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開催終了3月のお題【卒業】の投稿

詳細

2007年02月26日 21:07 更新

2月のお題【バレンタイン】に投稿、コメントしてくださってどうもありがとうございます。

バレンタインは高い意識で望んでる方が多く、これからが楽しみになるようなものでした。

さて3月のお題ですが・・・”卒業”でいこうと思います。

卒業のもつ独特な思いを表現したモノがでてきてくれるとうれしいです。

一応の制限としては、

・文字数5000文字以内

ぐらいです(多少は越えても可)

それではみなさんの投稿お待ちしております。

コメント(2)

  • [1] mixiユーザー

    2007年03月04日 23:18

     「神様はここにいる」

     私の通っていた小学校はもうずいぶんと前に閉校してしまっていた。
     そのことに思うところが無いといえば嘘になるが、それも時代の流れだからと自分を納得させることが出来るほどには、私はもう子供ではなかった。だからと言って、だからと言って母校の取り壊しが決まったと聞かされて何も感じないわけでもなく、三月のこの忙しい時期に久しぶりに空いた時間を使って、もう誰も学ぶことの無くなった母校を訪ねている。
     山間に位置する小さな学校、一年生から六年生まで全てをあわせても三十人にも満たないような、本当に、私が子供の時ですら存在していたのが奇跡なんじゃないかと思えるような、小さな学校だった。あれからずいぶんたった今、こうして眺めてみてもその印象は変わらない。
     学校の背後には、子供のころよく遊んだ山が、まだ少し寒そうにそびえ立っている。葉が色づくのはまだもう少し先のことだ。
     こんなに小さかったんだな、ここは。
     小学生のころから小さい小さいと感じてはいたが、三十を過ぎるとそれはなおさららしい。背後にそびえる山が、学校の小ささをよりきわだたせている。
     二度と開けられないように、鎖でしっかりと縛られた校門に触れる。
     外気で散々冷やされていたからだろう、少し痛いと感じる。
     校門にはいってすぐ右には、二百メートルのトラック一つが入るかどうかといった大きさの校庭がある。そしてその奥には、体育館。
     左手には二階建ての木造の校舎がみえた。五年間と少しの間、私が通っていた校舎だ。
     懐かしい、と感じることは無かった。
     過去のことだから当てにならないのはわかっているが、記憶の中にあるこの学校は、寂びれているなりに活気のあった学校だったはずだ。
     ……結局、卒業まで通うことは出来なかったが。
     卒業、という単語が脳に浮かぶと、思考が仕事のことに切り替わるのを感じた。
     こんなときに、と思いはするものの、たまの休みだからといって彼らのことを完全に遮断して物事を考えることなんて、とうの昔に出来なくなってしまったことだ。
     卒業か。
     大学を出てすぐに教師になってからもう十年、送り出すことにはずいぶんと慣れた。
     送り出されるときには、卒業を特別なことだなんて思うことは無かった筈なのに、送り出すようになってからはなんとなく、その意味を考えるようになった気がする。
    「だからかな」と、軽くひとりごちる。
     取り壊されると聞いて、ついここにきてしまったのも。
     学生のときは、卒業を特別なことだと思うようなことは滅多に無かったものの、一つだけ、どうしても忘れられない卒業式があった。
     あれは、小学五年生のとき。
     そのときはたまたま、六年生が一人も在籍していなかったこの学校での。
     本番の無い、卒業式の予行演習でのことだ。

     
    「ねえ、『彼』がいる」
     退屈な練習にあくびをかみ殺していると、後ろの席の縁(ゆかり)が僕の腕をつついた。
     言われるままに、縁の指差す方向を見ると、壇上で先生がなにやら説明しているその脇を、僕たちと同じくらいの年の少年がなんとはなしに横切ったところだった。
     先生は『彼』に気づくことも無く、予行練習だからといって気を抜かないように、などと注意をうながしていた。
    「『彼』も予行演習を見に来たのかな」
     不思議そうに縁は『彼』を見つめている。もう慣れても良いころだろうに、何度見ても『彼』が現れると縁はこの不思議そうな顔をしている気がする。とはいっても、それは僕たち生徒全員に言えることかもしれないから、口には出さないけれど。
    「ほんとだ、幽霊がいる」
     僕のつぶやきに、縁は顔をしかめた。
    「まだ言ってる。どうでもいいじゃん、『彼』がなんだって」
     『彼』は、生徒の間では有名だった。『彼』がいったい何なのかはよくわかっていない。僕は幽霊だと思っているんだけど、『彼』が幽霊かどうかは意見の割れるところだった。三年生の健ちゃんなんかは『彼』を座敷童だと言っていたし、縁なんかは学校の妖精だって主張してる。ちょっと変わったところで、二年前に卒業した僕の姉ちゃんなんかは、学校の神様だって言ってたっけ。確かに、幽霊って言ったって何の根拠があるわけでもないし、幽霊が一番ありそうだろ? って僕の主張だって縁に言わせれば「妖精は居ないけど幽霊なら居そうっていう感覚がわからない」ということになるらしいし。
     その彼は、いつもと同じようになんだか派手な柄のTシャツとジャージを着ていて、やっぱりいつもと同じように校内歩き回るように、ボーっと体育館を歩き回っていた。かと思うと、僕達のひそひそ話を聞きつけたのかこちらに走ってきて、何がそんなにうれしいんだか僕達に迫力のある笑顔を向けたあと、グっと親指を立てて見せた。
    「相変わらず、訳わかんない」
     言葉だけは冷静につぶやいているのだけど、なぜか妙に楽しそうに、縁は親指を立てて『彼』に応じている。
    「それ何?」
    「挨拶、『彼』との」
     あまりに自然に縁が言う。
    「なんかさ、元気出せ! とか、よくやった! とか、そういうときにこういうポーズとらない?」
     縁の言うようにこぶしを握り締めて、親指を立てる。グ、と音がしそうなくらいに。
    「うーん」思わずうなり声を上げてしまう。
     縁も十分訳わかんねえ。と僕は思ったのだけれど、これは心の中にしまっておく。
     そうこうしていると、先生の怒鳴るような大声が校内に響いた。
    「卒業生! 起立!!」
     縁が思わず慌てて立ち上がろうとしてしまった僕のたいそう服を引っ張る。
    「居ないって、卒業生」
    「……そうだった」
     生徒総人数二十七名のうち、今年は一人も六年生が居ないんだった。
     思わず周りを見渡したけど、幸い、縁のほかには誰も見ていないようだった。
    「何のためにやってるんだろうね、この練習」
     さあ? と僕は応じる。
    「思い出作りと区切りのため、らしいよ」先生に言わせれば。
     起立の掛け声とは打って変わって、省略します。と言う先生の声が事務的に体育館内に響いた。
    「この思い出って本当に必要なのかなあ」
     何の気なしに縁がつぶやいている。僕は、良い思い出だよとも意味なんてないよとも言えず、さあ? とやっぱり何の気なしに応じる。

     卒業式の予行演習でやることと言ったら、掛け声を聞いたら立って、省略しますという声を聞いて、やっぱり掛け声を聞いて座る、事くらいしかない。何か意義のあることを無理に探してみたところでせいぜい、本番の段取りを確認するだけだ。もっとも、その本番は無いけど。
     何のために、時間を割いてこんなことをしているんだろう? と思ってるのは縁だけじゃない。授業をするのはいやだから、まだこっちのほうがいいけど。大人のやることって、よくわからない。
    「卒業証書、授与」
     省略します、と言う先生の言葉を先んじてつぶやいていると、予想に反して先生は壇上に立った。
     不思議に思ったのは僕だけじゃなかったらしく、それまで静寂に包まれていた体育館に喧騒が生まれた。
     ふと目を上げると、壇上に『彼』が上っていくのが見えた。
     いつものとおりに、ぼーっと。
     壇上に立った先生は、そんな『彼』が見えているのか見えていないのか卒業証書を持ったまま、体育館に居るたった二十七名の生徒を見渡した。
    「卒業証書、授与。村立大野台小学校殿」
     それだけ言うと、先生はうつむいて、そうして何かが過ぎ去っていくのを待つように黙り込んだ。
     『彼』が、先生の前に立った。
     『彼』は先生の持った証書をそっと撫でると、壇上の脇に座り込んで僕達全員に見えるように、親指をグっと立てた。
     それだけだった。
     それだけだったけど、なぜだか僕達は示し合わせたように、彼に向かってこぶしを突き出して親指を立てて見せていた。
     見ていた下級生達が、意味がわからないまま真似する様にして親指を立てていく。
     力強く、応じるように。
     なぜか涙をぬぐっていた先生が、ぽかんとして僕達を見下ろしていた。

     
     どれだけそうしていただろうか、鎖につながれた校門を前に、私は懐かしい思い出に浸っていた。
     あの予行演習から半年もたたないうちに、私の母校はその役目を終えた。
     今思えば、先生達にとってはあの卒業式は予行演習ではなかったのかもしれない。
     或いは『彼』にとっても、そうは見えなかったけど、本物の卒業式だったのかもしれない。
     さすがにいつまでも校門の前にたっているわけにも行かず、立ち去り際にそっと、もう一度学校に目を向けた。
     すると、『彼』がたっていた。
     建物の外で『彼』を見たのは初めてだった。
     彼は私を認めると、ゆっくりと私に向かって、校門に向かって歩み始めた。
     あのころのままだった。ボーっとしていて、派手なシャツとジャージを着ている、小学校上級生くらいの少年。
     『彼』は、鎖で縛られた校門なんて意に介さずに学校から外に出た。そうして私の横に立つと、名残惜しむかのように一度だけ学校を振り返った。
     釣られて、私も学校を見た。
     木造の二階建の校舎。かろうじてバスケットコートが入るかは要らないかの大きさの、小さな体育館。
     校門の外から見る、かつての学び舎。
     不意に、強烈な懐かしさを感じた。
     そうだった。仲の良い友達が居て、もしかしたら人一倍感激屋だったかもしれない先生が居て、ちょっと不思議なことだけど、当たり前のように『彼』がいて。
     結局、卒業することの出来なかった、私の母校。
     私は、何のためにここに来たのだろう? と問いかける。
     あのころの私なら、さあ? と何の気なしに相槌を打つのだろう。
    「あの時に式はやったから、僕はそろそろ卒業するよ」
     耳元でそう囁かれた気がして思わず彼に目を向けると、既にそこには何もなく、ただ鎖につながれた校門と懐かしい母校と、子供のころに毎日のように走り回った通学路があるだけだった。
     そうだったよな、確かそうだった。
     大人には、『彼』は見えなかったんだよな。
     一人静かに納得して、私はグっとこぶしを握った。
     そうして力強く親指を立てた。
  • [2] mixiユーザー

    2007年04月27日 13:49

    『二人のCROSSROAD』

    4限目の授業が終わるとさっきまで眠りきったように静かだった教室はいっせいに活気づく。それもそのはず、なにせ今日が3年生にとって最後の昼休みになるからだ。
    生徒達は我こそはと猛ダッシュで購買部に駆けていくやつ、買ってきた弁当なんかを取り出して食べるやつ、早弁してたのに何故か弁当がもう1つあるやつ・・・とりあえずみんな学校での最後の昼食を楽しもうとしていた。

    しかし、翔介だけは違っていた。
    翔介はいつも母親から弁当を作ってもらっていたのだが、今日は母親は早朝から出かけていて弁当は無く、財布の中の残金は53円しか無かったのだ。
    「うがぁ〜これじゃ駄菓子屋にでも行かないと何も買えねえ!」
    残金を手のひらに広げて翔介がバカな声を上げると、クラスに残ってるやつらは一斉に笑い始めた。その中でも人一倍笑ってるやつが一人。
    「ついてねーなー翔介。まぁアレだ、水があれば人間10日は生きていけるから。今日ぐらい食わなくても大丈夫だってっ。」
    高橋がそう言ってケラケラと笑う。
    「そー言うならお前の弁当をよこせえぇぇぇっ!」
    翔介は高橋に冗談を返して弁当を取り掛かろうと襲い掛かった。すると、高橋も弁当を死守しようと迎撃体制に入り、まるで中国拳法の様にくねくねと身体を動かし始める。
    その中国拳法的な動きは翔介の攻撃をひらりひらりと見事にかわして、翔介の手を弁当に触れさせることを許さない。
    その2人のやり取りを見ていたもの達はさらに笑い出し、冷やかし半分でどちらかの応援を始める始末。
    はたから見てこの緊迫?した戦いはすぐに終わりそうには見えなかった・・・。

    そんな中、翔介がなんとか弁当を奪おうと様子を伺っていると、急にスパコーンとその頭に突っ込みが入った。みなはそれを見てさらに笑い出す。翔介が突っ込みをした人物を見ようと振り返ると、そこには幼なじみの明日香が立っていた。
    「2人ともいい加減にしなさいよっ、まったく弁当ぐらいで・・・。」
    翔介が頭を抑えながら明日香の手の方に目をやると、まだ食べてない弁当が目に入る。
    「それではそっちの弁当をよこせえぇぇぇっ!」
    翔介はまた冗談めかして次は明日香に襲い掛かろうとする。ところが明日香は、ポンッと簡単に弁当を渡してきた。
    「おおっありがとう〜・・・って、あっあれ?」
    一瞬何が起こったのか分からなかった翔介だったが、自分の手に持っているものに気づくとそのまま返そうとした。さっきまでは冗談を言っていた翔介だが、さすがに人の弁当を食べてしまうわけにはいかない。
    明日香はそんな翔介を見かねて昨夜のことを口にすることにした。
    「えぇ〜とさ・・・それ、翔介の分だから。」
    「はい?」
    「だからそれは翔介のお弁当っ。私のは別にあるのっ!」
    明日香は耳まで真っ赤にしてそう言った。しかし、翔介は未だに状況がつかめてない。
    「昨日、おばさんから頼まれたのよ。明日早いから作ってくれないかって・・・だから仕方なく・・・」
    そこまで説明されると翔介はやっと状況が飲み込め、照れながらも弁当を受け取ることにした。明日香も翔介が受け取るのを見るとどこか安心したような表情を浮かべる。
    しかし、それを見ていた周りのものは当然のように2人を冷やかし始める。そして高橋も当然のようにニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて冷やかしてきた。
    「良かったなぁ〜いい奥さんがいて。」
    「誰が奥さんよっ!」
    明日香がそう言った次の瞬間には力強く握られたこぶしが高橋のわき腹にに突き刺さっていた。
    「うぐぉっ・・・いいリバーブローだったぜ・・・。」
    そんなバカなこと言いながら高橋はわき腹を押さえながら床に倒れこむ。それを見たみなは凍り付いて静かになっていた。

    成り行きを見ていた翔介は床に這い蹲る翔介が少し可哀そうだったが、自業自得だと思い弁当を食べることにした。明日香が作ってくれた弁当を。
    明日香もまだ弁当を食べてなかったので、自分の席に座って弁当を取り出そうとすると、翔介が前の席に座ってきた。
    「って、なんでそこに座ってんのよ・・・」
    「いや、ほらアイツ死んでて他に一緒に食うやついないしさ。」
    翔介はそう言って未だに床で苦しんでいる高橋を指す。明日香も自業自得とはいえ、ちょっとやりすぎた思いが出てきて、一緒に食べる友達をある意味奪った翔介に何も言えずにそのまま二人で昼食をとった。

    二人が昼食を取り終わる頃には昼休みも終わり間近になっていて、教室に戻ってくる生徒が少しずつ増えはじめる。
    戻ってきた生徒たちには翔介と明日香とのことが、何故か婉曲して伝わったらしく、二人は本日二度目の集中攻撃を食らっていた・・・。

    「お前等ホンット仲いいよな〜。」「付き合ってどれぐらいなの?」「結婚はいつするんだ?」
    そんな風に皆数にモノを言わせて好き勝手に攻め立ててくる・・・先に限界を超えたのは明日香の方だった。
    「んもぉっ違うって、こいつとはただの幼なじみで今日だって仕方なく−」
    そこまで聞くと翔介もここぞとばかりに反撃にでる。
    「そうそう、こいつとは腐れ縁ってなだけだって。」
    「腐れ縁ねぇ…それにしても二人とも一生懸命否定するところが余計怪しいわね〜。」
    二人して否定したのが返って逆効果となり皆は一層冷やかしにかかってくる。
    翔介が明日香の方に目をやると明日香は、反論するのをあきらめたのか俯いて下を向いていた。
    翔介は明日香の俯くその姿を見た。気がつくと言葉が出ていた…。

    「ホントにそんなんじゃないって!それに腐れ縁も高校で終わり。オレ上京するしさ。」

    それを聞いた皆は驚いた様子だったが、結局昼休みが終わるまで遠距離恋愛などと冷やかしていた。
    しかし、その間明日香がずっと下を向いていたことに翔介は気がつかなかった…。


    放課後翔介は高橋と一緒に帰っていた。明日香は友達と買い物に行ってくるとのことで、今日は三人ではなく二人だった。
    「なぁ、お前上京したらどうするんだ?」
    藪から棒に高橋が聞いてきた。
    「そうだな〜まずバイトとサークル決めてそれから・・・」
    翔介がそこまで話しながら横に居る高橋に目を向けるとそこには高橋の姿は無かった。高橋は後ろで立ち止まっていた。
    「そうだなお前は大学に行って楽しくやるかもしれないな。」
    「なんだなんだ?オレの大学生活が羨ましいのかよ?お前だって自分の希望してたとこに推薦でいけるんじゃねえかよ。」
    軽い口調で高橋にそう言った翔介だったが、高橋の目は笑っていない。翔介は訳がわからず頭を掻いた。
    しばらく二人はたったまま黙りこんだ。
    その時突然、春の強い風が2人の間に吹いた。

    「明日香のことはどうするんだよ?」

    その言葉が終わると二人の間に流れた風は二人の会話とともに止んでいた。

    「おっお前までなに言ってんだよ、別にアイツとはなんでもないって。」
    高橋の険しい表情に押された翔介だったが、おどけてそう答える。そのまま二人はしばらく互いの顔をじっと見てその場で立っていた。
    そのまましばらくするとまた強い風邪が吹いた。そして高橋は歩き出した。翔介もそれに合わせて歩き出していた。それからの帰り道二人は無言のままだった。

    「そっか・・・でも、アイツはそうじゃないと思うけどな。」
    別れ道で離れていく翔介の背中に向かって高橋はそうつぶやいた。


    そして、最後の三学期はあっという間に過ぎ、ついに卒業式を迎えることになった。
    感極まって涙を流す先生、生徒、たくさんの想いが溢れかえってきて”卒業”という事実を少しだけ実感させる。
    しかし、翔介にとっては卒業式なんでどうでもよくて、その後みんなで行くカラオケが楽しみで仕方なかった。

    「卒業おめでと〜〜〜!!」
    式が終わると教室でクラスのみんな一緒に写真を撮った。
    はしゃいでるやつ、泣いてるやつ、冷めたやつ色んな表情が1枚の中に入る。
    そして、翔介と高橋はまだ見ていたい夢から冷めてしまうような感じがして、二人で窓側からクラスのみんなを眺めていた。
    「二人とも何やってんの〜?そういうの黄昏ちゃってかっこいいとか勘違いしてるんじゃないの?」
    そうやってバカにしてきた明日香の目は少し赤くなっている。それを見た二人は顔を見合わせて微笑してやった。
    翔介はそうやってふざけあってるのが永遠に感じられて、後少しで終わってしまうものだとはとても信じられなかった。

    その後、翔介たちは写真をひとしきり撮り終えたらカラオケに行って歌いはじめた。
    当然の様に卒業ソングのオンパレード。しかも高橋が酒を大量に持ち込んできたので、みんなそれを飲んで異常なハイテンションになってちょっと壊れちゃってるやつが出始める始末。
    男子は上半身裸どころかパンツ1枚になって熱唱してるやつもいたりして、もはや歌といっていいかも分からないひどいものなのに、全員酔ってるからみんなお構いなしに大爆笑。そう、最後の夜だからみんな盛り上がっていた。
    翔介も酒はあまり飲んだことがないくせに周りのイッキコールにまんまと乗せられて、かなり酔いが回っていてちょっと頭がぼおっとしていた。
    「オレちょっと飲みすぎたわ・・・外行って酔い醒ましてくる。」

    翔介は立ち入り禁止の看板をどけて、ビルの屋上に出た。
    すでに日は沈んでいて、空が明るい昼ではなく、ビルから下に見下ろせる夜が明るい時間。三月になったばかりの夜風はまだ冬を思わせる寒さで、酔いも手伝ってかその寒さと見慣れた街の夜景が高校三年間、いや、この街で過ごした時間そのものを翔介の中を駆け巡らせた。
    幼稚園、小学校、中学校、そして高校・・・改めて思い返すといっつもふざけて、笑って、怒られて・・・いっつもいっつもバカみたいなことにムキになっていた。その時は何も考えてなかったけど、今となっては掛け替えの無い大事な宝物の様に感じられる。
    ビルの上から見下ろす街はどこを見ても知っている場所で、18年間住んだ街は明日香と一緒にいた思い出で溢れかえっていた。

    突然となりから屋上の金網を掴む音が聞こえた。

    いつの間にか明日香が横に立っていた。

    「まだ夜は寒いね。」
    「そっそうだな。」
    さっきまで明日香のことを考えていたため、つい動揺してしまう。
    「どうしたの?まだ酔い醒めてない?」
    どうやら明日香は心配して来てくれたようだ。
    「いや、ちょっと色々考え事しててさ。」
    すると明日香は可笑しそうに噴出した。
    「なっなんだよ?」
    「ごめんごめん。翔介でも考えたりするんだなーて思って。」
    「あのなぁっていうか最後まで全然変わんないよな〜ホント。」
    「最後、か・・・。」

    翔介は禁句を言ってしまったことに気が付いた。その焦りのせいか何も言葉が出なくなる。
    しかし、明日香は違った。
    「これで最後か〜私達の腐れ縁もここでお終いってことだね。」
    言葉が出ない翔介とは対照的に明日香はどこか嬉々とした声をしている。翔介の心とは正反対の明日香の声は翔介にはショックだった。明日香は自分とは離れたくないはずだと、そう思っていたからだ。
    「ホンット迷惑。ただの幼なじみってだけなのに、勝手に恋人通しにされるしさ。やっと解放されるってて思うと済々するよ。」
    明日香はよっぽどうれしいのだろうか、声のテンションはさらに上がっていた。それは段々と翔介を腹立たせる。
    「それを言うならこっちの台詞。オレだって大学言ったらサークル入って、合コンしてお前なんかとは全然ちがうかわいい子彼女にするし。」
    翔介もつい苛立ちにつられていつも通りの口調で返してしまう。
    「いや、絶対無理。翔介に彼女なんて。まるで女の子のこと理解してないもん。」
    いつも通りの明日香の反論の仕方。そしていつも通りのバカバカしさとともにくる腹立たしさに、翔介はその駆け引きを楽しみながらも反論に出ようとする。
    「アッタマ来た!今日こそは・・・」

    一言ガツンと言ってやろうと明日香の方に身体を向けた。
    でも、そこにある表情は嬉々としたさっきの声とは全く違っていた。

    頬は瞳から流れる涙に濡れ、それなのに口元は無理して両端を上向きに弧を描こうとしていて、瞳はまっすぐ翔介の方を向いていて・・・翔介を強く、力強く締め付けてきた。
    急に今までの明日香に言った言葉、態度が一斉に噴出してきた。いつも本当のことは言えずに周りのことばっかり気にして、逃げ道を探しては逃げ込んできたのかもしれない。
    自分の気持ちに知らん振りをして。


    翔介は大きく息を吸い込んで、明日香の肩を掴んだ。
    「明日香、ごめん。」
    翔介は今までに無い真剣な表情で明日香に語り掛ける。
    「えっ・・・?」
    明日香はその表情と突然の謝辞に戸惑いの表情が見える。
    「オレやりたいことがあるからさ・・・上京して、大学で学んで絶対に叶えたいんだ。だから、だからもうこの街には居られないよ。」
    翔介も明日香にはしっかりと話しておかなければいけないと思った。傷つけることになるかもしれないけど、それでも明日香には自分の口から伝えたかった。
    それを聞いた明日香は、知っていたとはいえやはりショックが大きかったようで、それは翔介からも明日香の表情からも読み取れた。
    「し、仕方ないよね。もう決まったことなんだし。むしろ今までの方がおかしかったんだろうね。」
    明日香は慌てて明るく振舞ってみせる。
    しかし、その姿が翔介には返って胸をより一層強く締め付ける。
    翔介は再度息を吸い込んだ。
    「あっちにいくと中々帰って来れなくなるよ。」
    翔介はまるで言い聞かせるように口にする。
    「うん、そうだね・・・。」
    「それに新幹線だから結構時間とか、お金とかかかる様になるしさ。」
    「・・・。」
    同じ口調で明日香に語り掛ける。
    明日香は下を向いて黙り込んでしまう。明日香の表情が見えなくなると、余計に焦りが募ってきて引き返したくなってくる。でも、ここで引き返したらいけない。
    これまでずっと一緒にいてずっと見ない振りをしてきたからこそ、今日を逃したらそのチャンスはもう二度と来ないだろうから。
    二人が居る屋上には街を走る車の音、春の強い風の音、色んなこの街の音が聞こえてきていた。
    翔介はまた息を吸い込んだ。自然と明日香の肩を掴む手に力が入る。もう明日香の息遣いしか聞こえていなかった・・・。

    「それでよかったら、付き合ってくれないか。」

    言い終わったその瞬間、翔介は何かに解放された。
    今まで言い合ってばかりで、意地張ってばかりで、ろくに自分の気持ちなんて話したこと無かった明日香に伝えられたことが何よりうれしかったから。
    しかし、その喜びもほんのつかの間、当然の様に明日香の返事を期待してた翔介だったが、明日香は下を向いたまま何の言葉も反応も無い。
    一瞬にして翔介の頭は暗闇に落ちた。言うタイミングが悪かったのか、それともやっぱり両想いなんて自分の勘違いなのだろうかと。
    さっきまで自分の想いに真剣に向かい合った姿勢もぐらぐらと崩れそうになっていた。

    「ホンット・・・勝手だよね。」

    まるで口げんかでもしてる様な明日香の声で翔介は我に帰る。その口調はいつも二人で言い合うときの口調で、不思議と翔介の心を穏やかにさせる。
    「普通自分から言うかな〜遠距離恋愛してくださいなんて。」
    憎まれ口を叩く明日香の表情は相変わらず涙に濡れていたけど、いつも通りの笑顔だった。自然体で、無理なんて全然無い見慣れた表情がそこにあった。
    翔介は一気に気持ちが溢れ出した。さっきまで明日香の肩を掴んでいた手は力強く明日香を抱きしめていた。
    「ちょっちょっと苦しいって。」
    翔介は明日香をもっと強く抱きしめた。
    「好きだ。明日香のことが。」
    急に抱きつかれて明日香は戸惑ったが、翔介の素直な気持ちがうれしかったのか自らの手も翔介の背中に回してやさしく抱き返した。
    「ありがと。私も好きだよ。翔介のことが。」
    二人はお互いの気持ちを確かめ合うようにそのまま抱き合った。


    「カップル誕生おめでと〜〜〜。」
    急にクラスのみんなの声が屋上に響いた。
    二人が慌てて手を離して、まわりを見てみるとクラスのみんなが周りに立っている。
    「おっお前ら〜〜〜。」
    文句を言ってやろうと思った翔介だったが、あまりにも恥ずかしさに何も言葉が出てこない。明日香も驚きと恥ずかしさのあまり固まってしまっていた。
    「なんだよ翔介、ただの腐れ縁とか言ってたくせに〜。」
    みんな酔ってていつも以上に冷やかしにくる。
    「そうだ!」
    二人して下を向いていると、高橋が急に何か思いついたかの様に声を出した。
    「せっかくなんで二人にはここで誓いのキスをしてもらおうぜ!」
    「いいね。それ賛成!」
    高橋の提案にみんな一斉に盛り上がる。
    翔介は冷や汗が出てきて、何とか違う方向に持っていこうと明日香の方に救いの目を向けた。が、明日香はじっとこちらに目を向けてきていた。
    「キス・・・してくれないの?」
    「えっ?いやっていうかこんな人前で?・・・まだ1回もしてないんだぜ、オレ達。」
    明日香ならこの状況を打破してくれると思っていたが、残念ながら全くの逆効果になってしまった。
    翔介はみんなを見渡して、もう一度明日香の方に目を向けた。あたりは”キスコール”で盛り上がりきってしまっていてもう収拾が付かない。明日香は無言のままじっと翔介に視線を向けてきていた。

    もうどうにでもなれ、と翔介も腹をくくった。

    そして、翔介は身体を明日香に向けて一歩足を近づける。片手を明日香の背中に回した。
    すると、明日香の片方の手も同じように回ってきた。その瞬間心臓が別の生き物みたいに動き出した。
    翔介の頭は真っ白になって、周りのみんなの”キスコール”も耳に入らなくなる。
    まるで自分の体が別のモノになったかのように感覚がなくなっていって、自然にもう片方の手が明日香の首筋に回っていく。
    翔介の手が明日香の顔の後ろ側を掴むと、二人はそのまま唇を重ねた。
    体の感覚はなくなってきていた翔介だが、唇だけは何故かはっきりしていて明日香の少し暖かくてやわらかい感触がしっかりと唇越しに感じられた。

    「ありがと・・・。」
    お互い離れれると、明日香が恥ずかしそうに口にした。その照れ笑いはかわいくて、いとおしくて仕方なかった。


    その後二人は当然の様に冷やかされたが、前までとは違って冷やかされることもうれしかった。
    全員はそのまま部屋に戻ってまた歌い始めた。相変わらず異常なハイテンションで盛り上がって、みんな最後の最後まで”いつもみたいに”バカ騒ぎした。

    翔介はみんなの顔を一人一人見た。これから別れ道に入るんだな、と思うと寂しさが去来してくる。
    そして、明日香の方に目を向けた。明日香はすぐ横で腕を組んできていた。その暖かさは寂しさを薄れさせていった。


    これからボクたちは違う道を歩むことになる。
    でも、それは悲しいことなんかじゃない。
    だって、ボクの歩む道のすぐ隣にはキミの道があるから。
    手をつないで進んでいこう。
    それが、ボクらのCROSSROAD。

    ―END―
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  • 2007年03月31日 (土)
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