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2015年04月30日06:25

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行き当たりばったりの気まぐれSS 5

5.トモダチ


「それだけ聞いたら……少し……眠るよ……。だから……」

弱々しく掠れた声が甘く強請る。聞き取りづらいそれに耳を寄せれば、自然と深く抱き込む形となる。テリーは、彼の胸にことりと頭を凭せ掛けながら先を促した。

「ああ……。アレは……。あー……その……」

つい、勢いに任せて口走ってしまったセリフを思い出し、今になって別の意味で頭に血が上る。
ふよふよと彷徨い、泳ぐ視線は頬撫でる指先に導かれるように胸元で見上げるアッシュブルーの視線と絡んだ。

「教えて……くれないのかい……? ……陣ちゃん……?」

「え? ……うん、あー……。ああ……そう。そうだ。俺の大事な、トモダチだって。そう……言おうと……え?」

緩やかに頬を滑っていた指先が、ぴたりと動きを止めた。ジャラリ、と鎖を鳴らして落ちる彼の腕。
はっとして懐中の彼を見つめれば………。
じっとりと粘りつくような不満げな色を湛えて睨みつけている双眸とぶつかった。

「トモダチ、だって……?」

先程までの儚げな、今にも消え入りそうな声はどこへやら。地響きのように低く唸るような……。

「え? え? ええ? あっ……おっ……お前……。 いや、違う! 違っ……俺、そんなこと言ってたっけ? きっと何かの聞き間違いじゃないか? ……たぶん……」


…………ドスッ。

「ぐえ」


至近距離からの強烈な肘鉄。ノーガードの鳩尾にまともに食らい、前のめりに膝をついた。

抱かれていた腕からするりと抜け出た金色の奴隷は、何事も無かったかのようにスックと立ち上がって彼を見下ろしている。

「トモダチ……ね。ああそう。そりゃあどうも。全く……いいトモダチを持って僕は幸せ者だ。トモダチ想いのいいトモダチだよ、君は。トモダチである僕を助けてくれて感謝する。だけどね……」

執拗に『トモダチ』を連呼しながらばさり、と鬱陶しそうに頭を大きくひと振りする。刹那、美しい金のヴェールのようだった髪は一瞬で消え失せた。
あとにはいつもの、ハニートースト色のセミロングの彼が居た。
さっぱりした頭で、改めて彼をねめつけるようなジト目で睨みつつ……。

「なんで君が玉座に座っていたんだ? なんで王様が従者の格好をして隣に立ってるんだ? ビックリしすぎて耳が出ちゃうかと思っただろ。あまりに混乱したからもう見ないことにしたけれど。今日の君の仕事は裏庭の草刈りだったはずだ」

「……え……あ……テリー、お前……だいじょ……」

「心配御無用! ……ふん」

ふい、とそっぽを向いた直後。髪が消えたのと同じように彼の姿が消えた。
ばさりと床にたごまって落ちたローブの中から、トースト色の狐がぴょいと飛び出てきた。

当然、ヒトの手足よりずっと細い狐の手足。人間用の枷などなんの意味もない。カギを外される事もないままに服の中に転がっていることだろう。

「おい、待てよテリー! ……おい!」

ちら、と振り返りはしたものの。またツンとそっぽを向いて飛び跳ねるようにして絨毯の上を駆けてゆく。
つい先程、衛士が商人を連れ出した時に開かれたままの扉を通って姿を消した狐を、呆然と見送るしかなかった。いろいろなことが一度に起こりすぎて全く頭がついていかない。



「おやまぁ……。これは随分と派手にやらかしちゃいましたね。後が大変だ」

「うえっ?!」

自分の耳元で発せられた声に驚いて視線を向ける。こんなにすぐ傍に人が居たなんて、今まで全然気づかなかった。

「……全くだ。アイツはああなっちまうと後を引くんだよなあ……。八つ当たりされる覚悟をしとくとするか」

「はぁっ?!」

今度は反対側から、呼応する声が。 右へ、左へと交互に首をめぐらせる。
いつの間にか左右に、己を挟む形で二人の青年がしゃがみこんでいた。

「あの場面で『トモダチ』は不味かったですね。あの酷い照れ屋のテリーさんが、珍しく素直に……ま、多少あざとく甘えていたというのに。据え膳どころか、『はい、あーん』の状態でしたのに。勿体無いことです」

「ニブニブチンだな」

この二人には面識がある。テリーが師事する人の下で、同じく学ぶ兄弟弟子たちだ。
テリーと同じく狐族のハリー。猫族のビリーだ。

「まあ、やらかしちまったもんはしょうがないだろ。お前、そのうち俺の愚痴聞けよ。もちろん酒も奢りだぞ。お前の責任だからな」
ビリーの絡み酒はタチが悪い。朝までのフルコースも最悪、ありうる。

「ご愁傷様……。お気の毒に……」
哀れみの言葉を口にするハリーだが、堪えきれない笑いに小刻みに肩を震わせている。


「おい……何がなんだか判らないぞ。大体なんでテリーがあんなふうに連れて来られなきゃならないんだ? なんで奴隷なんかにされていたんだよ」

枷を嵌められ、飲食すら制限されて、見るからにふらふらだったはずなのに。それ以前に、彼が人間などにおいそれと捕まるタマではないのに。

「ああー……まあ、それはしょうがないんですよ……。耳、出ちゃったらしいんで。本当はただあのキャラバンにもぐりこんで、内部調査をするだけの予定だったんですけどね。たまたまその時の彼らの夕食が、鹿肉のシュラスコだったものだから」

「腹減ってるときに、好物の匂いを嗅いじゃうとなあ。うっかり半獣化しちまったんだろ。で、咄嗟に未亡奴隷を演じてみたら貢物にされちゃった……というわけだ」

「狐族同士は俗に言う『狐火』ってやつである程度の情報交換は出来ますからね。地下牢にでも閉じ込められない限りは。 でも彼のおかげでこの国に粗悪品が出回らずに済みました」

開いた口がふさがらなかった。交互に状況説明をする二人へ、これまた律儀に顔を向けて。


「やあ。お疲れさま。なんだか最後の謁見が一番大変だったねぇ。 ま、こういうことはそんなに多くは無いから。そんなわけで、明日も謁見のときだけ交代してくれないかな。黙って座ってるのはとにかく退屈でね」

部下たちへの一通りの指示を終えた本物の王が戻ってきた。かりそめの王を演じさせられていた自分は、全力で首を横に振る。

「嫌です!絶対に!二度と御免です! 誰がやっても同じだと言うなら別の人を探して下さいお願いします! 一日中草刈りやドブ掃除してるほうがマシです!」

速攻で拒絶する彼に代わって、ハリーがひょいと顔を出す。

「王様? じゃ、明日はぼくが代わりにやりましょうか?」

うーん、と王は考え込む。

「キミだと謁見者全員に色目を使うから、この国の風紀が乱れかねないんだよねぇ……。キャラバン偵察に行かせなかったのも、キミだとあのリーダーをたらしこんでしまいそうだったからだしねぇ」

「ン……残念。面白そうだったのに」

フフ、と目を細めたハリーは、さて……とばかりに王の衣装をつけたままの彼に視線を移した。

「テリーさんのことでしたら上等な鹿肉でも持って遊びに来たらいいんじゃない? しばらくは冷たくされるかもしれないけど」

ハッとしてハリーに向き直り、噛み付くように問うた。

「そんなことよりテリーは大丈夫なのか? 目が見えないって言ってたぞ……。俺の顔がよく見えないって……。そんな状態なのに独りで出てった……。お前ら、追っかけて探さなくていいのか?」

それを聞いたビリーが、背後でブハッと噴出す。

「そりゃお前……あいつメガネ掛けてなかったからだよ。元の姿のときはどうってことないんだが、ヒトの姿になると視力が落ちるらしい。俺だってヒトの姿のときには夜目が効かないしな。メガネはほれ。俺が預かってるから問題ない」

「……メガネ……?」

そう、メガネ。と懐から細いフレームのメガネを取り出して軽く振って見せるビリー。

「それにしたって……あんなに衰弱していた……のに……」

今度はビリーの方に向いていた背後でハリーが呟く。

「貴方の先生のところには狐族は居ないんでしたっけ。 『狸と狐は人を化かす』って、聞いたことありません?」

「なん……だっ……てぇ……」

慌てて振り返れば、涼しい顔でどこ吹く風のハリー。

あれは演技だったのか……と、安心半分 脱力半分でがっくりと大理石の床に手を付いた。

「まあ、お疲れさん……。しかしお前ら二人、ホントに仲いいねえ」
「見てるこっちはヤキモキしますけどね。テリーさんに振られたらぼくのところへおいでよ。優しくしてあげますから」
「ところでやっぱり、明日も王様役やらない?」


もう……放っておいてくれ。人知れず深いため息をつきながら、しみじみ想う陣ちゃんであった。

……………………………………………………

おお……。なんか終われたww
我ながら、なんだこの展開ww なんかもうホントすみませんww
結局シリアスモードにもってけなくってすみませんすみませんww
陣ちゃんに失礼ぶっこいちゃってすみません!ほんとすみません!

……楽しかったっす。陣ちゃん苛めるの楽しい……。ヤバいものが開花しそうでした。

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