、既にサトウさんが話つけてるみたいだし……」
    「俺は行かねぇぞ。いいんだよ。アイツが勝手に進めてただけなんだから」
     ミッキーはぶっきらぼうに自販機に小銭を突っ込んで缶珈琲のボタンを押す。ガタンと耳障りな音を立ててそいつは応えた。
    「俺、もう終わりにするぜ。アイツに関わるのはな。隆はどうする?俺とするか?それともまだ振り回されるのか?」
    「……」
     三人で始めたバンドだ。自分の成長速度に自惚れ、ライブでは散々な目に合った。経験も腕も足りていない事を知った。井戸の中の蛙。いや。おたまじゃくし以下だ。Crepusculeはまだ何も始まっていない。
    「煮え切らねぇヤツ……」
     プルタブをこじ開けホットのブラックを一気飲みし、ミッキーは空き缶をアスファルトに叩き付けた。賑やかな繁華街の喧騒を余所に、乾いたその異音は胸に刺さる。
     下品なネオンに照らされたミッキーの後姿が、隆の脳裏に焼き付いた。隆はその背中に何も言えなかった。
     爆発的な不安感に締め付けられる。どうして何時も最悪な方向へしか進まないのか。どっちか片方を選べ?そんなの出来る訳ないじゃないか。

    ――これから俺はどうすればいい?

     猫撫で声で寄ってきた年齢不詳の女は、隆の顔を覗いただけで去っていった。好みのタイプではなかったんだろうきっと。
  • [56] mixiユーザー

    2009年12月31日 03:19

     日付が変わる頃に女子高生の集団といちゃついてるナンパ男が出てきた。そもそも未成年者がこんな時間までうろついてるのは問題だと思うのだが、保護者であろう立花先生はアルコールと音楽で自分さえも見失っている気がする。
     不躾に投げられる視線を無視し集団に分け入りサトウさんを捕捉する。足取りもおぼつかない教師が呂律の回らない声で叫んだ。
    「高校生がぁ、こぉーんな時間までぇ、遊んでちゃダメだろぉー!」
     晴霞が睨みを効かせているのは気付いていたが、隆は最後まで目を合わせなかった。

    「今日限りで解散します」
     行き付けのファミレスの指定席で、飲み放題のアップルティーをのんびり飲みながら表情も変えず、サトウさんは黙って聞いていた。
     多分、いや。限りなく絶対的に対バンは負けるに決まっている。そもそもドラムかベース不在の状態で客に披露できるわけがない。
     いや。この際、そんな事はどうでもいい。メンバー内で渦巻いている不信感が払拭できればそれでいい。
     ベースはミッキーしか考えられない。スタジオでもステージでも隆を軽くバカにしたような、それでも信頼してくれている微妙な雰囲気。その安心感があってこそ、隆は胸を張ってギターを掻き鳴らせるのだ。
     ドラムはサトウさんしかいない。惚けた顔で隆とミッキーを困らせながら緊張を砕き、最終地点の道標を作ってくれる。盲目的に信用できる彼のリズムなしに演奏なんて不可能だ。
     そのどちらかが欠けてしまう地点にきている。切羽詰まっているのだ。
    「……」
     隆は答を待った。自分達には理解できないが、サトウさんにも考えがあるはずだ。
     信頼できるメンバーの考えが分かればきっと、ミッキーも戻ってくるに違いない。音楽を創る事を共に喜んだ仲間だから。
     だけど、小さな期待をあっさり切り捨てたサトウさんの答に、隆は絶句するしかなかった。
    「そっか。仕方ないな」
     カップの中でスプーンをグルグル掻き混ぜながら、サトウさんは無表情に呟いた。浅はかな隆の計算は呆気なく打ち砕かれ、三人の関係はもはや修復不能と最終通告が届けられたのだ。

    ――何言ってんのコイツ……?

     戦いの継続を拒否された。既に隆の中でバンド活動は生き甲斐になっていたし、今まで散々だったステージで成功するのが目標だった。
     失敗する度に、覚えてろよと心の中で捨て台詞を吐き続けた。それはまだ、ステージでの勝負に負けたままで決着を付けたくなかったからに他ならない。
     もう二度と戦えない?このまま負けっ放しで終わる?今までの自分はなに?
     無意識でサトウさんに詰め寄り、胸倉を掴む。
    「なんでそんなに冷静でいられるんだよ!解散すんだぞ!!あんたの中でバンドってその程度のもんだったのかよ!?」
     なんだか無性に憎らしかった。
     弾けなかったフレーズが、難なく奏でられる喜び。ストリートで観客に受け入れてもらえた快感。指紋が磨り減るまで引き続けた夜。
     同じ未来を見ていたはずなのに、全て否定された気がした。
    「あのさ……嬉しくない注目されてんだけど……」
     ぼやける視界の中で、隆の腕はサトウさんの頬を弾き飛ばした。
     サトウさんの体は難なく吹っ飛び、安物のソファに叩き付けられた。ウェイトレスが奇妙な声を上げるが誰も近付いてこない。
     静まり返ったファミレスは日常からかけ離れた場所に連れた来られたような錯覚を起こし、本当に夢ならばと思った。
     震える拳とは裏腹に、頭は溶岩でも流れ込んだかのように煮え滾っている。隆は人を殴ったのは初めてだった。
     鈍い痛みが拳に残る。何故か涙が溢れる。
     硬直して動けない隆を余所に、左頬を押さえてよっこいしょっとサトウさんは立ち上がる。血の付いた手が床に転がった伝票を掴んだ。そのまま背中で呟く。
    「お前の手は、ギター弾く為にあるんじゃなかったのか?期待して、損したな……」
     呟くと、サトウさんは黙々とレジへ進んだ。ウェイトレスが震える手でレジを打っているのが伝わってくる。
    「お騒がせしてすいません。通報はしないでもらえませんか」
     固まったまま隆は思う。そういえば、サトウさんに奢らせたのも初めてだった。
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