人々の心が爛れ、世界は、筋道の通らぬ不条理で満々ています。そんな時代の中で、ある種の人間に常に聞こえているシ(死)の音。シの音は、導音と呼ばれ、解決を望む、人間の心の奥底で鳴り響く、希求する音・・。 dj k l o c k 亮、あなたも、その音を常に聞いていたのですね・・・・・・。1999年の春、下北沢のあなたのアパートを訪ね、あなたの創っている音楽を初めて聴かせてもらった時、あまりよく分からなかったというのが正直な感想でした。でも、あなたが真剣に自分の内なるものを見つめ、自分の音楽を創りだそうとしている、そのことだけは、とても強く感じました。あの時、私は一本のビデオテープをあなたに手渡しました。それは、私が、音楽から演劇へと進む道を変えてから30年、そんな長い時間をかけて、かけてと云うより掛かってしまったのですが、<崖っぷちに立っている人に届く言葉ってあるんだろうか?>そう自問自答しながら、やっとの思いで創り上げた舞台 「階段の上の少年」の公演ビデオでした。あの時のあなたは、言葉に対する拒絶反応のようなものがあって、話したいと思っていたことを何も話せませんでした。だから、あの作品が、奇遇にもあなたと同じ名前の少年の存在があって生まれたんだということも、あの作品の中に出てくる<シ>の音についても、何も伝えることが出来ませんでした。ただ、別れ際にあなたが言った、 「叔母ちゃんの作品の為に、僕は曲を創ることは出来ないけど、もし叔母ちゃんが、 僕の曲を使いたいと思ってくれるなら、いつでも使ってくれていいよ。」そう言ってくれたのが救いでした。 もう少し時が経てば、じっくり話せる時が来る、そう願っていたのですが・・・・・。 今となっては、あのビデオを観てくれたのかどうか、知ることは出来ません。でも、そんなことはどうでもいいのです。大切なことは、あなたが、自分の創った曲の最後に、意味ある音として、明確なる意志を持って、希求する音、シの音をおいたということです。 あれから9年、あなたが魂を込めて創ってきた曲を初めて使わせてもらいます。私の愛する甥< d j k l o c k >亮、あなたの遺したCDから、あなたの魂、メッセージが伝わってきます。舞台を観に来て下さった多くの方々にも伝わりますように・・・・・(作・演出 田井順子)