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2014年11月19日00:29

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魔法少女の系譜、その29

 今回の日記は、断続的に連載している『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までのシリーズを読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録から、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548

 前回から、だいぶ、間が空いてしまいました(^^; 前回までに、『キューティーハニー』のまとめをしましたね。

 今回は、新しい作品を取り上げます。『ミラクル少女リミットちゃん』です。昭和四十八年(一九七三年)十月から、昭和四十九年(一九七四年)三月にかけて、放映されました。
 この放映期間は、『キューティーハニー』と、まったく同じです。同時期に、二つの魔法少女アニメが、並立していたわけです。

 ただし、放映されていた当時は、『キューティーハニー』のほうは、「魔法少女もの」―当時は、まだ、魔法少女という言葉がないため、「魔法もの」などと呼ばれていたはずです―とは、認識されていませんでした。
 その理由は、前回までのシリーズに書いたとおりです。
 『キューティーハニー』が、あまりに斬新だったために、当時の人々は、これを「魔法少女アニメ」と、認識できなかったんですね。「変身ヒーローもの」の亜種、「変身ヒロインもの」という扱いでした。

 対して、正統的な魔法少女アニメと認識されたのが、『ミラクル少女リミットちゃん』でした。
 この作品のヒロインは、リミットちゃんという、小学五年生の女の子です。リミットはあだ名で、本名は、西山理美です。本名は、ほとんど使われません。普段から、リミットと呼ばれています。

 この作品には、「魔法」という言葉は、登場しません。リミットちゃんが使うのは、「ミラクルパワー」です。大人以上の怪力を発揮したり、垂直跳びで3m以上跳んだり、自動車を追い越すほど速く走ったりできます。
 身体能力が高いので、スポーツ万能です。頭も良くて、小学五年生程度の学校の授業なんて、楽々です。

 その「ミラクルパワー」が、何に由来するのかと言えば、リミットちゃんが、サイボーグだからです。
 彼女は、飛行機事故で瀕死の重傷を負ったことから、サイボーグになります。彼女の父親が、優れたサイボーグ研究者だったために、父親の手で、サイボーグ化されました。
 事故に遭った時には、彼女を生かすには、それしか方法がなかった、という設定になっています。

 リミットちゃんは、ミラクルパワーが使えるようになって、うきうきわくわくかといえば、まったく、そうではありません。
 むしろ、自分がサイボーグであることに、かなり悩んでいます。「自分は、冷たい機械だから、周囲の人に受け入れてもらえないんじゃないか?」と思っています。
 彼女の悩みが、作品に、独特の陰影をもたらしています。明るく楽しいだけの作品では、ないんですね。

 例えば、スポーツ万能なのも、勉強ができるのも、リミットちゃんにとっては、友達に対する引け目になっています。

 とはいえ、彼女は、自分のミラクルパワーを使って、人助けをすることは、厭いません。進んで、人助けをしています。
 このあたりは、伝統的な魔法少女ですね。とてもいい子です。

 ちなみに、彼女がサイボーグであることは、周囲の人々には、秘密です。秘密を知るのは、父親だけです。

 彼女は、サイボーグの体に仕込まれたミラクルパワー以外に、「七つ道具」を使った超能力も持ちます。
 七つ道具と言いながら、実際には、八つか、それ以上あることが、確認されています。「七つ道具」というのは、単に呼びやすいために、そう呼んでいるようですね。

 七つ道具の中で、最もよく使われるのは、マジックペンダントでしょう。
 このペンダントは、ミラクルパワーを使う際のスイッチにもなっています。このために、使用回数が多いんですね。
 それ以外に、このペンダントを使って、「変装」することもできます。変身というよりは、変装ですね。看護婦や、婦人警官に「変装」したことがあります。

 他に、フライングバッグや、マジックベレーといった魔法道具があります。科学の力でできていることになっていますが、明らかに、これらは、魔法道具の一種ですね。
 フライングバッグは、ロケット噴射で空を飛べるバッグです。リミットちゃんは、このバッグのひもを持って、空を飛びます。
 マジックベレーも、空を飛べるベレー帽です。それ以外に、ナビゲーション機能や、録音機能なども持っています。リミットちゃんは、「マジックベレーにメッセージを吹き込んで、研究所にいるお父さんのところへ飛ばして、メッセージを伝える」という使い方を、よくしています。

 現代ならば、携帯電話がありますから、マジックベレーの機能は、不用でしょう。
 しかし、『リミットちゃん』は、昭和四十年代後半(一九七〇年代前半)の話ですからね。携帯電話が普及する、はるか前です。

 二〇一四年の携帯電話は、かつての「魔法少女もの」の魔法道具に匹敵するほどの道具であることが、わかりますね。

 ここまで書いたことでわかるとおり、リミットちゃんは、人造型の魔法少女です。かつ、魔法道具型の魔法少女でもあります。

 同じ「人造型」の魔法少女アニメが、同時期に放映されていたのは、偶然ではありません。
 これまでの「魔法少女アニメ」の殻を破るものとして、「SF要素を入れた少女もの」が、求められていたんですね。女児向け企画として、『リミットちゃん』と、『キューティーハニー』とが、コンペで競ったという記録があります。

 なぜ、サイボーグやアンドロイドといったSF要素が求められたかといえば、そういうものが、流行だったからでしょう。
 これら二つの作品と、同時期に放映されていたアニメを見れば、それがわかります。『新造人間キャシャーン』や、『ミクロイドS』が、この頃に放映されていました。どちらも、科学力を使ったヒーローものですね。

 さらに、子供向け特撮ドラマに目を向ければ、『ウルトラマンタロウ』、『イナズマン』、『仮面ライダーV3』、『キカイダー01』、『ジャンボーグA』、『ファイヤーマン』、『流星人間ゾーン』、『ロボット刑事』などが、放映されていました。特撮ドラマの黄金時代です。
 ここに挙げた作品は、みな、科学の力で戦うヒーローものですね。実際には、二十一世紀の現代でさえ実現していない、超科学です。ゆえに、実態は、魔法を使っているのと変わりません。

 このような「超科学ヒーローもの」が流行っているなかで、「超科学を使ったヒロインもの」が、生まれてきたのでしょう。
 リミットちゃんのようなサイボーグは、二十一世紀の現代でも、まだ誕生していませんね。

 同じ「超科学ヒロイン」でも、リミットちゃんとハニーとは、ずいぶん違います。

 一番の違いは、リミットちゃんが、戦わないことでしょう。
 『リミットちゃん』には、『キューティーハニー』におけるパンサークローのような、明確な敵がいません。リミットちゃんのミラクルパワーは、戦いではなく、人助けのためにだけ使われます。

 リミットちゃんは、「魔法少女としての姿」に変身することもありません。
 変身―というより、変装―はしますが、それは、毎回、違った姿です。その時々によって、都合のよい姿に「変身」します。

 そして、お色気要素もありません。普通に考えて、小学生ヒロインにお色気は、ありませんよね。

 これらの点は、リミットちゃんが、古典的な魔法少女であることを示します。
 サイボーグという、新しい要素を入れておきながら、実態は、古典的なのです。
 まさに、それゆえに、リミットちゃんは、放映当時、「魔法少女もの」だと、人々に認識されました。当時の普通の魔法少女は、戦わないし、魔法少女としての姿にも、変身しないものでした。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『リミットちゃん』を取り上げます。

2014年11月23日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

魔法少女の系譜、その30(2014年11月23日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1935453258


 今回のレビューは、『ケルトの神話』を選びました。
 同名の本が、複数ありますが、本書は、丸善から出ているものです。

 『リミットちゃん』と、ケルトの神話とは、関係なさそうに見えますね?
 それが、あるのです。人工的な人体改造という点で。

 ケルト神話には、ヌアドゥと呼ばれる男神がいます。彼は、「銀の手のヌアドゥ」と呼ばれます。
 なぜ、そう呼ばれるかといえば、戦いで右手を失ったあと、銀の義手を着けるからです。
 その義手は、治癒神ディアン・ケーフトが作ったものでした。

 人類が、これほど科学力を発達させたのは、歴史的には、つい最近です。
 ですから、古典的な口承文芸には、「科学力による人体改造」は、登場しません。

 しかし、「魔法の力によって、人体を改造して、より優れた力を得る」という発想は、古代から、ありました。
 魔法の力なので、普通の人間には、使えません。神や英雄の技、ということになります。

 ヌアドゥは、片手を失ったことにより、一度は、神々の王の座を退きます。
 けれども、銀の手のヌアドゥは、のちに、再び、王座に着きます。銀の手が、それまで以上の働きをしたのでしょう。

 よろしければ、以下のレビューもお読み下さい。

ケルトの神話 (丸善ブックス)
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=25849368&id=3348515

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