謎の青年トニーを演じたのが、『ダークナイト』のジョーカー役で、アカデミー賞助演男優賞を受賞したヒース・レジャー。故人としては、史上二人目の栄誉だ。彼が急死したのは、現実世界のシーンを撮り終えた後だった。残されたのは、鏡の中の幻想世界。一座に加わり、博士の舞台に集まった観客を甘い口上で鏡の中へと誘い込むのが、トニーの役目だ。幻想世界では、観客の願望に従ってトニーの容貌も変化するというアイデアを思いついたギリアムは、脚本を変えなくとも撮影を続けられると確信、新たなるトニー役を探す。ヒースの代役を最初に快諾したのが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・デップ。かつて『ロスト・イン・ラ・マンチャ』でも描かれた『The Man Who Killed Don Quixote』の製作中止で、監督と出演者として同じ痛みを味わった盟友ギリアムの頼みを断るわけにはいかなかった。さらにヒースの映像を見て、深い感銘も受けたという。続いて『クローサー』のジュード・ロウ、『マイアミ・バイス』のコリン・ファレルも、コリン言うところの「痛みを伴う名誉」を引き受けた。「監督はヒースだったと言ってもいいくらいだ」とギリアムが語るように、ヒースの映画への愛と情熱が、ギリアムの想像力さえも超えて、驚愕のファンタジー・ワールドの傑作として、本作を完成へと導いた。