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2017年09月26日13:12

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【創作】竜喰いのリド  episode1-A:鈴木健太と選ばれし仲間たち【その1】

【創作まとめ】
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 見上げると眼前には真っ青な大空が広がっていた。
 吸い込まれそうな澄んだ青はどこまでも透き通っていて、心が浄化されるような気分になる。
「生まれてきてごめんなさい」
 大学を卒業して、定職にも就かずに毎日部屋に籠ってのゲーム三昧。
 外界との関わりを断つと言う過酷な精神修行のお陰もあり、気がつけば様々なゲームの世界ランキング入りを果たしていた。
 格闘ゲーム、FPS、オープンチャットのRPG、疾風のランスロット(ハンドルネーム)と言えばちょっとした有名人だ。
 だが、どんなにゲームの腕が上がろうとも、収入には繋がらない。
 たまにゲームの大会で賞金を稼ぐこともあるが、そんなものは泡銭であり、一生暮らしていくには無理がある。
 プロゲーマーが大会で競い合うeスポーツと呼ばれる世界もあるが、引き籠りでコミュ症な俺には無縁の世界だ。
 つまりこの俺、鈴木健太がニートでゲーム三昧な生活をおくれているのは、全て養ってくれている親のおかげである。
 そんな事を考えながら晴天の空を見上げていると、本当に思う。
「生まれてきてごめんなさい」
 とはいえ、空を見上げて現実逃避していても仕方ない。
 見上げた視線を地上に戻すと、広大な大地が広がっていた。
 アスファルトで舗装されているわけでもなく、道を外れれば草むらが生い茂る田舎道。
「ここはどこなんだよ! こんな場所、全然知らないぞ!」
 とりあえず冷静に分析してみよう。
「たしか俺は新作のゲーム『エグゼストライク』を買うために朝イチで出掛けたはずだ」
 超攻戦機エグゼストライクとは近未来の地球を舞台としたロボットアクションゲームである。
 プレイヤーはストライカー(操縦者)となって宇宙からの侵略者ガイウスと戦う。
 今流行りのVRシステムを使った超リアルなロボットアクションゲームで、当然ネット対戦も実装されており、家に帰ったらさっそくプレイするはずだった。
 一緒に買った18禁PCゲーム『世紀末巫女伝説アンジェラ』は親に絶対にバレてはいけない。
 いや、エグゼストライクの方もバレてはいけないのだが。
 なんせ親には『就職を有利にするために資格試験の申し込みをする』という名目で貰った金だからな。
 ゲームにつぎ込んだことがバレると色々ヤバい。
 おっと少し話が脱線したな、元に戻そう。
 朝イチで秋葉原のゲームショップでエグゼストライクと世紀末巫女伝説アンジェラを買った俺はさっさと家路についていた。
 長居しても金がかかるだけだからな。
 なにより早く帰って買ったゲームのプレイもしたい。
 そんな急ぎ足で帰っていた途中、信号の無い横断歩道で一匹の猫が車道に飛び出した。
 そして運悪くトラックが迫り来る。
 普段なら絶対にしないのだが、エグゼストライクに浮かれてヒーロー気分だった俺は、猫を助けようと飛び出していた。
「で、気がついたら今の状態なわけだ」
 いったい俺はどうなっちまったんだ?
 冷静になってみても状況が全く理解できない。
 苛立ちから頭を両手でかきむしる。
「ん? あれ?」
 何で俺、両手空いてんだ?
 数秒後、思考が追い付く。
「やっべー、俺ゲーム持ってないじゃん! 何処で落としたんだよ!」
 エグゼストライクだけならまだしも、世紀末巫女伝説アンジェラも入ってるんだよ?
 恥ずかしくて警察に届け出られねえじゃん!
「うーわ最悪だよ! しかもここ何処だかわかんねーし、どうやって帰ればいいんだよ!」
 マジありえねえ。
 色々最悪過ぎる。
 俺は自分の置かれた状況を考え、両手で頭を抱えて途方に暮れる。
 財布を確かめると所持金は132円。
 この見知らぬ土地から電車も使わずに帰るとか不可能過ぎんだろ。
「そこの兄さん、どうかしたのかい?」
 突然背後からかけられる男の声。
 これはきっと困った俺を助けてくれる声に違いない。
 振り向くと、困っている人を放っておけない初老の紳士が家に招き入れてくれて、食事なんかも奢ってくれた上に帰るための路銀も貸してくれるに違いない!
「実は道に迷っていまして、出来たら道を教えてくれた上に路銀も貸してくれると助かるのですが!」
「おう、奇遇だな。俺達も金に困ってるんだ。だから身ぐるみ剥がさせてもらうぜ」
 振り向くとそこには初老の紳士ではなく、厳つい顔のオッサン三人が、青竜刀みたいな剣を構えて脅してきた。
「えと、どちらさま?」

seen2

「ちょこまかと逃げるんじゃねえ!」
 咄嗟に屈んだ俺の頭上を剣が通りすぎる。
「逃げないと死んじまうじゃねえか!」
 どこだか分からない土地で、剣を持った男に襲われるとか意味わかんねえよ。
 体勢を立て直すと、男とは逆方向へ一目散に逃げ出す。
 格好なんて構ってられるか。
 命あっての物種って言うからな。
 三十六計逃げるが勝ちよ!
「ちっ、逃がすかよ。ロッテンマイヤー、ギルフォード、草むらから回り込め!」
「おうよ、シュナイダーの兄者。任せとけ!」
「お前ら無駄にカッコイイ名前だな!」
 道なりに逃げる俺に対し、男たちは三方向に分かれ、草むらを通って回り込もうとしてくる。
 さすがこんな田舎道で襲ってくるだけのことはある。
 草むらを走っているにも関わらず、スピードはほとんど落ちてねえ。
「だが回り込まれて囲まれると厄介だ」
 俺は踵を返して剣を持ったシュナイダーと呼ばれた男に向かって走り出す。
 回り込もうとしていたロッテンマイヤーとギルフォードはその動きに反応できず、置き去りにされる。
 これで実質シュナイダーと一対一になるわけだ。
「へっ、観念したか!?」
 シュナイダーは俺の脳天を狙うべく剣を振りかぶる。
「ゲーマーの動体視力をナメんなよ!」
 こういう時は剣が振り下ろされる瞬間に、軸足を使って身を翻せば避けられる。
 VR格闘ゲームで何度も実践した動きを思い出す。
 あとは体が思考に追い付いてくれるかどうかだけだ。
「死ね!」
 シュナイダーがまさに剣を振り下ろす瞬間。
「見えた!」
 俺は踏み込んだ右足を軸に、一気に身を翻す。
 まさに思い描いた理想の動きそのものだ。
 ギリギリのところで剣は空を切る。
「なに!?」
 シュナイダーからは正面から消えたように見えただろう。
 俺はそのまま足を止めることなく全力で駆け抜ける。
「あばよ! 誰だか知らねえが、物騒なことしてんじゃねえよ!」

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「手間取らせやがって」
 シュナイダーたちを置き去りにして全力で逃げた俺は、その後あっさり追い付かれて捕まった。
 ゲーマーは咄嗟の判断力や動体視力には自信があるが、体力や持久力に関しては全くと言っていいほど無縁なのだ。
 そりゃそうだ、日がな一日部屋に引き籠ってゲームしてるんだから、体力なんて着くわけない。
「くっ、俺をどうする気だ?」
 手足を縛られた俺は三下のようにお決まりの台詞を吐く。
 可能な限りこいつらの要求を飲み、出来る限り穏便に済ませたい。
 こんなわけわかんねえ土地で、わけわかんねえやつらに殺されるなんてまっぴらゴメンだ。
「フンッ、身ぐるみ剥いで素っ裸にして放り出してやるよ」
 最悪だ。
 なけなしの132円を奪われた挙げ句に露出狂で捕まるとかありえねえ。
 ここは何とか穏便に済まさなければ、ただでさえ詰み気味の俺の人生が本当に詰んでしまう。
「シュナイダーの兄者、コイツよく見るとなかなか整った顔立ちしてるぜ?」
 ロッテンマイヤーかギルフォードか、どっちかよくわからん弟分っぽい男が俺の顔を覗きこむ。
 うわ息臭っせ、こいつ歯磨きちゃんとしてねえだろ。
「へっ、たしかにシュトロハイムのオヤジが好きそうな顔立ちだな。よし、アジトに連れ帰ってオヤジの慰みものになってもらうとするか」
「ちょっと何言ってるんですかああああ!!」
 こんなわけわからん土地で、わけわからんやつに捕まって、わけわからん無駄にカッコイイ名前のオヤジとやらの慰みものだと!?
 そんなのやってられるか!
 こちとらまだ童貞だっていうのに、初体験が息の臭い髭もじゃのクソオヤジ(偏見)とかありえねえ。
「ぐへへ、シュトロハイムのオヤジが飽きたら、俺が可愛がってやるからな」
「ギルフォードもこういう線の細い男が好きだよな」
 小太りのハゲがギルフォードとか知りたくなかった。
 ということは、もう片方のモヒカントゲトゲ肩パットがロッテンマイヤーか、ホントこいつら顔に似合わず無駄にカッコイイ名前だな。
「ぐへ、楽しみだぜ」
「いやホント、マジで無理なんで勘弁してください」
「おいおい、捕まったお前に選択肢なんてあるわけないだろ」
 シュナイダーが俺に顎クイしながら吐き捨てるように言う。
 こんなにときめかない顎クイも珍しいな。
「いやだって、俺は健全な男ですよ? 男同士でそういうのって良くないと思うなー」
「うるせえ、黙れよ」
 なんとか説き伏せようと試みるが、所詮はコミュ症のニート。火に油を注ぐだけだった。
「シュナイダーの兄者、まずはとっとと身ぐるみ剥ごうぜ?」
 ギルフォードが舌嘗めずりしなごら俺に近づいてくる。
 あ、これマジな顔だ。
「いいいやあああああ! 男に剥かれるとかマジ勘弁してくれよ! 金なら全部出すから……って言っても132円しかないけど、マジで勘弁してえええええ!!」
 こうなったら恥も外聞もない、どんなにみっともなくても生き延びてやる。
 そして童貞も守り抜いてやる。
「ぐへへ、泣き叫ぶ野郎を力ずくで組み敷いてひん剥くとか最高だぜ!」
 じたばたと抵抗を試みるが、手足を縛られているため、ロクな抵抗も出来ない。
 ちくしょう、ここまでなのかよ。
 こんなわけわかんねえ土地で、わけわかんねえやつらに全てを奪われるのかよ。
 こんなことなら、ちゃんと働いて父ちゃんと母ちゃんに楽させてやればよかったよ。
 全くザマァねえな、俺。
 かっこわり。
「フレイムアロー!」
 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
 視界の外から飛来した火球が、俺を組み敷くギルフォードに直撃し吹き飛ばす。
「熱っち、シュナイダーの兄者、助けてくれ!」
「大丈夫か、ギルフォード」
「何者だ、てめえら!」
 火球が飛んできた方向に向かってシュナイダーが腰の剣を抜き、構える。
 その視線の先には二人の美少女が立っていた。
「悪党に名乗る名前なんてありませんッ!」
 剣を構えた少女が凛とした透き通る声でいい放つ。
「冒険会社シャインウォール所属三等冒険者、風の剣士リンゼと……」
「同じく三等冒険者、炎の魔法師カリファよ!」
 きっちり名乗ってるじゃねえか。
 ダメだ、こいつらアホの子だ。

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「冒険会社の剣士と魔法師だと?」
 シュナイダーは値踏みするように二人の美少女に視線を向ける。
 リンゼと名乗った女剣士は、紫色のロングヘアーに銀の胸当てを纏い、赤いマントを靡かせる。
 防御力よりも機動力を優先したのか、脚は具足のみでニーハイソックスを彷彿させる。
 またミニスカートから覗くむっちり太もももいい感じに具足に乗っていて、なかなか素晴らしい絶対領域を演出している。
 一方、カリファと名乗った女魔法師は足元まで長いローブに包まれており、視覚的に楽しめそうにない。
 リンゼと同じ紫色の髪だが、こちらはショートカットで纏めている。
 ひょっとして二人は姉妹なのだろうか。
「そうです。冒険会社のリンゼ&カリファ姉妹と言えば、泣く子も黙る名コンビですよね?」
 まだ質問を口に出していないのに、素早くレスポンスをくれたのはリンゼの方だった。
「お姉ちゃん、やっちゃう? もうやっちゃう?」
 妹と思われるカリファはえらく好戦的だ。
 普通、魔法師って冷静沈着な参謀役じゃないのか?
「ていうかちょっと待て。こいつらはともかく、何で突然現れた女の子まで武装してんだよ。しかも剣士と魔法師? いつから日本はファンタジー世界になったんだよ!」
 状況に流されそうになっていたが、この状況は色々おかしいだろ。
「はあ? ニホンって何だ?」
 まるで初めて聞いた単語のような反応のシュナイダー。
 ダメだこいつ、ここまで頭が悪いのか。
 そりゃこのご時世に剣振り回して追い剥ぎするくらいだからな。
「何ってこの国の名前だよ! そんなことも分からねえのかよ!」
「はっはっはっ、お前こそ何言ってやがる。ここはミスバリエ。中立国ミスバリエだっつーの!」
「ミスバリエ? 何だそりゃ?」
 全然意味わかんねえ。
 中立国? ミスバリエ?
 別に世界地理に詳しいわけじゃないけど、そんな国聞いたこともねえぞ。
 だいたい今時中立国って、何処の国に対しての中立なんだよ。
「こいつ、恐怖で頭がおかしくなったんじゃねえか?」
「俺は正常だっつーの!」
 ロッテンマイヤーの言葉を俺は遮る。
 人を勝手に頭おかしいやつみたいに言うなっての。
「これって……ねえ、お姉ちゃん」
「そうね、これは予想外です」
 カリファの言葉に、やれやれといった感じでリンゼが頭を振る。
「まあ、捕まってる男性も元々助ける予定だったわけですし、後のことはとりあえずアイツらを倒してから考えましょう」
「りょーかい、じゃあやっちゃうね!」
 カリファと名乗った女魔法師は、纏ったローブをはためかせ杖を構える。
「なに!?」
「炎よ、矢となって敵を射抜け!」
 カリファは短く魔法の詠唱を済ませると、手に持った杖を勢いよく突き出し照準を定める。
 どんなトリックを使っているのかはわからないが、不思議な力場が発生しているようで、足元まで体を覆っていたローブがはためく。
 そして俺ははためいたローブから覗く、カリファの服装に釘付けになった。
 いやはや、視覚的に楽しめねえなんて言って悪かったぜ。
「うーわ、マジかよ! ローブの下にボンテージとかとんだ痴女じゃねーか!」
「フレイムア……ってキャァァァッ! アンタなにガン見してんのよ!」
 杖の先端から発せられた火球は四散し、両手で体を隠すようにローブの手繰り寄せ、魅惑のボンテージを覆い隠す。
 ボンテージといっても普通のものではない。
 胸と局部だけを隠し、他の部分からは布が切り取られており、ヘソ出しな上に背中もガバッと開いている。
「何だよ、隠すくらいならそんな格好しなけりゃいいだろ」
「バカね。魔法を使うには、空気中のエーテルと肌の接点が多い方が効果が上がるって常識でしょ!」
「そんな常識知らねーし!」
 何だこの中二病痴女は。
 さっきからいい歳して魔法とかバカじゃねえの?
「小僧、いい仕事だぜ!」
 カリファの痴態を堪能している俺に、グッと親指を立ててシュナイダーが駆け出す。
「いや俺はお前らの仲間じゃないからな!」
 カリファに向かうシュナイダーの間にリンゼが割って入り、盾でシュナイダーの剣を受け止める。
 リンゼの動きに呼応してミニスカートがゆらゆらと魅惑的に揺れ、見えそうで見えない。
 うーん、これはこれでたまりませんな。
「はあっ!」
 リンゼはそのまま剣を受け流すとシュナイダーの肩を切り裂く。
「ぐぁっ!」
 ってマジで斬っちゃってるよ、この子。
 いくら相手が悪党とはいえ、これじゃ傷害罪待ったなしだぞ。
 だがシュナイダーも負けていない。
 リンゼとの距離を置いて体勢を整え剣を構え直す。
「ロッテンマイヤー、ギルフォード、トライアドライトニングスマッシャーで一気に決めるぞ!」
 なんだその無駄にカッコイイ技名は!
 シュナイダーに追い付いたロッテンマイヤーとギルフォードが、リンゼを取り囲む。
 マズイな。いくら何でも多勢に無勢だろ。
「フレイムアロー!」
 しかし俺の心配を無視するかのように、火球がギルフォードを襲う。
「ぐああああッ!」
 火球を放ったのは体勢を立て直したカリファ。
 しまった、お色気チャンスを見逃してしまったじゃないか!
 振り向いた時には既にローブの前を閉じていた。
「おい。魔法だか何だか知らないが、撃つ時は事前に声かけろよ。決定的瞬間を見逃しちまったじゃねえか」
「アンタ、真顔でなに言ってんの?」
 カリファが心地よい侮蔑の眼差しで俺を見る。
 バカめ。その視線は俺様の業界ではご褒美だぜ。
「何って、お前痴女なんだから見られたいんだろ? ちゃんとしっかり見てやるから、事前に声かけろよ」
「だから好きでこんな格好してるわけじゃないわよ! 魔法を使うのに必要だからしてるだけよ! 見んなバカ!」
「ホントかなー? 本当は見られて感じるタイプなんじゃねーの?」
「そんなわけ無いでしょ!」
 図星を突かれて焦ったのか、カリファは俺に向かって猛ダッシュしてくる。
 当然のように途中で戦ってるリンゼとシュナイダーたちをスルーして突っ込んでくる。
「いい加減にしないと助けてあげないわよ!」
 そう言うや否や、俺に向かって飛び蹴りを繰り出す。
 だが俺はゲーマー、動体視力には自信のある男だ。
「見えた!」
 ローブの裾からスラリと伸びる生足、そして深き闇に包まれたVライン。
 今ならわかる。
 俺はこの瞬間のために今まで生きてきたんだ!
 絶対に見逃してたまるか!
「死にさらせええええ!」
「我が人生に一片の悔い無し!」
 そこで俺の意識は途絶えた。


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 なんだか変な夢を見ていたような気がする。
 剣と魔法の世界で、何故か荒くれに襲われる夢。
 普通、こういう時って俺が勇者になって大活躍するもんじゃないの?
 何で襲われる側なんだよ。
 しかも女の子に助けられるとかかっこわりい。
 あれ? 助けられたっけ?
 たしか魔法痴女と言い合いになったとこまでは覚えてるんだけど……どうもそこから先が思い出せない。
 まあいいさ、夢なんて往々にしてそんなもんさ。
 さて、そろそろ起きて新作ゲームでも買いに行くか。
 今日は待ちに待ったエグゼストライクと世紀末巫女伝説アンジェラの発売日だからな。
 俺は目を開ける。新しい朝を迎えるために。
「あ、気が付いたみたいですね」
 眼前には俺を覗きこむ美少女の顔があった。
 その可愛さにドキリと心臓が脈打つ。
「えと、ここは?」
 まだ頭がぼうっとして、イマイチ状況が理解できない。
 俺の人生で美少女に起こされるフラグなんていつ立ったんだ?
 ていうか、後頭部に伝わる柔らかな感触。
 まさかこれは伝説と謳われたいにしえの儀式、膝枕というやつか?
「ちょっと、いつまでボケッとしてるのよ!」
 視界の外から別の声が聴こえる。
 優しいトーンの膝枕美少女とは違い、少しトゲがあるが元気のいい声だ。
 感触が名残惜しいが、俺は上体を起こすとローブを纏った少女と目が合う。
 この子が先程の声の主か。
 俺は無言で彼女に近づく。
「な、何よ?」
 そしておもむろに、迷い無く、力一杯、全力でローブの前を開く。
「キャァァァァァァァァァァァッ!」
「夢じゃなかったああああああッ!」
 眼前に広がる桃源郷。
 もといカリファのあられもないボンテージ姿に、先ほどまでの記憶が甦る。
「何やってんのよッ!」
 カリファが繰り出す平手打ち、だが早々何度も食らってやるわけにはいかない。
「甘い!」
 俺は格闘ゲームのバックステップを思い描きながら身を引く。
 眼前を通りすぎるカリファの平手。
 シュナイダーをかわした時も感じたが、やはり今日は体がよく動く。
「避けてんじゃないわよッ!」
「ぐぁっ!」
 平手を回避した瞬間、素早く左ストレートが俺の顔にめり込んでいた。
 なんて手癖の悪い女なんだ。
「もう、カリファったらそんなにカリカリしないの」
「だってコイツが」
「言い訳しないの」
 反論するカリファをピシャリと嗜めたリンゼが、未だ痛みにうずくまる俺に近づいてくる。
「妹がごめんなさいね、彼女も悪気がある訳じゃないです」
「ああ、わかってる。いきなりローブをめくった俺にも非はあるからな」
「むしろ全面的にアンタが悪いわ」
「カリファッ!」
「はーい」
 リンゼの言葉にカリファはペロッと舌を出して後ろを向く。
 まったく今日は散々だぜ。
 道に迷うわ、変な男に襲われるわ、そこを変な痴女に助けられるわ。
「そういえば俺を襲った男たちはどうなったんだ?」
 辺りを見渡しても彼らは見当たらない。
 剣で斬り結んでいたが、殺したりはしてないよな?
「暁の山賊団のこと? あの後すぐに逃げて行ったわよ」
 俺の疑問にはカリファが答えてくれた。
 女二人に男三人が逃げたのか。
 この二人、意外と強いのかもしれない。
「暁の山賊団って無駄にカッコイイ名前だな!」
 ネーミングセンスは悪くないんだけどな。
「本来なら山賊団の捕縛が目的だったのですが、今は貴方を助けることが優先だと思いましたので」
 リンゼは俺の顔にそっと手を添え覗きこむ。
「お怪我とか、痛むとことかありませんか?」
 あまりの顔の近さに、俺は茹で蛸のように真っ赤になる。
「あ、ああ。問題……ない」
「なにコイツ、真っ赤になってる」
「う、うるせえよ」
 カリファがからかってくるので強がってみせる。
「こ、こんなに可愛い子に心配されてんだ。こっちも緊張するっての」
「え? 可愛いってそんな……」
 俺の言葉に、今度はリンゼが茹で蛸のようになってさっと身を離す。
「もう、からかっても何も出ませんよ」
 そうは言ってもまんざらでも無さそうに感じる。
 俺の童貞センサーがビンビンに反応するぜ。
 何だかイケそうな気がする!
「あー、はいはい。ところでアンタは何でヤツらに捕まってたわけ?」
 くっ、カリファめ。
 いい雰囲気になりそうだったのに。
 だが童貞の俺には、この先どう距離を縮めればいいのかわからなかったから、丁度いい助け船だぜ。
「何でって言われてもな。気が付けばここにいて、いきなり襲われた感じだ」
「気が付けば……ですか?」
 俺の煮え切らない答えにリンゼが眉を寄せる。
「ああ、俺は秋葉原でゲームを買って、帰ってる途中だったんだけど」
「あきはばら? げーむ?」
「聞いたこと無い単語ね。何なのそれ」
 は? 秋葉原はともかく、ゲーム知らないとか大丈夫か?
 ゲームを知らないなら、剣とか魔法といった発想はどこから来たんだよ。
「ゲームはゲームだよ。テレビに繋げて遊ぶやつだよ」
「てれび?」
 テレビも知らねえのかよ。
 いくら田舎とは言え、さすがにテレビ知らないとかありえねーわ。
 こいつら本当に日本人か?
「ん?」
「どうかしましたか?」
 そういえばシュナイダーのやつ、気になる事を言っていたな。
『ここはミスバリエ。中立国ミスバリエだっつーの!』
 ミスバリエって何だ?
 中立国って何だよ?
 もしかして…… 。
「な、なあ。ここって日本だよな?」
 恐るおそる確認する。
 一瞬脳裏によぎった嫌な単語を払拭するために。
「いいえ、ここはアレストリア大陸にある、中立国ミスバリエですわ」
「ニホン? なにそれ美味しいの?」
 笑顔で俺の希望を打ち砕くリンゼとアホ面のカリファ。
 薄々そうじゃないかと思っていたが、こうなっては間違いない。
 だいたい街中から急に田舎道に瞬間移動とかおかしいと思ったんだよ。
「なんてこった。間違いない、ここは異世界だッ!」
「いやミスバリエって言ってんでしょ」
 カリファのツッコミが俺の心に虚しく響く。


その2へ続く
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