◆ 極右と安倍首相の親密関係こそ問題の本質だ 森友学園問題を欧米メディアはどう報じたか
【東洋経済オンライン】 03/04
小林 恭子:ジャーナリスト
連日のように日本で報道されている学校法人森友学園の国有地格安払い下げ問題。
欧米メディアも2月末から報道を開始している。
「安倍政権を揺るがす最悪のスキャンダル」と位置づける新聞もあるほどだ。
影を落とすのは森友学園が運営する塚本幼稚園の愛国的教育方針だ。
憲法改正を目指すタカ派と評される安倍晋三首相と一定の共通点があるのではないかとの懸念が表明されている。
いったい、どのような論調なのか各紙の論調を見ていこう。
● 極右勢力と政府の結びつきに警戒感
「日本の安倍晋三、極右学校をめぐって攻撃の的に」(
http://www.irishtimes.com/news/world/asia-pacific/japan-s-shinzo-abe-under-fire-over-ultra-right-school-1.2986573)とのタイトルで詳細な記事を掲載したのは、アイルランドの有力紙「アイリッシュタイムズ」(2月23日付)。
「極右勢力と日本政府との結びつきについて懸念が消えない。 極端な国粋主義的幼稚園の運営組織となれ合いの取引を行ったのではないかとされる事件で、この懸念が再燃した」と東京特派員デイビッド・マクニール記者がリポートしている。
森友学園が経営する私立塚本幼稚園では、「3歳から5歳の子供達が、第2次世界大戦に青年たちを洗脳するために使われた19世紀に発布された教育勅語を覚えさせられている」。
子供達は天皇陛下の写真に向かって「『緊急事態には勇気をもって自らを国家のために差し出す』などの愛国的なスローガンを唱和している」。
森友学園は韓国人や中国人を蔑称で呼ぶなど「民族差別的な中傷を記載した文書を塚本幼稚園の保護者向けに配布し、大阪府に憎悪表現に当たる恐れがあるとして調査されたばかりである」。
また、森友学園は昨年、新しく小学校を開校するために大阪府にある国有地を購入したが、これが近隣国有地の評価金額よりはるかに低い金額で売却されたこと、安倍昭恵首相夫人が名誉校長に就任する筈であったこと(その後撤回)、同学園が「安倍晋三記念小学校」の文言で寄付金を集めていたなどについて、一部始終を説明している。
記事は、幼稚園の籠池泰典園長(森友学園の総裁・校長も兼ねる)が、国家主義的ロビー団体「日本会議」の大阪支部長であることから、日本会議にもスポットライトが当たっていると指摘する。
「国会議員の3分の1、安倍政権の19人の閣僚のうちで半分以上が日本会議を支持している」
「安倍首相は日本会議を支援する超党派の議員によって構成される議員連盟・日本会議国会議員懇談会の特別顧問になっている」。
日本会議のメンバーは「米トランプ大統領の支持者のようにリベラル勢力から日本を『取り戻そう』と考えている。 リベラル勢力が日本を破壊していると見ているからだ。 その最終目的は日本に軍隊を復活させ、若者に愛国主義を醸成させ、戦前の明治憲法を修正することである」。
記事は日本会議がいかに歴史修正主義的かを紹介する。
その設立目的とは、「第2次大戦中における、西側の植民地主義からの東アジアの『解放』を称賛し、軍隊を再構築し、左派系教師に洗脳された学生の間に愛国主義を叩き込み、戦前のように天皇陛下をあがめるようにすること」だ。
「安倍首相は『(自分の名前を使って寄附金を集めていたとは)初めて聞いたこと』と述べ、もし事件に自分が関与していたとなれば、『首相の職も国会議員も辞する』と付け加えた」としてアイリッシュタイムズの記事は終わっている。
以前から安倍首相は憲法改正を目指す右派として知られており、今回の国粋主義的教育機関とのつながりは「疑惑」ではあっても「さもありなん」という批判的な論調がうかがえる。
安倍首相が何らかの形で関与していたかどうかについては、「限りない黒」という印象を与える記事といえるだろう。
● 日本国旗の前に並ぶ園児の写真を多用
「愛国主義的な政治=危険」との認識は、欧米メディアでは浸透している。
それがよく分かるのが、森友学園問題の報道でよく使われる、日本国旗の前に塚本幼稚園の園児が並ぶロイター配信の写真である。
英エコノミスト誌、米ワシントンポスト紙、米ニューヨークタイムズ紙などが使っている。
エコノミスト、ニューヨークタイムズの場合は男性が戸外で日の丸を広げ、旗の下に足が見える。
その前に制服姿の園児らが並んでいる。
本記事冒頭に掲載した写真と同じものだ。
ワシントンポストの場合は、部屋の中に園児が並び、右端に旗がある。
左には天皇陛下と皇后の写真が園児に向かう形で飾られている。
戦時中の日本の軍事行動を英米の知識人は忘れていない。
こうした写真の掲載は愛国的、国粋的な学校の教育が今でも行われていることへの衝撃を読者に与えているはずだ。
エコノミストは3月2日にアジア版で配信した記事(リンク先記事の表記は4日付け)(
http://www.economist.com/news/asia/21717996-embarrassingly-it-has-links-prime-minister-ultranationalist-kindergarten-japan)で、安倍首相が学校用地の売買についての関与を否定し、同学園が「安倍晋三記念小学校」の文言で寄付金を集めていたことについて、「何回も断っているにもかかわらず、寄付金集めに名前を使われたことは本当に遺憾」として、同学園に抗議した点を記す一方、過去には籠池氏を称賛していたことを指摘する。
籠池氏を「教育に情熱を持っている」と持ち上げ、「同じイデオロギーを共有する」とまで述べたことがある、と。
安倍氏と籠池氏、引いてはその学校の教育方針には一定の共通点があったのではないかと暗示している。
● 教育界に広がる右派勢力
ニューヨークタイムズのジョナサン・ソブル記者は、日本の教育界の流れに注目している(2月24日付記事
https://www.nytimes.com/2017/02/24/world/asia/japan-abe-first-lady-school.html)。
一連の事件は「日本で影響力を増している、右派的な教育運動の暗黒部に光を当てた」。
「安倍首相や日本の保守勢力は頻繁に、教育界にはリベラル系の偏向があると主張してきた。 左派系の教師が日本の戦争犯罪について『マゾ的な』説明を広げ、伝統的価値観よりも個人主義や断固とした平和主義を振興しているのが学校教育だ、と見なしてきた」
「安全保障関連法案に反対する学者の会」発起人でもある学習院大学の佐藤学教授によると、塚本幼稚園は「右派勢力の抵抗」が極端な形で現れたものだという。
「平和主義と民主主義を基本原則とする戦後の教育体制の拒絶だ」。
ソブル記者は、安倍首相が、塚本幼稚園で行われていた教育をソフトにしたバージョンを支持しており、日本の教育を抜本的に変えることを政治家になってからの優先事項としてきた、と指摘する。
安倍首相と国粋的教育を行っていた森友学園とは、少なくとも教育方針という点では関連性があったとの見方がここでも示唆されている。
スキャンダルの政治的な影響はどうだろうか。
安倍首相は首相になってから「最大の危機に瀕している」と報じているのがワシントンポスト紙アンナ・フィフィールド東京支局長による記事だ(2月27日付
https://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/in-japan-a-scandal-over-a-school-threatens-to-entangle-abe/2017/02/27/29486b94-fa1a-11e6-aa1e-5f735ee31334_story.html?utm_term=.37b21c4321d2)。
もしスキャンダルが雪だるま式に大きくなり、首相の関与度がはるかに大きなものだったことが判明した場合、「致命傷となり得る」と政治評論家たちは見ているという。
「安倍政権を揺るがしかねない」(元毎日新聞の記者で評論家の板垣英憲氏)。
森友学園問題は地方政治や財政問題であるばかりか、日本の近隣国との外交問題にも発展しかねないからだ。
安倍氏は支持率が60%を超え、与党自民党内部や最大野党民進党からも大きな挑戦を受けていないが、このスキャンダルで「衆議院解散と総選挙の時期を遅らせる可能性もある」と支局長は結論付けている。
一方、ロイターは3月2日付記事(
http://www.reuters.com/article/us-japan-politics-abe-idUSKBN1690RE)で、通常であれば安倍首相は第3期目実現も夢ではない状態にある、という。
ただし、今回のスキャンダルで安倍首相にも「弱点がある」ことが判明した。
スキャンダルを乗り越えられるのかどうか、「評論家たちの意見は分かれている」。
経済の先行きへの不安感に加えて、憲法改正への動き、東日本大震災後に停止された原発の運転再開などの政策が「順調に進まなくなる可能性がある」との政治評論家・有馬晴海氏の声を記事の最後で紹介している。
● 極右勢力との親密な関係を問題視
多くの報道で共通しているのは、極右勢力と現政権との関わりを問題視し、そこに問題の本質があると指摘していることだ。
安倍首相は参議院予算委員会における論戦がこの問題に終始していることに辟易とした表情をみせ、早期の幕引きを期待しているようだ。
しかし、民進党、日本共産党などの野党にとっては追及の手を緩める理由がないだろう。
日替わりで新事実が判明するこのスキャンダルの行方を欧米主要メディアは引き続き注視していくことだろう。
◇◇◇
小林 恭子 (こばやしぎんこ)
ジャーナリスト
成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、米投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニュース」)の記者となる。
2002年、渡英。
英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウォッ チ」を運営しながら、新聞業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆
記事一覧
http://toyokeizai.net/list/author/%E5%B0%8F%E6%9E%97_%E6%81%AD%E5%AD%90
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