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2015年01月07日22:33

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交響楽団CTK 創設記念第1回演奏会

これは、指揮者、佐藤雄一氏の経歴の中で、記念すべき意義のある演奏会だった。

交響楽団CTKは、数多ある交響曲の中でも最高傑作の一つに数えられるブルックナーの交響曲第8番を演奏したいという思いから、医科学生オーケストラのメンバーを中心に2013年創設となった新団体だ。

若き奏者たちによる自主的な団体だが、事実上、佐藤雄一氏の指揮を前提として設立され、佐藤氏を音楽監督・常任指揮者に迎えた初のオーケストラと言ってよい。

☆創設記念第1回演奏会
■2014年12月28日(日) 開場:18時20分 開演:19時00分
■場所:すみだトリフォニーホール・大ホール
■曲目
♪ブルックナー/交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版第2稿)
■指揮:佐藤 雄一

演奏されたのは、交響曲第8番、本当に一曲だけだったが、途中休憩なしで、演奏時間100分に及ぶ大演奏だった。
演奏は、もう少しと感じた部分を含めても、大変素晴らしいものだった。

そもそも、ブル8は、私の身近にいるブルックナー好きの間では、意外に人気がない。
人気があるのは、5番、9番といったところか。

理由は、個々の人に聞かねば分からないが、よい演奏に出会っていないためだろう、というのが私の推測だ。
ブルックナーの曲は、いい演奏で聴かないと、冗長に感じられたり、支離滅裂に感じられたりするからだ。
8番の場合、特に終楽章が、冒頭の部分の「つかみ」が抜群に良いだけに、それ以外の部分がダラダラと長く、何を言いたいのか分からなくなりがちではないか?

予習は、たまたま家にあったカラヤンの古い演奏で聴いた。

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どこをとっても素晴らしい響きだが、終楽章を聴くと結構支離滅裂に聞こえる。
佐藤氏ならもっと上手くやるだろう、と予想した。

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演奏は、ブルックナーが音楽を通して伝えたかったことを、あますとこなく伝えようとする、佐藤氏の意志がよく表れたものだった。

とにかく、見事だったのは、すべてが有機的にきちんとつながっていたことである。
部分部分の細やかな表情、和声が陰ったり、半音階や不協和音で音楽がデリケートに変化したりする部分も、繊細に丁寧に描きながら、しかもすべてがしっかりつながっていた。
これは若い奏者の演奏としては驚異的だった。

足りない部分としては、音の向こう側の表現の奥行きがやや浅い部分が多かったことである。
ここには奏者たちの若さゆえの限界が見られた。

そう言い得るのは、以前に聴いたアルテハイマート合奏団のブル4が、技術的にはCTKの若者たちより疵だらけの演奏だったにもかかわらず、表現の奥行きが十分に得られていたからである。

私は、ブルックナーの曲には詳しくないが、アルテハイマートのブル4から得たものは非常に大きかったと言わざるを得ない。
私は、あの演奏からブルックナーの本質を理解し解読する鍵を得たのだ。

(読んでほしいのでリンクを貼りました。)
http://open.mixi.jp/user/26363018/diary/1888145894

ブルックナーの交響曲は、音楽は人間の精神を、人間の限界を超えた自然や神の領域にまで高めるものだと信じた思想家による、音による哲学、音による信仰、音による思索の告白なのだ。

その音楽は、人知を超えた高揚感や、目くるめく光芒を描きながらも、

「いや待て、そうではなくて、こうも考えられるし、そういえばあの時はこんなだったなあ、ああ、安らかな気持ちだ、いや違う、やっぱりこれはこうで、こうなって、そうだっ!!!だがしかし、やっぱりだめか、いやだめじゃない、信じて進むんだ、そうだそれでいい、元気出てきたぞ、いやまだまだ、負けないぞ、もっと高く、もっと遠く、進むんだ、諦めずに!!!」

等々、延々と自問自答を繰り返すのだ。

CTKの演奏は、とりわけ弱音から始まるフレーズの入りに最大限の繊細さを発揮し、ブルックナーのデリケートな心情の移り変わりによく寄り添っていた。
それは、佐藤氏の徹底した指導の成果だった。
それでもなお、奥行きが不足した部分もあったが、第4楽章では、優れた演奏に現れる至福の瞬間も聴かれた。
作曲家の思いも、指揮者の思いも、奏者の思いも、すべてが一つになってアンサンブルを奏でる、あの至福の瞬間である。
それは本当に素晴らしかった。

曲をよく知る人によると、かなり遅いテンポの演奏だったらしいが、私にはまったく自然で、非常に聴きやすい演奏だった。
第4楽章で、一か所急速アッチェレランドがあって、そこはアンサンブルの呼吸が乱れて音楽の流れも断ち切られたから、残念だった。

遅めのテンポをチェリビダッケに例えた感想をいくつか見たが、CDで聴くチェリの演奏は、作り込み過ぎた表情がむしろ不自然に感じることもあるから、私は佐藤氏の表現の方により好感を持つ。

強奏の部分の迫力が良かったという感想も読んだ。
確かに、なかなか良かったが、私は弱奏の部分の方が素晴らしいと感じた。
強奏の部分は、本当に美しい音で鳴らないとブルックナーの理想に近付かないと思える。
すみだトリフォニーの音響は、前から5列目で聴いてもなお、強奏の部分に若干の濁りを感じる。
次回は、音が遠くに届かないという弱点がある横浜みなとみらいホールだが、響きの濁りは少ないから、強奏の部分も美しく響くことだろう。

人間の精神の進歩を巡る壮大な物語のような音楽が終わったとき、私は久しぶりに「ブラボー」が自然に出た。
(もっとも、音楽の余韻を壊したくなかったので、控えめな声量で言った)

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一輪の花を受け取る佐藤氏

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今回、交響楽団CTKは、関係者の打ち上げへの参加を認めていた。
マイミクのクライネさんとぽ(*´∀`*)♪さんが演奏に加わっていたので、私と妻は関係者ということにして、無謀にも打ち上げに参加した。

飯田橋の「竹子」で21:30開始の予定だったが、演奏会後、そんなに時間通りに人が揃う訳もない。
ぞろぞろ集まってきた若者たちは、パートごとに適当にテーブルに座って、めいめいが飲み食いを始めた。
これは大人の呑み会では考えにくい。
私たちは最初の内、身の置き場がなかった。

クライネさんに電話したところ、佐藤氏たちは錦糸町で0次会をやっていて、飯田橋に来るのは遅くなるという。(佐藤氏は早く帰る人たちをねぎらっていたようだ)
どうしたものかと思っていたところへ、フルートで活躍したぽ(*´∀`*)♪さんがいらしたので、ようやく人とお話しできた。

ぽ(*´∀`*)♪さんは、東京薬科大学ハルモニア管弦楽団からCTKに参加した、数少ない一人だった。
ハルモニア管は、以前佐藤氏が振っていた学生オケで、他のオケが聴かせなかった素晴らしい表現を何度も聴かせてくれた、忘れがたいオーケストラだ。

やがて佐藤氏も到着し、司会者が出て、本格的に打ち上げが始まった。

そこで見聞きした光景は、強烈なインパクトがあった。

トレーナーの先生方の話は、ブルックナーの音楽の内容を音で表現することの難しさに言及したものが多く、これは、佐藤氏が表現しようとしたものに若者たちの人生経験や演奏力がまだまだついていけていなかったことに対応していたのだろう。

しかし、先生方の話を聴く、青年たちの真剣さ!輝く瞳!一体感は実にすごかった。

そして、いよいよ佐藤氏があいさつに立った。

話し方は若者の心に響く気さくな話し方なのだが、そのカリスマ性というか、偉大さに、私はすっかり圧倒されてしまった。
佐藤氏を仰ぎ見る青年(女学生)たちの、尊敬と崇拝のまなざしは、半端なものではなかった。
偉大な芸術の創造を通して、その場に集った青年たちが、みな人間的に高められたようであった。

(後に知ったが、CTKのメンバーには、慶應医管など佐藤氏の指導を以前から知っていた人は必ずしも多くなく、初めて佐藤氏の指揮に触れる青年も半数近くいたという。佐藤氏は、ブル8の指導を通して青年たちの尊敬を勝ち得たのだ。)

通常の呑み会で、このような崇高な一体感は普通ありえないのはもちろんのことである。
いや、宗教的な儀式においてすら、これほどの本心からの感動と高揚はなかなかあるまい。
部外者の私は打ちのめされた。

その後、飲みながら佐藤氏の話をいろいろと聴いた。
素顔はまったく気さくで謙虚な人だが、音楽の偉大な深奥に達する力を神から与えられた人なのだった。

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今回、演奏会に私の知り合いも数人聴きに来てくれた。
会場で会えた人も会えなかった人もいるが、とてもありがたかったし嬉しかった。
また、遠慮してお誘いできなかった人もいたが、お誘いすればよかったと思った。

佐藤雄一氏の力量がよく分かる、大オーケストラによる大曲の演奏会だったからだ。

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交響楽団CTKの第2回演奏会の予定が、早くも発表されている。

☆***2ndCTK***
■2015年12月26日(土) 横浜みなとみらいホール 大ホール 夜公演

♪D. Shostakovich / Suite from "Five Days-Five Nights"
ショスタコーヴィチ / 組曲「五日五夜」(日本初演)
♪D. Shostakovich / Symphony No.7
ショスタコーヴィチ / 交響曲第7番
■佐藤 雄一 指揮

今回お誘いできなかった人たちにも、是非足を運んでほしいと願っている。

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