1999年ロシアのチェチェン侵攻の実態を硬軟合わせ技で訴える力作。
両親と姉を失って健気に生きる少年に母性本能をかきたてられ、チェチェン版「フルメタルジャケット」を思わせるロシア人兵士の変貌にガツンとやられる。
言葉を失った少年は、安全と愛情を得ることで、少しずつ心と声を取り戻していく。
一方、マリファナ所持で逮捕された軟弱なロシア青年が「悪いようにはしないから」と軍隊に入れられ、先輩兵士やら上官から暴力の洗礼を受け続け、見事にマシン化を遂げる。
心の回復と破壊という対照的なこの2つの物語は、どこでどうつながるんだろうと思ったら、見事な円環構造になっていて感心した。
難民支援活動をしている女性や人権支援の調査でやってきたEUの女性職員が日々感じている焦燥や無力感が超リアル。「ナイロビの蜂」でも同じテーマが出てきたが、暴力や不正を止める力はなくても、世界で何が起こっているかを知ろうとすること、目の前の困っている人を一人でも救うことは、人としてどちらも大事なことだと思わされる。
監督はサイレント映画「アーティスト」でアカデミー賞を受賞したアザナビシウス。この人は言葉に頼らずに、役者の表情や、映像の力、演出の力で伝えたいという強い思いがあるのだろう。映画マニアらしくあざといところもあるが、バランス感覚が抜群。
本作の予告編でチェチェンの少年が踊るシーンがあったのでとても楽しみにしていた。本編では意外な音楽で踊るので驚いた。とても可愛らしいシーンなのだが、音楽とダンスが少しズレてしまうのはいかにも残念。ミハルコフの「12人の怒れる男」でチェチェン人の少年が踊ったダンスは躍動感に溢れて息を呑んだ。きっとアザナビシウスも「12人」を見たんじゃないかなー。
「ナイロビの蜂」
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「アーティスト」
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「12人の怒れる男」
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The Search
2014年/フランス・グルジア/135分
監督・脚本:ミシェル・アザナビシウス
原案:フレッド・ジンネマン「山河遥かなり」
撮影:ギョーム・シフマン
出演:ベレニス・ベジョ、アネット・ベニング、マキシム・エメリヤノフ
アブドゥル・カリム・ママツイエフ、ズクラ・ドゥイシュビリ
TOHOシネマズシャンテ
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