この物語は、艦隊これくしょん2015年夏イベント『反撃!第二次SN作戦』の内容を独自の妄想で書かれたものです。
オリジナル設定が苦手な人はお気をつけください。
前回
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【seen1】
今朝まで静かだった海が、陽が沈むにつれ荒れだしている。
人類と深海棲艦との戦いに海神が怒っているのだろうか。
「おっかしいなぁ、今夜の予報は晴れのはずだったんだけどなぁ」
「海の天候は変わりやすいって言うし、こればっかっりは仕方ないわ」
海を往くのは碧い髪の少女が二人。
一人は長いストレート、もう一人はポニーテールにまとめている。
「もっと荒れる前にこの海域を抜けないとね」
「だな!じゃあスピードアーップ!」
二人はまるで双子のように似た顔立ちをしているが、ストレートの少女は少しおとなしめ、ポニーテールの少女は活発そうな瞳をしていた。
少女たちが向かうのは瀬戸内海。
現在大規模作戦が発令されているにもかかわらず、バカンスに出かけている提督を迎えに行く途中である。
「しっかし提督も間が悪いよなぁ」
「いつも忙しい身の上なんだから、たまの休暇くらいはゆっくりしてほしいんだけどね」
ケラケラ笑う涼風に五月雨が答える。
大阪湾鎮守府の提督はとても忙しい。
鎮守府の演習、海上護衛などのスケジュール、魔塔の建設と大型モンスター討伐の指示、そして傭兵会社の経営。
それぞれに秘書を置いているが、全ての業務に目を通さねばならないことには違いない。
それらの業務をこなした上で、艦娘や建姫、傭兵少女たちのレクリエーションなども考えてくれている。
ただ、レクリエーションが提督の趣味全開なのが残念なのだが。
提督が夏季休暇を取られる前も、艦娘、建姫、傭兵少女を集め、部門対抗お色気グラビアミスコンなるものを開いていた。
五月雨に至ってはかなりきわどい水着を着せられて、しばらくひきこもり状態になったものだ。
そんなアホな一面を持ってはいるが、作戦に関しては真面目な部分もあり、大本営の覚えもいいようである。
提督のアホな話に華を咲かせつつ航行していたが、五月雨が何か異変に気づく。
「涼風、何か聞こえなかった?」
「ん?何かってここは海の上だよ?波の音しか・・・・・・」
「しっ!静かにして・・・・・・」
天候とともに波が荒れてくる中、かすかに獣の咆哮のようなものが聞こえる。
「水上電探起動」
音だけでは全てを感じ取ることができないので、レーダーを起動させる。
すると水平線の向こうから、波をかき分ける航行音と何か雄たけびのようなものが聞こえる。
「もしかして敵襲?」
今は大規模作戦決行により、艦娘たちは作戦海域に出ている。
もし手薄になっている鎮守府を狙われたらひとたまりもない。
二人は極力音をたてないように艤装のエンジンを停めて、慣性にまかせて音源に静かにせまる。
息を呑む二人の目に映ったものは、深海棲艦の群れだった。
「嫌な予感が的中だな」
「早く鎮守府に連絡しないと!」
急いでその場を離れ連絡をとろうとするが、深海棲艦に気づかれてしまう。
「・・・・・・ココデ・・・・・・ツブス・・・・・・!」
深海棲艦の群れを指揮している戦艦棲姫が攻撃を仕掛けてくる。
戦ったらとてもじゃないが駆逐艦二人では相手にならない。
「ダメ・・・・・・ここでやられたら鎮守府が壊滅しちゃう」
「ちくしょう、あっち行けよ!!」
応戦しつつ撤退を試みるが深海棲艦の群れが道を阻み、鎮守府に戻ることができない。
おそらく相打ち覚悟で戦ったとしても、物量が違いすぎるため無駄死になってしまうだろう。
「こうなったら瀬戸内海方面に逃げつつ、鎮守府に電信を送るわ」
「わかった!三十六計逃げるが勝ちってやつだな!」
五月雨と涼風は手を取り合い加速する。
幸い、航行速度においては深海棲艦よりも二人のほうが速い。
「・・・・・・ニガサン・・・・・・!」
敵の執拗な攻撃に一発、二発と被弾していく。
それでも二人は歩みを停めず必死に逃げる。
駆逐艦が全ての能力を使って逃げに徹すると、戦艦クラスでは追いつくことはできない。
それは戦艦棲姫とて例外ではない。
徐々に距離が開き、逃げ切る頃には二人はボロボロの大破状態だった。
しかしここで沈むわけにはいかない。
なんとか前に進もうとするが、ダメージの大きさにより力が出ない。
「てい・・・と・・・く・・・」
「五月雨!しっかりしろ!!」
励ます涼風も相当なダメージを負っている。
五月雨を背負うために艤装を破棄するが、足取りは重い。
一歩、二歩と歩を進めるが、ついに力尽きてしまう。
(アタイたち、このまま何もできずに轟沈しちゃうのかな・・・・・・)
悔し涙に濡れつつも意識は遠のいていく。
「おーい!そんなところで寝たら沈んじゃうよ?」
そういって二人に近づいてくる艦娘の影が一つ。
「うわ!ひどい怪我!早く手当てしないと・・・・・・でも陸はどっちだろ?」
深刻な台詞の割にはあっけらかんとしたトーンの声が涼風の耳に届く。
「お願い、この場所に・・・・・・連れて行ってくれないか・・・・・・?」
謎の艦娘はメモを受け取る。
「うーん・・・・・・二人担いでは大変だけど、がんばってみますか!」
海図を見ながら進んでいく。
【seen2】
鎮守府は喧騒に包まれていた。
五月雨たちから、戦艦棲姫との交戦の連絡があったからだ。
提督を迎えに行くだけなら二人で十分だと判断したのが仇となった。
急いで水上観測機を飛ばして戦況を確認したが、その時には既に二人の姿は確認できなかった。
「無事でいてくれればいいのだが」
己の判断ミスに歯噛みする長門。
しかし今は後悔ばかりしている時ではなかった。
深海棲艦の群れが鎮守府に迫ってきているからだ。
迎撃するにも部隊を編成する時間が必要である。
敵は五月雨たちと交戦していたこともあり、進軍がやや遅れ気味のようではあるが、時間はいくらあっても足りない。
「なんとか時間を稼ぐ方法はないか・・・・・・」
時間がないこともあり、長門の表情は焦りを隠せないでいた。
こんな緊急の時にこそ提督の指示を仰ぎたいが、いないものを当てにすることもできない。
「緊急事態ハッセイ・・・・・・迎撃モードニ移行シマス」
突如叫びだしたロボ提督はダッシュで司令室から飛び出していった。
何事かと困惑する長門。
「故障でもしたのか?」
だが今はポンコツに気をとられている時ではない。
一刻も早く部隊を編成して、迫り来る深海棲艦を迎撃しなければならないのだから。
「全艦娘に告げる、直ちに司令室に集合せよ!」
館内放送による呼びかけに次々と集まる艦娘たち。
司令室のスクリーンに映し出される水上観測機の映像に状況を理解していく。
鎮守府を守るためにはここが正念場である。
『オヤカタロケットパーーーンチ!!』
突如スクリーンから聞こえる言葉に驚愕する艦娘たち。
そこには、たった一人で深海棲艦と戦い足止めするロボ提督の姿があった。
「あのロボット、戦えたの・・・・・か?」
『オヤカタ卍固メ!オヤカタコブラツイスト!!』
深海棲艦相手に絶句する艦娘たち。
「なぜ関節技なのだ・・・・・・」
なんにせよ時間は稼げそうだ。
「これより迎撃艦隊を発表する!!」
【seen3】
目を覚ますと、知らない天井が入ってきた。
「ここは?・・・・・・ッ!」
身を起こすと全身に激痛が走る。
五月雨は痛みに身をかがめつつあたりを見渡す。
木のにおいが心地よく鼻腔をくすぐる。
どうやら木造のペンションのようだ。
視線を落とすと、隣のベッドでは涼風が寝ている。
どこかに流れ着いて保護されたのだろうか。それとも涼風が自分を担いでここまで運んでくれたのだろうか。
どちらにせよ現状把握が最優先だ。
「目が覚めたみたいだね」
声に振り返ると、桶を持った時雨が部屋に入ってきていた。
どうやら提督たちのいる瀬戸内海にたどり着いたようで、ほっと息が漏れる。
「ひどい怪我だったから、もう少し安静にしておいた方がいいよ」
寝ている涼風の額に置かれたおしぼりを交換しながら告げる時雨。
姉の優しい言葉に安心感が広がる。
しかし今はゆっくりしている時ではない。
五月雨たちに与えられた任務は、提督と時雨を鎮守府に連れ戻すことなのだから。
「提督は?」
「隣の部屋で二人を連れてきた艦娘と話してるよ」
「え?」
先に意識を失った五月雨は、彼女たちを助けてくれた謎の艦娘のことは知らない。
状況のつかめない五月雨は急いで立ち上がり、隣の部屋へと駆け出す。
「提督!緊急のお話があります!!」
「あっ!目が覚めたんだ!よかったー」
五月雨の姿を見て安堵する少女は、彼女の知らない艦娘だった。
【後編へ続く】
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