寂しいオヒトリサマのための一蘭

博多ラーメン「一蘭」台湾1号店、オープンから250時間行列続く
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　博多・中洲の一蘭本店は、昔は金文堂書店だった。
　中洲が映画の街だった頃は、観劇の後、本屋に寄って、新刊を渉猟するのが、休日の定番の習慣だった。今は「一蘭ビル」となってしまった、あの書店のあったビルは、二階か三階にミニシアターがあって、そこにも何回か通った記憶がある。そうだ、幻の嵐寛寿郎主演の『右門捕物帖 一番手柄 南蛮幽霊』を観たのがそこだ。長らく紛失していたフィルムが何十年ぶりかで発掘されたので、特別上映されたのだ。普通の劇場ではなく、事務所の一角にスクリーンを張って、プロジェクターで上映していた。中学生か高校生の頃だったと思うが、今思い返してみても、十代にしては趣味が渋すぎて苦笑してしまう。おかしなガキだった。
　そういう馴染みの場所が、味気ないチェーン店のラーメン屋になってしまったのだから、あまりいい印象を持ってはいない。一蘭ファンの方には理不尽な恨みだと受け取られるであろうが、理不尽なのは百も承知で、一蘭は嫌いと言わざるを得ない。お怒りになるのは当然だが、トシヨリの行き過ぎた懐古趣味だと思って、許してもらいたい。

　一蘭はキャナルシティにも出店があるが、昼時は結構、行列ができている。他の店がそんなに混んでいない時でも、一蘭だけには列が、ということもよく見かける。となれば、やはり福岡でも人気の店なのだろうと判断するしかないが、正直、一蘭のどこにそんなに客を引き寄せる魅力があるのか、私には見当が付かない。
　一蘭はチェーン店のラーメン屋にしては高価で、確か1000円くらいはしたはずだ。博多には今でも200円のラーメンを売る店だってあるのに、日頃、わざわざ一蘭でラーメンを食べるような気分にはなれない。私らは普通の庶民なのである。お大尽気分にでもならない限り、そんな大金を払う気にはなれないが、ラーメンでお大尽気分になれるはずもないから、結局、一蘭は避けるということになる。あ、一風堂も同じね。

　たまに、何をトチ狂ったか、一蘭に入ることはあるが、だいたい後悔してしまう。夫婦だと、まずあの個室化させる仕切りが邪魔にしかならない。店員の顔が見えないのも怖い。秘密クラブに来たわけじゃねえぞと思ってしまう。多分、これまでに三、四回くらいしか入ったことはないのではなかろうか。基本、あそこは一人で孤独を満喫するために入る店なのだろう。ネカフェと同じやね。
　味に関しては、これは好みの問題で、私にとっては麺の硬さやスープの味付けをどう変えても今イチである。しかしこれは基本的に私が豚骨スープが好みではないからだろう。人に聞いても、味の評価は旨い、不味い、両極端に分かれている。

　台湾で250時間も行列が途切れない、と聞くと、なしてたかがラーメンにそこまで執着しよるとかいなと疑問に思ってしまう。「流行」に乗せられやすいのは、どこの国でも同じだってことなのだろうか。
　そうは思ってみても、新装開店のデパートとか有名歌手のコンサートなどではなく、やっぱりたかがラーメン屋に人が殺到する現象は不可思議で仕方がないのである。
　日本でこんな行列ができる食事処なんて、マンガやアニメのキャラクターカフェくらいしかないんじゃなかろうか。「一蘭」のどこに、「おそ松さんカフェ」やら「名探偵コナンカフェ」やら「君の名は。カフェ」に匹敵するかそれ以上の魅力があったのだろう。分からない。
　やっぱり、そこにはたいした意味などなく、「流行しているから流行する」という「スタンピード現象」が起きているのだろうと考えるしかなさそうだ。そう、意味なんかない、きっと。そう思わないと、「一人になるための行列が250時間も続く」なんて、考えただけでも寂しくて死にそうになる。

　やっかみで貶しているわけではない。
　ただ、あの一蘭の個室システムを思うにつけ、外食って、家族や友達同士でとか、もっと楽しい雰囲気の中で食べるものではないの？　と、納得しがたいものを感じてしまうのである。外に出ても一人がいい。孤独のグルメが現代のトレンドだ。本当にそうなのだろうか。
　日本でも、台湾でも、現代社会の孤独の縮図が一蘭の行列にあると指摘したら、そんなの考え過ぎと言われてしまうだろうか。でも私にはあの行列が、外に出てまで引きこもりたい、惨めで卑屈な人間の集団に見えて仕方がないのである。