F.F. ショパン ◇ 3つのノクターンより 第1番 変ロ短調 作品9の1 Trois Nocturnes n.1 en si bémol mineur Op.9 ◇ 幻想ポロネーズ 変イ長調 作品61 Polonaise - Fantaisie en la bémol majeur Op.61 ショパン最晩年に作曲され、A.ヴェイレ夫人に献呈されました。ポロネーズのリズムはもちろん重要な一要素ですが構成は明らかに幻想曲です。事実ショパンは、当初の曲名を「幻想」としていました。複雑な和声と自由な形式をもつ極めて独創に満ちた単一楽章曲としては規模の大きな作品です。『この痛ましい幻影は、芸術の域を超えている』というリストの感傷的な批評をはじめ、永らくこの偉大な作品は正当な評価を受けませんでしたが、ルービンシュタインやホロヴィッツの名演により、20世紀半ば以降に演奏機会が急増しています。現在では最晩年の同時期に書かれた「舟歌」とともにショパンの最高傑作に挙げられています。この曲は大いなる哀しみの中で作曲されました。ジョルジュ・サンドとの別れと絶望、宿痾の肺病悪化による死への予感。ショパンの心の叫びがこの曲全体を覆い尽くしています。 ◇ ピアノソナタ 第3番 ロ短調 作品58 Sonate n.3 en si mineur Op.58 1844年に作曲され、ペルテュイ伯爵夫人に献呈されました。前作である第2番《葬送》とはうって変わり古典的な構成美を特徴としており、曲想、規模ともに堂々たる大作です。 第1楽章 Allegro maestoso ロ短調 ソナタ形式:決然とした第1主題とショパンらしく優雅で甘美な第2主題からなり、ショパンの個性と新たな創意が存分に生かされています。暗く憂愁なロ短調の作品は多くありませんが、ピアノ至上主義のショパンは運指上多彩な表現をし易いロ短調を選びました。 第2楽章 Scherzo Molto vivace 変ホ長調:深刻な内容の多いショパンのスケルツォには珍しく、即興的な諧謔性に富みます。中間部では変ホ長調に対峙しロ長調に転じ瞑想するかのようです。エンハーモニックという斬新な転調手法も使われています。第3楽章 Largo ロ長調 三部形式:ノクターン風の甘美な楽章で第1主題の旋律は贅沢なほどに流暢優美の極みです。中間部では嬰ト短調―変イ長調とピアノ協奏曲第1番の第2楽章に似た展開をみせ、再現部は左手部に鋭いリズムが付き変化を愉しんでいるかのようです。第4楽章 Finale Presto non tanto ロ短調 ロンド形式:この大曲の締め括りにふさわしく情熱的で力強く、ヴィルトゥオーソ的な技巧が要求されます。主題は序奏のあとすぐ提示されロンド形式で繰り返されます。エンハーモニックによる転調が随所にありロ長調で終わりを告げます。
♪ Pause[15分間]♪
S.V. ラフマニノフ = 江口 玲 編曲 ◇《パガニーニの主題による狂詩曲》作品43より 第18変奏曲 Variation Nr.18 aus Rhapsodie auf die Thema von Paganini Op.43 S.S. プロコフィエフ ◇《10の小曲集》作品12より 第7曲 前奏曲 ハ長調 Zehn Kleine Klavier Stücke Op.12 Nr.7 Praeludium C-dur ◇ ピアノソナタ 第7番 変ロ長調 作品83 Sonate Nr.7 B-dur Op.83 3曲の「戦争ソナタ」のうち最も有名な作品です。1943年にモスクワで、初めてプロコフィエフ以外のピアニストリヒテルに初演が託されました。プロコフィエフは9曲のピアノソナタを残していますが、第二次大戦下に作曲された第6番から第8番までの「戦争ソナタ」は、まさに円熟期を迎えたプロコフィエフの代表的な作品群です。とりわけ1939年から42年にかけて作曲されたこの第7番は、よく知られており演奏される機会も多い作品です。活動的で鋭いリズムをもつ曲調ですが、極めて緻密な計算のもとに作られており、その完成度の高さから近代音楽の最高傑作と評されています。和声の扱いも群を抜いて高度であり、各モチーフが全曲を通じ密接かつ有機的な関連を保っています。 第1楽章 Allegro inquieto:ソナタ形式。リストの「ロ短調ソナタ」のように前衛的な形式ではなく古典ソナタ形式に忠実な楽章で、モチーフが密接に絡み合い緻密で見事な構造美を有します。無調的であり強烈な不協和音が楽章全体にちりばめられ、コーダでテンポを上げ高揚したあと重低音で静かに曲は閉じられます。 第2楽章 Andante caloroso:冒頭の主題はシューマンの「リーダークライス」の “悲しみ” に由来し、その歌詞への連想からソ連への体制批判が暗示されます。活動的な1楽章とは対蹠的な美しい緩徐楽章で、中間部ではラフマニノフが得意とした鐘の模倣が多くみられ次第に盛り上がり最高潮に達したのち、今度は遠く静かな鐘の音が曲を支配し、冒頭の主題が回帰し消えていくように3楽章へ引き継がれます。第3楽章 Precipitato:7拍子で書かれており形式はA-B-C-B-Aの対称形です。演奏時間は3楽章の中でも最も短くわずか3分半程度の打楽器を連想させる楽章であり、絶え間なく左手の変ロ音が鳴り響きます。いよいよクライマックスでは興奮が全曲を通して頂点に達し、恐ろしいものへ突進するかのような大団円を迎えます。