mixiユーザー(id:3700229)

2015年04月21日13:54

870 view

「パレードへようこそ」

温かく、力強い、「連帯」の映画。
同性愛者と炭坑労働者という、まるで接点のなさそうな人たちが、しなやかな感性と偶然によって出逢い、偏見や摩擦もなんのその、社会的弱者としての連帯感と、生命力あふれるオバチャンたちのサポートで友情を深め、世界を少しずつ変えていく。

舞台は1984年。サッチャー政権の炭坑閉鎖案に抗議して、全国の炭鉱労働者はストライキを開始、各地で闘争を繰り広げている。
TVでそのニュースを見た若きゲイの活動家マイクは、ハタと気づく。
「彼らの敵はサッチャーと警官、つまり僕らと同じじゃないか」
同性愛者と炭鉱労働者という住む世界の違う人種を共に社会的弱者であるという視点でつなげる発想がすばらしい。
リーダーシップあふれるマイクは、すかさず支援組織LGSMを結成して募金を集める(LGSMはレズビアン・アンド・ゲイ・サポート・マイナーズの略)。
とはいえ、どこの炭鉱でも門前払いに遭う中で、ちょっとした誤解から唯一快諾してくれるのがウェールズの炭坑町ディライスだ。ロンドンに出向いたディライス労組委員長のダイは、LGSMの正体を知っても嫌がるどころか、こんなふうにスピーチする。

「みなさんがくれたのはお金ではない。友情です。
巨大な敵と闘っている時に、どこかで見知らぬ友が応援していてくれるとわかるのは、最高の気分です!」

炭坑労働者への支援を思いつき、実行する若さも素敵だが、その善意をまっすぐに受け止められる大人もすばらしい。偏見や余計なプライドを持たなければ、世界はこんなにも可能性に満ちている。ストの結果がどうなったかは誰もが知るところだが、その後も炭坑労働者たちの友情が同性愛者の人権運動を支えていたなんて驚きだ。この歴史的事実を発掘し世に知らしめようとした作り手の熱意が伝わってくる。

LGSMの面々にしても、炭鉱町の住人にしても、ピカピカの美男美女ではなく、ごくリアルな労働者や主婦や若者に見えるのがいい。これはイギリス映画のいいところだ。『シャーロック』のモリアーティことアンドリュー・スコットも炭鉱町出身のナイーブな青年に見える。
若い俳優たちを支えるビル・ナイやイメルダ・スタウントンの控えめな演技もすばらしい。
ダイを演じるパディ・コンシダインが素敵だ。ニール・ジョーダン作品の常連スティーヴン・レイに少し雰囲気が似ていて、一見地味だが温かくセクシー。

音楽の使い方も効果的だ。
「ユニオンが我らを強くする」とピート・シーガーが歌う「連帯よ永遠に」で始まり、
ビリー・ブラッグの“There is Power in The Union”で終わる。
これらはまさに本作のテーマだ。
炭鉱町の女性が歌う”BREAD&ROSES”も同様。
同じタイトルのケン・ローチの映画もあったし、「ジミー 野を駆ける伝説」でも協調されたように、人はパンだけでは生きているとは言えない。希望や理想や憧れが必要なのだ。

だからこそ、炭坑夫と同性愛者は、音楽やダンスを媒介に友情を深めることができるのだし、
本作を彩る数々の80年代UKダンスミュージックだって立派なバラだ。

LGSMのチャリティライブでブロンスキ・ビートの” Why?”が始まった時はグッと来た。
好きだったなあ〜。この哀しげなファルセット。
音はエレクトロポップだけど、当時からブロンスキ・ビートのメンバーはゲイであることをカミングアウトしていて歌詞にもゲイの生きづらさを織り込んでいたのだ。
ヴォーカルのジミー・ソマーヴィルは後にブロンスキ・ビートを脱退してザ・コミュナーズを結成。エンドクレジットで流れる“For A Friend”はザ・コミュナーズの曲だ。

「夏が来れば僕は思い出すだろう
僕たちが腕を組んで、愛とプライドのために行進したのを
涙が怒りと恥ずかしさに変わる
僕は君をがっかりさせない、僕たちの闘いを諦めはしない」

まさにこの映画にぴったり!
これは字幕をつけてほしかった。

Pride
2014年/イギリス/121分

監督:マシュー・ウォーカス
脚本:スティーブン・ベレスフォード
出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ドミニク・ウェスト
パディ・コンシダイン、ジョージ・マッケイ、ジョセフ・ギルガン
アンドリュー・スコット

銀座シネスイッチ

8 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する