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2015年09月23日00:16

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魔法少女の系譜、その42

 今回の日記は、断続的に連載している『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までのシリーズを読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録から、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548

 たいへんお待たせいたしました。約三か月ぶりの『魔法少女の系譜』シリーズでございます。手が遅くて、すみません(^^;

 今回は、「魔法少女もの」ではないアニメ作品を取り上げます。
 『ラ・セーヌの星』です。昭和五十年(一九七五年)4月から、同年12月まで放映されました。前回までに取り上げた『5年3組魔法組』より、一年半ほど、時間をさかのぼります。

 一九七〇年代後半(昭和五十年代前半)は、「魔法少女冬の時代」でした。昭和五十年(一九七五年)9月に放映が終わった『魔女っ子メグちゃん』以来、何年間も、「魔法少女アニメ」―昭和五十年代当時は、そんな言葉はありませんが―の放映がない時期が、続きました。

 『ラ・セーヌの星』は、その間隙を縫い合わせるように、登場したアニメです。
 先述のとおり、この作品は、「魔法少女もの」ではありません。この作品には、魔法、もしくは、それに類するものは、一切、登場しません。

 にもかかわらず、ここで取り上げる理由があります。『ラ・セーヌの星』には、のちの「魔法少女アニメ」の先駆的要素があるからです。
 二〇一五年現在の目で見れば、「魔法の登場しない魔法少女もの」に見えます。

 以下に、『ラ・セーヌの星』のあらすじを紹介しましょう。

 舞台は、十八世紀のフランス。大革命の直前です。ルイ十六世と、王妃マリー・アントワネットの治下ですね。
 ヒロインは、花屋の娘のシモーヌです。物語が始まった時点では、十五歳です。
 シモーヌは、庶民の花屋の娘として、家業を手伝いながら、平凡に暮らしていました。しかし、ある時、義賊「黒いチューリップ」に見出されて、剣術を叩きこまれます。
 「黒いチューリップ」の正体は、青年貴族のロベールでした。ロベールは、貴族でありながら、仮面をかぶって「黒いチューリップ」と名乗り、ひそかに庶民のために活躍していたのです。
 そして、シモーヌも、仮面をかぶって「ラ・セーヌの星」と名乗り、黒いチューリップと同じ義賊になります。昼は花屋の娘、夜は義賊「ラ・セーヌの星」という二重生活が始まるのでした。

 ヒロインの「ラ・セーヌの星」ことシモーヌは、戦う少女です。放映当時は、アニメの中で、女性が戦闘に参加するのは、とても珍しいことでした。何度も、『魔法少女の系譜』シリーズで、言及しているとおりです。まず、この点が、先駆的です。

 「戦う」からには、敵役がいます。組織だった敵役というよりは、日本の時代劇の「悪代官」や「悪徳商人」のような人々が登場してきて、それらが敵役になります。
 十八世紀のフランスは、身分格差が激しい時代でした。貴族が贅沢をする一方で、庶民は、貧しい生活を強いられています。貴族が庶民を搾取し、宮廷では、権謀術数が渦巻きます。そういう舞台設定なら、さまざまな立場の「悪役」を登場させることができますね。

 『ラ・セーヌの星』には、もう一つ、変身要素もあります。より正確には、仮面をかぶって、レオタードのような服装に着替えるだけなので、変装ですが。
 原始的ながら、のちの魔法少女のコスチュームを思わせます。

 シモーヌが「ラ・セーヌの星」であることは、もちろん、秘密です。正体を知るのは、黒いチューリップことロベールだけです。この秘密要素は、魔法少女の秘密要素と、そっくりですね。

 「魔法の登場しない魔法少女もの」というのが、わかっていただけるでしょうか。

 ラ・セーヌの星は、魔法ではなく、剣術を使って、敵をなぎ倒してゆきます。この辺の描写は、容赦ありません。悪人とはいえ、ばったばったと人を斬り殺します。日本のチャンバラ時代劇みたいです。
 たぶん、二〇一五年現在の地上波では、こういうアニメは、深夜帯でしか、放映できないでしょうね。昭和五十年代には、ゴールデンタイムに、こういうアニメが放映されていました。

 ちなみに、ラ・セーヌの星と、黒いチューリップが着けている仮面は、顔全体を覆うのではなくて、目の部分だけを覆う仮面です。昔のヨーロッパ貴族が、仮面舞踏会で着用するような仮面です。

 ここまで読んで、「少女漫画『ベルサイユのばら』と似ているなあ?」と思った方が、いるでしょう。
 似ているのは、当然です。『ラ・セーヌの星』は、『ベルサイユのばら』から、直接、影響を受けて作られたと、明言されています。最初は、『ベルばら』のアニメ化企画として始まったのが、途中で、路線変更されたのだそうです。

 『ベルばら』のアニメ化は、『ラ・セーヌの星』より、もう何年か後になります。

 シモーヌは、少女剣士という点が、『ベルばら』のヒロイン、オスカルと共通しますね。
 『ベルばら』は、オスカルとマリー・アントワネットとの二重ヒロイン制になっています。『ラ・セーヌの星』でも、後半になると、シモーヌとマリー・アントワネットとの関係が、重要になってきます。

 『ベルばら』については、あとで、まとめて語る予定です(いつになるかしら(^^;;;)。今は、このくらいにしておきます。

 『ラ・セーヌの星』は、『ベルばら』を基礎にしつつ、「変身して戦う少女」という、重要な面を付け加えました。
 これに、「魔法」が加われば、二〇一五年現在の魔法少女のできあがりですよね。『プリキュア』シリーズなどが、典型的なように。

 「変身して戦う少女」という点に注目すれば、『好き!すき!!魔女先生』と、『キューティーハニー』の衣鉢を継ぐ作品です。
 『ラ・セーヌの星』は、『キューティーハニー』の放映が終わってから、約一年後に、登場しています。『ハニー』の放映は、『魔女先生』の放映から、約一年半の間が空いています。
 細々と、「変身して戦う少女」の系譜が、つながれているわけですね。

 魔法少女アニメの間隙期間に、『ラ・セーヌの星』が放映されたことは、示唆的です。魔法が登場しなくても、少女たちの夢をかなえる「魔法少女アニメ的作品」であることの証拠でしょう。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『ラ・セーヌの星』を取り上げる予定です。

2015年10月25日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

2.43)魔法少女の系譜、その43(2015年10月25日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1947274060&owner_id=25849368


 今回のレビューは、『フランスの民話〈中〉』を選びました。フランスつながりです。
 本書は、上中下、全三巻の『フランスの民話』シリーズの中巻です。上巻を読んでいなくても、楽しく読めます(^^)

 本書の原書は、二十世紀半ばに出版されました。本書に収められた民話では、フランスの農民の生活が、生々しく描かれています。
 二十世紀の半ばくらいまで、フランスの農村の人は、ほとんど一生、生まれた村から出たことがなかったといいます。このために、山や谷を一つ越えた隣の村とは、そもそも、話す言葉が違ったそうです。

 たぶん、フランスの農民の生活は、十八世紀でも、本書に登場するものと、あまり変わらなかったのではないでしょうか。

 よろしければ、以下のレビューもお読み下さい。

フランスの民話〈中〉
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=25849368&id=2378485

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