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2015年05月15日06:17

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擬人カレシSS  『 Show me 』

こういうじゃれはアリでしょうか。

………………………………………………………………………………
「……というわけで……じゃれに来たぞ」

照れくさそうに少し視線を外しながらぶっきらぼうに言う。いつもの陣ちゃんだ。
先生たちも馴れたもので、情報交換という名の世間話をしている間、生徒同士は別の部屋で待たされることになる。

人間同士、相性と言う物があるのと同じように、生徒同士にも当然、相性というものがあるのだが、僕は……陣ちゃんが来ることについてはむしろ大歓迎だ。
最初の頃こそ無愛想な彼に対して気を使ったりもしたものだが、いまとなっては気心の知れた仲だ。

先生たちが帰った後には、いつもなんだか寂しくて。
気づいたらずっと外を眺めていた……なんてことがよくあったりして。
そのぶん、会えた時には無条件でテンションが上がる。

……なんだけど。
少し前くらいから、陣ちゃんと居ると妙に落ち着かない。イライラとも違うし、狩りをしていたころの緊張感とも違う。
陣ちゃんからぽつっ、ぽつっと投げかけられる短いセンテンスの言葉が耳に心地よくて。

今だって、ぱりぱりと頭のあたりを搔きながら呟いた冒頭の言葉に、つい小さく笑ってしまった。

「……なんだよ」

「なんでもないよ。いらっしゃい」

むす、と面白くなさそうに唇をへの字に曲げて抗議してきた陣ちゃんを部屋へ招き入れる。
君を笑ったわけじゃないから、と軽く言い訳みたいなことを口にして。

ドアを押さえている僕の前を通り過ぎる時に、彼が纏う微かな体臭を鼻腔が捉える。この瞬間も、僕は凄く好きなんだ。
人間にはきっとわからない。半獣半人の僕らだからこそ、判るもののひとつだと思うけれど。

陣ちゃんがまだ人の姿になる前に、住んでいた土地の物かもしれない。
ほんの一瞬だけれど、緑の草原が脳裏に広がる。見たことも無いくせに、僕の脳は彼の世界を勝手に作り上げる。

いつもは部屋の真ん中あたりに適当に座って、適当な話をして、適当に呼ばれて帰って行くのだけれど。

なんだか今日は……いつも見る、架空の草原が凄く気になった。
もっと近づいたら、もっとはっきり見えるかな。
触れるくらい近づいたら、もっと綺麗に見えるかな。

「うん……? んな、なんだよ……」

「あ、えっ?」

気づいたら、あぐらをかいて座っている陣ちゃんの膝に手を付いて、思いっきり身を乗り出してた。
無意識に、彼の体臭を探して。

「そっか。今日はアクティブにじゃれようっていうんだな? なら、こうだ!」

にひっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべた陣ちゃんに肩を掴まれる。
そうじゃない、と否定する間もなく視界がぐるりと回転した。

わあ、とか、ひゃあ、とか、なんかそんな声が出たような気がする。
眩暈に耐えられずに閉じた目を、再びゆっくりとあけたとき……床に転がった僕と、僕に覆いかぶさるようにして体重をかけて押さえつけてる陣ちゃんの視線が重なった。

……近い! そう思う間もなく、かぁ!と顔が熱くなるのを感じた。
僕を見下ろしている陣ちゃんの表情も、一瞬戸惑ったように見えたけれど……直後、文字どおり見る見る頬が紅潮していく。

なんだよこれ……。
なんだかヤバイ。すごくヤバイ。ヤバイのに……目が逸らせない。
僕は瞬くことすら忘れてしまっていた。

耳まで赤くしている陣ちゃんがとても新鮮で、かわいらしくて。恥ずかしくも照れくさくもあったけれど、それ以上に陣ちゃんを見つめて居たくて。

「ちょ……なに……赤くなってんだよ……。コッチまでなんか、恥ずかしいだろうが……」

やっと我に返ったらしい陣ちゃんが、またぶっきらぼうに言う。

そうか……。僕も赤い顔をしているのか……。なら、同じだな。
そう思ったら、また少し楽しくなった。くす、と笑って……下から彼の首へ腕を回して抱き寄せた。

「ちょっとだけ……陣ちゃん。ちょっとだけ待って……」

「あ、おい、テリー……?! 何す……」

「もうちょっとだけこうしていてくれないか」

君の草原を見たいんだ。

最後の一言は、胸の中で囁くだけにしておいた。言ってみたところで、言葉の真意を知らない彼は、きっと変な顔をするだろう。

片腕は首を抱いたまま、片手を持ち上げて彼の後ろ髪へと指を差し入れる。
ぐい、と引き寄せて首筋に鼻先を埋め、彼の体温で温まった空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

緑。 緑。 緑。 高い空。 少し白い空。 遠くに山。 土の茶色。 赤茶色。 黒土。 枯れた草。

乾いたヒースの匂い。

「綺麗だな……」

「……はぁ?」

「……ははっ……なんでもない」

「お前、なんか今日おかしいぞ……」

「じゃあ、今日はそういう日なんだよ」

勝手な想像とはいえ、その景色があまりに見事だったから。
そのまま彼の頬に、自分の頬を摺り寄せた。
なんだか凄く、熱かった。

陣ちゃんはそのままで居てくれた。本当は嫌だったかもしれないけど、かまうもんか。
今日はそういう日。そういうことにしたんだ。


「テリー。先生、お帰りになるってよー。陣ちゃん送って来てあげてー」

部屋の外から先生が僕たちを呼ぶ声が聞こえた。

僅かに身を起こした陣ちゃんが、もう一度僕と目線を合わせて……こつん、と額を押し当ててきた。

「ばか。 いきなりへんなことするから……ビックリしただろ。今度はちゃんと……予告しろ」

「……ん……」

後髪に差し込んだ指で、もしゃり、と彼の髪をひと撫でしてから腕の力を緩めた。

名残惜しいと、心の底から思った。


「じゃあ、な」

「うん……また」

いつもの短い挨拶。玄関で見送る、寂しい儀式。
ドアを出て行く前に、一度陣ちゃんがそっと顔を寄せた。僕の耳にだけ聞こえるように囁く。

『今度はうちに来いよ』

驚いて彼の方へ視線を向ければ、まだほんのりと目元に朱が残ったままの照れたような笑み。

「……必ず!」

やっぱり僕も同じような顔をしていたに違いないけれど。思わず返事は普通にしてしまった。

あら、なーに。二人でこそこそと。 ……なんて、先生は笑っていたけれど。

今日のお見送りは、寂しくない。逆にニヤニヤと顔が緩む。

通りの向こうへ二人の姿が消えるまで、僕は玄関先で手を振り続けた。 
そうでもしないと、この緩みきった顔が戻せない。きっとみんなにからかわれる。

火照った頬に、初夏の風が気持ちいい。


それは陣ちゃんの匂いの中に感じた、草原の風にとてもよく似ていた。




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